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2022.08.05

編集部コラム「憧れの場所」
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第157回「憧れの場所(船越陽一郎)

現役の高校生の時、私の頭の中には常に『花園』 (やっていたスポーツがラグビーでしたので)がありました。練習の時、授業中、登下校、そして、寝ている時、それは文字通り寝ても覚めても『花園』でした。きっと一生懸命にされている方々は皆さんそうだと思います。

それだけ思い馳せた『花園』ですが、数十年たった今振り返りますと達成感等はほとんどなく不思議と悔し涙にあけくれた記憶ばかりが残っています。

今まさにインターハイに臨んでいる選手たちや、世界選手権に挑んだ選手たちは果たしてどうだったのでしょうか?

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私は『花園』では勝者となれませんでしたし、その先にある『秩父宮』『国立』『トゥイッケナム』へと行くことはかないませんでしたので、その心境を推し測ることは私には到底できません。

ただ、私はその『場所』に憧れているわけではありません。その『場所』で活躍する自分をたくさん妄想していました。ピンチからチームを救う自分、試合終了間際に逆転のトライをする自分、妄想の中では私はスーパースターでした。

その自分が妄想した姿になれなかったのが悲しかったのか・・・、勝者として終われなかったのが悲しかったのか・・・、いまだによくわかりません。

先日、アメリカはユージーンに世界選手権の取材に行かせていただきました。ユージンのヘイワードフィールドは、陸上の専門のコンパクトな競技場でトラックと観客席との距離がほぼなく迫力満点の競技場でした。

ただ、観客として観戦するにはすばらしい競技場ではありましたが、撮影をするカメラマンにとっては撮影ができる場所が少ない 撮影しづらい競技場でもありました。撮影可能の場所は色々と作られていましたが、それ以外の撮影は観客席を使用して撮影するというスタンスでした。もちろん、観客席を使用の際にその席のお客さんがいらした場合は速やかに席を譲るというのが条件です。

フィールド競技の撮影をする為、観客席を使用して撮影に夢中になり過ぎていた時でした。ハッと我に返った時に、私の左隣が階段だったのですが男性が黙ってその階段に座っていました。その男性は私が我に返ったことに気が付いて私に笑顔で言いました。

「その席は私の席なんだ。」

必死で撮影する私に気をつかって撮影が終わるのを黙って待ってくれていたのでした。この競技場では、多々そういうことがありました。会場にいる人達が選手だけではなく、様々なものをリスペクトしているように感じました。

その人々の温かさが会場を包み込み、あの大会の熱気となり、盛り上がりの要因となったのではないかと思いました。

陸上競技の聖地と言われるこの『場所』はカメラマンとして歩き始めた私の新たな憧れの場所だったことを思い出させてくれたのでした。必死過ぎてそんなことさえ忘れていました。

選手にとってもこの『場所』が憧れの『場所』で何かを得られたそんな『場所』であって欲しいなと思います。

 


船越陽一郎(ふなこし・よういちろう)

月刊陸上競技写真部。1974年12月生まれ 172cm ○0kg 福岡県春日市出身。
小学生の時に身体が弱く 喘息持ちだったため、鍛えるためにラグビーを始め「走れば治る」が口癖のドSのコーチに肉体改造される。大学までラグビーを続けるも卒業と同時に引退。何を思ったか社会人でボクシングを始める。戦績 3戦3敗(3KO負け) 秘密兵器の左フックを編み出すも、秘密のまま引退。なんじゃかんじゃあって現在に至る。

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第157回「憧れの場所(船越陽一郎)

現役の高校生の時、私の頭の中には常に『花園』 (やっていたスポーツがラグビーでしたので)がありました。練習の時、授業中、登下校、そして、寝ている時、それは文字通り寝ても覚めても『花園』でした。きっと一生懸命にされている方々は皆さんそうだと思います。 それだけ思い馳せた『花園』ですが、数十年たった今振り返りますと達成感等はほとんどなく不思議と悔し涙にあけくれた記憶ばかりが残っています。 今まさにインターハイに臨んでいる選手たちや、世界選手権に挑んだ選手たちは果たしてどうだったのでしょうか? 私は『花園』では勝者となれませんでしたし、その先にある『秩父宮』『国立』『トゥイッケナム』へと行くことはかないませんでしたので、その心境を推し測ることは私には到底できません。 ただ、私はその『場所』に憧れているわけではありません。その『場所』で活躍する自分をたくさん妄想していました。ピンチからチームを救う自分、試合終了間際に逆転のトライをする自分、妄想の中では私はスーパースターでした。 その自分が妄想した姿になれなかったのが悲しかったのか・・・、勝者として終われなかったのが悲しかったのか・・・、いまだによくわかりません。 先日、アメリカはユージーンに世界選手権の取材に行かせていただきました。ユージンのヘイワードフィールドは、陸上の専門のコンパクトな競技場でトラックと観客席との距離がほぼなく迫力満点の競技場でした。 ただ、観客として観戦するにはすばらしい競技場ではありましたが、撮影をするカメラマンにとっては撮影ができる場所が少ない 撮影しづらい競技場でもありました。撮影可能の場所は色々と作られていましたが、それ以外の撮影は観客席を使用して撮影するというスタンスでした。もちろん、観客席を使用の際にその席のお客さんがいらした場合は速やかに席を譲るというのが条件です。 フィールド競技の撮影をする為、観客席を使用して撮影に夢中になり過ぎていた時でした。ハッと我に返った時に、私の左隣が階段だったのですが男性が黙ってその階段に座っていました。その男性は私が我に返ったことに気が付いて私に笑顔で言いました。 「その席は私の席なんだ。」 必死で撮影する私に気をつかって撮影が終わるのを黙って待ってくれていたのでした。この競技場では、多々そういうことがありました。会場にいる人達が選手だけではなく、様々なものをリスペクトしているように感じました。 その人々の温かさが会場を包み込み、あの大会の熱気となり、盛り上がりの要因となったのではないかと思いました。 陸上競技の聖地と言われるこの『場所』はカメラマンとして歩き始めた私の新たな憧れの場所だったことを思い出させてくれたのでした。必死過ぎてそんなことさえ忘れていました。 選手にとってもこの『場所』が憧れの『場所』で何かを得られたそんな『場所』であって欲しいなと思います。  
船越陽一郎(ふなこし・よういちろう) 月刊陸上競技写真部。1974年12月生まれ 172cm ○0kg 福岡県春日市出身。 小学生の時に身体が弱く 喘息持ちだったため、鍛えるためにラグビーを始め「走れば治る」が口癖のドSのコーチに肉体改造される。大学までラグビーを続けるも卒業と同時に引退。何を思ったか社会人でボクシングを始める。戦績 3戦3敗(3KO負け) 秘密兵器の左フックを編み出すも、秘密のまま引退。なんじゃかんじゃあって現在に至る。
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