2020.10.30
毎週金曜日更新!?
★月陸編集部★
攻め(?)のアンダーハンド
リレーコラム🔥
毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ!
陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいことetc…。
編集スタッフが週替りで綴って行きたいと思います。
暇つぶし程度にご覧ください!
第66回「陸上競技を続けると……?」(山本慎一郎)
早いもので2020年も残すところ2ヵ月となりました。トラック&フィールドの大会は一段落し、長距離以外の選手は一息ついたところかと思います。みなさんの2020年はどんなシーズンだったでしょうか。
さて、以前の私のコラムでは学校を卒業してからの「陸上競技との関わり方」を紹介しました(「陸上競技と関わり続ける」)。今回はその中でも「陸上競技を続けるとどうなるか」について書きたいと思います。
全国の舞台で活躍するようなトップ選手の生き方については月陸でも紹介していますので、ここでは全国大会どころか県大会を突破できない、いわゆる「普通の選手」が陸上を続けることの意味を私自身の経験をもとにご紹介します。
私は運良く大学でも陸上部(長距離)に所属できましたが、高校卒業後は伸び悩んだこともあり、大学では(でも)まったく活躍はできませんでした。大学を卒業し、社会人になってからは仕事が終わってから一人で練習をしていたものの、練習時間は十分ではなく、ケアや補強などにかける時間も足りないので、もともと弱かった競技力はさらに低下しました。
社会人になりたての頃は「自己ベストを出す!」とか「いつかは福岡国際マラソンに出たい!」といった目標も持っていましたが、どんなに努力したつもりでも競技力は何年少しずつ弱体化するばかりで、自己ベストどころではありません。正直なところ、社会人になって何年経っても自己ベストから遠ざかる一方となってからは、更新するのはちょっと無理だと思うようになりました(ただし、周りを見ていると更新できる人も結構います)。
しかし、結果的に私は37歳になった今でも、遅いながらも陸連登録をして競技会に出場しています。それは、「結果だけではない陸上競技の魅力」を知ったからです。
トラックだけでなくマラソンに挑戦したり、新たなトレーニングを試したりしているうちに、私は単に記録を目指すことよりも、「次の大会に向けて、このやり方を試したらどうなるか」という過程そのものを楽しんでいる自分に気がつきました(参考:「リクジョウクエスト」)。
見方によっては「結果が出せないから別の方向に逃げただけ」と思われるかもしれません。ただ、少なくとも自分としては毎日の練習が楽しいですし、陸上が「つらいからやめよう」とは思いません。
そもそもスポーツは何のためにやるのかと言えば、結果を出すことではなく、人生を豊かにするためではないでしょうか。
最近、私は女子マラソンで60歳以上の世界記録(2時間56分54秒)を持つ弓削田真理子さんとトラックレース(5000m)で直接対決をする機会がありました。18分39秒71(!)のW60日本新を叩き出した弓削田さんには2000m手前で引き離され、私はあえなく完敗したのですが(笑)、レース後にご挨拶をさせていただくと、「またサブスリー(マラソン3時間切り)を狙いますよ!」と、とても楽しそうに話されていたのが印象的でした。私のほうも、弓削田さんに負けた事実は心の底で少しだけ悔しく思いながらも、「世界記録保持者と一緒に走って負けた」という経験がとても貴重であるように感じました。
61歳にして昨年12月のさいたま国際マラソンで2時間56分54秒というマスターズ世界記録(W60)を樹立した弓削田真理子さん
弓削田さんのように長く競技を続ける方がいる一方で、社会人になるのと同時に陸上競技を引退する選手が多いのは少しもったいなく感じます。「ゼロか100か」ではなく、陸上競技を「できる範囲で続ける」という選択肢があっても良いのではないでしょうか。
もちろん、ケガや故障が治らずに引退せざるを得ない選手もいると思います。実は私もここ10年ほどは痛めた膝がずっと治らず、いつ走るのを辞めるかという状況に追い込まれていました。どんな治療もトレーニング(補強)も効果がなく、「アスリートはこうして引退することになるのか……」と自らの身体で実感していました。
ところが、10年の間に医療が発達したことで、今になって再び走れる脚を取り戻しつつあります。また、近年はシューズの進化もあってタイムも出しやすくなりました。このように、長く続けているといろいろなことがあります。
高みを目指していくのが陸上競技の本来の姿ではあると思いますが、せっかく続けてきた陸上を、もう少し続けてみることで新たな楽しみ方を見つけるのも悪いことではないと思います。そして、そういう人が増えることで、少しでも陸上競技の裾野が広がってくれることを願っています。
山本慎一郎(やまもとしんいちろう) 月刊陸上競技 編集部(兼企画営業部)企画課長 1983年1月生まれ。福島県いわき市出身。160cm、47kg(ピーク時)。植田中→磐城高→福島大→法大卒。中学では1学年下の村上康則(2010年日本選手権1500m覇者)と一緒に駅伝を走り、その才能を間近で見て挫折。懲りずに高校で都大路、大学で箱根駅伝を目指すも、いずれも未達に終わる。引退するタイミングを逸して現在も市民ランナーとして活動中。シューズマニアの一面も持ち、月陸Onlineでは「シューズレポ」を連載中。 |
編集部コラム第65回「強い選手の共通点?パート2」(向永)
編集部コラム第64回「2020年シーズンはまだこれから!!」(小川)
編集部コラム第63回「質と量」(船越)
編集部コラム第62回「たかが2cm、されど2cm」(松永)
編集部コラム第61回「都道府県対抗 女子七種競技選手権」(大久保)
編集部コラム第60回「キソの大切さ」(井上)
編集部コラム第59回「思い込みを捨てる」(山本)
編集部コラム第58回「それ、ドーピングだよ」(向永)
編集部コラム第57回「東京五輪へ“もう1度”あと1年」(小川)
編集部コラム第56回「魔法の言葉」(船越)
編集部コラム第55回「月陸ってどんな雑誌?」(松永)
編集部コラム第54回「インターハイ種目別学校対抗(女子編)」(大久保)
編集部コラム第53回「明確なビジョン」(井上)
編集部コラム第52回「人間性を磨く」(山本)
編集部コラム第51回「指が痛い。」(向永)
編集部コラム第50回「温故知新」(小川)
編集部コラム第49回「対面取材」(船越)
編集部コラム第48回「日本選手権優勝者を世代別にまとめてみた」(松永)
編集部コラム第47回「インターハイ種目別学校対抗(男子編)」(大久保)
編集部コラム第46回「月陸に自分が載った」(井上)
編集部コラム第45回「陸上競技と関わり続ける」(山本)
編集部コラム第44回「逃げるとどうなる?」(向永)
編集部コラム第43回「成長のヒント」(小川)
編集部コラム第42回「日本実業団記録」(大久保)
編集部コラム第41回「思い出の2016年長野全中」(松永)
編集部コラム第40回「葛藤」(船越)
編集部コラム第39回「何も咲かない寒い日は……」(井上)
編集部コラム第38回「社会の一員としての役割」(山本)
編集部コラム第37回「大学生、高校生、中学生に光を」(向永)
編集部コラム第36回「Tokyo 2020+1」(小川)
編集部コラム第35回「善意」(船越)
編集部コラム第34回「ピンチをチャンスに」(松永)
編集部コラム第33回「日本記録アラカルト」(大久保)
編集部コラム第32回「独断で選ぶ2019年度高校陸上界5選」(井上)
編集部コラム第31回「記録と順位」(山本)
編集部コラム第30回「答えを見つけ出す面白さ」(向永)
編集部コラム第29回「初めてのオリンピック」(小川)
編集部コラム第28回「人生意気に感ず」(船越)
編集部コラム第27回「学生駅伝〝区間賞〟に関するアレコレ」(松永)
編集部コラム第26回「2019年度 陸上界ナンバーワン都道府県は?」(大久保)
編集部コラム第25回「全国男子駅伝の〝私見〟大会展望」(井上)
編集部コラム第24回「箱根駅伝の高速化を検証」(山本)
編集部コラム番外編「勝負師の顔」(山本)
編集部コラム第23回「みんなキラキラ」(向永)
編集部コラム第22回「国立競技場」(小川)
編集部コラム第21回「〝がんばれ〟という言葉の力と呪縛」(船越)
編集部コラム第20回「日本記録樹立者を世代別にまとめてみた」(松永)
編集部コラム第19回「高校陸上界史上最強校は?(女子編)」(大久保)
編集部コラム第18回「独断で選ぶ全国高校駅伝5選」(井上)
編集部コラム第17回「リクジョウクエスト2~そして月陸へ~」(山本)
編集部コラム第16回「強い選手の共通点?」(向永)
編集部コラム第15回「続・ドーハの喜劇?」(小川)
編集部コラム第14回「初陣」(船越)
編集部コラム第13回「どうなる東京五輪マラソン&競歩!?」(松永)
編集部コラム第12回「高校陸上界史上最強校は?(男子編)」(大久保)
編集部コラム第11回「羽ばたけ日本の中距離!」(井上)
編集部コラム第10回「心を動かすもの」(山本)
編集部コラム第9回「混成競技のアレコレ」(向永)
編集部コラム第8回「アナウンス」(小川)
編集部コラム第7回「ジンクス」(船越)
編集部コラム第6回「学生駅伝を支える主務の存在」(松永)
編集部コラム第5回「他競技で活躍する陸上競技経験者」(大久保)
編集部コラム第4回「とらんすふぁ~」(井上)
編集部コラム第3回「リクジョウクエスト」(山本)
編集部コラム第2回「あんな選手を目指しなさい」(向永)
編集部コラム第1回「締め切りとIHと五輪」(小川)
第66回「陸上競技を続けると……?」(山本慎一郎)
早いもので2020年も残すところ2ヵ月となりました。トラック&フィールドの大会は一段落し、長距離以外の選手は一息ついたところかと思います。みなさんの2020年はどんなシーズンだったでしょうか。 さて、以前の私のコラムでは学校を卒業してからの「陸上競技との関わり方」を紹介しました(「陸上競技と関わり続ける」)。今回はその中でも「陸上競技を続けるとどうなるか」について書きたいと思います。 全国の舞台で活躍するようなトップ選手の生き方については月陸でも紹介していますので、ここでは全国大会どころか県大会を突破できない、いわゆる「普通の選手」が陸上を続けることの意味を私自身の経験をもとにご紹介します。 私は運良く大学でも陸上部(長距離)に所属できましたが、高校卒業後は伸び悩んだこともあり、大学では(でも)まったく活躍はできませんでした。大学を卒業し、社会人になってからは仕事が終わってから一人で練習をしていたものの、練習時間は十分ではなく、ケアや補強などにかける時間も足りないので、もともと弱かった競技力はさらに低下しました。 社会人になりたての頃は「自己ベストを出す!」とか「いつかは福岡国際マラソンに出たい!」といった目標も持っていましたが、どんなに努力したつもりでも競技力は何年少しずつ弱体化するばかりで、自己ベストどころではありません。正直なところ、社会人になって何年経っても自己ベストから遠ざかる一方となってからは、更新するのはちょっと無理だと思うようになりました(ただし、周りを見ていると更新できる人も結構います)。 しかし、結果的に私は37歳になった今でも、遅いながらも陸連登録をして競技会に出場しています。それは、「結果だけではない陸上競技の魅力」を知ったからです。 トラックだけでなくマラソンに挑戦したり、新たなトレーニングを試したりしているうちに、私は単に記録を目指すことよりも、「次の大会に向けて、このやり方を試したらどうなるか」という過程そのものを楽しんでいる自分に気がつきました(参考:「リクジョウクエスト」)。 見方によっては「結果が出せないから別の方向に逃げただけ」と思われるかもしれません。ただ、少なくとも自分としては毎日の練習が楽しいですし、陸上が「つらいからやめよう」とは思いません。 そもそもスポーツは何のためにやるのかと言えば、結果を出すことではなく、人生を豊かにするためではないでしょうか。 最近、私は女子マラソンで60歳以上の世界記録(2時間56分54秒)を持つ弓削田真理子さんとトラックレース(5000m)で直接対決をする機会がありました。18分39秒71(!)のW60日本新を叩き出した弓削田さんには2000m手前で引き離され、私はあえなく完敗したのですが(笑)、レース後にご挨拶をさせていただくと、「またサブスリー(マラソン3時間切り)を狙いますよ!」と、とても楽しそうに話されていたのが印象的でした。私のほうも、弓削田さんに負けた事実は心の底で少しだけ悔しく思いながらも、「世界記録保持者と一緒に走って負けた」という経験がとても貴重であるように感じました。 61歳にして昨年12月のさいたま国際マラソンで2時間56分54秒というマスターズ世界記録(W60)を樹立した弓削田真理子さん 弓削田さんのように長く競技を続ける方がいる一方で、社会人になるのと同時に陸上競技を引退する選手が多いのは少しもったいなく感じます。「ゼロか100か」ではなく、陸上競技を「できる範囲で続ける」という選択肢があっても良いのではないでしょうか。 もちろん、ケガや故障が治らずに引退せざるを得ない選手もいると思います。実は私もここ10年ほどは痛めた膝がずっと治らず、いつ走るのを辞めるかという状況に追い込まれていました。どんな治療もトレーニング(補強)も効果がなく、「アスリートはこうして引退することになるのか……」と自らの身体で実感していました。 ところが、10年の間に医療が発達したことで、今になって再び走れる脚を取り戻しつつあります。また、近年はシューズの進化もあってタイムも出しやすくなりました。このように、長く続けているといろいろなことがあります。 高みを目指していくのが陸上競技の本来の姿ではあると思いますが、せっかく続けてきた陸上を、もう少し続けてみることで新たな楽しみ方を見つけるのも悪いことではないと思います。そして、そういう人が増えることで、少しでも陸上競技の裾野が広がってくれることを願っています。山本慎一郎(やまもとしんいちろう) 月刊陸上競技 編集部(兼企画営業部)企画課長 1983年1月生まれ。福島県いわき市出身。160cm、47kg(ピーク時)。植田中→磐城高→福島大→法大卒。中学では1学年下の村上康則(2010年日本選手権1500m覇者)と一緒に駅伝を走り、その才能を間近で見て挫折。懲りずに高校で都大路、大学で箱根駅伝を目指すも、いずれも未達に終わる。引退するタイミングを逸して現在も市民ランナーとして活動中。シューズマニアの一面も持ち、月陸Onlineでは「シューズレポ」を連載中。 |
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