2020.11.27
毎週金曜日更新!?
★月陸編集部★
攻め(?)のアンダーハンド
リレーコラム
毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ!
陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいことetc…。
編集スタッフが週替りで綴って行きたいと思います。
暇つぶし程度にご覧ください!
第70回「理不尽なこと」(船越陽一郎)
小学3年生の頃、私は体が弱く喘息持ちで月に2、3日は学校を休まないと行けないほど病弱でした。そんな私に両親はスポーツをすることで身体を鍛えるように勧めてきました。その頃よく遊んでいた友達がたまたまラグビーをしていたというのでうっかり(?)ラグビーを始めました。
そこで、私の人生を180°変えることになるFコーチと出会いました。
Fコーチの口から頻繁に発せられる言葉がありました。
「走れば治る!」
小学生の私からすれば、この人はいったい何を言っているのだろう? 日本語が通じないのだろうか? と思ったこともあります。人とぶつかって身体を痛めたとき、足首を捻ってしまったとき、喘息のため呼吸が追いつかないとき、この言葉を発せられました。
「走れば治る!」
そういう厳しい練習に耐え切れず、私は何度も両親に辞めたいとお願いしましたが、絶対に辞めさせてはくれませんでした。週に1度、練習のある日曜日が嫌で嫌で。「サザエさん症候群」なるものがありますが、当時の私は「8時だよ全員集合症候群」でした。(今の若い方々にはわからないかもしれませんが)
年月が経ち小学6年生となったとき、喘息の症状が嘘のように出なくなり(その時は気づきもしないくらい)、肉体的には自分が病弱だったのも忘れるほどに逞しくなりました。それでも、相変わらず日曜日が憂鬱で「8時だよ全員集合症候群」「ひょうきん族症候群」と変化を遂げていました。
合わせて、Fコーチも進化を遂げます。練習で散々走った最後にこう言います。
「お前たちここが正念場だ!! 行くぞ! ラストー!!」
その声を合図に、最後の力を振り絞って練習に臨みました。ただ、その号令からさらに1時間も“ラスト”が続いた時は、さすがに私もパニックになりました。
「ラストって いったい何!?」
それでもがんばれたのは、福岡県大会で優勝するという目標があったから。6年生になってからはその県大会のためにがんばってきたのですが、準決勝で敗れてしまいました。単純に力の差だったと思います。試合後にグラウンドの隅でワンワン泣いている私たちに大会運営の方が言いました。
「10分後に3位決定戦を行います」
なんと非情なスケジュールでしょうか。3位決定戦の対戦相手は準決勝第1試合で先に試合を終えていたため、私たちが第2試合を戦ってる間に気持ちを整える時間がありました。自分たちはすぐに試合に臨まないといけないのに……。こんな理不尽なことはない! とFコーチは抗議をしましたが認められず、涙を拭いながら3位決定戦に臨みました。
正直、勝てない相手ではありませんでした。2試合連続でそれも泣きながら試合に臨んだというのはいいわけでしかありませんが、案の定もう一度試合後に悔し涙を流すはめになってしまいました。
あれから30年以上経つのですが、今振り返るとFコーチは少なくとも3位決定戦を勝ち切る力を授けてくださっていたように思います。日々、逆境を用意して正念場へと追い込んで鍛え上げてくれていたのです。心身ともに逞しくなったと思います。
ここぞという大事な局面は、大抵の場合は想定外のことが起きるものだと思います。だからこそ、それに対応できるように日頃から備えておく必要があるのではないでしょうか。あの時の私たちには打開できるだけの力が備わっていたと思えます。だからこそ、何があっても勝たなくてはなりませんでした。
つらいことから逃げてはいけない、目をそらすな、というわけではありませんし、ものごとには限度があります。でも、つらいことから得られるものは結構人生の財産となったりするんじゃないなかと思います
それっぽいことを書いてはみましたが、当時の私は何を得られるだとか、生きていく力をつけるだとか、そんなことは一切思うはずもなく。
「まだ泣いとんのか。お前ら帰るぞー!」
いつもの調子の声が聞こえてきて、振り返ると誰よりも目を泣き腫らしているくせに無理矢理笑顔を作るFコーチが立っていました。そのぎこちない笑顔を見たとき、心の底からこの人のために勝ちたかった。ただ、そんなことを思いました。
船越陽一郎(ふなこし・よういちろう) 月刊陸上競技写真部 1974年12月生まれ。172cm、○0kg。福岡県春日市出身 小学生の時に身体が弱く、喘息持ちだったため、鍛えるためにラグビーを始め「走れば治る」が口癖のドSのコーチに肉体改造される。大学までラグビーを続けるも卒業と同時に引退。何を思ったか社会人でボクシングを始める。戦績3戦3敗(3KO負け)。秘密兵器の左フックを編み出すも、秘密のまま引退。なんじゃかんじゃあって現在に至る。 |
編集部コラム第69回這い上がる」(松永)
編集部コラム第68回「都道府県対抗 男子十種競技選手権」(大久保)
編集部コラム第67回「都大路も高速レースの予感」(井上)
編集部コラム第66回「陸上競技を続けると……?」(山本)
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編集部コラム第16回「強い選手の共通点?」(向永)
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編集部コラム第8回「アナウンス」(小川)
編集部コラム第7回「ジンクス」(船越)
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編集部コラム第5回「他競技で活躍する陸上競技経験者」(大久保)
編集部コラム第4回「とらんすふぁ~」(井上)
編集部コラム第3回「リクジョウクエスト」(山本)
編集部コラム第2回「あんな選手を目指しなさい」(向永)
編集部コラム第1回「締め切りとIHと五輪」(小川)
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