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2021.08.13

編集部コラム「オリンピックの価値」
編集部コラム「オリンピックの価値」

毎週金曜日更新!?

★月陸編集部★

攻め(?)のアンダーハンド
リレーコラム
毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ!
陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいことetc…。
編集スタッフが週替りで綴って行きたいと思います。
暇つぶし程度にご覧ください!

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第107回「オリンピックの価値(向永拓史)

東京五輪が終わりました。開催が決まってから8年。長かったですが、終わってみるとあっという間というか。本当に開催されていたのかな?と錯覚に陥るほど。無観客だったり、自分が生で観ていなかったりしているというのもありますが、嵐のように去っていきました。

コロナ禍での開催にはいろんな意見がありました。実際、私も昨年は「スポーツの価値ってなんだろう」「この仕事意味あるのかな」と葛藤したことも。私なんかでもそうなんですから、アスリートはもっといろいろな感情が湧いたことでしょう。

なぜオリンピックを開催するのか。経済のためというのもそう、アスリートのためというのもそう。本当にいろんな意味があるのでしょう。

開催期間中のある日。たまに行く韓国料理屋さんにランチに行きました。カウンターとテーブル1席の小さなお店。ビビンパとかカルビ丼がおいしい。お母さん(韓国ではオモニって言うのかな?)は、手が空くとカウンターまで出てきて話をするんですが、テレビでは女子バスケットボールの準決勝が録画放送していて「あーだこーだ」話していて、そうしたらお母さんが「昨夜のあの陸上の小さい子もすごかったね」って。お母さんはたぶん、スポーツに詳しくないんだけど。おそらく田中希実選手のこと。

オリンピックが終わってから、実家に電話しました。甥っ子、姪っ子とはよくテレビ電話するし、家族とも仲良しなんです(どうでもいいですが)。そうしたら、普段、別にスポーツに興味がない母は「全部の競技で田中さんが一番すごかった」と言うんです。あの小さな身体で戦おうと思ったらどれほどの練習をしてきたか想像がつく、と。もちろん、専門的なことなんてわからないんですが、何か感じ取ったんでしょう。

小学校2年生の姪っ子は、競歩のマネをしてクネクネと歩いていたそうなんです。「両足があがっちゃダメだよ」なんて言いながら。たぶん、いやきっと、姪っ子は競歩選手になりません。もしかすると二度と競歩のフォームをしないかもしれない。

でも、オリンピックの価値ってこういうところにあるんじゃないかって思いました。日本中、世界中に姪っ子みたいな人がいる。自分がやっている種目を観て感動して夢を持つ子どももいれば、初めて観る競技があってマネしたり、興味を持ったりする子どももいる。ほとんどはスポーツ選手にならないんだけど、頑張っている人がいること、そういう競技があるということを知る経験は人間にとってすごく大切だと思います。新しい感情が生まれ、人生の選択肢が増える。

もちろん、子どもたちだけじゃなく、ウチの知ったかぶりの母や韓国料理屋のお母さんとか、大人にも影響はあると思います。なんか頑張っている人を見ると心が揺さぶられて「自分も頑張ってみようかな」って思ったりするもの(もちろん、それは強制ではないし、何も感じない人がいたっていいと思います)。私もそうで、死にそうなくらいの10日間(実際にはインターハイスタートからだから12日間?)を乗り切れたのは、アスリートの姿があったから。

偉い人が計算するような五輪の経済効果は僕にはわかりません。五輪に参加すること、勝つこと、負けることの意味は、アスリートにしかわからないでしょう。出られないから、わかりません。たぶん、きれいなことだけじゃなく、汚い部分で得をする人がたくさんいるんだろうな、とも思います。

「スポーツで世界は救えない」「スポーツで命は救えない」

そういう人もいるでしょうし、事実だと思います。それでも、この大変な日常の中に確かにあった「東京五輪」が、多くの人の心に小さな小さな何かを残した。その小さな何かが、いずれ大きな力になるんじゃないか。

「2021年、東京でオリンピックが開催できてよかった」

今は言えなくても、数年後、数十年後、みんながそう言えるような、そんな日が来ると信じて。

向永拓史(むかえ・ひろし)
月刊陸上競技編集部 新米編集部員
1983年8月30日生まれ。16★cm、★kg、O型。石川県金沢市生まれ、滋賀県育ち。両親の仕事の都合で多数の引っ越しを経験し、幼少期より「どうせ友達になっても離れる」とひねくれて育つ。運動音痴で絵を描くのが好きな少年だったが、小4の時に開幕したJリーグの影響で三浦知良に心酔し、天才漫画家になる未来を絶たれた。いろいろあって2011年全中以降、陸上競技の取材をすることになり、現在に至る。尊敬する人はカズ、尾崎豊、宮本輝、本田宗一郎。

編集部コラム第106回「どうしても気になるどうでもいいこと」(船越)
編集部コラム第105回「東京五輪ついに開幕!!!」(小川)
編集部コラム第104回「オリンピックの思い出とインターハイ」(松永)
編集部コラム第103回「五輪メダリストのトリビア」(大久保)
編集部コラム第102回「あたたかい目」(井上)
編集部コラム第101回「4年サイクル」(山本)
編集部コラム第100回「誰がために月陸はある」(向永)
編集部コラム第99回「『9』秒台」(小川)
編集部コラム第98回「『9』秒台」(小川)
編集部コラム第98回「いいわけ」(船越)
編集部コラム第97回「My Privacy」(松永)
編集部コラム第96回「追い風最高記録」(大久保)
編集部コラム第95回「競技会に必要なもの」(井上)
編集部コラム第94回「メンタルトレーニング」(山本)
編集部コラム第93回「努力は報われた」(向永)
編集部コラム第92回「2年ぶりの織田記念」(小川)
編集部コラム第91回「エゴイスト」(船越)
編集部コラム第90回「あらためて100m10秒台ってすごいタイムですよね??」(松永)
編集部コラム第89回「学生競技会の華 大学対校戦!」(大久保)
編集部コラム第88回「U20世界選手権の上位候補をリサーチ!」(井上)
編集部コラム第87回「編集部コラム「郷土の応援」(山本)
編集部コラム第86回「あこがれの松田耕作記者」(向永)
編集部コラム第85回「スポーツのチカラ」(小川)
編集部コラム第84回「初心」(船越)
編集部コラム第83回「高校生にとってのインターハイ」(松永)
編集部コラム第82回「2020年世界リストTop10入り日本人選手」(大久保)
編集部コラム第81回「〝きっかけ〟の提供を」(井上)
編集部コラム第80回「一番アツい夏」(山本)
編集部コラム第79回「前向きな言葉という魔法」(向永)
編集部コラム第78回「自分なりの『答え』を探す」(小川)
編集部コラム第77回「カメラマンの箱根駅伝」(船越)
編集部コラム第76回「専門誌記者の箱根駅伝」(松永)
編集部コラム第75回「データで見る箱根駅伝当日エントリー変更」(大久保)
編集部コラム第74回「2020年を振り返って」(井上)
編集部コラム第73回「プレッシャーとの向き合い方」(山本)
編集部コラム第72回「陸上競技のイメージを変えたい」(向永)
編集部コラム第71回「2020年ラストスパート!!」(小川)
編集部コラム第70回「理不尽なこと」(船越)
編集部コラム第69回「這い上がる」(松永)
編集部コラム第68回「都道府県対抗 男子十種競技選手権」(大久保)
編集部コラム第67回「都大路も高速レースの予感」(井上)
編集部コラム第66回「陸上競技を続けると……?」(山本)
編集部コラム第65回「強い選手の共通点?パート2」(向永)
編集部コラム第64回「2020年シーズンはまだこれから!!」(小川)
編集部コラム第63回「質と量」(船越)
編集部コラム第62回「たかが2cm、されど2cm」(松永)
編集部コラム第61回「都道府県対抗 女子七種競技選手権」(大久保)
編集部コラム第60回「キソの大切さ」(井上)
編集部コラム第59回「思い込みを捨てる」(山本)
編集部コラム第58回「それ、ドーピングだよ」(向永)
編集部コラム第57回「東京五輪へ“もう1度”あと1年」(小川)
編集部コラム第56回「魔法の言葉」(船越)
編集部コラム第55回「月陸ってどんな雑誌?」(松永)
編集部コラム第54回「インターハイ種目別学校対抗(女子編)」(大久保)
編集部コラム第53回「明確なビジョン」(井上)
編集部コラム第52回「人間性を磨く」(山本)
編集部コラム第51回「指が痛い。」(向永)
編集部コラム第50回「温故知新」(小川)
編集部コラム第49回「対面取材」(船越)
編集部コラム第48回「日本選手権優勝者を世代別にまとめてみた」(松永)
編集部コラム第47回「インターハイ種目別学校対抗(男子編)」(大久保)
編集部コラム第46回「月陸に自分が載った」(井上)
編集部コラム第45回「陸上競技と関わり続ける」(山本)
編集部コラム第44回「逃げるとどうなる?」(向永)
編集部コラム第43回「成長のヒント」(小川)
編集部コラム第42回「日本実業団記録」(大久保)
編集部コラム第41回「思い出の2016年長野全中」(松永)
編集部コラム第40回「葛藤」(船越)
編集部コラム第39回「何も咲かない寒い日は……」(井上)
編集部コラム第38回「社会の一員としての役割」(山本)
編集部コラム第37回「大学生、高校生、中学生に光を」(向永)
編集部コラム第36回「Tokyo 2020+1」(小川)
編集部コラム第35回「善意」(船越)
編集部コラム第34回「ピンチをチャンスに」(松永)
編集部コラム第33回「日本記録アラカルト」(大久保)
編集部コラム第32回「独断で選ぶ2019年度高校陸上界5選」(井上)
編集部コラム第31回「記録と順位」(山本)
編集部コラム第30回「答えを見つけ出す面白さ」(向永)
編集部コラム第29回「初めてのオリンピック」(小川)
編集部コラム第28回「人生意気に感ず」(船越)
編集部コラム第27回「学生駅伝〝区間賞〟に関するアレコレ」(松永)
編集部コラム第26回「2019年度 陸上界ナンバーワン都道府県は?」(大久保)
編集部コラム第25回「全国男子駅伝の〝私見〟大会展望」(井上)
編集部コラム第24回「箱根駅伝の高速化を検証」(山本)
編集部コラム番外編「勝負師の顔」(山本)
編集部コラム第23回「みんなキラキラ」(向永)
編集部コラム第22回「国立競技場」(小川)
編集部コラム第21回「〝がんばれ〟という言葉の力と呪縛」(船越)
編集部コラム第20回「日本記録樹立者を世代別にまとめてみた」(松永)
編集部コラム第19回「高校陸上界史上最強校は?(女子編)」(大久保)
編集部コラム第18回「独断で選ぶ全国高校駅伝5選」(井上)
編集部コラム第17回「リクジョウクエスト2~そして月陸へ~」(山本)
編集部コラム第16回「強い選手の共通点?」(向永)
編集部コラム第15回「続・ドーハの喜劇?」(小川)
編集部コラム第14回「初陣」(船越)
編集部コラム第13回「どうなる東京五輪マラソン&競歩!?」(松永)
編集部コラム第12回「高校陸上界史上最強校は?(男子編)」(大久保)
編集部コラム第11回「羽ばたけ日本の中距離!」(井上)
編集部コラム第10回「心を動かすもの」(山本)
編集部コラム第9回「混成競技のアレコレ」(向永)
編集部コラム第8回「アナウンス」(小川)
編集部コラム第7回「ジンクス」(船越)
編集部コラム第6回「学生駅伝を支える主務の存在」(松永)
編集部コラム第5回「他競技で活躍する陸上競技経験者」(大久保)
編集部コラム第4回「とらんすふぁ~」(井上)
編集部コラム第3回「リクジョウクエスト」(山本)
編集部コラム第2回「あんな選手を目指しなさい」(向永)
編集部コラム第1回「締め切りとIHと五輪」(小川)

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第107回「オリンピックの価値(向永拓史)

東京五輪が終わりました。開催が決まってから8年。長かったですが、終わってみるとあっという間というか。本当に開催されていたのかな?と錯覚に陥るほど。無観客だったり、自分が生で観ていなかったりしているというのもありますが、嵐のように去っていきました。 コロナ禍での開催にはいろんな意見がありました。実際、私も昨年は「スポーツの価値ってなんだろう」「この仕事意味あるのかな」と葛藤したことも。私なんかでもそうなんですから、アスリートはもっといろいろな感情が湧いたことでしょう。 なぜオリンピックを開催するのか。経済のためというのもそう、アスリートのためというのもそう。本当にいろんな意味があるのでしょう。 開催期間中のある日。たまに行く韓国料理屋さんにランチに行きました。カウンターとテーブル1席の小さなお店。ビビンパとかカルビ丼がおいしい。お母さん(韓国ではオモニって言うのかな?)は、手が空くとカウンターまで出てきて話をするんですが、テレビでは女子バスケットボールの準決勝が録画放送していて「あーだこーだ」話していて、そうしたらお母さんが「昨夜のあの陸上の小さい子もすごかったね」って。お母さんはたぶん、スポーツに詳しくないんだけど。おそらく田中希実選手のこと。 オリンピックが終わってから、実家に電話しました。甥っ子、姪っ子とはよくテレビ電話するし、家族とも仲良しなんです(どうでもいいですが)。そうしたら、普段、別にスポーツに興味がない母は「全部の競技で田中さんが一番すごかった」と言うんです。あの小さな身体で戦おうと思ったらどれほどの練習をしてきたか想像がつく、と。もちろん、専門的なことなんてわからないんですが、何か感じ取ったんでしょう。 小学校2年生の姪っ子は、競歩のマネをしてクネクネと歩いていたそうなんです。「両足があがっちゃダメだよ」なんて言いながら。たぶん、いやきっと、姪っ子は競歩選手になりません。もしかすると二度と競歩のフォームをしないかもしれない。 でも、オリンピックの価値ってこういうところにあるんじゃないかって思いました。日本中、世界中に姪っ子みたいな人がいる。自分がやっている種目を観て感動して夢を持つ子どももいれば、初めて観る競技があってマネしたり、興味を持ったりする子どももいる。ほとんどはスポーツ選手にならないんだけど、頑張っている人がいること、そういう競技があるということを知る経験は人間にとってすごく大切だと思います。新しい感情が生まれ、人生の選択肢が増える。 もちろん、子どもたちだけじゃなく、ウチの知ったかぶりの母や韓国料理屋のお母さんとか、大人にも影響はあると思います。なんか頑張っている人を見ると心が揺さぶられて「自分も頑張ってみようかな」って思ったりするもの(もちろん、それは強制ではないし、何も感じない人がいたっていいと思います)。私もそうで、死にそうなくらいの10日間(実際にはインターハイスタートからだから12日間?)を乗り切れたのは、アスリートの姿があったから。 偉い人が計算するような五輪の経済効果は僕にはわかりません。五輪に参加すること、勝つこと、負けることの意味は、アスリートにしかわからないでしょう。出られないから、わかりません。たぶん、きれいなことだけじゃなく、汚い部分で得をする人がたくさんいるんだろうな、とも思います。 「スポーツで世界は救えない」「スポーツで命は救えない」 そういう人もいるでしょうし、事実だと思います。それでも、この大変な日常の中に確かにあった「東京五輪」が、多くの人の心に小さな小さな何かを残した。その小さな何かが、いずれ大きな力になるんじゃないか。 「2021年、東京でオリンピックが開催できてよかった」 今は言えなくても、数年後、数十年後、みんながそう言えるような、そんな日が来ると信じて。
向永拓史(むかえ・ひろし) 月刊陸上競技編集部 新米編集部員 1983年8月30日生まれ。16★cm、★kg、O型。石川県金沢市生まれ、滋賀県育ち。両親の仕事の都合で多数の引っ越しを経験し、幼少期より「どうせ友達になっても離れる」とひねくれて育つ。運動音痴で絵を描くのが好きな少年だったが、小4の時に開幕したJリーグの影響で三浦知良に心酔し、天才漫画家になる未来を絶たれた。いろいろあって2011年全中以降、陸上競技の取材をすることになり、現在に至る。尊敬する人はカズ、尾崎豊、宮本輝、本田宗一郎。
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