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2023.01.30

【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第29回「箱根駅伝現場検証!コース巡回の視点で総括する99回大会」


山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!

第29回「箱根駅伝現場検証!コース巡回の視点で総括する99回大会」

第99回東京箱根館往復大学駅伝競走が終了した。

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通称“箱根駅伝”で、ほとんどの方々が理解していただける。それほど社会生活や各家庭のお茶の間に浸透しているといえる。会話も「今年の箱根はすごかったね……」と切り出しても、箱根の温泉の話題でもなければ強羅や仙石原・芦ノ湖などの観光地の話ではないことは承知の上で、箱根駅伝についての話を切り出したとて誰もが合点する。

私も大学1年時に10区の付き添いを体験し、2年~4年は山上りの5区を走って2度の区間賞と総合優勝を味わうことができた。

卒業後の教員時代から山梨学院大学創部初年度の新春1986年までの5年間は、NHKラジオ解説者として、ラジオ中継車ですべての区間の激走を見ることができた。

そして監督として33年間(1987年~2019年)はチームの走りを見守った。

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その間、陸上自衛隊のジープによる監督車からの声掛け時代を経て、1990年の伴走車廃止に伴い各チームの監督がワゴン車3台に分乗し、呉越同舟する体制がしばらく続いた。

そして2003年の第79回大会から現在の運営管理車が各出場チームに1台つける時代へと変遷してきた。

現行の運営管理車の主たる目的は、従来の審判車・観察車・役員車を統合し、走者の安全確保および走路管理・観衆の整理、観衆への情報提供に努める車両である。

走者の安全確保および走路管理・観衆の整理、観衆への情報提供に努める運営管理車

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交通規制の執行を行う白バイ隊員との連携を保ちつつ、選手の安全な走行確保を行い、繰り上げ対応など大会運営を滞りなく進行させるため、全体のオペレーション協力を行うことで隊列内運行許可を得ている。

運営管理車には以下の5名が乗りこみ、それぞれ重要な役割を担っている。

・ドライバー
(学連が委託する無事故無違反10年以上の運転経歴を持つ者で、チームと同じ大学出身者を選出しない)

・競技運営委員
(関東学生陸上競技連盟の競技審判委員および東京・神奈川陸上競技協会の審判員から選出し、走行時における意思決定の責任者としての権限を持つ。選手の走行や声かけポイントでの時間や内容などの審判活動・緊急時の判断と決定などの任にあたる)

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・走路管理員
(各運営管理車・白バイ隊員・大会本部との連携、複数校による併走時の車両入れ替え方法の指示・観衆の車道への踏み出し、前後の押し合い等による危険防止にあたる走路員に呼びかけを行い任務の適正化を図る)

・走者の指導者
(チームの監督およびコーチなど指導者が乗車。競技運営委員の許可を得てあらかじめ決められた地点においてマイクを通じ1分程度走者に必要最低限の指示を与える事ができる。)*1km・3km・5km・10km・15km・あと3km・あと1kmなど
:現時点における順位と前後チームとの距離、各ポイントの通過タイム
:スプリットタイム
:その他走行時の注意点

・指導者のアシスタント
(スプリットタイムなどの計時・記録、前後の差など指導者が必要とする情報の提供など主に指導者のサポート)

それぞれトラックレースで言うところの審判・タイム計測・周回掲示・通告業務などを行うこととなっている。当然のことながら運営管理車からの声かけがテレビ中継で話題にもなり注目度も高いわけだが、声かけポイントのルールも公平を記すために徹底されている。

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また特別に走り終えた選手に労いの言葉や、次走者に一言程度の声かけを中継地点では認めている。

次のページ コース上を視察して気づいたこと

山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!

第29回「箱根駅伝現場検証!コース巡回の視点で総括する99回大会」

第99回東京箱根館往復大学駅伝競走が終了した。 通称“箱根駅伝”で、ほとんどの方々が理解していただける。それほど社会生活や各家庭のお茶の間に浸透しているといえる。会話も「今年の箱根はすごかったね……」と切り出しても、箱根の温泉の話題でもなければ強羅や仙石原・芦ノ湖などの観光地の話ではないことは承知の上で、箱根駅伝についての話を切り出したとて誰もが合点する。 私も大学1年時に10区の付き添いを体験し、2年~4年は山上りの5区を走って2度の区間賞と総合優勝を味わうことができた。 卒業後の教員時代から山梨学院大学創部初年度の新春1986年までの5年間は、NHKラジオ解説者として、ラジオ中継車ですべての区間の激走を見ることができた。 そして監督として33年間(1987年~2019年)はチームの走りを見守った。 その間、陸上自衛隊のジープによる監督車からの声掛け時代を経て、1990年の伴走車廃止に伴い各チームの監督がワゴン車3台に分乗し、呉越同舟する体制がしばらく続いた。 そして2003年の第79回大会から現在の運営管理車が各出場チームに1台つける時代へと変遷してきた。 現行の運営管理車の主たる目的は、従来の審判車・観察車・役員車を統合し、走者の安全確保および走路管理・観衆の整理、観衆への情報提供に努める車両である。 [caption id="attachment_91921" align="alignnone" width="800"] 走者の安全確保および走路管理・観衆の整理、観衆への情報提供に努める運営管理車[/caption] 交通規制の執行を行う白バイ隊員との連携を保ちつつ、選手の安全な走行確保を行い、繰り上げ対応など大会運営を滞りなく進行させるため、全体のオペレーション協力を行うことで隊列内運行許可を得ている。 運営管理車には以下の5名が乗りこみ、それぞれ重要な役割を担っている。 ・ドライバー (学連が委託する無事故無違反10年以上の運転経歴を持つ者で、チームと同じ大学出身者を選出しない) ・競技運営委員 (関東学生陸上競技連盟の競技審判委員および東京・神奈川陸上競技協会の審判員から選出し、走行時における意思決定の責任者としての権限を持つ。選手の走行や声かけポイントでの時間や内容などの審判活動・緊急時の判断と決定などの任にあたる) ・走路管理員 (各運営管理車・白バイ隊員・大会本部との連携、複数校による併走時の車両入れ替え方法の指示・観衆の車道への踏み出し、前後の押し合い等による危険防止にあたる走路員に呼びかけを行い任務の適正化を図る) ・走者の指導者 (チームの監督およびコーチなど指導者が乗車。競技運営委員の許可を得てあらかじめ決められた地点においてマイクを通じ1分程度走者に必要最低限の指示を与える事ができる。)*1km・3km・5km・10km・15km・あと3km・あと1kmなど :現時点における順位と前後チームとの距離、各ポイントの通過タイム :スプリットタイム :その他走行時の注意点 ・指導者のアシスタント (スプリットタイムなどの計時・記録、前後の差など指導者が必要とする情報の提供など主に指導者のサポート) それぞれトラックレースで言うところの審判・タイム計測・周回掲示・通告業務などを行うこととなっている。当然のことながら運営管理車からの声かけがテレビ中継で話題にもなり注目度も高いわけだが、声かけポイントのルールも公平を記すために徹底されている。 また特別に走り終えた選手に労いの言葉や、次走者に一言程度の声かけを中継地点では認めている。 次のページ コース上を視察して気づいたこと

コース上を視察して気づいたこと

これまでの年月を振り返ると、選手として走らせていただき、ラジオ中継解説を通して箱根駅伝全区間の特徴や各大学の戦いぶりを俯瞰させてもいただいた。 そして監督として選手たちの後ろ姿に視線を注いできた年月と、大会運営の一端を担う立場を合わせると46年間かくも深く箱根駅伝と関わってきたものだと感慨深い。 そうなると箱根駅伝をさぞかし理解していると思われるかもしれないが、然にあらずとこの数年の大会を通して感じている。 2020年の96回大会は、選手の2kmほど前方を走行する広報車両から応援方法のお願い、「間もなく選手が通過します」と声をかけさせていただいた。そしてコロナ禍で社会が揺れ動いた今回までの3大会は、大会運営本部を中心にさまざまな大会運営の現場を経験した。 特に今大会は、今後の大会運営でも課題となることが予想される“雑踏と人の動線”について、コースの要所を巡回視察してきた。 前回のコラムでも書いたように、箱根駅伝は首都圏から箱根・芦ノ湖を往復する広域・大規模・移動型競技会である。並走する東海道線や小田急線・箱根登山鉄道が主な移動手段となる。沿道の雑踏警備はもちろんのことながら、要となる駅では今まで気づかなかった対応や対策が施されていた。 以下、それぞれのポイントでの様子をまとめた。 ・2区8km付近 横浜駅前 地下道からの出口では、階段に人が溢れるほどであった。それでも「多い時の6割程度」と観戦者の方がおっしゃっていた。横浜駅コンコースでは、DJポリス風の神奈川県警の方とJR職員が、人の流れをハンドマイクで誘導されていた。 [caption id="attachment_91918" align="alignnone" width="772"] 横浜駅コンコースで人の流れをコントロールする神奈川県警[/caption] ・3区藤沢駅から国府津・小田原方面 朝の通勤ラッシュのように混雑し、乗り切れないので次の電車を待たなければならないほどである。 ・4区小田原駅 箱根登山鉄道の乗り換えの入場制限がかけられ、改札手前で人が溢れかえって歩けないほどであった。ハンドマイクで駅員が「これからお待ちになられても箱根駅伝の通過には間に合いません!」と繰り返しアナウンスされていた。この列の並びにいた某大学の部員も困っていたため、タクシーに一緒に乗ってゆこうと乗り場に向かうも、こちらも長蛇の列……。予約待機中のハイヤーに尋ねたところ、1時間待っても数台来るかどうかわからないとのことだった。 [caption id="attachment_91919" align="alignnone" width="2560"] 人が溢れかえって歩けないほどだった箱根登山電車の小田原駅[/caption] ・4区→5区 小田原中継所付近 小田原中継所の近くにある風祭駅の状況も知りたかったので、意を決してヒッチハイクで向かうこととした。数台目でやっと乗せていただいた方は、家族をわざわざ下ろして我々を中継所手前まで運んでいただいた。 ※慌ただしさの中で、お名前とご住所を失念してしまいました、今コラムを目にすることがございましたら、ご一報いただければと存じます。 風祭駅の踏切には、駆け込み乗車や無理な横断を防止するために5名の駅職員が警備に立たれていた。御嶽駅長が「来年は便数の増便をしたいと思うがそれでも捌ききれないと思う」と語ってくれたのが印象的であった。 [caption id="attachment_91917" align="alignnone" width="2560"] 5名の駅職員が警備にあたっていた風祭駅の踏切[/caption] また、小田急電鉄小田原駅副駅長の大熊さんは、コロナ以前と同じような人出に驚いた様子で大会期間中、小田原駅登山列車改札において3回の入場規制をかけてホーム等での安全確保に努めたそうだ。 小田原駅から箱根湯本駅までは小田急鉄道の4両編成で1車両約200名の乗車としても800名しか乗車できないこととなり、100回大会に向けてさらに人が増えるとなれば、「どのように安全に運航できるか再考したい」と語ってくれた。 ・9区13km保土ヶ谷駅前商店街 珍しく天井のある商店街も、狭い歩道に通行ができにくいほどであった。 ・10区残り1km東京・日本橋 このあたりは雑踏という言葉の通りの人混みだ。それでもコロナ以前ほどではないとデパート関係者の方が教えてくれた。 特に感心したことは、日本橋消防団の方がペアを組み、雑踏の中を縫うように救急キットとAEDを背負って巡回していただいていたことだ。日本橋消防団副団長の和気さんに大会終了後お話をうかがった。「日本橋消防署の指示のもと、レース中に観戦者の中で体調不良や怪我などの事案が発生した場合、即応性が高く救急車両がレースに割り込んだり中断させたりすることなく救急対応するためです」と語っていただいた。 [caption id="attachment_91920" align="alignnone" width="2560"] 日本橋消防団巡回の様子[/caption] 陸上競技や駅伝という専門性や経験値の高さは何事にも変え難いことではあろう。しかしながら、大会運営や今回の巡回によって私自身は、“知らないということを知る”という発見と経験になったと感じた。 大会運営はコース上のことだけで事が足りるわけではない。日本橋消防団の取り組みのように、要請を受けずとも、このような体制を組んで陰ながら大会を支えていただいていることを知り、小田原駅で入場制限から身動きが取れなくなる状況を自ら体験することによって、この広域・大規模・移動型競技会が100年の歴史を紡いできたことの重さを再認識することとなった。 さていよいよ100回記念大会である。記念という言葉が先行してしまってはいけない。 100回の歴史をコツコツと、その時代の変化に変革を加えながらも翻弄されることなく積み重ねてこられた延長線上に、私たちは今立っている。 だからこそ、この歴史を紡いできた選手・関係者、多くの陸上スポーツファンの方々への敬意を表することが抜け落ちてはいけない。そのように心に誓った99回大会の帰路であった。
上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。

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