2025.08.21

今年9月、陸上の世界選手権(世界陸上)が34年ぶりに東京・国立競技場で開催される。今回で20回目の節目を迎える世界陸上。日本で開催されるのは1991年の東京、2007年の大阪を含めて3回目で、これは同一国で最多だ。
これまで数々のスーパースター、名勝負が生まれた世界陸上の各大会の様子を紹介する『世界陸上プレイバック』。2019年にカタールのドーハで行われた第17回大会を振り返る。
バルシムが地元で復活優勝
初の中東開催となったドーハ大会。注目選手に挙げられていたのが男子走高跳に出場した地元出身のムタズ・エッサ・バルシム。2014年に世界歴代2位となる2m43をマークし、前回のロンドン大会では2m35で優勝し、連覇への期待が高まっていた。
しかし、この種目はこれまでに五輪、世界陸上を含めて連覇を達成した選手がいない。さらにバルシムは前年に踏み切り脚の左足首を手術した影響からか、シーズンベストは2m27にとどまっており、連覇は厳しいと思われていた。
2m19から競技はスタートし、2m30までは1回でクリアするも、2m33を2回続けて失敗。この高さはミハイル・アキメンコとイリヤ・イヴァニュク(ともにロシア)が一発で成功しており、3回目で失敗すれば、連覇の夢が絶たれる状況に追い込まれる。
それでも王者は意地を見せる。地元の大声援を背に、この高さをクリアして渾身のガッツポーズ。これで息を吹き返したバルシムは2m35、2m37を一発で成功させて単独トップに躍り出た。
この高さに挑戦したアキメンコとイヴァニュクが失敗したため、連覇が確定。地元で見事な復活劇を見せた。
今大会から新たに実施されたのが男女混合4×400mリレー。米国が3分09秒34の世界新記録で初代チャンピオンになった。
予選で3分12秒42の世界新記録を樹立。決勝では1走のコートニー・オコロが先頭でバトンをつなぎ、2走のアリソン・フェリックスは男子を1、2走に起用したポーランドにこそ先行を許したものの、2位をキープ。アンカーのウィルバート・ロンドンがポーランドをかわし、1着でフィニッシュした。
女子400mハードルではリオ五輪覇者のダリラ・ムハンマド(米国)が52秒16で優勝。同年7月に自身がマークした52秒20の世界記録を0.04秒更新した。
序盤からムハンマドは果敢に飛ばし先頭に立つ。後半に入って同じ米国のシドニー・マクローリンに追い上げられるも、トップを守り抜いた。2位のマクローリンも世界歴代2位となる52秒23の好タイムだった。
男子100mでは前回銀メダルのクリスチャン・コールマン(米国)が世界歴代6位となる9秒76(+0.6)で初優勝。前回王者のジャスティン・ガトリン(米国)が9秒89で2位に入った。前年2月に室内60mで6秒34の世界記録を樹立したコールマンは、得意のスタートで先行し、中盤以降はガトリンが追いかけるも、そのまま逃げ切った。
女子長距離ではシファン・ハッサン(オランダ)が1500mと10000mの変則2冠を達成。これは五輪、世界陸上を通じて初の快挙である。
得意とする1500mと5000mの決勝が同日開催だったため、異例の挑戦をしたハッサン。大会2日目の10000mは、30分17秒62の自己新で快勝すると、1500mでは序盤からレースを牽引し、ラスト1周でさらにペースを上げて後続を引き離した。大会新記録となる3分51秒95で制し、前人未到の偉業を成し遂げた。
史上最高レベルの争いとなったのが男子砲丸投。上位4人が22m超えの大激戦をジョー・コヴァクス(米国)が世界歴代3位タイとなる22m91で2大会ぶりの優勝を飾った。リオ五輪金メダリストのライアン・クルーザー(米国)が1投目から大会記録を13㎝上回る22m36をプットすると、トーマス・ウォルシュ(ニュージーランド)が世界歴代4位となる22m90でトップに立つ。
そのままウォルシュが逃げ切ると思われたが、最終投てきでコヴァクスが22m91のビッグショットで、ウォルシュを1㎝上回り首位に浮上。その直後、クルーザーもコヴァクスに匹敵する投てきを披露するも、22m90と惜しくも1cm差でコヴァクスには届かず。セカンド記録の差でウォルシュを上回り2位に入った。
男子競歩種目で金メダル独占
日本からは男子35選手、女子18選手が出場。金メダル2つ、銅メダル1つを含め、入賞数は過去最多となる8を数えた。
今大会は暑さを考慮して午前セッションは行われず、マラソンは23時59分、競歩種目は23時30分スタートと異例の深夜レースとなった。
男子50km競歩では鈴木雄介(富士通)が4時間4分20秒で日本競歩史上初の金メダルを獲得した。
2015年に20km競歩で世界記録をマークした鈴木は、いきなりスタート直後に飛び出す。9km過ぎには連覇を目指す世界記録(3時間32分33秒)保持者のヨアン・ディニ(フランス)が追いついてきたが、すぐに後退。その後は後続との差を徐々に広げ、35km時点では2位と3分34秒のリードを作った。

男子50km競歩で金メダルを獲得した鈴木雄介
終盤は徐々に後続との差を詰められたが、最後まで首位をキープ。2位のヨアオ・ヴィエイラ(ポルトガル)に39秒差をつけて、栄冠を手にした。
20km競歩では山西利和(愛知製鋼)が1時間26分34で優勝。池田向希(東洋大)が1時間29分02秒で6位に入った。男子競歩種目で20kmと50kmで金メダルを独占したのは1993年シュツットガルト大会のスペイン以来2度目の快挙だった。
ワールドランキング1位として今大会に臨んだ山西。7km付近で単独先頭の王凱華(中国)を捉え、以降は独歩態勢を築く。10kmの通過時点で池田を含む2位集団とは17秒差で、山西は13kmからさらにギアを上げて後続を引き離し、そのまま逃げ切った。
競歩は女子20kmも健闘。岡田久美子(ビックカメラ)が1時間34分36秒で6位、藤井菜々子(エディオン)が1時間34分50秒で7位となり、ダブル入賞を果たした。
男子4×100mリレーはアジア新記録の37秒43で2大会連続の銅メダルを獲得。多田修平(住友電工)、白石黄良々(セレスポ)、桐生祥秀(日本生命)、サニブラウン・アブデル・ハキーム(フロリダ大)の4人が世界の猛者と渡り合った。
1走の多田は得意のスタート上位争いを展開し、白石へのバトンパスも完璧に決める。白石は初代表ながら、世界の強豪を相手に力強い走りを披露し、3走の桐生にバトンを託した。16年リオ五輪銀、17年ロンドン世界陸上で銅メダルを獲得した時にも3走を務めた桐生は、抜群のコーナリングで、4走のサニブラウンには米国に次ぐ2位で中継。今大会100mでセミファイナルに進出したサニブラウンは、英国との2位争いには敗れたものの、2大会連続のメダルは確保した。37秒43はリオ五輪で日本がマークしたアジア記録を0.17秒も更新するもの。国別では世界歴代4位の大記録だった。
女子マラソンでは谷本観月(天満屋)が2時間39分09秒で7位。前回で連続入賞が10で途切れたが、日本勢では2大会ぶりの入賞を果たした。男子走幅跳は橋岡優輝(日大)が7m97(-0.2)で8位。この種目では日本人初の入賞者となった。
女子5000mでは田中希実(豊田自動織機TC)が14位ながら日本歴代2位の15分00秒01と好走。男子400mではウォルシュ・ジュリアン(富士通)が準決勝で日本歴代4位の45秒13と決勝進出とはならなかったものの、大舞台で力を発揮した。
バルシムが地元で復活優勝
初の中東開催となったドーハ大会。注目選手に挙げられていたのが男子走高跳に出場した地元出身のムタズ・エッサ・バルシム。2014年に世界歴代2位となる2m43をマークし、前回のロンドン大会では2m35で優勝し、連覇への期待が高まっていた。 しかし、この種目はこれまでに五輪、世界陸上を含めて連覇を達成した選手がいない。さらにバルシムは前年に踏み切り脚の左足首を手術した影響からか、シーズンベストは2m27にとどまっており、連覇は厳しいと思われていた。 2m19から競技はスタートし、2m30までは1回でクリアするも、2m33を2回続けて失敗。この高さはミハイル・アキメンコとイリヤ・イヴァニュク(ともにロシア)が一発で成功しており、3回目で失敗すれば、連覇の夢が絶たれる状況に追い込まれる。 それでも王者は意地を見せる。地元の大声援を背に、この高さをクリアして渾身のガッツポーズ。これで息を吹き返したバルシムは2m35、2m37を一発で成功させて単独トップに躍り出た。 この高さに挑戦したアキメンコとイヴァニュクが失敗したため、連覇が確定。地元で見事な復活劇を見せた。 今大会から新たに実施されたのが男女混合4×400mリレー。米国が3分09秒34の世界新記録で初代チャンピオンになった。 予選で3分12秒42の世界新記録を樹立。決勝では1走のコートニー・オコロが先頭でバトンをつなぎ、2走のアリソン・フェリックスは男子を1、2走に起用したポーランドにこそ先行を許したものの、2位をキープ。アンカーのウィルバート・ロンドンがポーランドをかわし、1着でフィニッシュした。 女子400mハードルではリオ五輪覇者のダリラ・ムハンマド(米国)が52秒16で優勝。同年7月に自身がマークした52秒20の世界記録を0.04秒更新した。 序盤からムハンマドは果敢に飛ばし先頭に立つ。後半に入って同じ米国のシドニー・マクローリンに追い上げられるも、トップを守り抜いた。2位のマクローリンも世界歴代2位となる52秒23の好タイムだった。 男子100mでは前回銀メダルのクリスチャン・コールマン(米国)が世界歴代6位となる9秒76(+0.6)で初優勝。前回王者のジャスティン・ガトリン(米国)が9秒89で2位に入った。前年2月に室内60mで6秒34の世界記録を樹立したコールマンは、得意のスタートで先行し、中盤以降はガトリンが追いかけるも、そのまま逃げ切った。 女子長距離ではシファン・ハッサン(オランダ)が1500mと10000mの変則2冠を達成。これは五輪、世界陸上を通じて初の快挙である。 得意とする1500mと5000mの決勝が同日開催だったため、異例の挑戦をしたハッサン。大会2日目の10000mは、30分17秒62の自己新で快勝すると、1500mでは序盤からレースを牽引し、ラスト1周でさらにペースを上げて後続を引き離した。大会新記録となる3分51秒95で制し、前人未到の偉業を成し遂げた。 史上最高レベルの争いとなったのが男子砲丸投。上位4人が22m超えの大激戦をジョー・コヴァクス(米国)が世界歴代3位タイとなる22m91で2大会ぶりの優勝を飾った。リオ五輪金メダリストのライアン・クルーザー(米国)が1投目から大会記録を13㎝上回る22m36をプットすると、トーマス・ウォルシュ(ニュージーランド)が世界歴代4位となる22m90でトップに立つ。 そのままウォルシュが逃げ切ると思われたが、最終投てきでコヴァクスが22m91のビッグショットで、ウォルシュを1㎝上回り首位に浮上。その直後、クルーザーもコヴァクスに匹敵する投てきを披露するも、22m90と惜しくも1cm差でコヴァクスには届かず。セカンド記録の差でウォルシュを上回り2位に入った。男子競歩種目で金メダル独占
日本からは男子35選手、女子18選手が出場。金メダル2つ、銅メダル1つを含め、入賞数は過去最多となる8を数えた。 今大会は暑さを考慮して午前セッションは行われず、マラソンは23時59分、競歩種目は23時30分スタートと異例の深夜レースとなった。 男子50km競歩では鈴木雄介(富士通)が4時間4分20秒で日本競歩史上初の金メダルを獲得した。 2015年に20km競歩で世界記録をマークした鈴木は、いきなりスタート直後に飛び出す。9km過ぎには連覇を目指す世界記録(3時間32分33秒)保持者のヨアン・ディニ(フランス)が追いついてきたが、すぐに後退。その後は後続との差を徐々に広げ、35km時点では2位と3分34秒のリードを作った。 [caption id="attachment_179859" align="alignnone" width="800"]
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