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2020.03.03

日本最強スプリンター 山縣亮太の現在地
日本最強スプリンター 山縣亮太の現在地

【Web特別記事】

日本最強スプリンター 山縣亮太の現在地

東京五輪に向けてじっくりとトレーニングを積む山縣。米国・フロリダ州のアンナ・マリア島にて

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東京五輪で指折りの注目を浴びている陸上の男子100m。その中で、過去2大会連続で準決勝に進出し、いずれも夢のファイナルにあと一歩と迫った男がいる。山縣亮太(セイコー)、27歳――。昨年は背中の痛み、肺気胸で6月以降は表舞台から姿を消したが、2018年は日本選手を相手に無敗を誇り、自己ベストは2度の10秒00。活況を呈す日本男子スプリント界にあって、誰もがその強さに一目置く。

振り返れば、これまでの道のりも決して順風満帆ではない。だが、3度目の五輪で悲願のファイナリストになるために、山縣は今、米国フロリダ州で静かに巻き返しへの力を蓄えている。その現在地と、紆余曲折の競技人生を当地で聞いた。

米国・IMGアカデミーで身体を整える日々

昨年11月から、年末年始の一時帰国を挟み、山縣は米国ですでに3ヵ月弱滞在し、自らの身体との対話に集中する日々を過ごしている。

取材に訪れた2月中旬、日焼けをした顔をほころばせながら、「結構いい状態というか、楽しんでやっていますよ」と話した。

拠点にしたのは、米国南東部のフロリダ州にある「IMGアカデミー」。世界屈指の充実したトレーニング施設を誇り、冬でも日中は20度を軽く超える温暖な気候。何より、一昨年末の視察を含め、訪れるのはこれで3度目となり、慣れ親しんだ土地になったことも大きい。

ただ、IMGを選んだのはそれだけが理由ではない。昨年、崩れてしまった身体のバランスを、自身の走りのイメージにフィットさせるためには、よりトレーニングに集中できる環境が必要だった。

2019年、山縣はシーズンインを目前にした3月頃から背中の痛みに悩まされ、日本選手権前には肺気胸を患い、ドーハ世界選手権出場を逃した。

山縣が苦しんでいる間、サニブラウン・アブデル・ハキーム(フロリダ大)が9秒97の日本新、小池祐貴(住友電工)が日本歴代2位タイの9秒98と、自身がいまだ果たせていない9秒台に突入した。

世界選手権の4×100mリレーでは、2大会連続の銅メダル。山縣が1走を務めて銀メダルを獲得したリオ五輪で樹立した日本記録(37秒60)が、37秒43にまで塗り替えられた。そんなライバルたちの姿を、山縣は指をくわえて見ているしかなかった。

なぜ、そうなったのか。その間、自問自答をした末に、たどりついた答えがある。それは、フォームのバランスだ。

キャリア最高のシーズンと言える2018年、特にその後半は、従来の持ち味だった前傾姿勢のかかったフォームから、やや重心を後ろ気味とし、臀部の大きな筋肉を使うことを意識した。するとトップスピードの維持につながり、「いい作品に仕上がった」と山縣は感じていた。アジア大会で自身2度目の10秒00をマークして銅メダルを手にし、日本選手権で5年ぶりの優勝を飾るなど日本人に負けなしという結果は、その言葉の証明と言える。

そこから、「後ろ重心にフォーカスし過ぎた」ことで、身体のバランスが崩れてしまったのだ。

「『これが自分が速く走るための技術的な方法なんだ』みたいにこだわり過ぎちゃって、今度は前傾姿勢を取れなくなったんです。後ろ重心に偏った走りになっちゃって、背中の痛みなどいろんな弊害が出てきてしまったのかなと自分なりに思っています」

IMGで取り組んだ課題は、「後ろ重心のいいところは残しつつ、もうちょっと前傾姿勢をいかにして作るか」。あらゆるトレーニングでその姿勢を意識し続け、課題克服にじっくりと時間をかけた。今、その手ごたえは得られつつあり、次はいよいよ「トップスピード」へとつなげるフェーズへと移る。

「2大会連続五輪セミファイナル進出」の経験

五輪2大会連続セミファイナリストのプライドを懸けて、激戦の男子100m日本代表争いに挑む

今年6月には28歳となる。アスリートとしては円熟期を迎える時期だ。3度目の、それも東京で開かれる五輪に向けて、あせりがないわけではない。

その競技人生は決して「順風満帆」ではなかった。特にロンドン五輪以降は、ほぼ1年ごとに浮き沈みを繰り返してきた。それでも、そのたびにトップシーンへの“帰還”を果たしてきた自負がある。そして何より、過去2度の五輪で結果を残してきた経験は、心のよりどころとして確かにある。

「ロンドンの時にはロンドンの時なりに、『どうやってこのオリンピックという舞台を乗り切ろうか』を考えて、リオも同じようにやってこられた。その2大会の経験から、オリンピックという大会の雰囲気とか、普段の国内の大会と違って、何が自分にとって記録を悪くさせるリスクなんだろうということを、細かく自分の中で考えられるようになりました」

2019年の勢力図を見た時、ドーハ世界選手権でいずれも準決勝を走ったサニブラウン、桐生祥秀(日本生命)、小池の3人のうち、五輪の舞台を知っているのは前回出場した桐生だけだ。それも予選落ちで、世界トップスプリンターたちの目の色が変わり始めるセミファイナルには進出できなかった。山縣は2大会連続で、その場に立った。この経験は、他の追随を許さない。

「過去2大会から得られることというのは、自分にしかないもの。そう思えば、自分が出ると決まったら、そういうものをしっかり生かして結果につなげたいし、つなげられると思います」

もちろん、まずは代表に選ばれなければ話にならない。東京五輪の参加資格を得るためには、参加標準記録「10秒05」を突破するか、大会の格や記録・順位で換算されたポイントを基にした「世界ランキング」で上位に入る必要がある。

すでにサニブラウン、小池、桐生の3人が参加標準記録を突破済み。代表枠は「3」しかないことを鑑みても、参加標準記録をしたうえで、6月下旬、ヤンマースタジアム長居(大阪市)で行われる日本選手権で雌雄を決する展開に持ち込みたいところ。山縣も東京五輪を見据えつつ、「日本選手権が大きな勝負になる」と口元を引き締める。

9秒台が3人、10秒00の山縣、さらには4×100mリレーでリオ五輪銀メダルメンバーのケンブリッジ飛鳥(Nike)、ドーハ世界選手権銅メダルメンバーの多田修平(住友電工)、白石黄良々(セレスポ)らが控え、史上最高水準の「日本最速決定戦」が予想される。それも、山縣は覚悟の上だ。

「大変だとは思います。でも、東京五輪で勝負していくことを考えると、越えていかないといけない山だと思うので、とにかく1日も無駄にできないという想いでいます。
今は、『山縣、大丈夫か?』みたいな状況だと思います。オリンピックの年だし、『やってくれるだろう』と思ってくれる人も少なからずいるとは思うけど、冷静に考えて、僕が仮に(五輪に)行けないとなっても、不思議に思う人っていない……と言ったらいけないけど(苦笑)。
ただ、だからこそ僕は“チャレンジャー”。とにかくベストを尽くさないといけない。でも、自分が負けるとは思っていません。勝てるチャンスは全然ある。軽く見ているわけじゃなくて、優勝は狙えると思っています。せめてそこのレベルまで自分を持っていきたいですね。そこまで行けば、全然勝負できると思っています」

9秒台、3大会連続の五輪、そして悲願のファイナル進出――。2020年、目の前の課題を1つひとつクリアし、山縣はそのすべてを手に入れるつもりだ。

月刊陸上競技2020年4月号では、紆余曲折あった競技人生でいかに自分自身と向き合ってきたか、東京五輪イヤーに書ける想いをより深く迫ったインタビューをお届けする。

山縣亮太/1992年6月10日生まれ、27歳。177cm、74kg。セイコー社員。広島・修道中→修道高→慶大。100m自己ベスト10秒00(17年、18年)

文/小川雅生

【Web特別記事】

日本最強スプリンター 山縣亮太の現在地

東京五輪に向けてじっくりとトレーニングを積む山縣。米国・フロリダ州のアンナ・マリア島にて東京五輪で指折りの注目を浴びている陸上の男子100m。その中で、過去2大会連続で準決勝に進出し、いずれも夢のファイナルにあと一歩と迫った男がいる。山縣亮太(セイコー)、27歳――。昨年は背中の痛み、肺気胸で6月以降は表舞台から姿を消したが、2018年は日本選手を相手に無敗を誇り、自己ベストは2度の10秒00。活況を呈す日本男子スプリント界にあって、誰もがその強さに一目置く。振り返れば、これまでの道のりも決して順風満帆ではない。だが、3度目の五輪で悲願のファイナリストになるために、山縣は今、米国フロリダ州で静かに巻き返しへの力を蓄えている。その現在地と、紆余曲折の競技人生を当地で聞いた。

米国・IMGアカデミーで身体を整える日々

昨年11月から、年末年始の一時帰国を挟み、山縣は米国ですでに3ヵ月弱滞在し、自らの身体との対話に集中する日々を過ごしている。取材に訪れた2月中旬、日焼けをした顔をほころばせながら、「結構いい状態というか、楽しんでやっていますよ」と話した。拠点にしたのは、米国南東部のフロリダ州にある「IMGアカデミー」。世界屈指の充実したトレーニング施設を誇り、冬でも日中は20度を軽く超える温暖な気候。何より、一昨年末の視察を含め、訪れるのはこれで3度目となり、慣れ親しんだ土地になったことも大きい。ただ、IMGを選んだのはそれだけが理由ではない。昨年、崩れてしまった身体のバランスを、自身の走りのイメージにフィットさせるためには、よりトレーニングに集中できる環境が必要だった。2019年、山縣はシーズンインを目前にした3月頃から背中の痛みに悩まされ、日本選手権前には肺気胸を患い、ドーハ世界選手権出場を逃した。山縣が苦しんでいる間、サニブラウン・アブデル・ハキーム(フロリダ大)が9秒97の日本新、小池祐貴(住友電工)が日本歴代2位タイの9秒98と、自身がいまだ果たせていない9秒台に突入した。世界選手権の4×100mリレーでは、2大会連続の銅メダル。山縣が1走を務めて銀メダルを獲得したリオ五輪で樹立した日本記録(37秒60)が、37秒43にまで塗り替えられた。そんなライバルたちの姿を、山縣は指をくわえて見ているしかなかった。なぜ、そうなったのか。その間、自問自答をした末に、たどりついた答えがある。それは、フォームのバランスだ。キャリア最高のシーズンと言える2018年、特にその後半は、従来の持ち味だった前傾姿勢のかかったフォームから、やや重心を後ろ気味とし、臀部の大きな筋肉を使うことを意識した。するとトップスピードの維持につながり、「いい作品に仕上がった」と山縣は感じていた。アジア大会で自身2度目の10秒00をマークして銅メダルを手にし、日本選手権で5年ぶりの優勝を飾るなど日本人に負けなしという結果は、その言葉の証明と言える。そこから、「後ろ重心にフォーカスし過ぎた」ことで、身体のバランスが崩れてしまったのだ。「『これが自分が速く走るための技術的な方法なんだ』みたいにこだわり過ぎちゃって、今度は前傾姿勢を取れなくなったんです。後ろ重心に偏った走りになっちゃって、背中の痛みなどいろんな弊害が出てきてしまったのかなと自分なりに思っています」IMGで取り組んだ課題は、「後ろ重心のいいところは残しつつ、もうちょっと前傾姿勢をいかにして作るか」。あらゆるトレーニングでその姿勢を意識し続け、課題克服にじっくりと時間をかけた。今、その手ごたえは得られつつあり、次はいよいよ「トップスピード」へとつなげるフェーズへと移る。

「2大会連続五輪セミファイナル進出」の経験

五輪2大会連続セミファイナリストのプライドを懸けて、激戦の男子100m日本代表争いに挑む今年6月には28歳となる。アスリートとしては円熟期を迎える時期だ。3度目の、それも東京で開かれる五輪に向けて、あせりがないわけではない。その競技人生は決して「順風満帆」ではなかった。特にロンドン五輪以降は、ほぼ1年ごとに浮き沈みを繰り返してきた。それでも、そのたびにトップシーンへの“帰還”を果たしてきた自負がある。そして何より、過去2度の五輪で結果を残してきた経験は、心のよりどころとして確かにある。「ロンドンの時にはロンドンの時なりに、『どうやってこのオリンピックという舞台を乗り切ろうか』を考えて、リオも同じようにやってこられた。その2大会の経験から、オリンピックという大会の雰囲気とか、普段の国内の大会と違って、何が自分にとって記録を悪くさせるリスクなんだろうということを、細かく自分の中で考えられるようになりました」2019年の勢力図を見た時、ドーハ世界選手権でいずれも準決勝を走ったサニブラウン、桐生祥秀(日本生命)、小池の3人のうち、五輪の舞台を知っているのは前回出場した桐生だけだ。それも予選落ちで、世界トップスプリンターたちの目の色が変わり始めるセミファイナルには進出できなかった。山縣は2大会連続で、その場に立った。この経験は、他の追随を許さない。「過去2大会から得られることというのは、自分にしかないもの。そう思えば、自分が出ると決まったら、そういうものをしっかり生かして結果につなげたいし、つなげられると思います」もちろん、まずは代表に選ばれなければ話にならない。東京五輪の参加資格を得るためには、参加標準記録「10秒05」を突破するか、大会の格や記録・順位で換算されたポイントを基にした「世界ランキング」で上位に入る必要がある。すでにサニブラウン、小池、桐生の3人が参加標準記録を突破済み。代表枠は「3」しかないことを鑑みても、参加標準記録をしたうえで、6月下旬、ヤンマースタジアム長居(大阪市)で行われる日本選手権で雌雄を決する展開に持ち込みたいところ。山縣も東京五輪を見据えつつ、「日本選手権が大きな勝負になる」と口元を引き締める。9秒台が3人、10秒00の山縣、さらには4×100mリレーでリオ五輪銀メダルメンバーのケンブリッジ飛鳥(Nike)、ドーハ世界選手権銅メダルメンバーの多田修平(住友電工)、白石黄良々(セレスポ)らが控え、史上最高水準の「日本最速決定戦」が予想される。それも、山縣は覚悟の上だ。「大変だとは思います。でも、東京五輪で勝負していくことを考えると、越えていかないといけない山だと思うので、とにかく1日も無駄にできないという想いでいます。 今は、『山縣、大丈夫か?』みたいな状況だと思います。オリンピックの年だし、『やってくれるだろう』と思ってくれる人も少なからずいるとは思うけど、冷静に考えて、僕が仮に(五輪に)行けないとなっても、不思議に思う人っていない……と言ったらいけないけど(苦笑)。 ただ、だからこそ僕は“チャレンジャー”。とにかくベストを尽くさないといけない。でも、自分が負けるとは思っていません。勝てるチャンスは全然ある。軽く見ているわけじゃなくて、優勝は狙えると思っています。せめてそこのレベルまで自分を持っていきたいですね。そこまで行けば、全然勝負できると思っています」9秒台、3大会連続の五輪、そして悲願のファイナル進出――。2020年、目の前の課題を1つひとつクリアし、山縣はそのすべてを手に入れるつもりだ。月刊陸上競技2020年4月号では、紆余曲折あった競技人生でいかに自分自身と向き合ってきたか、東京五輪イヤーに書ける想いをより深く迫ったインタビューをお届けする。山縣亮太/1992年6月10日生まれ、27歳。177cm、74kg。セイコー社員。広島・修道中→修道高→慶大。100m自己ベスト10秒00(17年、18年)文/小川雅生

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