2020.03.02

世界記録を持ち、世界ランキングの上位に名前がズラリと並び、昨年のドーハ世界選手権では金メダルを独占。今や日本男子は“世界最強の競歩大国”となった。東京五輪を控え、陸上のみならず全競技を含めてもメダル最有力候補として注目を集めている。
そんな男子に負けじと、女子競歩も着実に進化を遂げている。その第一人者として活躍を続けるのが岡田久美子(ビックカメラ)だ。
2月の日本選手権20km競歩(兵庫)で優勝して東京五輪代表に内定。2016年リオデジャネイロ五輪に続いて2大会連続でのオリンピック行きを決めた。
「勝たないといけないという思いや、調子が良かっただけに自分に対する期待もあって緊張して最初は硬くなりました。でも、記録より成績だと判断して、勝つことだけに集中しました」
神戸には家族も応援にかけつけてくれた。「よかったね」と声をかけられ、ホッと胸をなで下ろした。
高1から「歩き」はじめ、次々と金字塔を打ち立てる
熊谷女高2、3年時にインターハイ連覇、世界ジュニア選手権には2度出場し、立教大1年時には銅メダル(10000m競歩)を獲得した。日本インカレは4連覇。今年まで日本選手権20km競歩は6連覇を成し遂げている。
15年北京世界選手権に初出場、16年リオ五輪、17年ロンドン世界選手権に出場し、昨年のドーハ世界選手権では6位入賞を果たした。
記録面でも、5000m、10000m、20kmの日本記録を持つ。まさに、名実ともに、日本女子史上、最強のウォーカーだ。
「中学までは走るのが専門で、高校には全国高校駅伝に出場したいという夢を持って入学したんですよ」
そう屈託なく笑う。全国区ではなかったとはいえ、中学2年生の時から全国中学校選手権に出場(2年時800m、3年時800mと1500m)するなど、多くのランナーと同じく、長距離と駅伝を目指して高校へ進学した。
だが、9月の地区新人では3000mを“歩いて”いた。これが、競歩人生のスタートだった。それから1ヵ月も経たないうちに、秋田国体3000m競歩(Bクラス)を大会新記録で優勝。翌年1月のジュニア選抜競歩5km競歩を制すなど、一気に成長を遂げた。
「最初は競歩? と思いましたが、高校の先輩には世界ジュニアで金メダルを獲得した三村芙美さんという存在がいたんです。長距離で日の丸はイメージできなかったですが、競歩なら世界を目指せる、と思って取り組みました」
ちなみに、高校2年の時には、全国高校駅伝に出場し、3区を“走って”目標を達成している。
そこからは、数々の金字塔を打ち立て、世界のメダルを目指すまでに成長。歩き始めたあの日に思い描いたように、競歩で日の丸を背負うようになった。
「最後までわからない」白熱の展開

「速いだけじゃダメで、ルールがあって、その中で競技力、精神力など、トータルで勝敗が決まります。失格もあって、最後まで何が起こるかわからない。そこが競歩の難しいところであり、魅力でもあります」
競歩は東京五輪でもメダル、入賞の期待が大きい。観戦するには「地味ですが、ルールを知って観てもらえれば楽しめます」と岡田は話す。
競歩には「歩型」に関するルールがある。「ロス・オブ・コンタクト」とは、どちらかの足が必ず地面に接していなければならないというもので、「ベント・ニー」とは前足は地面に接地した瞬間から地面と垂直になるまで、膝を伸ばさなければならないというもの。この2つのルールを守りながら選手たちは歩く。
3回のレッドカードで、「ピットレーン」で一定時間待機を命じられ、4回目が出るとたとえフィニッシュ後でも失格となる。また、ラストスパートなどで明らかな違反と見なされて一発失格の可能性も。国内でも優勝したと思ったら、あとで失格を言い渡される……というシーンもある。まさに「最後までわからない」過酷な競技だ。
「男子20kmの世界記録を持つ鈴木雄介さん(富士通)の歩きはとても美しくて、尊敬しています。また、山西利和選手(愛知製鋼)はいつも冷静に歩きながら『ダントツで勝つ』という熱い気持ちも表れる選手です。ルールと、選手のことを知ってもらえれば楽しく観戦してもらえると思います」
来る東京五輪。レース自体は札幌での開催となったが、自国開催の特別な大会となる。岡田にとって2度目のオリンピックは「メダル争いへの挑戦」だ。
「以前、父に、『人間何か目標がないと生きていけない』と言われたことがあります。私は不器用で、競歩以外に取り柄がないんです。競歩は自分を表現する場所で、夢を見られる場所。オリンピックではメダル争いができるようにがんばります」
かつて、戸惑いながら歩き始めた少女は、オリンピックという最高の舞台で、自分を表現するための準備に入る。
文/向永拓史
世界記録を持ち、世界ランキングの上位に名前がズラリと並び、昨年のドーハ世界選手権では金メダルを独占。今や日本男子は“世界最強の競歩大国”となった。東京五輪を控え、陸上のみならず全競技を含めてもメダル最有力候補として注目を集めている。
そんな男子に負けじと、女子競歩も着実に進化を遂げている。その第一人者として活躍を続けるのが岡田久美子(ビックカメラ)だ。
2月の日本選手権20km競歩(兵庫)で優勝して東京五輪代表に内定。2016年リオデジャネイロ五輪に続いて2大会連続でのオリンピック行きを決めた。
「勝たないといけないという思いや、調子が良かっただけに自分に対する期待もあって緊張して最初は硬くなりました。でも、記録より成績だと判断して、勝つことだけに集中しました」
神戸には家族も応援にかけつけてくれた。「よかったね」と声をかけられ、ホッと胸をなで下ろした。
高1から「歩き」はじめ、次々と金字塔を打ち立てる
熊谷女高2、3年時にインターハイ連覇、世界ジュニア選手権には2度出場し、立教大1年時には銅メダル(10000m競歩)を獲得した。日本インカレは4連覇。今年まで日本選手権20km競歩は6連覇を成し遂げている。 15年北京世界選手権に初出場、16年リオ五輪、17年ロンドン世界選手権に出場し、昨年のドーハ世界選手権では6位入賞を果たした。 記録面でも、5000m、10000m、20kmの日本記録を持つ。まさに、名実ともに、日本女子史上、最強のウォーカーだ。 「中学までは走るのが専門で、高校には全国高校駅伝に出場したいという夢を持って入学したんですよ」 そう屈託なく笑う。全国区ではなかったとはいえ、中学2年生の時から全国中学校選手権に出場(2年時800m、3年時800mと1500m)するなど、多くのランナーと同じく、長距離と駅伝を目指して高校へ進学した。 だが、9月の地区新人では3000mを“歩いて”いた。これが、競歩人生のスタートだった。それから1ヵ月も経たないうちに、秋田国体3000m競歩(Bクラス)を大会新記録で優勝。翌年1月のジュニア選抜競歩5km競歩を制すなど、一気に成長を遂げた。 「最初は競歩? と思いましたが、高校の先輩には世界ジュニアで金メダルを獲得した三村芙美さんという存在がいたんです。長距離で日の丸はイメージできなかったですが、競歩なら世界を目指せる、と思って取り組みました」 ちなみに、高校2年の時には、全国高校駅伝に出場し、3区を“走って”目標を達成している。 そこからは、数々の金字塔を打ち立て、世界のメダルを目指すまでに成長。歩き始めたあの日に思い描いたように、競歩で日の丸を背負うようになった。「最後までわからない」白熱の展開
「速いだけじゃダメで、ルールがあって、その中で競技力、精神力など、トータルで勝敗が決まります。失格もあって、最後まで何が起こるかわからない。そこが競歩の難しいところであり、魅力でもあります」
競歩は東京五輪でもメダル、入賞の期待が大きい。観戦するには「地味ですが、ルールを知って観てもらえれば楽しめます」と岡田は話す。
競歩には「歩型」に関するルールがある。「ロス・オブ・コンタクト」とは、どちらかの足が必ず地面に接していなければならないというもので、「ベント・ニー」とは前足は地面に接地した瞬間から地面と垂直になるまで、膝を伸ばさなければならないというもの。この2つのルールを守りながら選手たちは歩く。
3回のレッドカードで、「ピットレーン」で一定時間待機を命じられ、4回目が出るとたとえフィニッシュ後でも失格となる。また、ラストスパートなどで明らかな違反と見なされて一発失格の可能性も。国内でも優勝したと思ったら、あとで失格を言い渡される……というシーンもある。まさに「最後までわからない」過酷な競技だ。
「男子20kmの世界記録を持つ鈴木雄介さん(富士通)の歩きはとても美しくて、尊敬しています。また、山西利和選手(愛知製鋼)はいつも冷静に歩きながら『ダントツで勝つ』という熱い気持ちも表れる選手です。ルールと、選手のことを知ってもらえれば楽しく観戦してもらえると思います」
来る東京五輪。レース自体は札幌での開催となったが、自国開催の特別な大会となる。岡田にとって2度目のオリンピックは「メダル争いへの挑戦」だ。
「以前、父に、『人間何か目標がないと生きていけない』と言われたことがあります。私は不器用で、競歩以外に取り柄がないんです。競歩は自分を表現する場所で、夢を見られる場所。オリンピックではメダル争いができるようにがんばります」
かつて、戸惑いながら歩き始めた少女は、オリンピックという最高の舞台で、自分を表現するための準備に入る。
文/向永拓史 RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.11.24
女子はレムンゴルが2連覇達成 男子はサミュエルがV/全米学生クロカン
2025.11.24
七種競技女王・ホール NFLスター選手と婚約発表 マクローリン・レヴロンらも祝福
2025.11.24
バットクレッティ 今季初V 男子はキプサングがツアー3勝目/WAクロカンツアー
-
2025.11.24
-
2025.11.20
-
2025.11.20
-
2025.11.02
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.11.24
女子はレムンゴルが2連覇達成 男子はサミュエルがV/全米学生クロカン
11月22日、米国ミズーリ州コロンビアで全米学生クロスカントリー選手権が行われ、女子(6km)はD.レムンゴル(アラバマ大/ケニア)が18分25秒4で連覇を飾った。 レムンゴルはケニア出身の23歳。23年秋にアラバマ大に […]
2025.11.24
七種競技女王・ホール NFLスター選手と婚約発表 マクローリン・レヴロンらも祝福
女子七種競技東京世界選手権金メダリストのA.ホール(米国)が婚約を自身のSNSで発表した。お相手はNFL選手でニューヨーク・ジャイアンツ所属のダリアス・スレイトンさん。「初めて出会った場所で、永遠を誓う」というテキストと […]
2025.11.24
バットクレッティ 今季初V 男子はキプサングがツアー3勝目/WAクロカンツアー
11月23日、世界陸連(WA)クロスカントリーツアー・ゴールド第6戦のアタプエルカ国際クロスがスペイン・アタプエルカで行われ、女子(6.821km)はパリ五輪・東京世界選手権10000m銀メダリストのN.バットクレッティ […]
2025.11.24
円盤投・湯上剛輝が2大会ぶり世界一「やっと取れた」デフリンピック新の58m93
聴覚障害者のスポーツ国際大会、デフリンピックの陸上競技が行われ、男子円盤投の湯上剛輝(トヨタ自動車)が金メダルを獲得した。 64m48の日本記録を持ち、今年の東京世界選手権にも出場した湯上。「理想の展開としては1回目にし […]
2025.11.24
3区で五島莉乃と廣中璃梨佳が熱走!東京世界陸上はじめ「日本代表」たちが力走/クイーンズ駅伝
◇第45回全日本実業団対抗女子駅伝(クイーンズ駅伝:11月23日/宮城・松島町文化観光交流館前~弘進ゴムアスリートパーク仙台、6区間42.195km) 女子駅伝日本一を懸けた全日本実業団対抗女子駅伝が行われ、「日本代表」 […]
Latest Issue
最新号
2025年12月号 (11月14日発売)
EKIDEN REVIEW
全日本大学駅伝
箱根駅伝予選会
高校駅伝&実業団駅伝予選
Follow-up Tokyo 2025