2021.07.30
東京五輪・陸上競技の2日目(8月1日)のイブニングセッションに始まる男子走幅跳には、橋岡優輝(富士通)、津波響樹(大塚製薬)、城山正太郎(ゼンリン)が出場する。
これまで走幅跳で数々の金字塔を打ち立ててきた橋岡は「最低メダル」を目標に、初のオリンピックへと挑む。
今季はファウルが続くもしっかり修正
この男はどこまで遠くに跳び、どれだけ強くなるのだろうか。男子走幅跳の橋岡優輝(富士通)は、毎年のように進化を遂げ、今季は日本選手権で8m36の自己ベストをマーク。満を持して地元開催となる初のオリンピックへ挑む。
「一度、その記録を跳べば再現できて、安定させることができる」。これが橋岡の大きな強み。東京・八王子高から日大に進学し、早々に8mジャンパーに。その後は優勝したU20世界選手権、アジア選手権、ユニバーシアードなど、大舞台でしっかり8mを跳んできた。
19年には8m32をマークし、日大に入ってから現在も指導を受ける森長正樹コーチの持っていた日本記録(8m25)を27年ぶりに更新(※直後に城山正太郎が8m40を記録=日本記録)。そして昨年、自身が「これで一つステージが上がった。世界と戦える」と口にしたほど手応えをつかんだのが日本インカレで跳んだ8m29だった。
だが、この感覚と記録の“安定”にはこれまでで最も時間を要したと言える。この冬は例年通り「ほとんど跳躍練習はしていない」。スピード強化や課題だった体幹の安定に基礎を積み上げた。その結果、助走スピードは格段に上がったが、「助走が1段階上がれば、踏み切りは2、3段階上げなければいけない」。今季はこの部分に苦労した。
3月の日本選手権室内では8m19の室内日本新を跳んでいるが、6回中5回でファウル。4月の織田記念、5月のREADY STEADY TOKYOでもファウルが多かった。これまで必ず試合の中で修正してきていた橋岡をもってしても、自身のスピードアップ、そして踏み切りのズレを修正し切れなかった。
しかし、そのファウルでは8m50を超える跳躍を何本も見せている。春先に「助走と踏み切りが噛み合えば8m50は軽く跳べる」と話していた言葉が現実のものになり始めていた。
そして東京五輪に合わせるように代表選考会だった6月の日本選手権で圧巻の試技を見せる。1、2回目はファウル。1回目は百戦錬磨の橋岡でも「オリンピックを意識して緊張してしまった」。2回目は「助走を修正し過ぎた」ことによるファウル。追い込まれた3回目は、通常ならファウルを恐れて安全第一の踏み切り、いわゆる“置きに行く”。実際、織田記念の3回目はそういった跳躍だった。
だが橋岡は恐れるどころか「織田記念は消極的になってしまったのですが、今回は助走のスタート位置を下げて攻めにいくことにしました」。力強い助走からジャンプ。8m27(+0.6)の大会新記録をマークした。5回目に8m29(+1.1)、最後は8m36(+0.6)を跳ぶなど“らしさ”を見せて五輪切符をつかんだ。
森長コーチの元で練習に励む橋岡
東京五輪は「大きなターニングポイント」
父・利行氏は棒高跳で、母・直美さんは100mハードルと三段跳で、それぞれ元日本記録保持者。アスリートになるために生まれてきたような橋岡は、中学まで四種競技や走高跳がメイン種目だった。
「高校では走幅跳をしたい」と直感的に思った橋岡は、八王子高に進学して叔父に当たる渡邉大輔先生(走幅跳・シドニー五輪代表)の元でロングジャンパーとしてのキャリアをスタートさせた。
活躍するたびに両親の話題が出て、その努力を差し置いて“血”だけがクローズアップされることもあった。その類い稀な接地の感性、身体能力など、間違いなく両親から特別な才能は受け継いでいるだろう。
しかし橋岡本人は、「“血”で強くなるわけじゃないですし、それも自分の特徴の一つです」。渡邉先生、森長コーチの元で基礎をおろそかにせず、その才能に磨きをかけて積み上げてきたからこそ、今の橋岡がある。
中3の全中で四種競技3位となった直後に2020年五輪の開催地が東京に決まった。「オリンピックに出てよ」。そんな友達の言葉に、橋岡は「よっしゃ! 出るぞ」と返している。トップアスリートだった両親はオリンピックに届かなかった。「私たちは出ていないからね」という両親に「そこは任せてよ」。
過去3大会の五輪のメダルラインは、16年リオ8m29、12年ロンドン8m12、08年北京8m20。19年ドーハ世界選手権は8m34だった。オリンピックでは南部忠平が32年ロスで、36年ベルリンで田島直人がそれぞれ銅メダルを獲得している。
しかし、84年ロス五輪で臼井淳一が7位に入って以降入賞から遠ざかっている。メダル獲得なれば85年ぶりの快挙だ。いとこの橋岡大樹(シントトロイデン)もサッカーで東京五輪に出場。ともにメダルを目指している。
「東京五輪の結果で競技人生がどうなるか決まる、大きなターニングポイントだと思っています。最低、メダル獲得が目標です。やるべきことをやれば結果はついてくる」
ドーハ世界選手権で史上初の8位入賞を果たしながら「実力不足」と悔しさを味わってから2年。進化した橋岡が自分の力を発揮すれば、目標に到達できる。
橋岡の夢は、誰よりも遠くに跳ぶこと。そして世界一になること。その夢へと続く第一歩を育ってきた「TOKYO」で刻む。
文/向永拓史
今季はファウルが続くもしっかり修正
この男はどこまで遠くに跳び、どれだけ強くなるのだろうか。男子走幅跳の橋岡優輝(富士通)は、毎年のように進化を遂げ、今季は日本選手権で8m36の自己ベストをマーク。満を持して地元開催となる初のオリンピックへ挑む。 「一度、その記録を跳べば再現できて、安定させることができる」。これが橋岡の大きな強み。東京・八王子高から日大に進学し、早々に8mジャンパーに。その後は優勝したU20世界選手権、アジア選手権、ユニバーシアードなど、大舞台でしっかり8mを跳んできた。 19年には8m32をマークし、日大に入ってから現在も指導を受ける森長正樹コーチの持っていた日本記録(8m25)を27年ぶりに更新(※直後に城山正太郎が8m40を記録=日本記録)。そして昨年、自身が「これで一つステージが上がった。世界と戦える」と口にしたほど手応えをつかんだのが日本インカレで跳んだ8m29だった。 だが、この感覚と記録の“安定”にはこれまでで最も時間を要したと言える。この冬は例年通り「ほとんど跳躍練習はしていない」。スピード強化や課題だった体幹の安定に基礎を積み上げた。その結果、助走スピードは格段に上がったが、「助走が1段階上がれば、踏み切りは2、3段階上げなければいけない」。今季はこの部分に苦労した。 3月の日本選手権室内では8m19の室内日本新を跳んでいるが、6回中5回でファウル。4月の織田記念、5月のREADY STEADY TOKYOでもファウルが多かった。これまで必ず試合の中で修正してきていた橋岡をもってしても、自身のスピードアップ、そして踏み切りのズレを修正し切れなかった。 しかし、そのファウルでは8m50を超える跳躍を何本も見せている。春先に「助走と踏み切りが噛み合えば8m50は軽く跳べる」と話していた言葉が現実のものになり始めていた。 そして東京五輪に合わせるように代表選考会だった6月の日本選手権で圧巻の試技を見せる。1、2回目はファウル。1回目は百戦錬磨の橋岡でも「オリンピックを意識して緊張してしまった」。2回目は「助走を修正し過ぎた」ことによるファウル。追い込まれた3回目は、通常ならファウルを恐れて安全第一の踏み切り、いわゆる“置きに行く”。実際、織田記念の3回目はそういった跳躍だった。 だが橋岡は恐れるどころか「織田記念は消極的になってしまったのですが、今回は助走のスタート位置を下げて攻めにいくことにしました」。力強い助走からジャンプ。8m27(+0.6)の大会新記録をマークした。5回目に8m29(+1.1)、最後は8m36(+0.6)を跳ぶなど“らしさ”を見せて五輪切符をつかんだ。 森長コーチの元で練習に励む橋岡東京五輪は「大きなターニングポイント」
父・利行氏は棒高跳で、母・直美さんは100mハードルと三段跳で、それぞれ元日本記録保持者。アスリートになるために生まれてきたような橋岡は、中学まで四種競技や走高跳がメイン種目だった。 「高校では走幅跳をしたい」と直感的に思った橋岡は、八王子高に進学して叔父に当たる渡邉大輔先生(走幅跳・シドニー五輪代表)の元でロングジャンパーとしてのキャリアをスタートさせた。 活躍するたびに両親の話題が出て、その努力を差し置いて“血”だけがクローズアップされることもあった。その類い稀な接地の感性、身体能力など、間違いなく両親から特別な才能は受け継いでいるだろう。 しかし橋岡本人は、「“血”で強くなるわけじゃないですし、それも自分の特徴の一つです」。渡邉先生、森長コーチの元で基礎をおろそかにせず、その才能に磨きをかけて積み上げてきたからこそ、今の橋岡がある。 中3の全中で四種競技3位となった直後に2020年五輪の開催地が東京に決まった。「オリンピックに出てよ」。そんな友達の言葉に、橋岡は「よっしゃ! 出るぞ」と返している。トップアスリートだった両親はオリンピックに届かなかった。「私たちは出ていないからね」という両親に「そこは任せてよ」。 過去3大会の五輪のメダルラインは、16年リオ8m29、12年ロンドン8m12、08年北京8m20。19年ドーハ世界選手権は8m34だった。オリンピックでは南部忠平が32年ロスで、36年ベルリンで田島直人がそれぞれ銅メダルを獲得している。 しかし、84年ロス五輪で臼井淳一が7位に入って以降入賞から遠ざかっている。メダル獲得なれば85年ぶりの快挙だ。いとこの橋岡大樹(シントトロイデン)もサッカーで東京五輪に出場。ともにメダルを目指している。 「東京五輪の結果で競技人生がどうなるか決まる、大きなターニングポイントだと思っています。最低、メダル獲得が目標です。やるべきことをやれば結果はついてくる」 ドーハ世界選手権で史上初の8位入賞を果たしながら「実力不足」と悔しさを味わってから2年。進化した橋岡が自分の力を発揮すれば、目標に到達できる。 橋岡の夢は、誰よりも遠くに跳ぶこと。そして世界一になること。その夢へと続く第一歩を育ってきた「TOKYO」で刻む。 文/向永拓史
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking 人気記事ランキング
2024.04.23
マルチスターズに世界陸上代表の丸山優真、ヘンプヒル恵がエントリー!WA混成ツアー
2024.04.23
やり投・北口榛花に新たな勲章!JOCスポーツ賞最優秀賞に選出 陸上界から19年ぶり4人目
-
2024.04.23
2024.04.18
U20アジア選手権・女子100mの山形愛羽、女子400mHの瀧野未来が出場辞退
-
2024.04.20
-
2024.04.18
2024.04.12
40年以上の人気シューズ”ペガサス”シリーズの最新作!「ナイキ ペガサス 41」が登場!
-
2024.03.28
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2024.04.23
マルチスターズに世界陸上代表の丸山優真、ヘンプヒル恵がエントリー!WA混成ツアー
世界陸連混成ツアー・ゴールドのマルチスターズ(4月27日、28日/イタリア・ブレシア)に、十種競技の丸山優真(住友電工)、七種競技のヘンプヒル恵(アトレ)がエントリーした。 丸山は昨年7月のアジア選手権で優勝し、夏のブダ […]
2024.04.23
やり投・北口榛花に新たな勲章!JOCスポーツ賞最優秀賞に選出 陸上界から19年ぶり4人目
日本オリンピック委員会(JOC)は4月23日に開いた理事会で、2023年度のJOCスポーツ賞を決定し、最優秀賞には女子やり投の北口榛花(JAL)を選出した。 北口は昨年のブダペスト世界選手権で女子トラック&フィールド種目 […]
2024.04.23
日本選手権混成キービジュアル公開!丸山優真、山﨑有紀らが彩る パリ五輪代表選考会
日本陸連は4月23日、日本選手権・混成競技のキービジュアルを公開した。 大会まであと60日のこの日、公開されたキービジュアル。今夏のパリ五輪代表選考会を兼ねるとあって、フランス国旗の赤・青・白のトリコロールがイメージされ […]
2024.04.23
競歩の酒井瑞穂コーチ ミズノスポーツメントール賞ゴールド受賞「学びの姿勢を持ちながら精進」
ミズノスポーツ振興財団は、日本スポーツ協会および日本オリンピック委員会と共催で、「我が国の競技スポーツや地域スポーツにおいて選手の強化・育成、普及・振興に貢献した指導者を顕彰」する『ミズノ スポーツメントール賞』を199 […]
Latest Issue 最新号
2024年5月号 (4月12日発売)
パリ五輪イヤー開幕!