
アキレスのシューズ事業部でシューズ営業本部新規事業開発担当副本部長を務める津端裕氏。「MEDIFOAM(メディフォーム)」と「BROOKS(ブルックス)」という2つのランニングシューズブランドを統括している
全米No.1ブランド「BROOKS(ブルックス)」、そして自社開発ブランド「MEDIFOAM(メディフォーム)」という2つのランニングシューズブランドを日本国内で取り扱うアキレス株式会社。一般的には子供用シューズの一大ブランド「瞬足」のイメージが強いものの、2020年4月からは日本初の陸上男子中距離プロチーム「阿見AC SHARKS」をスポンサードするなど近年はランニング分野にも力を入れている。
2つのランニングシューズブランドを持ち、それをアキレスはどう展開しようとしているのか。「瞬足」の開発者であり、現在はシューズ営業本部新規事業開発担当副本部長を務める津端裕氏(59歳)にアキレスのランニングシューズ事業の戦略についてうかがった。
製品を通じて社会貢献
本業は「素材メーカー」
「アキレス」という社名を聞いて、多くの人が思い浮かべるのはシューズメーカーというイメージかもしれない。しかし、シューズ部門は全体の事業規模の約16%に過ぎないという。では、アキレスにとってシューズとはどんな存在なのか。そこには企業としてのこだわりも見て取れる。
――まず、アキレスはどんな事業を展開しているのでしょうか。
津端 アキレスは東証一部で「化学メーカー」に属する企業です。創業は1947年で、日本の高度経済成長の歩みと一緒に、ゴム産業から始まり、繊維、ビニール、今はプラスチック材と、素材を軸に開発してきました。最近では飛沫防止用のビニールや防護服なども注目されています。他にはウレタンを使うことでトンネルを無人で補修する技術も引き合いが多くあります。そういったあらゆる素材で社会貢献をしていこうという考えがあります。これは今後も変わりません。
――そういった素材による事業が大半を占める中で、約16%というシューズ事業を続けてきた理由はなんでしょうか。
津端 少子高齢化などもあり、ユーザーは変わってきているかもしれませんが、シューズを履かなくなる時代はありません。地球最後の日でも、おそらくみんなシューズを履いて逃げるでしょう(笑)。シューズはその時々でトレンドこそありますが、経済に大きく左右されないと感じています。それはリーマンショックの時(2008年)もそうでした。実用品においても「社会貢献」という意味合いは大きかったと思います。

シューズの印象が強いアキレスだが、事業規模としては素材部門がメイン。現在はクッションなどで使われるポリウレタンの取り扱いが多く、この加工技術が自社ブランド「MEDIFOAM」にも生かされている
30年以上に及ぶシューズ開発人生
満を持してランニングシューズに挑戦
1986年にアキレスに入社し、営業、企画・開発と、シューズ事業一筋で尽力してきたのが、現在シューズ事業部シューズ営業本部新規事業開発担当副本部長の津端裕氏だ。シューフィッターの資格を持ち、業界を席巻した通学履きジュニアスポーツシューズ「瞬足」をはじめとした多くのシューズ開発に携わり、現在は自社のランニングブランド「MEDIFOAM(メディフォーム)」を統括している。だが、津端氏にとって集大成とも言えるランニングシューズ開発は一筋縄ではいなかったという。
――津端副本部長はいつからシューズ事業に携わっているのでしょうか。
津端 もともとシューズが好きなんです。その縁もあってか、好きなものを仕事にということでこの会社で今までやってきました。最初の20年間は営業をやっていましたが、その時にも取引先が求めるシューズの案を開発に持ち込んで設計に携わって……というところまで入り込んでいました。その経験もあり、1999年に営業兼任のまま企画開発リーダーを任されるようになりました。そこではカジュアルシューズ、ウォーキングシューズと携わって、その次に当時は不振だった子供用シューズを任されて、そこで「瞬足」を開発するに至りました。
アキレスは子供靴の設計ノウハウの蓄積があり、会社として力を入れ続けてきています。今は「瞬足」というメジャーブランドがありますけど、現代の子供の足はだいぶ変化してきているので、変化に適応した木型(製靴の土台)を導入して対応しています。やり続けなければいけない事業だと考えています。
――そして、2017年に「MEDIFOAM」が誕生しました。ランニングシューズ業界へ参入した理由は?
津端 これは私も寝耳に水でしたが、ポリウレタンという弊社の武器である素材をもとにランニングシューズ開発にトライしようということになりました。素材開発、製品開発に約2年かかって、2017年3月に商品発売にこぎつけました。
ポリウレタンは扱いが難しく、設備投資もかかります。だからメーカーはEVA(エチレンと酢酸ビニールの合成樹脂)に流れるのです。ポリウレタンは黄変したり、湿気で加水分解することもあり、日本でもポリウレタンを扱うメーカーは非常に少ないです。ただ、ポリウレタンは耐久性がEVAの2~3倍なので長持ちし、反発力と安定性もあります。

アキレスの自社ブランドである「MEDIFOAM」はランナーが膝や腰などを痛めないように「リカバリー」を重視したシューズが多いのが特徴。9月に発売した写真の「RUNNERS HI(ランナーズ・ハイ)2」は自社開発のポリウレタン製ソールがさらに改良された
――それだけの技術力があってもランニングシューズの開発は苦労されたそうですね。
津端 今でも試行錯誤しています。基本構造は一緒でも全然違って、足をホールドする位置や履き口の大きさがパフォーマンスに関わってきます。社内に「走る」という動作に知見を持っている者がおらず、瞬足でお世話になった順天堂大学スポーツ健康科学部の柳谷登志雄先生(日本陸連科学委員)に協力いただいたり、ブランドアンバサダーの川内鴻輝さん、藤原新さん(スズキアスリートクラブ男子マラソンヘッドコーチ)に履いてもらい、意見を聞いて、改良してというやり方で、日々トライ&エラーの繰り返しでした。
レースモデルを作る時には実際にトライアル品を持って鴻輝さんとケニアやエチオピアに行って、現地のランナーに履いてもらったりもしました。そうすると彼らは履いて走った時の違和感など、本能でダメ出しをしてくれる。トップ選手でも安定性を求めたり、クッション性にこだわりがあったり、その意見はさまざまでした。商品化するための落としどころは苦労しましたね。
2つのブランドによる相乗効果で
さらなるブランディングを目指す
自社ブランド「MEDIFOAM」を展開しながら、2019年からは米国「BROOKS(ブルックス)」の日本国内での取り扱いも開始した。現在は「3つのリカバリー」というコンセプトで商品を展開するメディフォームに対し、ブルックスはプロ中距離チームの「阿見AC SHARKS」とスポンサー契約を結んだり、現在多くの各メーカーが発売しているカーボンプレート入りシューズを展開するなど、お互いに特徴を生かしてブランディングを進めている。
2つのブランドを持つ狙いと、その先の将来をどう見据えているのだろうか。
――自社ブランド「MEDIFOAM」を展開する一方で、昨年度からはブルックスの取り扱いも始まりました。
津端 私自身はブルックスの良さは昔からわかっていました。ただ、2つのランニングシューズブランドを扱うなら、シナジー(相乗効果)を生み出さないといけないなと考えました。実際にブルックス本社のあるシアトルに行き、弊社にはメディフォームという自社ブランドがあると包み隠さず話をしつつ、同じポリウレタンのソールを作っているなどシンクロする部分もあるという話をして、選んでもらいました。

2020年からアキレスが日本国内での取り扱いを担当している米国ランニングシューズブランドが「BROOKS」。写真の「HYPERION ELITE(ハイペリオン エリート)2」などトップアスリートのレース用モデルも多数展開している
――今後の展望を聞かせてください。
津端 ブルックスはより日本に広めていくための戦略が必要ですが、今年に入ってハイペリオン エリートやテンポといったレーシングシューズによって認知が加速していると実感しています。これにメディフォームもついてこないとシナジー効果は出せませんが、9月に発売した「RUNNERS HI(ランナーズ・ハイ)2」も以前よりクッション性を増したら、ユーザーからは良い反応が出ています。コロナ禍で5ヵ月ほど遅れた新開発のシューズもこの秋にいよいよ発表できそうです。
両ブランドともポテンシャルは高いと思いますが、それが認知されていないのが実情です。今後はそれぞれのブランドに適したランナーに履いてもらうためのプロモーションをしないといけない、と考えています。メディフォームを立ち上げた時には、ブランドが浸透するまでは5年から10年はかかると言われました。まずは事業として継続して多くのランナーに知ってもらい、履いてもらえればと思います。
構成/田中 葵
※この記事は『月刊陸上競技』2020年11月号に掲載しています
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「アキレス」という社名を聞いて、多くの人が思い浮かべるのはシューズメーカーというイメージかもしれない。しかし、シューズ部門は全体の事業規模の約16%に過ぎないという。では、アキレスにとってシューズとはどんな存在なのか。そこには企業としてのこだわりも見て取れる。――まず、アキレスはどんな事業を展開しているのでしょうか。津端 アキレスは東証一部で「化学メーカー」に属する企業です。創業は1947年で、日本の高度経済成長の歩みと一緒に、ゴム産業から始まり、繊維、ビニール、今はプラスチック材と、素材を軸に開発してきました。最近では飛沫防止用のビニールや防護服なども注目されています。他にはウレタンを使うことでトンネルを無人で補修する技術も引き合いが多くあります。そういったあらゆる素材で社会貢献をしていこうという考えがあります。これは今後も変わりません。――そういった素材による事業が大半を占める中で、約16%というシューズ事業を続けてきた理由はなんでしょうか。津端 少子高齢化などもあり、ユーザーは変わってきているかもしれませんが、シューズを履かなくなる時代はありません。地球最後の日でも、おそらくみんなシューズを履いて逃げるでしょう(笑)。シューズはその時々でトレンドこそありますが、経済に大きく左右されないと感じています。それはリーマンショックの時(2008年)もそうでした。実用品においても「社会貢献」という意味合いは大きかったと思います。
シューズの印象が強いアキレスだが、事業規模としては素材部門がメイン。現在はクッションなどで使われるポリウレタンの取り扱いが多く、この加工技術が自社ブランド「MEDIFOAM」にも生かされている30年以上に及ぶシューズ開発人生 満を持してランニングシューズに挑戦
1986年にアキレスに入社し、営業、企画・開発と、シューズ事業一筋で尽力してきたのが、現在シューズ事業部シューズ営業本部新規事業開発担当副本部長の津端裕氏だ。シューフィッターの資格を持ち、業界を席巻した通学履きジュニアスポーツシューズ「瞬足」をはじめとした多くのシューズ開発に携わり、現在は自社のランニングブランド「MEDIFOAM(メディフォーム)」を統括している。だが、津端氏にとって集大成とも言えるランニングシューズ開発は一筋縄ではいなかったという。――津端副本部長はいつからシューズ事業に携わっているのでしょうか。津端 もともとシューズが好きなんです。その縁もあってか、好きなものを仕事にということでこの会社で今までやってきました。最初の20年間は営業をやっていましたが、その時にも取引先が求めるシューズの案を開発に持ち込んで設計に携わって……というところまで入り込んでいました。その経験もあり、1999年に営業兼任のまま企画開発リーダーを任されるようになりました。そこではカジュアルシューズ、ウォーキングシューズと携わって、その次に当時は不振だった子供用シューズを任されて、そこで「瞬足」を開発するに至りました。 アキレスは子供靴の設計ノウハウの蓄積があり、会社として力を入れ続けてきています。今は「瞬足」というメジャーブランドがありますけど、現代の子供の足はだいぶ変化してきているので、変化に適応した木型(製靴の土台)を導入して対応しています。やり続けなければいけない事業だと考えています。――そして、2017年に「MEDIFOAM」が誕生しました。ランニングシューズ業界へ参入した理由は?津端 これは私も寝耳に水でしたが、ポリウレタンという弊社の武器である素材をもとにランニングシューズ開発にトライしようということになりました。素材開発、製品開発に約2年かかって、2017年3月に商品発売にこぎつけました。 ポリウレタンは扱いが難しく、設備投資もかかります。だからメーカーはEVA(エチレンと酢酸ビニールの合成樹脂)に流れるのです。ポリウレタンは黄変したり、湿気で加水分解することもあり、日本でもポリウレタンを扱うメーカーは非常に少ないです。ただ、ポリウレタンは耐久性がEVAの2~3倍なので長持ちし、反発力と安定性もあります。
アキレスの自社ブランドである「MEDIFOAM」はランナーが膝や腰などを痛めないように「リカバリー」を重視したシューズが多いのが特徴。9月に発売した写真の「RUNNERS HI(ランナーズ・ハイ)2」は自社開発のポリウレタン製ソールがさらに改良された――それだけの技術力があってもランニングシューズの開発は苦労されたそうですね。津端 今でも試行錯誤しています。基本構造は一緒でも全然違って、足をホールドする位置や履き口の大きさがパフォーマンスに関わってきます。社内に「走る」という動作に知見を持っている者がおらず、瞬足でお世話になった順天堂大学スポーツ健康科学部の柳谷登志雄先生(日本陸連科学委員)に協力いただいたり、ブランドアンバサダーの川内鴻輝さん、藤原新さん(スズキアスリートクラブ男子マラソンヘッドコーチ)に履いてもらい、意見を聞いて、改良してというやり方で、日々トライ&エラーの繰り返しでした。 レースモデルを作る時には実際にトライアル品を持って鴻輝さんとケニアやエチオピアに行って、現地のランナーに履いてもらったりもしました。そうすると彼らは履いて走った時の違和感など、本能でダメ出しをしてくれる。トップ選手でも安定性を求めたり、クッション性にこだわりがあったり、その意見はさまざまでした。商品化するための落としどころは苦労しましたね。2つのブランドによる相乗効果で さらなるブランディングを目指す
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2020年からアキレスが日本国内での取り扱いを担当している米国ランニングシューズブランドが「BROOKS」。写真の「HYPERION ELITE(ハイペリオン エリート)2」などトップアスリートのレース用モデルも多数展開している――今後の展望を聞かせてください。津端 ブルックスはより日本に広めていくための戦略が必要ですが、今年に入ってハイペリオン エリートやテンポといったレーシングシューズによって認知が加速していると実感しています。これにメディフォームもついてこないとシナジー効果は出せませんが、9月に発売した「RUNNERS HI(ランナーズ・ハイ)2」も以前よりクッション性を増したら、ユーザーからは良い反応が出ています。コロナ禍で5ヵ月ほど遅れた新開発のシューズもこの秋にいよいよ発表できそうです。 両ブランドともポテンシャルは高いと思いますが、それが認知されていないのが実情です。今後はそれぞれのブランドに適したランナーに履いてもらうためのプロモーションをしないといけない、と考えています。メディフォームを立ち上げた時には、ブランドが浸透するまでは5年から10年はかかると言われました。まずは事業として継続して多くのランナーに知ってもらい、履いてもらえればと思います。構成/田中 葵※この記事は『月刊陸上競技』2020年11月号に掲載しています<関連記事>
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