2020.10.15
東京五輪に向けて増えた時間を着実に強化へと結びつけている服部
男子マラソンで東京五輪の代表に選出されている服部勇馬(トヨタ自動車)が、オリンピックの1年延期とコロナ禍で異例のシーズンとなった2020年を、元気に駆け抜けている。大会が再開されるとトラックの10000mレースに出場して、2戦続けての自己新記録。7月のホクレン・ディスタンスチャレンジ(網走)で自身初の27分台(27分56秒32)に突入すると、9月末の全日本実業団対抗選手権では27分47秒55まで縮め、東洋大4年だった2015年に出した自己ベスト(28分09秒02)を、今季20秒以上更新する結果となった。この先は12月6日の福岡国際マラソンに照準を絞り、2年前の同レースでマークした2時間7分27秒の自己記録更新と、再度の優勝に挑む。スピードがついたことを自信に変え、服部は「できれば(2時間)6分切りを狙いたい」と、オリンピック前に急きょ設けられた6回目のマラソンを心待ちにする。
●文/小森貞子
10000mで2戦続けての自己新
全日本実業団対抗選手権(埼玉・熊谷)の中日(9月19日)最終種目、男子10000m。3組のタイムレース決勝で行われ、一日降ったり止んだりの空模様は、最後の3組目がスタートすると雨脚を強めた。
前半、1周66秒のイーブンペースで走る外国人選手の集団に加わった日本人は、服部勇馬(トヨタ自動車)と鈴木健吾(富士通)だけ。「できるだけ先頭集団につきたい」と覚悟を決めた2人は、ともに今季27分台に突入したばかり。それぞれ7月のホクレン・ディスタンスチャレンジにおいて、服部は第3戦の網走大会で27分56秒32、鈴木は第4戦の千歳大会で27分57秒84をマークしている。
「体調はその時と同じぐらい」と服部は言うが、「記録だけ」を狙って出場したホクレン・ディスタンスチャレンジと違って、全日本実業団は「マラソン練習を始めて40㎞走などもやりながら、調整なしで出た」レース。8月のお盆明けからここまで「月間1000㎞は踏んでいる」と明かした。
リチャード・キムニャン(日立物流)、ベナード・コエチ(九電工)、ビダン・カロキ(トヨタ自動車)らが27分を切るか、切らないかというハイレベルのトップ争いを繰り広げる中で、服部は鈴木と競り合い、後半は「年下に負けたくない」と、「タイム以上に勝負を意識してしまった」と言う。
結局、最後まで振り切れなかったのは今後の課題として、日本人トップの7位でフィニッシュした服部が27分47秒55、8位の鈴木が27分49秒16。2人とも北海道で出した記録を大幅に縮める、2戦連続の自己新。服部は大学4年時(2015年)のホクレン・ディスタンスチャレンジ(網走)で出した28分09秒02が昨年までの自己記録だったので、今季は5年ぶりに20秒以上短縮したことになる。
これについて、トヨタ自動車の佐藤敏信監督は「ただ単に10000mのレースに出てなかったというだけで、27分台の力はあった」という見方を示した。とはいえ、今季のトラック2レースは「内容も含めて良かった」と評価。服部自身も「(マラソンの)走り込みをやっている中で、この記録はビックリ」と話し、「今回は5000 ~ 6000mでカロキさんが2分38秒ぐらいに上げたので離れちゃいましたけど、それまでと同じ2分44秒ペースなら7000mぐらいまで行けるイメージでした」と、スピード持久力への手応えを口にした。
全日本実業団対抗選手権10000mの自己新は、走り込み途中の“調整なし”で出したものだった
新しいチームメイトに刺激を受けて
服部は人との出会いから学び、自分の糧にできる選手のようだ。2018年夏は米国コロラド州ボルダーでの陸連合宿に参加させてもらい、その年のジャカルタ・アジア大会男子マラソンで金メダルを取る井上大仁(三菱重工)らの練習や、練習に取り組む姿勢に感銘を受けた。それが自分の競技観を見直すきっかけとなり、暮れの福岡国際マラソン優勝につながった。
今は、今年4月に横浜DeNAからトヨタ自動車に移籍してきたカロキの存在が、世界を見据える服部の心に大きな刺激を与えている。広島・世羅高から日本の実業団に入り、2012年のロンドン五輪にはケニア代表で10000mに出場(5位)した30歳のカロキは、元々「尊敬する選手の1人」だったそうで、図らずもチームメイトになれて、服部は「世界のトップレベルの選手と一緒に練習し、世界との差を痛感しながら、より上を目指せるようになった」と喜ぶ。トラックレースの前2週間は、練習も、日常生活も、ほとんど一緒だったそうだ。
ケニアに妻子を残して、日本で働くカロキのプロ意識は「お金をもらって走っているのだから、練習を休むと罪悪感があるみたいです」と服部が言うほど。「僕の中ではロングジョグの位置づけになるような、20㎞ぐらいのジョグを毎日欠かさずやっているので、僕も負けていられないなと思っています」と、苦笑いを浮かべながら話す。
この続きは2020年10月14日発売の『月刊陸上競技11月号』をご覧ください。
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10000mで2戦続けての自己新
全日本実業団対抗選手権(埼玉・熊谷)の中日(9月19日)最終種目、男子10000m。3組のタイムレース決勝で行われ、一日降ったり止んだりの空模様は、最後の3組目がスタートすると雨脚を強めた。 前半、1周66秒のイーブンペースで走る外国人選手の集団に加わった日本人は、服部勇馬(トヨタ自動車)と鈴木健吾(富士通)だけ。「できるだけ先頭集団につきたい」と覚悟を決めた2人は、ともに今季27分台に突入したばかり。それぞれ7月のホクレン・ディスタンスチャレンジにおいて、服部は第3戦の網走大会で27分56秒32、鈴木は第4戦の千歳大会で27分57秒84をマークしている。 「体調はその時と同じぐらい」と服部は言うが、「記録だけ」を狙って出場したホクレン・ディスタンスチャレンジと違って、全日本実業団は「マラソン練習を始めて40㎞走などもやりながら、調整なしで出た」レース。8月のお盆明けからここまで「月間1000㎞は踏んでいる」と明かした。 リチャード・キムニャン(日立物流)、ベナード・コエチ(九電工)、ビダン・カロキ(トヨタ自動車)らが27分を切るか、切らないかというハイレベルのトップ争いを繰り広げる中で、服部は鈴木と競り合い、後半は「年下に負けたくない」と、「タイム以上に勝負を意識してしまった」と言う。 結局、最後まで振り切れなかったのは今後の課題として、日本人トップの7位でフィニッシュした服部が27分47秒55、8位の鈴木が27分49秒16。2人とも北海道で出した記録を大幅に縮める、2戦連続の自己新。服部は大学4年時(2015年)のホクレン・ディスタンスチャレンジ(網走)で出した28分09秒02が昨年までの自己記録だったので、今季は5年ぶりに20秒以上短縮したことになる。 これについて、トヨタ自動車の佐藤敏信監督は「ただ単に10000mのレースに出てなかったというだけで、27分台の力はあった」という見方を示した。とはいえ、今季のトラック2レースは「内容も含めて良かった」と評価。服部自身も「(マラソンの)走り込みをやっている中で、この記録はビックリ」と話し、「今回は5000 ~ 6000mでカロキさんが2分38秒ぐらいに上げたので離れちゃいましたけど、それまでと同じ2分44秒ペースなら7000mぐらいまで行けるイメージでした」と、スピード持久力への手応えを口にした。
新しいチームメイトに刺激を受けて
服部は人との出会いから学び、自分の糧にできる選手のようだ。2018年夏は米国コロラド州ボルダーでの陸連合宿に参加させてもらい、その年のジャカルタ・アジア大会男子マラソンで金メダルを取る井上大仁(三菱重工)らの練習や、練習に取り組む姿勢に感銘を受けた。それが自分の競技観を見直すきっかけとなり、暮れの福岡国際マラソン優勝につながった。 今は、今年4月に横浜DeNAからトヨタ自動車に移籍してきたカロキの存在が、世界を見据える服部の心に大きな刺激を与えている。広島・世羅高から日本の実業団に入り、2012年のロンドン五輪にはケニア代表で10000mに出場(5位)した30歳のカロキは、元々「尊敬する選手の1人」だったそうで、図らずもチームメイトになれて、服部は「世界のトップレベルの選手と一緒に練習し、世界との差を痛感しながら、より上を目指せるようになった」と喜ぶ。トラックレースの前2週間は、練習も、日常生活も、ほとんど一緒だったそうだ。 ケニアに妻子を残して、日本で働くカロキのプロ意識は「お金をもらって走っているのだから、練習を休むと罪悪感があるみたいです」と服部が言うほど。「僕の中ではロングジョグの位置づけになるような、20㎞ぐらいのジョグを毎日欠かさずやっているので、僕も負けていられないなと思っています」と、苦笑いを浮かべながら話す。 この続きは2020年10月14日発売の『月刊陸上競技11月号』をご覧ください。RECOMMENDED おすすめの記事
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