2020.09.23
【Web特別記事】
手術を経て完全復活へ
塩尻和也のオリンピックロード
トラックから駅伝まで、フィールドを問わずに長距離種目で抜群の強さを誇った塩尻和也(富士通)が完全復活への道を歩んでいる。昨年9月を最後にレースからは遠ざかっていたが、今年7月にはホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会の5000mで13分39秒79と好走。10ヵ月ぶりのレースで健在ぶりをアピールした。
2016年には3000m障害でリオ五輪に出場している塩尻。現在はじっくりとトレーニングを積み、来年の東京五輪に照準を定めている。
12月の日本選手権(3000m障害)に向けてトレーニングに励む塩尻和也(富士通)
昨年のヨーロッパ遠征で負傷
塩尻和也(富士通)にとって2019年は〝試練の年〟だったに違いない。6月の日本選手権。3000m障害の予選で塩尻は日本歴代6位(当時)となる8分27秒25をマークし、ドーハ世界選手権の参加標準記録を突破した。
ところが、決勝は残り1周で他の選手と接触したのを境に大きくペースダウンし、8位に終わった。結果として9月開催の世界選手権代表には選ばれたものの、ドーハのハリーファ・スタジアムのスタートラインに塩尻が立つことはなかった。それどころか、その頃には走ることもままならなかったという。
昨年9月3日のIAAFワールドチャレンジ(クロアチア・ザグレブ)の3000m障害に出場した塩尻は、序盤に水濠の着地でバランスを崩した際に右膝を痛めて途中棄権。帰国後には右膝靭帯損傷と診断され、手術に踏み切った。
翌年に東京五輪を控える中で手術という選択にはリスクもあったが、塩尻は「ケガを抱えたままごまかして五輪を目指すよりは、もし五輪に出られなかったとしても、しっかり治して万全の状態で走りたいと思いました」と決断の理由を明かす。9月下旬にメスを入れてからは4ヵ月近く走れず、今年1月下旬になってようやく練習を再開した。
リオの経験を糧に
群馬・伊勢崎清明高で陸上競技を始めた塩尻は、これまで右肩上がりに成長を続けてきた。高3でインターハイ3000m障害を制すると、順大2年時にはリオ五輪に出場。大3では10000mで日本人学生歴代4位となる27分47秒84をマークし、大4では箱根駅伝の2区(23.1km)で20年ぶりに日本人最高記録を1秒短縮する1時間6分45秒を叩き出している。
専門とする3000m障害だけでなく、5000mや10000m、駅伝でも世代ナンバーワンの実力を示してきた。そんな塩尻にとって、リオ五輪の経験が自身の大きなモチベーションになっているようだ。
「リオの時は急に出場できることが決まったので、慌ただしくスタートラインに立って、気がついたら終わっていたような感じでした。力を発揮できなかったという印象が強いので、今度こそ予選を突破して決勝に残りたい。そこでいい走りがしたいと思っています」
ケガから復帰後は少しずつ練習強度を上げ、今年7月のホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会は5000mで13分39秒79。自己記録(13分30秒94)には届かなかったものの、自己4番目のタイムで「十分な走りはできた」と手応えを感じる結果となった。
昨年秋に右膝を手術し、今年7月には5000mでレースに復帰した塩尻。その表情は明るい
一方で、今年に入って日本の3000m障害は急激にレベルが上昇。日本歴代2位・U20日本新となる8分19秒37を叩き出した三浦龍司(順大1年)を筆頭に、8分30秒を切るランナーが塩尻を含めて5人もいる激戦種目となっている。代表枠は最大「3」で、参加標準記録は8分22秒00。リオ大会のように標準記録を破っていなくても五輪に出場できる可能性はあるが、前回とは比較にならないほど代表権争いは激しくなるだろう。
「自分が(3000m障害のレースを)走れていない時に他の選手がタイムを上げてくると焦りや不安もありますが、それよりは自分がもっと力をつけて、12月の日本選手権では優勝したいです」
9月19日の全日本実業団対抗選手権は欠場し、3000m障害のレース復帰は9月26日の順大競技会となる予定だ。「塩尻は暑さと長い距離の練習が苦手なのですが、この夏は苦手ながらもトレーニングを積んできました。まずは記録会で3000m障害の感覚をつかんでくれたら」と三代直樹コーチはじっくり仕上がりを見守っている。
大ケガを経て完全復活へ。塩尻が3000m障害の主役に返り咲いた時、日本の長距離界は世界との距離をさらに縮めるかもしれない。
文/山本慎一郎
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手術を経て完全復活へ 塩尻和也のオリンピックロード
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昨年のヨーロッパ遠征で負傷
塩尻和也(富士通)にとって2019年は〝試練の年〟だったに違いない。6月の日本選手権。3000m障害の予選で塩尻は日本歴代6位(当時)となる8分27秒25をマークし、ドーハ世界選手権の参加標準記録を突破した。 ところが、決勝は残り1周で他の選手と接触したのを境に大きくペースダウンし、8位に終わった。結果として9月開催の世界選手権代表には選ばれたものの、ドーハのハリーファ・スタジアムのスタートラインに塩尻が立つことはなかった。それどころか、その頃には走ることもままならなかったという。 昨年9月3日のIAAFワールドチャレンジ(クロアチア・ザグレブ)の3000m障害に出場した塩尻は、序盤に水濠の着地でバランスを崩した際に右膝を痛めて途中棄権。帰国後には右膝靭帯損傷と診断され、手術に踏み切った。 翌年に東京五輪を控える中で手術という選択にはリスクもあったが、塩尻は「ケガを抱えたままごまかして五輪を目指すよりは、もし五輪に出られなかったとしても、しっかり治して万全の状態で走りたいと思いました」と決断の理由を明かす。9月下旬にメスを入れてからは4ヵ月近く走れず、今年1月下旬になってようやく練習を再開した。リオの経験を糧に
群馬・伊勢崎清明高で陸上競技を始めた塩尻は、これまで右肩上がりに成長を続けてきた。高3でインターハイ3000m障害を制すると、順大2年時にはリオ五輪に出場。大3では10000mで日本人学生歴代4位となる27分47秒84をマークし、大4では箱根駅伝の2区(23.1km)で20年ぶりに日本人最高記録を1秒短縮する1時間6分45秒を叩き出している。 専門とする3000m障害だけでなく、5000mや10000m、駅伝でも世代ナンバーワンの実力を示してきた。そんな塩尻にとって、リオ五輪の経験が自身の大きなモチベーションになっているようだ。 「リオの時は急に出場できることが決まったので、慌ただしくスタートラインに立って、気がついたら終わっていたような感じでした。力を発揮できなかったという印象が強いので、今度こそ予選を突破して決勝に残りたい。そこでいい走りがしたいと思っています」 ケガから復帰後は少しずつ練習強度を上げ、今年7月のホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会は5000mで13分39秒79。自己記録(13分30秒94)には届かなかったものの、自己4番目のタイムで「十分な走りはできた」と手応えを感じる結果となった。
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