HOME 学生長距離

2023.12.20

箱根駅伝Stories/2度目の舞台に挑む明大・杉彩文海「シード権は決して手の届かないものではない」
箱根駅伝Stories/2度目の舞台に挑む明大・杉彩文海「シード権は決して手の届かないものではない」

第99回大会7区で区間賞に輝いた杉彩文海

新春の風物詩・箱根駅伝の100回大会に挑む出場全23校の選手やチームを取り上げる「箱根駅伝Stories」。それぞれが歩んできた1年間の足跡をたどった。

3年目にして初出場、7区で区間賞獲得

「今年もダメかもな」

明大・杉彩文海は1年前、箱根本戦メンバー入りをあきらめかけていた。予選会はチーム11番手。大学に入って3年目の昨シーズンは、調子がなかなか上向いてこなかった。

広告の下にコンテンツが続きます

精神的に苦しい日々が続いたが、昨年11月のMARCH対抗戦10000mに出場すると、28分39秒58をマーク。3年連続の自己新だ。山本佑樹・前駅伝監督から12月中旬、「7区で行くぞ」と告げられた。

「『やっと走れるんだ』という気持ちでした。チームのためとかではなく、念願の箱根に走れるという喜び。走れるだけでありがたいと思いながら本番は臨みました」

6区の堀颯介から12位でタスキをもらうと、シード権内の10位を目指し、前半から飛ばした。「3kmの入りが速すぎる」。山本前監督の心配をよそに杉は走り続けた。「シード権を取るためにはこのペースで行くしかない」。

実は、夢の箱根路を目に焼きつけておこうと思っていた。「来年出られる保証はない。もしかしたらこれで最後になるかもしれない」。3年間苦労し、やっとつかんだ舞台だった。無我夢中で走り続けた結果、区間歴代8位となる1時間2分43秒の快走。同タイムだった葛西潤(創価大/現・旭化成)とともに区間賞を獲得し、チームを10位に押し上げた。

福岡県の南東部、うきは市出身。5歳上の兄・優一郎さんが長距離をやっていた影響で、杉も小学校4年生から地域の陸上教室に通った。お正月は父親がテレビの前を独占。箱根駅伝がお決まりのコンテンツだった。

中学2年生の時、優一郎さんが神奈川大へ進学。箱根を目指し始めていた。杉は自然と興味が湧き、父親の隣で中継をしっかり見るようになった。白熱のレース展開に沿道の声援。地元の福岡県出身の選手も多く活躍していることを知り、あこがれが膨らんだ。

「夢みたいなレースだな」。兄と同じく、杉は箱根を目指すことを決めた。

吉井中3年時、全中に1500mと3000mの2種目で出場。高校は佐賀・鳥栖工高へ進学した。越境だが、直線距離で20km余り。インターハイ路線は1500mと5000mで全国へと進んだ。全国高校駅伝も3年連続で出場(1年時7区7位、2年時7区12位、3年時1区30位)。

「3年間入賞を目指していたので、3年生で1区30位に沈んでしまったことは申し訳なく思いました」。同期には同じ福岡から入学した佐々木亮輔(神大)もいた。苦楽をともにした仲間だ。

新春の風物詩・箱根駅伝の100回大会に挑む出場全23校の選手やチームを取り上げる「箱根駅伝Stories」。それぞれが歩んできた1年間の足跡をたどった。

3年目にして初出場、7区で区間賞獲得

「今年もダメかもな」 明大・杉彩文海は1年前、箱根本戦メンバー入りをあきらめかけていた。予選会はチーム11番手。大学に入って3年目の昨シーズンは、調子がなかなか上向いてこなかった。 精神的に苦しい日々が続いたが、昨年11月のMARCH対抗戦10000mに出場すると、28分39秒58をマーク。3年連続の自己新だ。山本佑樹・前駅伝監督から12月中旬、「7区で行くぞ」と告げられた。 「『やっと走れるんだ』という気持ちでした。チームのためとかではなく、念願の箱根に走れるという喜び。走れるだけでありがたいと思いながら本番は臨みました」 6区の堀颯介から12位でタスキをもらうと、シード権内の10位を目指し、前半から飛ばした。「3kmの入りが速すぎる」。山本前監督の心配をよそに杉は走り続けた。「シード権を取るためにはこのペースで行くしかない」。 実は、夢の箱根路を目に焼きつけておこうと思っていた。「来年出られる保証はない。もしかしたらこれで最後になるかもしれない」。3年間苦労し、やっとつかんだ舞台だった。無我夢中で走り続けた結果、区間歴代8位となる1時間2分43秒の快走。同タイムだった葛西潤(創価大/現・旭化成)とともに区間賞を獲得し、チームを10位に押し上げた。 福岡県の南東部、うきは市出身。5歳上の兄・優一郎さんが長距離をやっていた影響で、杉も小学校4年生から地域の陸上教室に通った。お正月は父親がテレビの前を独占。箱根駅伝がお決まりのコンテンツだった。 中学2年生の時、優一郎さんが神奈川大へ進学。箱根を目指し始めていた。杉は自然と興味が湧き、父親の隣で中継をしっかり見るようになった。白熱のレース展開に沿道の声援。地元の福岡県出身の選手も多く活躍していることを知り、あこがれが膨らんだ。 「夢みたいなレースだな」。兄と同じく、杉は箱根を目指すことを決めた。 吉井中3年時、全中に1500mと3000mの2種目で出場。高校は佐賀・鳥栖工高へ進学した。越境だが、直線距離で20km余り。インターハイ路線は1500mと5000mで全国へと進んだ。全国高校駅伝も3年連続で出場(1年時7区7位、2年時7区12位、3年時1区30位)。 「3年間入賞を目指していたので、3年生で1区30位に沈んでしまったことは申し訳なく思いました」。同期には同じ福岡から入学した佐々木亮輔(神大)もいた。苦楽をともにした仲間だ。

兄の思いも背負って走る

あこがれの箱根を目指し、明大に入学。1年生の11月に10000mで28分59秒16をマークする。「思い焦がれて来た箱根を走れるかも」と期待したが、厚い選手層に阻まれメンバー入りは果たせなかった。2年生も、1年間を通して練習も積み、自己記録を更新したが、一歩届かなかった。 箱根本戦でチームは振るわず、1年時は総合11位、2年時は14位。「自分はメンバー入りさえできなかったのに、選ばれた10人でさえも通用しないなんて」。3年時も自身は区間賞を獲得したが総合12位に終わる。『箱根のシード権獲得』という壁の高さを痛感してきた。 明大は1920年の箱根駅伝第1回大会から出場している「オリジナル4」の1つ。第2回大会で総合優勝を遂げるなど、長らく箱根路に歴史を刻んできたが、杉が入学してからはトップ10に入っていない。 最終学年を迎えた。前回の箱根7区で区間賞を取った杉は、「自信となり、自分自身がガラッと変われました」。4月の金栗記念では10000mで4年連続自己新となる28分28秒94をマークすると、5月の関東インカレハーフでは1時間3分10秒で4位入賞。箱根予選会もチーム4番手でゴールすると、続く11月の上尾ハーフでも1時間3分29秒でまとめた。 最後の箱根は児玉真輝(4年)とともに、チームの“核”となり挑む。その中で、杉には確信していることがある。「前回自分が区間賞を取れました。みんなが実力通りの走りをすれば、シード権は決して手の届かないものではないと思います」 箱根にあこがれるきっかけを作ってくれた兄は、神大4年時に5000mで13分58秒77まで自己記録を縮めたが、故障に苦しみ本戦出場は叶わなかった。「今でも『ケガには気をつけろよ』とか『治療院とか困ったら紹介するぞ』とか、気遣ってくれています」。 夢を叶えられなかった兄の思いも背負い、弟は最後の箱根路を駆けるつもりだ。「自分を成長させてくれた大会。中学生の自分に『箱根を夢見て正解だったよ』と胸を張って言えるよう頑張りたいです」。卒業後も競技を続ける杉は、支えてくれた両親や兄へ、感謝の走りを誓う。 [caption id="attachment_123703" align="alignnone" width="800"] 2度目の舞台ではチームや自分だけでなく、兄の思いも背負って走る杉彩文海(撮影/荒井寛太)[/caption] すぎ・さふみ/2001年8月10日生まれ。福岡県うきは市出身。福岡・吉井中→佐賀・鳥栖工高。5000m14分04秒49、10000m28分28秒94、ハーフ1時間3分10秒 文/荒井寛太

次ページ:

ページ: 1 2

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.12.12

ボストンマラソンに世界歴代8位のコリル、女子はパリ五輪4位のロケディがエントリー

ボストンマラソンの主催者は12月11日、来年4月20日に米国で開催される同大会への出場選手6名(車椅子レースを含む)を発表した。 男子のJ.コリル(ケニア)、女子のS.ロケディ(ケニア)と、前回大会優勝者が出場予定。コリ […]

NEWS グランドスラム・トラックが財政難で破産申請へ 創設者マイケル・ジョンソン氏「使命と未来はあきらめない」

2025.12.12

グランドスラム・トラックが財政難で破産申請へ 創設者マイケル・ジョンソン氏「使命と未来はあきらめない」

今年新設されたリーグ大会、グランドスラム・トラックが破産申請を行ったことが現地メディアで報じられている。 グランドスラム・トラックはマイケル・ジョンソン氏を創設者・コミッショナーとして新設されてたリーグ戦。4大会を実施予 […]

NEWS タイの19歳ブーンソンが100m9秒94!!!日本記録上回るアジア歴代3位、U20世界選手権2大会ファイナル

2025.12.11

タイの19歳ブーンソンが100m9秒94!!!日本記録上回るアジア歴代3位、U20世界選手権2大会ファイナル

東南アジア大会がタイ・バンコクのスパチャラサイ競技場で行われ、男子100mでタイのプリポル・ブーンソンが9秒94(+0.7)をマークした。 予選で出されたこの記録はアジア歴代で日本記録(9秒95:山縣亮太)を上回る3位。 […]

NEWS 青学大・原晋監督が最大のライバルに駒大 「勝つ知識、ノウハウを兼ね備える」 箱根V3へ不安材料は「経験者が少ない」

2025.12.11

青学大・原晋監督が最大のライバルに駒大 「勝つ知識、ノウハウを兼ね備える」 箱根V3へ不安材料は「経験者が少ない」

第102回箱根駅伝で3連覇を狙う青学大が、都内の青山キャンパスで壮行会を開き、原晋監督やエントリー選手たちが登壇した。 壮行会後に記者会見が行われ、一番のライバル校を問われた原監督は「一番はやはり駒澤大学です。ここ11年 […]

NEWS 箱根駅伝V3へ青学大が壮行会 主将・黒田朝日「新たな歴史を作る舞台」 2年連続区間賞・塩出翔太「良い報告ができるように」

2025.12.11

箱根駅伝V3へ青学大が壮行会 主将・黒田朝日「新たな歴史を作る舞台」 2年連続区間賞・塩出翔太「良い報告ができるように」

第102回箱根駅伝で3連覇を狙う青学大が、都内の青山キャンパスで壮行会を開き、原晋監督やエントリー選手たちが登壇した。 お昼休みで多くの学生や教職員が集まるなか、原監督は「シーズン当初は新体制となり、学生たちには『勝つ確 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年12月号 (11月14日発売)

2025年12月号 (11月14日発売)

EKIDEN REVIEW
全日本大学駅伝
箱根駅伝予選会
高校駅伝&実業団駅伝予選

Follow-up Tokyo 2025

page top