HOME 学生長距離

2023.12.20

箱根駅伝Stories/1年越しのデビューへ、早大・山口智規「他大学からアドバンテージを取れるような存在に」
箱根駅伝Stories/1年越しのデビューへ、早大・山口智規「他大学からアドバンテージを取れるような存在に」

初の箱根で快走を誓う山口智規

新春の風物詩・箱根駅伝の100回大会に挑む出場全23校の選手やチームを取り上げる「箱根駅伝Stories」。それぞれが歩んできた1年間の足跡をたどった。

大迫傑が持っていた大学記録を更新

11月19日、上尾シティハーフマラソンのスタート前、早大の山口智規(2年)はいつも以上にリラックスしているように見えた。

広告の下にコンテンツが続きます

「今日は練習の一環なので、3分ペースで行こうと思います」

号砲が鳴る直前にはこんなことを話していた。

その言葉に反して、山口は日本人トップで競技場に戻ってきた。しかも、序盤に大きなリードを奪った山梨学大の留学生、ブライアン・キピエゴ(1年)に最後は9秒差にまで迫った。

記録は1時間1分16秒。自己ベストを大きく更新したばかりか、東京五輪男子マラソン6位の大迫傑(現・Nike)が13年前の上尾ハーフで打ち立てた早大記録(1時間1分47秒)を31秒短縮した。

「“1年生の大迫さん”には負けられない。あこがれの先輩なので、目指していく上で絶対に超えなきゃいけない記録だと思っていました」

早大記録を出せる手応えはあった。ただ、「あそこまでいけるとは……」と言うように、山口にとっても想定以上の出来だった。

山口は千葉県銚子市の出身。中学時代は陸上競技部に所属しながらも、リトルシニアで小3から始めた野球を続けていた。ポジションはショート。陸上でも県トップクラスの成績を挙げていたが、野球でも県内の強豪校から声がかかるほどの実力の持ち主だった。高校進学の際にも、どちらを選ぶか「すごく迷った」という。

一方で、中学生の頃から早大にあこがれており、「(系属校の)早実で野球をやろうかな」と考えたこともあった。父から「早稲田に行きたいなら、(陸上で)学法石川高(福島)はどう?」と勧められ、「陸上のほうが伸びそうだ」と可能性を感じていたこともあって、越境して学法石川高への進学を決めた。

高校では1年目で5000m13分台をマークし、2年時からはチームのエースとして活躍した。3年時には5000mで高校歴代3位(当時)の13分35秒16をマークしている。

そして、念願かなって早大に進学。1年目から主力となり、全日本大学駅伝では4区区間3位と好走し、チームの6位の力となった。しかし、箱根駅伝は直前に胃腸炎になった影響で、出走できなかった。チームはシード権奪回に成功したが、山口には悔しさが残った。

「1月2日に復路も走れないことが決まって、あの時は本当に悔しかったです。でも、あの悔しさがあったから、今強くなれているのかなと思います」

箱根後すぐに気持ちを切り替えると、走力を向上させるためにランニングエコノミーの改善、筋力の強化に取り組み始めた。

「動き自体にエラーが起こりやすかったので、改善しないと力がついてこないと思いました。プライオメトリクスというジャンプトレーニングに取り組んだことで、地面のとらえ方がうまくなり、動きが変わりました。ウエイトトレーニングに取り組んだことで爆発的な力が出るようになりました」

また、昨季までは「プレッシャーに弱い」と話していたが、メンタルトレーニングや大学のメンタルトレーニング論の授業で、精神面の成長もあった。

「1年目は周りばかりを気にして、緊張から思うような走りができないことが多かったんですけど、今はマインドが変わりました。いろんな経験を積んで、安定感が出てきたと思います」

新春の風物詩・箱根駅伝の100回大会に挑む出場全23校の選手やチームを取り上げる「箱根駅伝Stories」。それぞれが歩んできた1年間の足跡をたどった。

大迫傑が持っていた大学記録を更新

11月19日、上尾シティハーフマラソンのスタート前、早大の山口智規(2年)はいつも以上にリラックスしているように見えた。 「今日は練習の一環なので、3分ペースで行こうと思います」 号砲が鳴る直前にはこんなことを話していた。 その言葉に反して、山口は日本人トップで競技場に戻ってきた。しかも、序盤に大きなリードを奪った山梨学大の留学生、ブライアン・キピエゴ(1年)に最後は9秒差にまで迫った。 記録は1時間1分16秒。自己ベストを大きく更新したばかりか、東京五輪男子マラソン6位の大迫傑(現・Nike)が13年前の上尾ハーフで打ち立てた早大記録(1時間1分47秒)を31秒短縮した。 「“1年生の大迫さん”には負けられない。あこがれの先輩なので、目指していく上で絶対に超えなきゃいけない記録だと思っていました」 早大記録を出せる手応えはあった。ただ、「あそこまでいけるとは……」と言うように、山口にとっても想定以上の出来だった。 山口は千葉県銚子市の出身。中学時代は陸上競技部に所属しながらも、リトルシニアで小3から始めた野球を続けていた。ポジションはショート。陸上でも県トップクラスの成績を挙げていたが、野球でも県内の強豪校から声がかかるほどの実力の持ち主だった。高校進学の際にも、どちらを選ぶか「すごく迷った」という。 一方で、中学生の頃から早大にあこがれており、「(系属校の)早実で野球をやろうかな」と考えたこともあった。父から「早稲田に行きたいなら、(陸上で)学法石川高(福島)はどう?」と勧められ、「陸上のほうが伸びそうだ」と可能性を感じていたこともあって、越境して学法石川高への進学を決めた。 高校では1年目で5000m13分台をマークし、2年時からはチームのエースとして活躍した。3年時には5000mで高校歴代3位(当時)の13分35秒16をマークしている。 そして、念願かなって早大に進学。1年目から主力となり、全日本大学駅伝では4区区間3位と好走し、チームの6位の力となった。しかし、箱根駅伝は直前に胃腸炎になった影響で、出走できなかった。チームはシード権奪回に成功したが、山口には悔しさが残った。 「1月2日に復路も走れないことが決まって、あの時は本当に悔しかったです。でも、あの悔しさがあったから、今強くなれているのかなと思います」 箱根後すぐに気持ちを切り替えると、走力を向上させるためにランニングエコノミーの改善、筋力の強化に取り組み始めた。 「動き自体にエラーが起こりやすかったので、改善しないと力がついてこないと思いました。プライオメトリクスというジャンプトレーニングに取り組んだことで、地面のとらえ方がうまくなり、動きが変わりました。ウエイトトレーニングに取り組んだことで爆発的な力が出るようになりました」 また、昨季までは「プレッシャーに弱い」と話していたが、メンタルトレーニングや大学のメンタルトレーニング論の授業で、精神面の成長もあった。 「1年目は周りばかりを気にして、緊張から思うような走りができないことが多かったんですけど、今はマインドが変わりました。いろんな経験を積んで、安定感が出てきたと思います」

チェコ遠征で感じた“世界”

心身ともに充実していることが成績にも現れている。2年生になる直前の3月には、TOKOROZAWAゲームズの3000mで、順大の三浦龍司や吉岡大翔(当時は佐久長聖高)、城西大の三本柱(ヴィクター・キムタイ、斎藤将也、山本唯翔)といった他大のエース格に競り勝って1着。前半戦は5000mを中心に好記録を連発し、関東インカレ1部も3位入賞を果たした。 9月には、先輩の石塚陽士、伊藤大志(いれも3年)と共にチェコ・プラハに遠征し、10kmレースに出場した。そこでは刺激的な出会いもあった。 「レース前日にジョグに行ったら、向こうから話しかけてくれて、一緒に練習して、いろいろ話をしました。レース当日も、次の日も一緒に朝ごはんを食べました」 その選手はタデッセ・ウォルク(エチオピア)。2021年のU20世界選手権で3000m金メダル、5000m銀メダルという実績の持ち主だ。山口らが出場したレースも、優勝したのはタデッセだった。 「大学4年生の年代の選手で、10000mを26分45秒で走っていても(シニアでは)国の代表になれない。すごい環境で走っていると思いました。日本は良くも悪くも恵まれ過ぎている。『世界、世界……』って言っていても、このままだと辿りつくことはできないなっていう感覚がありました」 同世代の実力者に大きな刺激を受け、そこから練習の質も量も上げていった。 そして、秋を迎えた。出雲駅伝は、2週間前に体調不良になった影響で納得のいく走りはできなかったが、それでも2区区間3位にまとめた。 全日本は2区区間4位。ほぼ同時にスタートした駒大の佐藤圭汰に5㎞過ぎに突き放され、青学大・黒田朝日にも抜かれてしまった。そう見ると、失敗レースに思われるかもしれないが、山口にとっては「やっときっかけをつかめた」レースだったという。 スタート直後からハイペースで入るのは、もともと山口のスタイルではない。2週間後の上尾ハーフで見せた、後半に上げていく走りのほうが得意で、言わば“他流試合”に挑んだ。佐藤に離された直後には一気に差が開いたものの、終盤には持ち直している。 「最初から突っ込んで、佐藤君にはボロボロにされたが、まとめることができました」 山口のバリエーションが広がったレースになった。 上尾ハーフでさらに自信を深め、いよいよ箱根駅伝に臨む。「他大学からアドバンテージを取れるような存在になれていると思う。スピードが生かせる区間を走りたいですね。上尾ハーフでは集団でも走れたので1区も走ってみたい。3区だったら丹所(健)さん(東京国際大/現・Honda)の日本人最高記録(1時間0分55秒)を狙いたい」。 1年越しの箱根デビューで、山口は鮮烈な活躍を見せそうだ。 [caption id="attachment_123691" align="alignnone" width="800"] 全日本大学駅伝2区では飛躍のきっかけをつかんだ山口智規(撮影/和田悟志)[/caption] やまぐち・とものり/2003年4月13日生まれ。千葉県銚子市出身。千葉・銚子二中→福島・学法石川高。5000m13分34秒95、10000m29分35秒47、ハーフ1時間1分16秒 文/和田悟志

次ページ:

ページ: 1 2

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

         

Latest articles 最新の記事

2026.02.06

1500m田中希実が金メダル第1号!走高跳は瀬古優斗と真野友博がワン・ツー!60m・桐生祥秀は4位/アジア室内

◇第12回アジア室内選手権(中国・天津/2月6日~8日)1日目 第12回アジア室内選手権の1日目が行われ、日本は金メダル2、銀メダル1を獲得した。 広告の下にコンテンツが続きます 日本勢金メダル第1号となったのが女子15 […]

NEWS 箱根駅伝トップ3の青学大、國學院大、順大そろい踏み 14校参加で新チーム“初戦”を制するのは!?/宮古島大学駅伝

2026.02.06

箱根駅伝トップ3の青学大、國學院大、順大そろい踏み 14校参加で新チーム“初戦”を制するのは!?/宮古島大学駅伝

学生駅伝の新たなシーズンの幕開けともなる「宮古島大学駅伝ワイドー・ズミ2026」が2月8日、沖縄・宮古島市陸上競技場を発着する6区間82kmで行われる。前身大会は2020年に開催され、現大会名としては4度目の開催。1月の […]

NEWS 日女体大院・島野真生が今春渡辺パイプ加入 100mHで日本歴代9位「変化を恐れず成長をつかみ取る」

2026.02.06

日女体大院・島野真生が今春渡辺パイプ加入 100mHで日本歴代9位「変化を恐れず成長をつかみ取る」

渡辺パイプは2月6日、女子100mハードルの島野真生(日女体大院)が4月1日付で加入することが内定したと発表した。 島野は東京高3年時の2019年インターハイを制覇。20年に日体大に進学すると、日本インカレで1年生優勝を […]

NEWS 城西大女子駅伝部監督に佐藤信之氏が就任 「最後まで諦めないタスキリレーを展開していく」世界選手権マラソン銅メダリスト

2026.02.06

城西大女子駅伝部監督に佐藤信之氏が就任 「最後まで諦めないタスキリレーを展開していく」世界選手権マラソン銅メダリスト

城西大は2月6日、4月1日付で女子駅伝部の監督に佐藤信之氏が就任することを発表した。 佐藤氏は1972年生まれの53歳。愛知・中京高(現・中京大中京高)から中大に進学し、箱根駅伝には4年連続で出走。4年時の第71回大会( […]

NEWS 女子100mH学生記録保持者・本田怜が水戸信用金庫に内定 「さらなる高みを目指して挑戦し続けます」

2026.02.06

女子100mH学生記録保持者・本田怜が水戸信用金庫に内定 「さらなる高みを目指して挑戦し続けます」

順天堂大学は2月6日、女子100mハードルで12秒91の学生記録を持つ本田怜(順大院)が今春から水戸信用金庫に所属することを発表した。 本田は茨城県出身。牛久高時代には2019年インターハイに出場したものの準決勝落ち。高 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2026年2月号 (1月14日発売)

2026年2月号 (1月14日発売)

EKIDEN Review
第102回箱根駅伝
ニューイヤー駅伝
全国高校駅伝
全国中学校駅伝
富士山女子駅伝

page top