2023.10.16
◇マラソングランドチャンピオンシップ(MGC/10月15日、東京・国立競技場発着)
来年夏のパリ五輪マラソン代表選考レースのMGCが行われ、東京五輪6位入賞の大迫傑(Nike)は2時間9分11秒の、前回と同じ3位で走り終えると、開口一番こう漏らした。
「やっぱり難しい。難しいというか、なかなか勝ち切れないですね」
順位だけでなく、五輪に即内定となる2位に5秒届かなかったのも4年前と同じだった。だが、決して悲観的ではない。
「こういうレースって、すごく良い調子で臨んでくる人が5人ぐらいはいるとコーチと話をしているんですけど、その中でいかに自分の力を出し切れるかがすごく大切。自分自身、しっかり勝とうとしたんですけど、今回もまた前回と同じように、一歩及びませんでした。ただ、常にその位置にいるのは僕自身の強さでもあると思うので、それは証明できたと思います」
実際に、上位候補に挙げられた選手たちが、万全な状態で臨めず苦戦するなか、大迫はしっかりとMGCに調子を合わせてきた。今回がマラソン12戦目(ペースメーカーでの出場を除く)だったが、これまで2回の途中棄権を除いてすべてひとケタ順位。優勝経験はないものの、3位になるのは今回が5回目と、安定感は抜群だ。だからこそ、2021年の東京五輪でも6位入賞を果たすことができたのだろう。
今回、川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)が大逃げを図るなか、レースの中心にいたのは間違いなく大迫だった。レース後、多くの選手が「マークしていたのは大迫選手」と異口同音に話していた。
「誰かが(川内を)追うだろうと思ったんですけど、たぶん、みんな僕のことを待っていたと思う。僕の後ろにつける集団、すごかったですよね」。大迫自身、レース中にひしひしとマークされているのを実感していた。
第2集団は代わる代わる選手が先頭に立ったが、先行する川内との差は開く一方。25kmの時点では約42秒差になっていた。大迫が集団の先頭に出たのは29km。すると、みるみるうちに川内との差が詰まっていった。
35.2kmで川内に追いつき、38kmでは先頭集団が4人に絞られる。その後、小山直城(Honda)が集団を抜け出し、2位争いも赤﨑暁(九電工)が先行し、大迫と川内は遅れをとった。
「脚がけっこういっぱいいっぱいだったんですけど、みんな同じだと思っていました。4年前のきつい坂がフラッシュバックしましたが、前回以上に無心で走れました。今回は夢中という言葉を意識してきて、まだまだですけど、より無心に近い状態で走れました」
一度は離されても、大迫も粘りを見せる。赤﨑との差を少しずつ詰めていき、競技場内での勝負に持ち込んだ。結局、スパート力のある赤﨑に届かず3位に終わったものの、大迫が2日前の記者会見で掲げていた「100%出し切る」という目標は、大方果たせたのではないだろうか。
まずはしっかりと休養してからMGCファイナルチャレンジへの挑戦を考えるという。だが、前回も3位の立場でファイナルチャレンジ最終戦の東京マラソンに挑み、2時間5分29秒の日本新(当時)を出して3枠目をつかんでいる。同じ立場となった今回も、五輪代表の3枠目が最も近い存在であることは確かだ。
「それ(無心で走ること)が完璧にできた時には優勝が見えてくるんじゃないかなと思いました」
まだまだ強くなれる。その確信が、大迫の中にあるに違いない。
*
スタート時(午前8時)の気温は14.5度。冷たい雨が次第に強くなり、風も吹く難しいコンディションの中で行われたレースは、さまざまなドラマを生んだ。
冷雨を「絶好の条件」と捉えたのが川内。マラソン130回目の経験すべてを注ぎ込んだ大逃げか、最後まで粘りの走りを見せ、大迫から7秒差の4位。「力を出し切って3人に負けたので悔いはありません」と胸を張った。
5位は作田直也(JR東日本)、6位は第2集団を牽引して川内を逆転した堀尾謙介(九電工)が入った。
前回は完走選手中最下位に沈んだ井上大仁(三菱重工)が7位、前回4位の大塚祥平(九電工)は8位だった。
ブダペスト世界選手権で13位ながら一時5位を走るなど見せ場を作った山下一貴(三菱重工)も、1ヵ月半のスパンでコンディションを仕上げきれず。序盤から動きの感覚をつかめず、32位にとどまった。
好調が伝えられていた昨年のオレゴン世界選手権代表・西山雄介(トヨタ自動車)も中盤を過ぎてペースダウン。46位でのフィニッシュとなった
また、大迫と「2強」の一角に挙げられた日本記録保持者の鈴木健吾(富士通)は股関節周辺に不安を抱えた中でのレースだったようで、11.9kmで途中棄権。ブダペスト世界選手権代表の其田健也(JR東日本)、MGC出場権獲得第1号の細谷恭平(黒崎播磨)も途中棄権となった。
文/福本ケイヤ
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