【シューズレポ】サブスリー編集者が語る!!
アシックス「METARACER(メタレーサー)」
ランニングシューズの技術革新が進む中、アシックスがついにカーボンプレートを搭載したレーシングモデル「METARACER TOKYO(メタレーサートウキョウ)」を6月12日に発売した。カーボンプレートを搭載したシューズはスパイクでは事例があるものの、アシックスのランニングシューズとしては初めてだ。同社が満を持して投入した『渾身の一足』は長距離界でどのような存在になるだろうか。
大きく反り上がったソール構造が特徴的なアシックスの「METARACER TOKYO(メタレーサー トウキョウ)」。日本代表カラーであるサンライズレッドが使われている
アシックス初のカーボンプレート内蔵シューズ
ガイドソールもトップ用モデルでは初採用
アシックスユーザーにとっては「ようやく出た」というのが本音だろう。アシックスが6月12日に発売した「METARACER TOKYO(メタレーサー トウキョウ)」は、同社のランニングシューズとしては初めてミッドソールにカーボンプレートを内蔵した新コンセプトの長距離レーシングシューズだ。
2017年を皮切りに各社がこぞってカーボンプレート内蔵のレース用シューズを発売する中で、アシックスはしばらくその流れに乗らず、『薄底&カーボンなし』のトップモデルを継続してきた。だが、2019年になるとアシックスも厚底のソールに傾斜をつけることで足首周りの負担を約20%軽減する「GUIDESOLE(ガイドソール)」というテクノロジーを搭載した「METARIDE(メタライド)」「GLIDERIDE(グライドライド)」を次々に発売。ただ、これらはあくまでも『ラクに長く走る』をコンセプトとしたジョギング用モデルだった。
一方で、2020年になると一部のトップ選手がガイドソールを搭載したレーシングシューズ、すなわちメタレーサーのプロトタイプを履く姿が見られるようになった。
今年の箱根駅伝では、早大の2区(23.1km)を任された太田智樹選手(現・トヨタ自動車)がメタレーサーを着用し、1時間7分05秒(区間6位)の好タイムをマークしている。これは10000mの自己ベスト(28分56秒32)とほぼ同じペースで2倍以上の距離を走り切った計算で、かつて早大の絶対的エースだった渡辺康幸氏(現・住友電工監督)が出したタイム(1時間6分48秒=当時の区間記録)からも17秒しか遅れていない。
それでも、メタレーサーの詳細については長らく明かされず、その性能やテクノロジーについては謎のままだった。しかも、一度は4月の発売が発表されたものの、東京五輪の1年延期が決まると発売も延期に。それがこの6月からようやく発売され、そのベールを脱ぐことになったのだ。
とにかく脚が回しやすい
予想を超えてくるシューズ
メタレーサーの大きな特徴はガイドソールとカーボンプレートの両方を搭載していることだ。FLYTEFORM(フライトフォーム)という軽量素材を採用したミッドソールはレース用シューズにしては厚く、その中にカーボンプレートが内蔵されている。ソールはつま先にかけて反り上がり、その構造によって走行時は楽に地面を蹴ることができる。ソールの形状変化を抑えるためにカーボンプレートを搭載しているという。
もっとも、実際に足を入れて走ってみると、同じフライトフォームをミッドソールに採用している「ターサージール5」と比較してメタレーサーの反発力は明らかに高い。カーボンプレートが推進力をもたらしているのは明白だ。また、ガイドソールの傾斜はグライドライドと比べると緩やかで、履き心地はターサーシリーズに近い。重量は27.0cmで190gと、薄底のモデルに比べると重いが、そのぶん反発があるのでマイナスには感じないだろう。
アッパーやアウトソールにはアシックスの最新技術が投入されており、足当たりは抜群。通気性を高めるためにつま先にもマジックベンチレーションという小さな穴が空いており、真夏でも快適に走れそうだ。
接地感はソフトで、アウトソールには雨にも強い「ウェット・グリップラバー・スポンジ」を採用しているせいか、グリップ力も高い。そして、接地してから蹴り出すまで重心移動がとてもスムースで、ピッチを上げやすいのが印象的だ。バネのような強烈な反発はなく、「ブニュッ」と沈み込むような極端なクッション性もない代わりに、とにかく脚が回しやすい。従来型のシューズに比べると脚への疲労感が少ないため、どんどんスピードを上げていける。
アウトソールは雨にも強いWET GRIP RUBBER(ウェット・グリップラバー・スポンジ)を採用。凸凹の少ない見た目とは裏腹にグリップ力は高い
厚底シューズにありがちな反発のタイムラグがほとんどないのも特徴だ。3000mなど比較的短い距離からマラソンまで幅広く対応できるだろう。
実は、最初にメタレーサーを手にした時は「案外重いな」と感じたのが本音だ。しかし、履いてみるとまったくそんなことはなく、フィット性の高さもあって見た目より軽く感じる。さらに、以前は物足りなく感じたフライトフォームの反発力も、このメタレーサーではカーボンプレートとの相乗効果もあって十分納得できる水準に達していた。いい意味で予想を上回ってくるシューズだ。すべての要素が緻密に計算されており、アシックスの〝本気度〟が伝わってくる。
フライトフォームよりも新しい軽量高反発素材「FLYTEFOAMBlast(フライトフォームブラスト)」がメタレーサーに使われなかったのは、シューズ全体のバランスを考慮したのかもしれない。結果としてメタレーサーは「脚が回しやすく、クッション性もある高反発のターサー」と言えるような完成度の高いレーシングシューズに仕上がっている。
つま先のマジックベンチレーションで通気性も確保。細かいところまで行き届く気遣いにアシックスらしさを感じられる
注意点はサイズ感がやや大きいこと。通常よりは0.5cm小さいサイズを選ぶほうがフィットしそうだ。税込み22,000円という価格はアシックスのランニングシューズとしては最高水準だが、それに見合うだけの価値は十分にあるだろう。
◎文/山本慎一郎
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ASICSの〝先進的〟レーシングシューズ METASPRINT(メタスプリント)&METARACER(メタレーサー)/PR
<関連リンク>
・SUNRISE RED(アシックスの特設サイト)
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アシックス初のカーボンプレート内蔵シューズ ガイドソールもトップ用モデルでは初採用
アシックスユーザーにとっては「ようやく出た」というのが本音だろう。アシックスが6月12日に発売した「METARACER TOKYO(メタレーサー トウキョウ)」は、同社のランニングシューズとしては初めてミッドソールにカーボンプレートを内蔵した新コンセプトの長距離レーシングシューズだ。 2017年を皮切りに各社がこぞってカーボンプレート内蔵のレース用シューズを発売する中で、アシックスはしばらくその流れに乗らず、『薄底&カーボンなし』のトップモデルを継続してきた。だが、2019年になるとアシックスも厚底のソールに傾斜をつけることで足首周りの負担を約20%軽減する「GUIDESOLE(ガイドソール)」というテクノロジーを搭載した「METARIDE(メタライド)」「GLIDERIDE(グライドライド)」を次々に発売。ただ、これらはあくまでも『ラクに長く走る』をコンセプトとしたジョギング用モデルだった。 一方で、2020年になると一部のトップ選手がガイドソールを搭載したレーシングシューズ、すなわちメタレーサーのプロトタイプを履く姿が見られるようになった。 今年の箱根駅伝では、早大の2区(23.1km)を任された太田智樹選手(現・トヨタ自動車)がメタレーサーを着用し、1時間7分05秒(区間6位)の好タイムをマークしている。これは10000mの自己ベスト(28分56秒32)とほぼ同じペースで2倍以上の距離を走り切った計算で、かつて早大の絶対的エースだった渡辺康幸氏(現・住友電工監督)が出したタイム(1時間6分48秒=当時の区間記録)からも17秒しか遅れていない。 それでも、メタレーサーの詳細については長らく明かされず、その性能やテクノロジーについては謎のままだった。しかも、一度は4月の発売が発表されたものの、東京五輪の1年延期が決まると発売も延期に。それがこの6月からようやく発売され、そのベールを脱ぐことになったのだ。とにかく脚が回しやすい 予想を超えてくるシューズ
メタレーサーの大きな特徴はガイドソールとカーボンプレートの両方を搭載していることだ。FLYTEFORM(フライトフォーム)という軽量素材を採用したミッドソールはレース用シューズにしては厚く、その中にカーボンプレートが内蔵されている。ソールはつま先にかけて反り上がり、その構造によって走行時は楽に地面を蹴ることができる。ソールの形状変化を抑えるためにカーボンプレートを搭載しているという。 もっとも、実際に足を入れて走ってみると、同じフライトフォームをミッドソールに採用している「ターサージール5」と比較してメタレーサーの反発力は明らかに高い。カーボンプレートが推進力をもたらしているのは明白だ。また、ガイドソールの傾斜はグライドライドと比べると緩やかで、履き心地はターサーシリーズに近い。重量は27.0cmで190gと、薄底のモデルに比べると重いが、そのぶん反発があるのでマイナスには感じないだろう。 アッパーやアウトソールにはアシックスの最新技術が投入されており、足当たりは抜群。通気性を高めるためにつま先にもマジックベンチレーションという小さな穴が空いており、真夏でも快適に走れそうだ。 接地感はソフトで、アウトソールには雨にも強い「ウェット・グリップラバー・スポンジ」を採用しているせいか、グリップ力も高い。そして、接地してから蹴り出すまで重心移動がとてもスムースで、ピッチを上げやすいのが印象的だ。バネのような強烈な反発はなく、「ブニュッ」と沈み込むような極端なクッション性もない代わりに、とにかく脚が回しやすい。従来型のシューズに比べると脚への疲労感が少ないため、どんどんスピードを上げていける。

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