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アシックスが2020年6月に新しいシューズを発売する。1つはスパイクピンをなくした短距離レース用モデル「METASPRINT(メタスプリント)」、もう1つはエネルギー消費を抑えながら長距離レースをハイペースで走れるように設計された「METARACER(メタレーサー)」だ。これらは走行時の「エネルギーロスの軽減」を目指して開発。陸上界に旋風を起こすかもしれない。
スパイクピンのない〝次世代〟短距離モデル「METASPRINT(メタスプリント)TOKYO」
ハイスピードレースのエネルギーロスを軽減できる長距離モデル「METARACER(メタレーサー)TOKYO」
※本誌では発売時期を「2020年4月」としていましたが、発売が延期されました。6月12日(金)にオンラインストアと一部店舗で先行販売を開始し、一般販売は6月26日(金)です
理論上は「100mが0.048秒速くなる」
短距離用シューズ「METASPRINT」
METASPRINT(メタスプリント)の開発を始めたきっかけは、選手とのコミュニケーションだった。スパイクシューズの「ピンが刺さる感覚がある」という言葉をヒントに、アシックススポーツ工学研究所では「スパイクシューズのピンが地面に刺さって抜ける動作」を「時間とエネルギーの損失」と考え、それを打開する方法を探った。その結果、約5年の歳月をかけて「ピンのないスプリント用シューズ」が完成することになった。
軽くて耐久性のあるカーボン素材のプレートには、ピンの代わりにハニカム構造(※蜂の巣状の六角形の集合体)の突起を無数に配置。さまざまな角度に向いた突起で地面をグリップする。ピンが刺さらないため、ロスが少なく推進力を得られるのが大きなメリットだ。プレートの硬さもスプリントに適したものに調整されており、一般的なスパイクピンのあるシューズよりもスムーズな走りを実現する。
ピンをなくすことで、片足約136g(26.0cmの場合)と軽量化にも成功。アシックスの検証実験によると、メタスプリントを履いたスプリンターは従来の同社短距離スパイクと比較して平均1秒あたり約6.7cm前に進めることが認められた。これは100m換算で0.046秒速優位に走行できることに相当する(※短距離トップ選手における60m走実験からの100m走換算:アシックス スポーツ工学研究所での実験)。0.01秒単位で勝負が決まることも多い短距離種目において、この数字は決して小さいものではないだろう。
ピンがなくても走れることはトップアスリートがすでに証明している。2019年8月には、男子100m前日本記録(9秒98)保持者の桐生祥秀(日本生命)がこの靴のプロトタイプを使用し、100mで10秒05(+0.9)をマーク。桐生は「僕の走法であるフラット接地に即していて、今はピンレスのほうが自然です」と話す。
①アシックス独自のピンレス構造
独自のハニカム構造の突起を配置したピンレス構造を採用。ピンが刺さって抜けるまでのタイムロスとピンが抜ける際のエネルギーロスを軽減する
②強くて軽いカーボンプレート
プレートには軽くて耐久性のあるカーボン素材を採用。一般的なスパイクに使われる樹脂材料よりも約5倍の強度があり、複雑な形状を実現
③HL-0メッシュ
軽量でやわらかく伸縮性に優れたHL-0(エイチエル-ゼロ)メッシュがバネのような弾力性でエネルギーロスを抑え、フィット性を高める
足首周りの負担を約20%軽減
長距離用シューズ「METARACER」
一方のMETARACER(メタレーサー)は長距離・マラソンがターゲット。アシックスは長距離の走行時には足首の屈曲動作がエネルギーの消耗につながることを突き止め、その角度変化を小さくすることで効率良く走れるシューズを開発した。
そして、2019年に完成したのが「GUIDESOLE(ガイドソール)」というテクノロジーを採用したMETARIDE(メタライド)だ。ミッドソールを厚くし、母趾球からつま先にかけて高低差と傾斜を設けたことで、足の接地から蹴り出しにかけて身体の重心移動を促しつつ、足首が必要以上に動かないように設計され、走行時のエネルギーロスを軽減する。メタレーサーを履いて走った時は足首周りの負担が約20%軽減されるという。
メタレーサーはトップアスリート向けとしては初めてガイドソールを採用し、軽量で剛性の高いカーボンプレートも内蔵した。このプレートによってソールの変形が抑えられ、安定して効率よく走ることができる。
ミッドソール素材には軽量性と反発性を両立した「FLYTEFOAM(フライトフォーム)」を採用し、厚みがありながらも重さを感じさせない。アウトソールは濡れた路面でも滑りにくい「WET GRIP RUBBER SPONGE(ウェット グリップ ラバー スポンジ)」で、雨や給水で濡れた路面にも対応する。重さも片足約190g(27.0cm)に収まっており、レース終盤まで軽快な走りをアシストしてくれそうだ。
①GUIDESOLE(ガイドソール)
つま先が反り上がった構造で足首周りの負担を約20%軽減
②CARBON PLATE(カーボンプレート)
軽量かつ高剛性のプレートをミッドソールに内蔵。ソールの形状を維持し、ガイドソールとともに重心の移動を促して蹴り出しのスピードを高める
③WET GRIP RUBBER SPONGE(ウェット グリップ ラバー スポンジ)
濡れた路面でも優れたグリップ力を発揮
④MESH UPPER(メッシュアッパー)
斜め裁断メッシュのアッパーとつま先に設けられたマジックベンチレーションでシューズ内の温度上昇を抑える
メタスプリントの開発が始まったのは2015年、メタレーサーは2014年。2020年を見据え、アシックスでは長い時間をかけて研究が重ねられた。もちろん、その背景には同社がこれまでに蓄積してきた膨大なノウハウとテクノロジーがある。それらが凝縮され、先進的なギアが誕生した。
アシックスの「META」シリーズが、アスリートを次なる次元へと引き上げることだろう。
アスリートの声
●桐生祥秀(日本生命/男子100m前日本記録保持者)
「METASPRINTは僕の走法であるフラット着地に即していて、ピンが刺さる時間、抜ける時間が削減できる。今はピンレスのほうが自然です」
●エマ・ベイツ(米国/女子マラソン選手)
「METARACERを着用したマラソンレースの後半、いつもより疲労感が少ないことに気づきました。特に太腿の前側がいつもより疲れていませんでした」
アシックススポーツ工学研究所より
●原野健一(アシックス執行役員兼アシックススポーツ工学研究所所長)
「今回発売する最新シューズはアスリートのパフォーマンスを向上させると同時に、競技中のアスリートの足や身体を守るという当社の姿勢を体現しています」
●小塚祐也(METASPRINT開発担当)
「METASPRINTをきっかけに、走り方の意識を変えられると思います。突起は少しずつ角度がついていて、カーブもスムーズに走れる構造になっています」
●高島慎吾(METASPRINT開発担当)
「ピンが地面に刺さる時間もロスですが、ピンを抜くにも力を使います。METASPRINTはピンを刺さずに走れるため、タイム短縮にも貢献できると思います。
<関連記事>
・【トピックス】 「ピンなしスプリントシューズ」開発秘話 アシックススポーツ工学研究所の担当者が語る
・【トピックス】 アシックスが新コンセプトシューズ「METASPRINT(メタスプリント)」と 「METARACER(メタレーサー)」を発表
・【アイテム紹介】緻密に計算されたカーボンプレート搭載シューズ「METARACER(メタレーサー)」
<関連リンク>
・プレスリリース(アシックス公式サイト)
※この記事は4月14日発売の『月刊陸上競技』2020年5月号に掲載されています


理論上は「100mが0.048秒速くなる」 短距離用シューズ「METASPRINT」
METASPRINT(メタスプリント)の開発を始めたきっかけは、選手とのコミュニケーションだった。スパイクシューズの「ピンが刺さる感覚がある」という言葉をヒントに、アシックススポーツ工学研究所では「スパイクシューズのピンが地面に刺さって抜ける動作」を「時間とエネルギーの損失」と考え、それを打開する方法を探った。その結果、約5年の歳月をかけて「ピンのないスプリント用シューズ」が完成することになった。 軽くて耐久性のあるカーボン素材のプレートには、ピンの代わりにハニカム構造(※蜂の巣状の六角形の集合体)の突起を無数に配置。さまざまな角度に向いた突起で地面をグリップする。ピンが刺さらないため、ロスが少なく推進力を得られるのが大きなメリットだ。プレートの硬さもスプリントに適したものに調整されており、一般的なスパイクピンのあるシューズよりもスムーズな走りを実現する。 ピンをなくすことで、片足約136g(26.0cmの場合)と軽量化にも成功。アシックスの検証実験によると、メタスプリントを履いたスプリンターは従来の同社短距離スパイクと比較して平均1秒あたり約6.7cm前に進めることが認められた。これは100m換算で0.046秒速優位に走行できることに相当する(※短距離トップ選手における60m走実験からの100m走換算:アシックス スポーツ工学研究所での実験)。0.01秒単位で勝負が決まることも多い短距離種目において、この数字は決して小さいものではないだろう。 ピンがなくても走れることはトップアスリートがすでに証明している。2019年8月には、男子100m前日本記録(9秒98)保持者の桐生祥秀(日本生命)がこの靴のプロトタイプを使用し、100mで10秒05(+0.9)をマーク。桐生は「僕の走法であるフラット接地に即していて、今はピンレスのほうが自然です」と話す。
足首周りの負担を約20%軽減 長距離用シューズ「METARACER」
一方のMETARACER(メタレーサー)は長距離・マラソンがターゲット。アシックスは長距離の走行時には足首の屈曲動作がエネルギーの消耗につながることを突き止め、その角度変化を小さくすることで効率良く走れるシューズを開発した。 そして、2019年に完成したのが「GUIDESOLE(ガイドソール)」というテクノロジーを採用したMETARIDE(メタライド)だ。ミッドソールを厚くし、母趾球からつま先にかけて高低差と傾斜を設けたことで、足の接地から蹴り出しにかけて身体の重心移動を促しつつ、足首が必要以上に動かないように設計され、走行時のエネルギーロスを軽減する。メタレーサーを履いて走った時は足首周りの負担が約20%軽減されるという。 メタレーサーはトップアスリート向けとしては初めてガイドソールを採用し、軽量で剛性の高いカーボンプレートも内蔵した。このプレートによってソールの変形が抑えられ、安定して効率よく走ることができる。 ミッドソール素材には軽量性と反発性を両立した「FLYTEFOAM(フライトフォーム)」を採用し、厚みがありながらも重さを感じさせない。アウトソールは濡れた路面でも滑りにくい「WET GRIP RUBBER SPONGE(ウェット グリップ ラバー スポンジ)」で、雨や給水で濡れた路面にも対応する。重さも片足約190g(27.0cm)に収まっており、レース終盤まで軽快な走りをアシストしてくれそうだ。
アスリートの声
●桐生祥秀(日本生命/男子100m前日本記録保持者) 「METASPRINTは僕の走法であるフラット着地に即していて、ピンが刺さる時間、抜ける時間が削減できる。今はピンレスのほうが自然です」 ●エマ・ベイツ(米国/女子マラソン選手) 「METARACERを着用したマラソンレースの後半、いつもより疲労感が少ないことに気づきました。特に太腿の前側がいつもより疲れていませんでした」アシックススポーツ工学研究所より
●原野健一(アシックス執行役員兼アシックススポーツ工学研究所所長) 「今回発売する最新シューズはアスリートのパフォーマンスを向上させると同時に、競技中のアスリートの足や身体を守るという当社の姿勢を体現しています」 ●小塚祐也(METASPRINT開発担当) 「METASPRINTをきっかけに、走り方の意識を変えられると思います。突起は少しずつ角度がついていて、カーブもスムーズに走れる構造になっています」 ●高島慎吾(METASPRINT開発担当) 「ピンが地面に刺さる時間もロスですが、ピンを抜くにも力を使います。METASPRINTはピンを刺さずに走れるため、タイム短縮にも貢献できると思います。 <関連記事> ・【トピックス】 「ピンなしスプリントシューズ」開発秘話 アシックススポーツ工学研究所の担当者が語る ・【トピックス】 アシックスが新コンセプトシューズ「METASPRINT(メタスプリント)」と 「METARACER(メタレーサー)」を発表 ・【アイテム紹介】緻密に計算されたカーボンプレート搭載シューズ「METARACER(メタレーサー)」 <関連リンク> ・プレスリリース(アシックス公式サイト) ※この記事は4月14日発売の『月刊陸上競技』2020年5月号に掲載されています
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