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【学生長距離】東洋大学 「育成の年」に急上昇の気配

Road to HAKONE EKIDEN 東洋大学
「育成の年」に急上昇の気配
V争いへ手応え十分

 前回の箱根駅伝で10位に終わった東洋大に上昇気流が吹き込んでいる。10月にはエースの西山和弥(4年)が10000mで今季日本人学生最高となる28分03秒94の自己ベスト。11月の全日本大学駅伝では6区終了時点で先頭から20秒差と善戦し、6位に入った。新戦力の台頭とともに吉川洋次(4年)ら箱根駅伝経験者も調子を上げてきている。
 前回5区区間賞の宮下隼人(3年)はさらにパワーアップ。正月決戦ではチームスローガンである「その1秒をけずりだせ」を体現するレース運びで、鉄紺軍団がトップスリーに切り込んでいく。

箱根駅伝に向けて急速に調子を上げてきている東洋大。11月末には学内での21.0975㎞走で好タイムが続出した〔写真提供/東洋大学陸上競技部〕

秋に自己新が続出
チームの底上げ進む

 東洋大は箱根駅伝に78回の出場を重ねてきた伝統校だ。2009年の箱根駅伝で学生駅伝初優勝を飾ると、2011年には出雲駅伝、2015年には全日本大学駅伝でも優勝。近年は常にトップ争いを演じるなど、駅伝での“主要キャスト”を担ってきた。

 箱根駅伝は4度の総合優勝に輝いただけでなく、2019年まで11年連続でトップ3入り。しかし、前回大会は2区相澤晃(現・旭化成)、5区宮下隼人(現3年)、6区今西駿介(現・トヨタ自動車九州)が区間新記録の快走を見せながら、総合では10位に沈んだ。大エースの相澤らが卒業したことで戦力は大幅にダウン。今季は「育成の年」と位置づけて再強化を図ってきた。

 新型コロナウィルスの影響でチームは3月下旬から6月下旬まで自粛期間となり、埼玉・川越キャンパス内にある陸上競技部の寮も閉鎖。個々でトレーニングを行い、チームとしては夏から本格始動した。「メンバーがそろってきたのは8月になってからでした。就職活動が長引き、チームに合流したのが9月になった選手もいます」と酒井俊幸監督。本来であれば例年以上にきめ細やかな指導で選手を育成するはずが、コロナ禍で軌道修正を余儀なくされた。

 それでも、秋になるとトラック種目で好タイムが続出。9月下旬の平成国際大長距離競技会5000mでは1年生の松山和希が13分50秒56で日本人トップを占め、児玉悠輔(2年)は13分55秒22と自身初の13分台。10月中旬のトラックゲームズinTOKOROZAWAでも5000mでは松山が13分48秒80で走り、蝦夷森章太(3年)と佐藤真優(1年)は13分台に突入。10000mでは宮下が28分37秒36をマークするなど、11人が自己ベストを塗り替えた。

 そして、エースの西山和弥(4年)も復調してきた。昨年度は1月に左恥骨を剥離骨折した影響で走りを崩していたが、今季は自粛期間中に水泳トレーニングを取り入れるなどして全身のバランスを改善。9月の日本インカレ10000mで5位(日本人2位)に食い込むと、10月の宮崎県長距離記録会10000mでは今季日本人学生最高となる28分03秒94の自己新で駆け抜けた。

今年度の東洋大を牽引する西山和弥(左)と宮下隼人(右)。手前は強力ルーキーの松山和希

全日本は6区まで善戦
経験が急成長を促す

 11月1日の全日本大学駅伝は1区児玉、2区松山、3区佐藤、4区前田義弘(2年)と前半区間に1、2年生を配置。4人とも区間ひとケタ順位でまとめ、6区終了時点でトップと20秒差の5位と健闘した。7区の西山は区間11位にとどまったものの、8区宮下が区間4位と踏ん張って6位でフィニッシュ。学生駅伝未経験者4人を起用しながら13年連続シード権を確保した。

「今季は出雲駅伝やロードレースがなく、経験の浅い若手選手を前半区間に配置したのですが、十分期待に応えてくれました。7区西山が順当なら3位以内はいけたのではないかなと思います」と酒井監督。西山は記録会の疲労と距離に対する不安もあって失速したが、すぐに調子を取り戻している。

チームの仕上がりに手応えを感じている酒井俊幸監督

 11月下旬には学内でハーフマラソンを敢行。西山、宮下、大澤駿(4年)、蝦夷森という箱根駅伝経験者は参加しない中でも、8人が1時間2分台前半、2人が1時間2分台後半で走破した。全日本を経験した選手たちは自信を深め、さらに調子を上げているという。チームは正月決戦に照準を合わせている。

強化策の柱である「食育」
食習慣が成長につながる

 選手が4年間で入れ替わるカレッジスポーツで、東洋大は10年以上もトップクラスの成績を残してきた。それを可能にしたのが“育成力”だろう。トレーニングやケアにこだわるのはもちろん、酒井監督は「食育」にも積極的に取り組んできたという。2009年の監督就任直後から女子栄養大学と提携し、食事面などのサポートを受けてきた。

「監督に就任してから『食育』というキーワードをチームの強化方針にも使っています。食事で身体を作り、食事で身体を強くしていく。食事は単に食べればいいというわけではありません。大学の4年間はジュニアからシニアへの移行期ですし、身体を作る上でとても大切な期間になります。アスリートの正しい食習慣を身につけるのが狙いです」(酒井監督)

東洋大の強みである育成力を支えているのは「食」。同じ長距離ブロックに所属する競歩の川野将虎(右端)と池田向希(その左)はそれぞれ東京五輪の代表に内定している


食事は栄養バランスが考慮されているのはもちろんのこと、メニューが単調にならないように調理の仕方にもさまざまな工夫がなされている

 女子栄養大学栄養学部の上西一弘教授とは定期的に連絡を取り合い、酒井監督夫妻ら指導スタッフと寮の調理業者であるエームサービスがミーティングをして意見を交換している。選手たちは定期的に血液検査を実施して体脂肪率や骨密度なども測定。そのデータをもとに酒井監督夫妻から一人ひとりに合わせた食事のアドバイスも受けているという。エネルギーを取り過ぎると体重が増加するが、不足すれば走れない。個々の特性を理解することで、食事の意識も変わってきた。

 山梨・富士河口湖高時代に5000mのベストが14分46秒82だった宮下は東洋大に入学して一気に成長した選手だ。トレーニングだけでなく、食生活の改善も大きかったという。

「高校時代の食事はお腹一杯になればいいという感じでしたが、東洋大に来てからは栄養についても気をつけるようになりました。強度の高い練習をしても、回復具合は格段に良くなっています。それで質の高い練習を継続できているのかなと思います」(宮下)

 福島・学法石川高3年時の全国高校駅伝駅伝1区で2位と活躍したルーキーの松山も、高校時代は貧血に悩まされたこともあり、鉄分の摂取なども意識しながら体質改善に着手。大学入学時に比べて「身長は変わらなくても筋力が違う」と、体重が2㎏ほど増加してパワーがついたのを実感している。4月に左くるぶしを痛めて出遅れたが、秋には5000mで自己ベストを2度も更新。箱根駅伝では往路の主要区間を任される可能性が出てきている。

水分補給を工夫
ミネラル入り麦茶でコンディショニング

 2018年度から東洋大はコンディショニングの一環としてミネラル入り麦茶を導入。日々の水分補給でも積極的に活用するようになった。

「日々の生活とトレーニングでどれぐらいの水分が失われて、どれぐらいの飲料を確保しないといけないのか。水分補給は選手たちのコンディショニングを考えると非常に重要です。その中でミネラル入り麦茶を健康飲料というかたちで摂取しています。ミネラルを補給できますし、糖質の入った飲料を飲む機会が少なくなります。長距離選手らしい身体になり、それがトラックのタイムや駅伝での走りにつながっているのかなと感じています」(酒井監督)

 今季10000mで2年ぶりの自己ベストをマークした西山は、「今夏から食事以外で1.5~2リットルくらいの水分をとるようにしています。その大半はミネラル入り麦茶です。常に体内に水分がある状態なので、いつでもスッキリと走れるようになりました。疲労が抜けやすくなり、調子も良くなった感覚があります」と話す。

「以前は練習時以外でもスポーツドリンクを飲む機会が多かった」と言う宮下も、「ミネラル入り麦茶に変えて疲労の抜け具合が変わりました」と身体の変化を感じている。水分摂取量が減る冬場も常温のミネラル入り麦茶を小まめにとるように心がけているという。

一昨年度からはミネラル入り麦茶をコンディショニング飲料として活用している

 食の改善を進める松山は他のドリンクと併用してミネラル入り麦茶を活用。「普段は野菜ジュースや果実ジュースも飲みますが、糖分が多いので、ミネラル入り麦茶を挟んでいます。ミネラルが豊富なので練習前後に飲むようにしていますし、レース前もスポーツドリンクなどと一緒に飲むことが多いです」と明かす。

 カフェインが入っておらず、どんな場面でも飲みやすいミネラル入り麦茶が鉄紺軍団のコンディション作りに一役買っているようだ。

練習時には麦茶とスポーツドリンクを併用する

軸は2枚看板と強力ルーキー
トップ3返り咲きを

 当初は戦力ダウンが懸念されながら、ここにきて箱根駅伝に向けて戦うムードが高まっている東洋大。その中でカギを握るのが西山だ。過去3回の箱根駅伝は1区を担当。1、2年時は区間賞を獲得している。前回は故障の影響もあって区間14位と苦しんだが、今回は“エース”としての走りを見せるつもりでいる。

「全日本は下級生がすごくがんばってくれたのに、自分が思うような走りができなかった。申し訳ない気持ちがありますが、いつまでも落ち込んでいるわけにはいきません。何区を任されても、最後はチームの役に立って終わりたい。そして、強い東洋大を取り戻します」

 西山とともに鉄紺軍団の“攻撃ポイント”となるのが前回5区で区間賞を獲得した宮下だ。全日本大学駅伝の8区(19.7㎞)では前年のタイムを1分20秒も短縮している。「5区(20.8㎞)を任されることになれば、前回自分が出した区間記録(1時間10分25秒)をまずは更新したいと思っています。5区では2年連続で区間賞を獲得した選手は柏原竜二さんが最後です。それだけ5区は難しい区間。欲張らず、自分の力を発揮したいと思っています」

 箱根駅伝の5区で4年連続区間賞(うち3回区間新)に輝き、東洋大を4年連続の往路優勝と3度の総合優勝に導いた偉大な先輩が柏原。それに宮下は続くつもりだ。

 全日本の2区では周囲のハイペースに戸惑い、思うような走りができなかったという松山は、箱根に向けては順調にトレーニングを消化している。3年連続で箱根駅伝に出場している吉川洋次(4年)とともに2区の候補に名前が挙がるほどだ。

「2区を走るくらいの気持ちで準備して、どの区間でも対応できるようにしておきたい。高校・大学の先輩である相澤さんから2区の話は聞いています。2区を任されたら、前回の岸本大紀(青学大)さんのタイム(1時間7分03秒)くらいを出したいですね。同学年の三浦龍司(順大)、佐藤一世(青学大)と同じ区間になったら負けたくありません」

 松山は昨年度の全国高校駅伝1区で競り合った有力校のスーパールーキーたちを強く意識している。戦力が整ってきただけに、酒井監督の大胆な采配にも注目だ。

「5区に宮下を起用する時は、5区が他大学に対抗できる武器になってきます。ただし、今回は2区の大黒柱がいません。1~4区をどうしのぐかしっかりと考えていきたいと思っています。2区と6区に不安はありますが、前年よりも中間層の実力は上がっています。その中で3年生以下の選手をうまく起用できると、次年度以降はさらに戦力の厚みが増してくる。今回はトップ争いに加わり、再び優勝を狙えるような土台を作りたい」(酒井監督)

 鉄紺軍団は“王座奪還”の準備を着々と進めている。

泥臭く走り込んだ夏合宿の成果を見せる時がやってきた――

文/酒井政人

※この記事は『月刊陸上競技』2021年1月号に掲載しています

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