2025.05.08

今年9月、陸上の世界選手権(世界陸上)が34年ぶりに東京・国立競技場で開催される。今回で20回目の節目を迎える世界陸上。日本で開催されるのは1991年の東京、2007年の大阪を含めて3回目で、これは同一国で最多だ。
これまで数々のスーパースター、名勝負が生まれた世界陸上の各大会の様子を紹介する『世界陸上プレイバック』。1999年にスペインのセビリアで開催された第7回大会を振り返る。
ジョンソンが世界新で通算8つ目の金
この大会で偉大な記録を打ち立てたのが男子400mのマイケル・ジョンソン(米国)。43秒18の世界新記録で4連覇を達成した。
ジョンソンは世界陸上に圧倒的な強さを誇った。初出場の1991年東京大会では200mで優勝。93年のシュツットガルト大会では400mと4×400mリレーの2冠を達成する。95年のイエテボリ大会では世界陸上初の200m、400m、4×400mリレーで3冠の偉業。97年のアテネ大会でも足の故障を抱えながら400mを制した。
残るターゲットはブッチ・レイノルズ(米国)が1988年にマークした43秒29の世界記録の更新。しかし、この時ジョンソンはすでに31歳となっており、ここ2年は43秒台前半を出せていない。それでも優勝候補の本命であることは間違いなかった。
決勝にコンディションを合わせてきたジョンソンは中盤から独走。残り100mを切っても均整のとれたフォームが崩れることはなく、最後まで力強い走りを見せつけた。
200mに続いて2種目で世界記録保持者となったジョンソン。200mと400mで世界記録を樹立したのはトミー・スミス(米国)に続いて史上2人目の快挙である。また、この記録はウェイド・ファン・ニーケアク(南アフリカ)が2016年に43秒03をマークするまで17年間も世界記録として残った。
アンカーを務めた4×400mリレーでも優勝。母国の英雄であるカール・ルイスを上回る世界陸上で9つ目の金メダルを獲得したが、メンバーの中にドーピング違反が発覚して、2008年に剥奪となった。
それでも5大会で8つの金メダルという偉業は色褪せることはない。数々の伝説を残して最後の世界陸上を戦い終えた。
また、米国の男子短距離ではモーリス・グリーンが100m、200m、4×100mリレーの3冠を達成。100mと4×100mリレーで2冠した前回大会に続いて強さを発揮した。
今大会から新たに実施された女子棒高跳ではステーシー・ドラギラ(米国)が4m60の世界タイ記録で初代女王に輝いた。
この種目は同年2月にエマ・ジョージ(豪州)が4m60の世界新記録を樹立。しかし、故障明けの影響からか、4m15で最下位に終わってしまう。
その中で自己記録が4m54のドラギラと4m55のアンジェラ・バラコノワ(ウクライナ)が4m55をクリア。優勝争いはこの二人に絞られた。ノーミスを続けるバラコノワに対して、ドラギラは4m55を成功させるまでに6回失敗しており、バラコノワのほうが余力はあるかに思われた。
しかし、ドラギラが2回目で4m60を成功させた一方で、バラコノワは2回連続で失敗。3回目をパスして4m65に挑戦する。結果的にバラコノワはこれを成功させることができず、ドラギラの金メダルが確定。ドラギラも4m65に挑戦したが、3回とも失敗して世界新記録とはならなかった。
ドラギラは翌年に4m62を跳んで世界新記録を樹立。通算で9回も世界記録を塗り替え、この種目の第一人者となった。
さらにこの大会からは新たに女子ハンマー投も種目に加わり、ミハエラ・メリンテ(ルーマニア)が75m20で金メダルを獲得している。
男子10000mではハイレ・ゲブルセラシェ(エチオピア)が27分57秒27で4連覇を達成。前年に26分22秒75の世界新記録を樹立し、「皇帝」の異名を持つ男は今大会も強さを発揮した。アントニオ・ピント(ポルトガル)が残り1000m付近で仕掛けるが、冷静に対処。残り1周でスパートを仕掛け、他の選手を圧倒した。
男子1500mではヒシャム・エルゲルージ(モロッコ)が3分27秒65の大会新記録で連覇を達成。この大会記録と前年にマークした3分26秒00の世界記録は未だに破られていない。男子800mはウィルソン・キプケテール(デンマーク)が1分43秒30で3連覇を達成した。
地元のスペイン勢は2種目で金メダルを獲得。男子マラソンでアベル・アントンが2時間13分36秒で連覇を果たし、女子走幅跳ではニウルカ・モンタルボが7m06で制している。
日本勢は長距離種目で活躍目立つ
日本からは男子27選手、女子19選手が出場。銀メダル1つ、銅メダル1つを含め、7選手が入賞を果たしている。特に活躍が目立ったのが男女マラソンだった。
女子は市橋有里(住友VISA)が2時間27分02秒で銀メダルを獲得。小幡佳代子(営団地下鉄)が2時間29分11秒で8位に入った。
前年のアジア大会で最高気温30度を超すコンディションのなか、日本記録を4分以上更新する2時間21分47秒で制した高橋尚子(積水化学)に注目が集まっていたが、レース直前に左膝を痛めて欠場。レースはスローペースで進んだ。
38km付近で市橋と鄭成玉(北朝鮮)の一騎打ちに。41km手前で鄭が仕掛け、市橋も懸命に追いかけるも鄭が3秒差で振り切った。惜しくも2位に終わった市橋だが、今も世界陸上個人種目の日本人最年少メダリストとして記録に残っている。
男子は佐藤信之(旭化成)が2時間14分07秒で銅メダルを獲得。藤田敦史(富士通)が2時間15分45秒で6位、清水康次(NTT西日本)が2時間15分50秒でそれぞれ入賞を果たしている。
佐藤は27km過ぎで先頭に立つと、そのまま首位を独走。35km地点では後続の集団に24秒差をつけていた。しかし、39km付近で連覇を狙うアントンに逆転されると、40km過ぎでヴィンチェンツォ・モディカ(イタリア)にも抜かれて3位に転落。それでも最後まで食らいつく走りを見せ、3位でフィニッシュした。

マラソンでメダルを獲得した佐藤信之、市橋有里
さらに女子10000mでは弘山晴美(資生堂)が31分26秒84で4位、高橋千恵美(日本ケミコン)が31分27秒62で5位とダブル入賞。全体的に長距離種目の活躍が目立つ大会となった。
ジョンソンが世界新で通算8つ目の金
この大会で偉大な記録を打ち立てたのが男子400mのマイケル・ジョンソン(米国)。43秒18の世界新記録で4連覇を達成した。 ジョンソンは世界陸上に圧倒的な強さを誇った。初出場の1991年東京大会では200mで優勝。93年のシュツットガルト大会では400mと4×400mリレーの2冠を達成する。95年のイエテボリ大会では世界陸上初の200m、400m、4×400mリレーで3冠の偉業。97年のアテネ大会でも足の故障を抱えながら400mを制した。 残るターゲットはブッチ・レイノルズ(米国)が1988年にマークした43秒29の世界記録の更新。しかし、この時ジョンソンはすでに31歳となっており、ここ2年は43秒台前半を出せていない。それでも優勝候補の本命であることは間違いなかった。 決勝にコンディションを合わせてきたジョンソンは中盤から独走。残り100mを切っても均整のとれたフォームが崩れることはなく、最後まで力強い走りを見せつけた。 200mに続いて2種目で世界記録保持者となったジョンソン。200mと400mで世界記録を樹立したのはトミー・スミス(米国)に続いて史上2人目の快挙である。また、この記録はウェイド・ファン・ニーケアク(南アフリカ)が2016年に43秒03をマークするまで17年間も世界記録として残った。 アンカーを務めた4×400mリレーでも優勝。母国の英雄であるカール・ルイスを上回る世界陸上で9つ目の金メダルを獲得したが、メンバーの中にドーピング違反が発覚して、2008年に剥奪となった。 それでも5大会で8つの金メダルという偉業は色褪せることはない。数々の伝説を残して最後の世界陸上を戦い終えた。 また、米国の男子短距離ではモーリス・グリーンが100m、200m、4×100mリレーの3冠を達成。100mと4×100mリレーで2冠した前回大会に続いて強さを発揮した。 今大会から新たに実施された女子棒高跳ではステーシー・ドラギラ(米国)が4m60の世界タイ記録で初代女王に輝いた。 この種目は同年2月にエマ・ジョージ(豪州)が4m60の世界新記録を樹立。しかし、故障明けの影響からか、4m15で最下位に終わってしまう。 その中で自己記録が4m54のドラギラと4m55のアンジェラ・バラコノワ(ウクライナ)が4m55をクリア。優勝争いはこの二人に絞られた。ノーミスを続けるバラコノワに対して、ドラギラは4m55を成功させるまでに6回失敗しており、バラコノワのほうが余力はあるかに思われた。 しかし、ドラギラが2回目で4m60を成功させた一方で、バラコノワは2回連続で失敗。3回目をパスして4m65に挑戦する。結果的にバラコノワはこれを成功させることができず、ドラギラの金メダルが確定。ドラギラも4m65に挑戦したが、3回とも失敗して世界新記録とはならなかった。 ドラギラは翌年に4m62を跳んで世界新記録を樹立。通算で9回も世界記録を塗り替え、この種目の第一人者となった。 さらにこの大会からは新たに女子ハンマー投も種目に加わり、ミハエラ・メリンテ(ルーマニア)が75m20で金メダルを獲得している。 男子10000mではハイレ・ゲブルセラシェ(エチオピア)が27分57秒27で4連覇を達成。前年に26分22秒75の世界新記録を樹立し、「皇帝」の異名を持つ男は今大会も強さを発揮した。アントニオ・ピント(ポルトガル)が残り1000m付近で仕掛けるが、冷静に対処。残り1周でスパートを仕掛け、他の選手を圧倒した。 男子1500mではヒシャム・エルゲルージ(モロッコ)が3分27秒65の大会新記録で連覇を達成。この大会記録と前年にマークした3分26秒00の世界記録は未だに破られていない。男子800mはウィルソン・キプケテール(デンマーク)が1分43秒30で3連覇を達成した。 地元のスペイン勢は2種目で金メダルを獲得。男子マラソンでアベル・アントンが2時間13分36秒で連覇を果たし、女子走幅跳ではニウルカ・モンタルボが7m06で制している。日本勢は長距離種目で活躍目立つ
日本からは男子27選手、女子19選手が出場。銀メダル1つ、銅メダル1つを含め、7選手が入賞を果たしている。特に活躍が目立ったのが男女マラソンだった。 女子は市橋有里(住友VISA)が2時間27分02秒で銀メダルを獲得。小幡佳代子(営団地下鉄)が2時間29分11秒で8位に入った。 前年のアジア大会で最高気温30度を超すコンディションのなか、日本記録を4分以上更新する2時間21分47秒で制した高橋尚子(積水化学)に注目が集まっていたが、レース直前に左膝を痛めて欠場。レースはスローペースで進んだ。 38km付近で市橋と鄭成玉(北朝鮮)の一騎打ちに。41km手前で鄭が仕掛け、市橋も懸命に追いかけるも鄭が3秒差で振り切った。惜しくも2位に終わった市橋だが、今も世界陸上個人種目の日本人最年少メダリストとして記録に残っている。 男子は佐藤信之(旭化成)が2時間14分07秒で銅メダルを獲得。藤田敦史(富士通)が2時間15分45秒で6位、清水康次(NTT西日本)が2時間15分50秒でそれぞれ入賞を果たしている。 佐藤は27km過ぎで先頭に立つと、そのまま首位を独走。35km地点では後続の集団に24秒差をつけていた。しかし、39km付近で連覇を狙うアントンに逆転されると、40km過ぎでヴィンチェンツォ・モディカ(イタリア)にも抜かれて3位に転落。それでも最後まで食らいつく走りを見せ、3位でフィニッシュした。 [caption id="attachment_169185" align="alignnone" width="800"]
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