2020.07.31
【Web特別記事】
未完の大器、日大・井上大地が復活の兆し
東京選手権400mで優勝
中学時代から期待された逸材
長いトンネルを抜け、男子短距離、ハードルの井上大地(日大)が復調してきた。
7月4週目に行われた東京選手権(駒沢)の男子400mを46秒81で優勝した井上。「久しぶりの1番なので素直にうれしいです」と笑顔を浮かべた。大会の前週には日大競技会で46秒66の自己新をマーク。2レース続けて46秒台で走った。
井上は中学時代からその潜在能力を高く買われていた陸上界期待の存在。東京・八王子打越中時代は、全中200m6位・走幅跳2位、自己ベストは100m11秒14、200m21秒91、走幅跳7m21(中学歴代8位)と、各種目でハイレベルだった。
荒々しくも豪快な走り。一度見ると誰もがそのパフォーマンスに魅了された。
東京高に進学すると、200mで早々に21秒34(高1歴代8位タイ)をマーク。同種目ではインターハイの準決勝に進出し、4×100mリレーでは全国制覇に貢献した。
圧巻だったのは高2の南関東大会。この年から400mと400mハードルを本格的に取り組み、200m、400m、400mハードルの3冠を獲得した。400mは46秒99、400mハードルは51秒59。その勢いのまま挑んだインターハイでは、400mで46秒91(高2歴代9位タイ)をマークして2年生で2位に入った。さすがに体力が続かず400mハードルは予選落ちに終わったが、「翌年はすべて勝つ」と宣言。秋には国体で400mと400mハードルの2冠。意気揚々と3年目を迎えた。
しかし、その類い稀なスピードと成長に、身体が追いつかなかった。
3年の5月、東京都都大会は200m、400mハードルの2冠で、400mハードルでは50秒37をマーク。だが、続く6月の南関東大会の4×100mリレー決勝で悲劇が起こる。ハードルを得意とする双子の弟・大海(現・国武大)との3・4走のバトンパスをしようかという瞬間、バランスを崩して倒れ込んだ。
井上は脚の付け根を痛め、その後のレースを棄権。山形インターハイでその姿を見ることはできなかった。手術をしようにも難しい箇所で、どこまで回復するかも未知数だったという。
進化した姿を見せる
日大に進学してからも、なかなか思うように練習を継続できず、大学1年目で出たのは2試合だけ。昨年の7月にようやく400mで46秒89と自己ベストを更新。だが、ケアが十分ではなかったこともあり、練習や試合に出ては肉離れを起こすことも続き、モチベーションが低下しかけたこともあった。
「去年は大会で補助員を担当して、それがすごく悔しかったんです。何をやっているんだろう、と」
大会運営、補助員のありがたみを感じたと同時に、走りたい、試合に出たい、戻りたいという想いは一層強くなった。
「ケガをしないように徹底して身体作りをしました。高校時代に比べてストライドを少し狭めにして前半はバネを使った走りにして、得意の後半で粘るレースをしています。今のほうがしっくりきていて、安定して46秒台を出せるようになってきたので手応えがあります」
試合から遠ざかっていた時期と比べ、明らかに身体もシャープに。かつて大きなストライドでグイグイと進む走りとは違い、前半は小気味良いピッチで、中学時代から何度も走ってきた駒沢競技場を駆け抜けた。400mハードルについては「まだ股関節の可動域が出なくて」と練習していないが、「もちろんやります」と意気込んでいる。
「前半でしっかり走ること。200mで20秒台にしっかり入れるようにスピードを戻していきます」
レース後、井上は母校の東京高校の先生方に報告しにいった。「長かったね」。その一言に目頭を熱くしたという。
同学年には井本佳伸(東海大)や花田シオン(同)、同じ東京選手権の400mハードルに出ていた白尾悠祐(順大)ら、ポテンシャルを持ちながらケガに泣く選手が多い。この井上の復活が起爆剤となるかもしれない。
ケガで少しだけ遠回りしたが、まだまだ競技人生は始まったばかり。まずは9月の日本インカレ(新潟)で、進化した井上大地の姿が見られるかも知れない。
文/向永拓史
未完の大器、日大・井上大地が復活の兆し 東京選手権400mで優勝

中学時代から期待された逸材
長いトンネルを抜け、男子短距離、ハードルの井上大地(日大)が復調してきた。 7月4週目に行われた東京選手権(駒沢)の男子400mを46秒81で優勝した井上。「久しぶりの1番なので素直にうれしいです」と笑顔を浮かべた。大会の前週には日大競技会で46秒66の自己新をマーク。2レース続けて46秒台で走った。 井上は中学時代からその潜在能力を高く買われていた陸上界期待の存在。東京・八王子打越中時代は、全中200m6位・走幅跳2位、自己ベストは100m11秒14、200m21秒91、走幅跳7m21(中学歴代8位)と、各種目でハイレベルだった。 荒々しくも豪快な走り。一度見ると誰もがそのパフォーマンスに魅了された。 東京高に進学すると、200mで早々に21秒34(高1歴代8位タイ)をマーク。同種目ではインターハイの準決勝に進出し、4×100mリレーでは全国制覇に貢献した。 圧巻だったのは高2の南関東大会。この年から400mと400mハードルを本格的に取り組み、200m、400m、400mハードルの3冠を獲得した。400mは46秒99、400mハードルは51秒59。その勢いのまま挑んだインターハイでは、400mで46秒91(高2歴代9位タイ)をマークして2年生で2位に入った。さすがに体力が続かず400mハードルは予選落ちに終わったが、「翌年はすべて勝つ」と宣言。秋には国体で400mと400mハードルの2冠。意気揚々と3年目を迎えた。 しかし、その類い稀なスピードと成長に、身体が追いつかなかった。 3年の5月、東京都都大会は200m、400mハードルの2冠で、400mハードルでは50秒37をマーク。だが、続く6月の南関東大会の4×100mリレー決勝で悲劇が起こる。ハードルを得意とする双子の弟・大海(現・国武大)との3・4走のバトンパスをしようかという瞬間、バランスを崩して倒れ込んだ。 井上は脚の付け根を痛め、その後のレースを棄権。山形インターハイでその姿を見ることはできなかった。手術をしようにも難しい箇所で、どこまで回復するかも未知数だったという。進化した姿を見せる
日大に進学してからも、なかなか思うように練習を継続できず、大学1年目で出たのは2試合だけ。昨年の7月にようやく400mで46秒89と自己ベストを更新。だが、ケアが十分ではなかったこともあり、練習や試合に出ては肉離れを起こすことも続き、モチベーションが低下しかけたこともあった。 「去年は大会で補助員を担当して、それがすごく悔しかったんです。何をやっているんだろう、と」 大会運営、補助員のありがたみを感じたと同時に、走りたい、試合に出たい、戻りたいという想いは一層強くなった。 「ケガをしないように徹底して身体作りをしました。高校時代に比べてストライドを少し狭めにして前半はバネを使った走りにして、得意の後半で粘るレースをしています。今のほうがしっくりきていて、安定して46秒台を出せるようになってきたので手応えがあります」 試合から遠ざかっていた時期と比べ、明らかに身体もシャープに。かつて大きなストライドでグイグイと進む走りとは違い、前半は小気味良いピッチで、中学時代から何度も走ってきた駒沢競技場を駆け抜けた。400mハードルについては「まだ股関節の可動域が出なくて」と練習していないが、「もちろんやります」と意気込んでいる。 「前半でしっかり走ること。200mで20秒台にしっかり入れるようにスピードを戻していきます」 レース後、井上は母校の東京高校の先生方に報告しにいった。「長かったね」。その一言に目頭を熱くしたという。 同学年には井本佳伸(東海大)や花田シオン(同)、同じ東京選手権の400mハードルに出ていた白尾悠祐(順大)ら、ポテンシャルを持ちながらケガに泣く選手が多い。この井上の復活が起爆剤となるかもしれない。 ケガで少しだけ遠回りしたが、まだまだ競技人生は始まったばかり。まずは9月の日本インカレ(新潟)で、進化した井上大地の姿が見られるかも知れない。 文/向永拓史
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