HOME 特集

2020.07.31

“江戸っ子”ケンブリッジ飛鳥 東京五輪に向けてリスタート切る
“江戸っ子”ケンブリッジ飛鳥 東京五輪に向けてリスタート切る

“江戸っ子”ケンブリッジ飛鳥 東京五輪に向けてリスタート切る

 7月23日から4日間にわたって駒沢陸上競技場で行われた東京選手権。男子100mにケンブリッジ飛鳥(Nike)が出場し、10秒22をマークして優勝した。昨年はケガもあり不調に終わったが、慣れ親しんだ競技場でリスタートを切った。

ここ2年は度重なるケガに泣く

 4年前、日本中を熱狂の渦に巻き込んだ日本短距離。リオデジャネイロ五輪4×100mリレーでは銀メダルを獲得した。そのアンカーと務めたのがケンブリッジ飛鳥(Nike)。“世界最速の男”ウサイン・ボルト(ジャマイカ)と競り合ったシーンは何度もテレビで流れ、いくつもの雑誌を彩った。

広告の下にコンテンツが続きます

 だが、昨年は日本選手権100m8位、シーズンベストも10秒20にとどまってドーハ世界選手権には個人・リレーともに出場することができずに終わった。

 7月23、24日の東京選手権(駒沢)の男子100m。ケンブリッジは昨年9月の富士北麓ワールドトライアル以来のレースに臨んだ。約1年ぶり。端正な顔立ちによく似合う口ヒゲを蓄えてトラックに戻ってきた。

「(ヒゲは)好評なのでしばらくこのままにしようかな。似合っていますか?」

広告の下にコンテンツが続きます

 シーズン初戦としては「合格点」。予選を10秒29(+0.3)、準決勝では10秒10.26(-0.3)と上げ、決勝は10秒22(-0.8)とまとめた。

「10秒15あたりを目指していました。準決勝は身体がよく動いたのですが、さすがに体力が落ちているのか、レースの疲れを感じますね。ただ、ある程度3本通して自分の走りができたと思います」

 自己ベスト10秒08からすれば物足りなく映るかもしれないが、雨風、湿度、そしてコロナ禍開け初戦を考えれば、目標としていた10秒15をクリアする結果だったと言える。

「この2年はいいシーズンを送れていなくて悔しかった」

 リオ五輪の翌シーズンは春先に追い風参考(5.1m)ながら9秒98をマーク。日本選手権でも3位を死守し、ロンドン世界選手権に出場し、準決勝に進んだ。だが、その年に右太腿を痛めた影響で歯車が狂い始める。

 17年以降、より高めを目指すために出力とパワーはアップし、上半身を中心に身体つきも大きくなった。力強い走りが見られた一方、なかなか万全なコンディションをキープできなかった。その後、左脚のハムストリングス、付け根などケガが続くようになってしまう。

 その間、桐生祥秀(日本生命)、サニブラウン・アブデル・ハキーム(フロリダ大)、小池祐貴(住友電工)の3人が9秒台に突入。リオ五輪でリレーを組んだ山縣亮太(セイコー)、飯塚翔太(ミズノ)、桐生、さらに多田修平(住友電工)や白石黄良々(セレスポ)らを加え、日本男子短距離は空前の超ハイレベルに引き上がった。

復調アピールも「もう一段階」

 ケガの続いたケンブリッジは、昨秋からフィギュアスケートの高橋大輔の専属トレーナーを務めた経験を持つ、渡部文緒氏に指導を受けるようになる。

「課題だった上下のバランスが取れるようになって、動きがかみ合ってきました。特に前半は安定感が出てきたと思います」

 特に「支持脚で力を発揮できるように」片脚でのカーフレイズなどで強化。ウエイトトレーニングも重さではなくスピードを意識して「正しく無理なく力を発揮する」ように取り組んできた。

 たくましいヒゲとは対象的に、身体はシャープだった頃の体型に近くなり体重も昨年から2kgほど減。ケンブリッジの特長である、力強くもしなやかな走りが戻りつつある印象だ。

「まだ勝負するには力が足りない。もう一段階上げられる感じはあるので、それを練習の中で表現できるかが課題」

 父の祖国ジャマイカ生まれ、幼少期は大阪に住んでいたケンブリッジだが、東京都江東区で育ち、「東京高校」出身。もちろん、東京五輪には特別な想いがある。

 延期になった東京五輪の開幕1年前に、中学時代から何度も走った駒沢競技場を駆け抜けた。「いろいろなところで距離(ソーシャルディスタンス)があるのが少し寂しい」とポツリ。感染拡大対策を講じながら競技会開催に務めた役員は、みなケンブリッジを見守ってきた人たち。その走りに温かい眼差しを送っていた。

「4年前は強い人に勝ちたい。今は“負けたくない”に変わりました。延期で準備する期間が増えました。(1年は)あっという間。開催を信じて準備をするだけ。今年は、来年戦うための自信をつけられればいいです」

“江戸っ子”ケンブリッジが1年後のTOKYOに向けて、東京でリスタートを切った。

ケンブリッジ飛鳥/1993年5月31日生まれ。東京・深川三中→東京高→日大出身。16年リオ五輪4×100mリレー銀メダル、17年世界選手権100m準決勝進出。100mの自己ベストは10秒08=日本歴代10位タイ。

文/向永拓史

“江戸っ子”ケンブリッジ飛鳥 東京五輪に向けてリスタート切る

 7月23日から4日間にわたって駒沢陸上競技場で行われた東京選手権。男子100mにケンブリッジ飛鳥(Nike)が出場し、10秒22をマークして優勝した。昨年はケガもあり不調に終わったが、慣れ親しんだ競技場でリスタートを切った。

ここ2年は度重なるケガに泣く

 4年前、日本中を熱狂の渦に巻き込んだ日本短距離。リオデジャネイロ五輪4×100mリレーでは銀メダルを獲得した。そのアンカーと務めたのがケンブリッジ飛鳥(Nike)。“世界最速の男”ウサイン・ボルト(ジャマイカ)と競り合ったシーンは何度もテレビで流れ、いくつもの雑誌を彩った。  だが、昨年は日本選手権100m8位、シーズンベストも10秒20にとどまってドーハ世界選手権には個人・リレーともに出場することができずに終わった。  7月23、24日の東京選手権(駒沢)の男子100m。ケンブリッジは昨年9月の富士北麓ワールドトライアル以来のレースに臨んだ。約1年ぶり。端正な顔立ちによく似合う口ヒゲを蓄えてトラックに戻ってきた。 「(ヒゲは)好評なのでしばらくこのままにしようかな。似合っていますか?」  シーズン初戦としては「合格点」。予選を10秒29(+0.3)、準決勝では10秒10.26(-0.3)と上げ、決勝は10秒22(-0.8)とまとめた。 「10秒15あたりを目指していました。準決勝は身体がよく動いたのですが、さすがに体力が落ちているのか、レースの疲れを感じますね。ただ、ある程度3本通して自分の走りができたと思います」  自己ベスト10秒08からすれば物足りなく映るかもしれないが、雨風、湿度、そしてコロナ禍開け初戦を考えれば、目標としていた10秒15をクリアする結果だったと言える。 「この2年はいいシーズンを送れていなくて悔しかった」  リオ五輪の翌シーズンは春先に追い風参考(5.1m)ながら9秒98をマーク。日本選手権でも3位を死守し、ロンドン世界選手権に出場し、準決勝に進んだ。だが、その年に右太腿を痛めた影響で歯車が狂い始める。  17年以降、より高めを目指すために出力とパワーはアップし、上半身を中心に身体つきも大きくなった。力強い走りが見られた一方、なかなか万全なコンディションをキープできなかった。その後、左脚のハムストリングス、付け根などケガが続くようになってしまう。  その間、桐生祥秀(日本生命)、サニブラウン・アブデル・ハキーム(フロリダ大)、小池祐貴(住友電工)の3人が9秒台に突入。リオ五輪でリレーを組んだ山縣亮太(セイコー)、飯塚翔太(ミズノ)、桐生、さらに多田修平(住友電工)や白石黄良々(セレスポ)らを加え、日本男子短距離は空前の超ハイレベルに引き上がった。

復調アピールも「もう一段階」

 ケガの続いたケンブリッジは、昨秋からフィギュアスケートの高橋大輔の専属トレーナーを務めた経験を持つ、渡部文緒氏に指導を受けるようになる。 「課題だった上下のバランスが取れるようになって、動きがかみ合ってきました。特に前半は安定感が出てきたと思います」  特に「支持脚で力を発揮できるように」片脚でのカーフレイズなどで強化。ウエイトトレーニングも重さではなくスピードを意識して「正しく無理なく力を発揮する」ように取り組んできた。  たくましいヒゲとは対象的に、身体はシャープだった頃の体型に近くなり体重も昨年から2kgほど減。ケンブリッジの特長である、力強くもしなやかな走りが戻りつつある印象だ。 「まだ勝負するには力が足りない。もう一段階上げられる感じはあるので、それを練習の中で表現できるかが課題」  父の祖国ジャマイカ生まれ、幼少期は大阪に住んでいたケンブリッジだが、東京都江東区で育ち、「東京高校」出身。もちろん、東京五輪には特別な想いがある。  延期になった東京五輪の開幕1年前に、中学時代から何度も走った駒沢競技場を駆け抜けた。「いろいろなところで距離(ソーシャルディスタンス)があるのが少し寂しい」とポツリ。感染拡大対策を講じながら競技会開催に務めた役員は、みなケンブリッジを見守ってきた人たち。その走りに温かい眼差しを送っていた。 「4年前は強い人に勝ちたい。今は“負けたくない”に変わりました。延期で準備する期間が増えました。(1年は)あっという間。開催を信じて準備をするだけ。今年は、来年戦うための自信をつけられればいいです」 “江戸っ子”ケンブリッジが1年後のTOKYOに向けて、東京でリスタートを切った。 ケンブリッジ飛鳥/1993年5月31日生まれ。東京・深川三中→東京高→日大出身。16年リオ五輪4×100mリレー銀メダル、17年世界選手権100m準決勝進出。100mの自己ベストは10秒08=日本歴代10位タイ。 文/向永拓史

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.09.14

【テキスト速報】女子マラソン/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)2日目 女子マラソン ※タイム、距離地点は速報値 ▼スタート

NEWS 混合マイル8位入賞 世界との力の差を痛感するも、「底上げができている。まだまだ成長段階」/東京世界陸上

2025.09.13

混合マイル8位入賞 世界との力の差を痛感するも、「底上げができている。まだまだ成長段階」/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)1日目 東京世界陸上1日目のイブニングセッションが行われ、男女混合4×400mR決勝で、日本は3分17秒53で8位に入った。 モーニングセッションで行われた予選で、出した日 […]

NEWS 初代表の10000m・矢田みくに 久しぶりの世界大会「また新たなおもしろさが出てきた」/東京世界陸上

2025.09.13

初代表の10000m・矢田みくに 久しぶりの世界大会「また新たなおもしろさが出てきた」/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)1日目 東京世界陸上1日目のイブニングセッションが行われ、女子10000m決勝の矢田みくに(エディオン)は32分28秒94の21位だった。 初の舞台は甘くはなかった。矢田は […]

NEWS 10000m・廣中璃梨佳「最後まであきらめずに」走って6位入賞「たくさんの声援を受けながら粘れた」/東京世界陸上

2025.09.13

10000m・廣中璃梨佳「最後まであきらめずに」走って6位入賞「たくさんの声援を受けながら粘れた」/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日〜21日/国立競技場)1日目 東京世界陸上1日目のイブニングセッションが行われ、女子10000mの廣中璃梨佳(日本郵政グループ)は31分09秒62と自身最高となる6位入賞を果たした。 序盤は先頭 […]

NEWS 初の決勝となった日本の男女混合4×400mR 8位入賞で歴史を作り、女子短距離に大きな足跡/東京世界陸上

2025.09.13

初の決勝となった日本の男女混合4×400mR 8位入賞で歴史を作り、女子短距離に大きな足跡/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)1日目 東京世界陸上1日目のイブニングセッションが行われ、男女混合4×400mR決勝で、日本は3分17秒53で8位。それでもこの種目初入賞を遂げた。 日本のオーダーは3分1 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年10月号 (9月9日発売)

2025年10月号 (9月9日発売)

【別冊付録】東京2025世界陸上観戦ガイド
村竹ラシッド/桐生祥秀/中島佑気ジョセフ/中島ひとみ/瀬古優斗
【Coming EKIDEN Season 25-26】
学生長距離最新戦力分析/青学大/駒大/國學院大/中大/

page top