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2023.05.22

【高平慎士の視点】世界王者の実力示したカーリーの9秒台連発 その差を埋めるため日本勢はまず10秒0台を
【高平慎士の視点】世界王者の実力示したカーリーの9秒台連発 その差を埋めるため日本勢はまず10秒0台を

23年セイコーGGP男子100mはカーリー(右)が優勝。日本人では坂井隆一郎が10秒10の3位が最高だった

絶好のコンディションの中で行われたセイコーゴールデングランプリ。その男子100mは、昨年のオレゴン世界選手権王者のフレッド・カーリー(米国)が予選9秒88(+1.5)、決勝9秒91(+0.4)で圧勝し、日本のスプリンターたちのその実力をまざまざと見せつけた。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、その男子100mを振り返ってもらった。

◇ ◇ ◇

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フレッド・カーリー選手は予選、決勝ともに「さすがは世界王者」という走りでした。

実は前日に、カーリー選手のコーチと話をする機会があったのですが、その際に「いい風が吹いたら9秒7台が出るかもしれない」と話していました。その時は「本当に?」とにわかに信じられませんでしたが、その言葉を証明する結果でしたね。

予選の9秒88は好条件に後押しされた面はあったと思います。しかし決勝は、2度のスタートやり直しという集中力が切れてもおかしくない状況で、スタートからの加速が持ち味の坂井隆一郎選手(大阪ガス)にそれを許さず、中盤で一気に抜け出す圧勝。9秒91というタイム、レース内容ともに飛び抜けた実力を示しました。

それでも、まだまだギアが上がりそうな感じがあります。現時点でもダイヤモンドリーグのように集中力が高まるトップレベルのレースで走れば、コーチが話す「9秒7台」は間違いないと言える状態を作れているのではないでしょうか。

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早めに来日していたので時差調整は問題ないとして、その間にイベントをこなしながらこの大会を迎えています。日本勢としては、世界トップとの差をまざまざと見せつけられたと言えるでしょう。

カーリー選手の走りの特徴として、水平方向に進むためのパワーの使い方が非常にうまいことが挙げられます。スタートからものすごく低い姿勢を保ち、グイグイ前に進んでいく。お尻から太ももにかけて日所に筋肉が発達していて、太ももの厚さでがに股になっているのかもしれませんが、そのパワーをスピードに変換するうまさが際立っています。

世界記録保持者のウサイン・ボルト(ジャマイカ)は脚をコンパクトに、自転車をこぐように回しながら、地面に力を伝えて前へのスピードにつなげるタイプ。ですから、カーリー選手はその真逆の走りと言えるかもしれません。

今回、決勝の10mあたりで1、2歩、ほんの少しスムーズさを欠いたように見えました。それでも、あれだけの走りを見せたということは、世界チャンピオンという称号に、さらに箔をつけるレベルに達しつつあるのではないでしょうか。

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日本勢にとっては、坂井選手や小池祐貴選手(住友電工)らがしっかりと序盤でリードを奪う展開に持ち込めればおもしろかったと思いますが、それすらもさせてもらえないほど、実力は一枚も二枚も違ったということです。

これが世界大会のセミファイナルと仮定した場合、2着は着順通過で決勝進出、3着と4着はタイム順で他の組の結果待ちと、天地の差となります。今回、カーリー選手が飛び抜けていますので、やはりロアン・ブラウニング(豪州)には勝つ必要があったと思います。

特に坂井選手は、大舞台で勝ち切るということがこれからの課題になるでしょう。勝ち切るためのレースの組み立て方を、どう作っていくか。今日は予選、決勝と同日に行われましたが、今年の日本選手権も同様の形です。重圧がかかる中で、決勝にピークを合わせるためにどんなアプローチをしていくるか、注目したいと思います。

予選で10秒08(+1.7)、決勝で10秒10。勢いに乗った昨年とは違って、今年は着実に力をつけていることを示しました。このタイムは本人にとっても、日本のリレーにとっても自信になるものだったのではないでしょうか。

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小池選手は米国に練習拠点を移し、これが国内初戦。フォームなどに大きな変化はさほど感じませんでしたが、しっかりと仕上げてきたな、という印象を持ちました。

柳田大輝選手(東洋大)は予選で10秒13の自己新。決勝はスタートのやり直しがあった中で10秒19にまとめたのはさすがですが、欲を言えばもう1つ前で勝負をしてほしかったですね。日本選手権では予選から決勝へ、しっかりとプランを持って組み立ててくるでしょう。

桐生選手のケガは残念でしたが、復帰後の今のコンディションを考えると、木南記念の10秒03は少しキャパオーバーになっていたということかもしれません。一方で、桐生選手が不在となることで、他の選手にとってはチャンスが広がるということ。

オレゴン世界選手権ではサニブラウン・アブデル・ハキーム選手(タンブルウィードTC)が100mで7位に入り、100m、200mでこのほかに3人が準決勝進出。そのステージ以上を目指し、日本のスプリントの目標値は再び上がりつつあります。

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その目標を実現させるためには、個々がレベルアップするしかありません。10秒1台の選手は増えてきましたが、そこから何人が10秒0台に入れるか、また10秒0台を連発できる選手が出てくるか。日本選手権では、ハイレベルの勝負を期待したいと思います。

◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

絶好のコンディションの中で行われたセイコーゴールデングランプリ。その男子100mは、昨年のオレゴン世界選手権王者のフレッド・カーリー(米国)が予選9秒88(+1.5)、決勝9秒91(+0.4)で圧勝し、日本のスプリンターたちのその実力をまざまざと見せつけた。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、その男子100mを振り返ってもらった。 ◇ ◇ ◇ フレッド・カーリー選手は予選、決勝ともに「さすがは世界王者」という走りでした。 実は前日に、カーリー選手のコーチと話をする機会があったのですが、その際に「いい風が吹いたら9秒7台が出るかもしれない」と話していました。その時は「本当に?」とにわかに信じられませんでしたが、その言葉を証明する結果でしたね。 予選の9秒88は好条件に後押しされた面はあったと思います。しかし決勝は、2度のスタートやり直しという集中力が切れてもおかしくない状況で、スタートからの加速が持ち味の坂井隆一郎選手(大阪ガス)にそれを許さず、中盤で一気に抜け出す圧勝。9秒91というタイム、レース内容ともに飛び抜けた実力を示しました。 それでも、まだまだギアが上がりそうな感じがあります。現時点でもダイヤモンドリーグのように集中力が高まるトップレベルのレースで走れば、コーチが話す「9秒7台」は間違いないと言える状態を作れているのではないでしょうか。 早めに来日していたので時差調整は問題ないとして、その間にイベントをこなしながらこの大会を迎えています。日本勢としては、世界トップとの差をまざまざと見せつけられたと言えるでしょう。 カーリー選手の走りの特徴として、水平方向に進むためのパワーの使い方が非常にうまいことが挙げられます。スタートからものすごく低い姿勢を保ち、グイグイ前に進んでいく。お尻から太ももにかけて日所に筋肉が発達していて、太ももの厚さでがに股になっているのかもしれませんが、そのパワーをスピードに変換するうまさが際立っています。 世界記録保持者のウサイン・ボルト(ジャマイカ)は脚をコンパクトに、自転車をこぐように回しながら、地面に力を伝えて前へのスピードにつなげるタイプ。ですから、カーリー選手はその真逆の走りと言えるかもしれません。 今回、決勝の10mあたりで1、2歩、ほんの少しスムーズさを欠いたように見えました。それでも、あれだけの走りを見せたということは、世界チャンピオンという称号に、さらに箔をつけるレベルに達しつつあるのではないでしょうか。 日本勢にとっては、坂井選手や小池祐貴選手(住友電工)らがしっかりと序盤でリードを奪う展開に持ち込めればおもしろかったと思いますが、それすらもさせてもらえないほど、実力は一枚も二枚も違ったということです。 これが世界大会のセミファイナルと仮定した場合、2着は着順通過で決勝進出、3着と4着はタイム順で他の組の結果待ちと、天地の差となります。今回、カーリー選手が飛び抜けていますので、やはりロアン・ブラウニング(豪州)には勝つ必要があったと思います。 特に坂井選手は、大舞台で勝ち切るということがこれからの課題になるでしょう。勝ち切るためのレースの組み立て方を、どう作っていくか。今日は予選、決勝と同日に行われましたが、今年の日本選手権も同様の形です。重圧がかかる中で、決勝にピークを合わせるためにどんなアプローチをしていくるか、注目したいと思います。 予選で10秒08(+1.7)、決勝で10秒10。勢いに乗った昨年とは違って、今年は着実に力をつけていることを示しました。このタイムは本人にとっても、日本のリレーにとっても自信になるものだったのではないでしょうか。 小池選手は米国に練習拠点を移し、これが国内初戦。フォームなどに大きな変化はさほど感じませんでしたが、しっかりと仕上げてきたな、という印象を持ちました。 柳田大輝選手(東洋大)は予選で10秒13の自己新。決勝はスタートのやり直しがあった中で10秒19にまとめたのはさすがですが、欲を言えばもう1つ前で勝負をしてほしかったですね。日本選手権では予選から決勝へ、しっかりとプランを持って組み立ててくるでしょう。 桐生選手のケガは残念でしたが、復帰後の今のコンディションを考えると、木南記念の10秒03は少しキャパオーバーになっていたということかもしれません。一方で、桐生選手が不在となることで、他の選手にとってはチャンスが広がるということ。 オレゴン世界選手権ではサニブラウン・アブデル・ハキーム選手(タンブルウィードTC)が100mで7位に入り、100m、200mでこのほかに3人が準決勝進出。そのステージ以上を目指し、日本のスプリントの目標値は再び上がりつつあります。 その目標を実現させるためには、個々がレベルアップするしかありません。10秒1台の選手は増えてきましたが、そこから何人が10秒0台に入れるか、また10秒0台を連発できる選手が出てくるか。日本選手権では、ハイレベルの勝負を期待したいと思います。 ◎高平慎士(たかひら・しんじ) 富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

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