2022.08.24
今年も『9.98スタジアム』はたくさんの感動と笑顔で溢れた。今回で4回目となったAthlete Night Games in FUKUI。初開催だった2019年には日本新記録が3個誕生し、“奇跡の夜”と呼ばれ、夏の風物詩の大会となった。
豪雨に加えて雷鳴もとどろく。あいにくの悪天候だったが、そんな中でも選手たちが好パフォーマンスを披露した。7月に行われたオレゴン世界選手権の日本代表も15人が出場。福井の夜を盛大に湧かせた。
迫力満点のフィールド種目
オープニングセレモニーは15時開始予定。だが、その前に雷雨はどんどんと強くなっていった。最初の種目だった男子やり投のウォーミングアップも始まっていたが、一時中断。クラウドファンディングのリターン席である芝生にいた観客も軒下に避難し、天候が落ち着くのを待つ。
雨が止んだ16時。曇り空のなか、1時間遅れでオープニングセレモニーがスタートした。選手が前日練習をしている様子や、地元・敦賀高陸上部の生徒が事前に撮影した映像が大型スクリーンに映し出される。いよいよ始まる――。さらにワクワク感が大きくなった。普段の大会では見られない映像に、観客もスクリーンに釘付け。スタジアムDJが盛り上げて音楽を流し、会場の雰囲気も高揚していった。

地元のクラブチームの子供たちが手作りの団扇やボードを持って選手を応援していた
過去3大会で行われていたトラック種目と男子走幅跳に加えて、今回は男子やり投と女子走幅跳を実施。初の投てき種目となったやり投では、世界選手権代表のディーン元気(ミズノ)からの提案もあり、選手と同じテントにクラウドファンディングのリターン席を作った。ウォーミングアップから競技中まで、すべての時間を選手と同じ目線で観戦。観客は迫力と好パフォーマンスに圧倒されていた。
「真横に観客の方がいたので、会話をしながら競技していました」とディーン。近くで見ていた子供とコミュニケーションも取ったという。「雨の中でもこれだけの人が集まり、楽しかったです」。選手、観客がともに楽しめる空間だった。

フィールド種目特有の、選手が助走で観客に手拍子を求めるシーン。観客が手拍子をしやすいように、録音済みの手拍子の音を流して選手を後押しした。記録が表示されると、口笛や拍手の音が流れて選手も見ている側も気分が昂まる。新井涼平(スズキ)が今季日本最高となる82m99を投げた際には、会場全体のどよめきと拍手は一段と大きくなった。
やり投から、トラック予選、走幅跳、トラック決勝という順で進む。インフィールド席の観客は、その都度場所を移動。実施するのは1つだけで、その種目だけを楽しめるようになっているのもこの大会の魅力だ。

大会の特徴の一つが「生解説」。トラック、走幅跳、やり投に分かれて選手のパフォーマンスを場内のスピーカーで解説する。北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士氏(富士通)、大阪・清風高の坂部雄作先生、中京大部長の田内健二氏がそれぞれ担当。場内解説陣は選手の小ネタや、愛のある技術的指摘を挟み、それを聞く選手本人にも笑顔が見られた。今回は大会の様子を動画アプリで配信。解説は、ロンドン五輪4×100mリレー銅メダルメンバーの藤光謙司氏が務めた。
笑顔と感動が溢れた「ライブ」
トラック種目が始まってからは雨が降ったり止んだりとタイムが出にくいコンディションとなる。それでも、女子は100mで君嶋愛梨沙(土木管理総合)が11秒40(+0.6)の大会新で優勝。100mハードルでは青木益未(七十七銀行)が12秒92(-0.1)、同タイム着差ありで福部真子(日本建設工業)が2位に入り、ともに大会新記録をなった。
青木と福部は同タイムだとわかると、2人で顔を合わせて笑い合う。それを見た観客も、拍手とともにたくさんの笑顔が見られた。より近くでレースを見られるからこそ、伝わる感情も鮮明になる。今大会のテーマは「陸上は、ライブだ!」。会場全体が一体となる時が、感動が大きくなる瞬間でもあった。


目玉である男子100mは坂井隆一郎(大阪ガス)が10秒21(±0)で初制覇を果たしたが、フィニッシュ直前には2位に入ったデーデー・ブルーノ(セイコー)や3位の上山紘輝(住友電工)と混戦に。見る人誰もが興奮する展開に、ラストまで会場の雰囲気はヒートアップしていた。
すべてのはじまりは2017年の日本インカレ。当時東洋大の桐生祥秀(日本生命)が、このスタジアムで日本人初の100m9秒台となる9秒98をマークした。その記録がそのままスタジアムの愛称に。その時、「陸上でこんなにも盛り上がるのか」と福井陸協の木原靖之・専務理事は感動を覚えた。福井から感動を届けたいという思いから欧米のような雰囲気のナイター競技会の開催へ奔走。クラウドファンディングで選手の「競技活動資金=賞金」や招待費を収集するなど、アイデアを出し合って実現にこぎ着けた。
今年も目標金額を達成する647万2000円の支援が集まり、砂場やトラックのすぐ横で観戦できるスペシャルシートは完売。スタンドの一般席は、コロナ禍や天候の影響もあり、昨年よりも購入数は少なかったが、それでもここまでの盛り上がりを見せた。

悪天候の中でも、多くの観客が会場へ訪れて盛り上がりを見せた
「今回は『やれることは全部やろう』と、企画会社も一新した」と木原専務理事。常に新しい視点を持って、いかに選手・観客に楽しんでもらえるかを試行錯誤してきた。来年以降も「バドミントンや卓球、水泳など、他競技ともコラボをしたい」とさらに大会を盛り上げるべく、さまざまな取り組みを考えているという。
2019年の“奇跡の夜”のような日本新連発とはならなかったが、悪天候の中でもたくさんの笑顔が生まれた。記録だけにこだわらず、その場の空気を存分に楽しむ。選手、観客、関係者まで大会に関わるすべての人が、陸上を通して感動と幸せを共有できる。それもまた、一つの小さな“奇跡”だった。福井の熱い夏はこれからも進化して続いていくことだろう。
文/松尾美咲
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迫力満点のフィールド種目
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地元のクラブチームの子供たちが手作りの団扇やボードを持って選手を応援していた
過去3大会で行われていたトラック種目と男子走幅跳に加えて、今回は男子やり投と女子走幅跳を実施。初の投てき種目となったやり投では、世界選手権代表のディーン元気(ミズノ)からの提案もあり、選手と同じテントにクラウドファンディングのリターン席を作った。ウォーミングアップから競技中まで、すべての時間を選手と同じ目線で観戦。観客は迫力と好パフォーマンスに圧倒されていた。
「真横に観客の方がいたので、会話をしながら競技していました」とディーン。近くで見ていた子供とコミュニケーションも取ったという。「雨の中でもこれだけの人が集まり、楽しかったです」。選手、観客がともに楽しめる空間だった。
フィールド種目特有の、選手が助走で観客に手拍子を求めるシーン。観客が手拍子をしやすいように、録音済みの手拍子の音を流して選手を後押しした。記録が表示されると、口笛や拍手の音が流れて選手も見ている側も気分が昂まる。新井涼平(スズキ)が今季日本最高となる82m99を投げた際には、会場全体のどよめきと拍手は一段と大きくなった。
やり投から、トラック予選、走幅跳、トラック決勝という順で進む。インフィールド席の観客は、その都度場所を移動。実施するのは1つだけで、その種目だけを楽しめるようになっているのもこの大会の魅力だ。
大会の特徴の一つが「生解説」。トラック、走幅跳、やり投に分かれて選手のパフォーマンスを場内のスピーカーで解説する。北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士氏(富士通)、大阪・清風高の坂部雄作先生、中京大部長の田内健二氏がそれぞれ担当。場内解説陣は選手の小ネタや、愛のある技術的指摘を挟み、それを聞く選手本人にも笑顔が見られた。今回は大会の様子を動画アプリで配信。解説は、ロンドン五輪4×100mリレー銅メダルメンバーの藤光謙司氏が務めた。
笑顔と感動が溢れた「ライブ」
トラック種目が始まってからは雨が降ったり止んだりとタイムが出にくいコンディションとなる。それでも、女子は100mで君嶋愛梨沙(土木管理総合)が11秒40(+0.6)の大会新で優勝。100mハードルでは青木益未(七十七銀行)が12秒92(-0.1)、同タイム着差ありで福部真子(日本建設工業)が2位に入り、ともに大会新記録をなった。 青木と福部は同タイムだとわかると、2人で顔を合わせて笑い合う。それを見た観客も、拍手とともにたくさんの笑顔が見られた。より近くでレースを見られるからこそ、伝わる感情も鮮明になる。今大会のテーマは「陸上は、ライブだ!」。会場全体が一体となる時が、感動が大きくなる瞬間でもあった。
目玉である男子100mは坂井隆一郎(大阪ガス)が10秒21(±0)で初制覇を果たしたが、フィニッシュ直前には2位に入ったデーデー・ブルーノ(セイコー)や3位の上山紘輝(住友電工)と混戦に。見る人誰もが興奮する展開に、ラストまで会場の雰囲気はヒートアップしていた。
すべてのはじまりは2017年の日本インカレ。当時東洋大の桐生祥秀(日本生命)が、このスタジアムで日本人初の100m9秒台となる9秒98をマークした。その記録がそのままスタジアムの愛称に。その時、「陸上でこんなにも盛り上がるのか」と福井陸協の木原靖之・専務理事は感動を覚えた。福井から感動を届けたいという思いから欧米のような雰囲気のナイター競技会の開催へ奔走。クラウドファンディングで選手の「競技活動資金=賞金」や招待費を収集するなど、アイデアを出し合って実現にこぎ着けた。
今年も目標金額を達成する647万2000円の支援が集まり、砂場やトラックのすぐ横で観戦できるスペシャルシートは完売。スタンドの一般席は、コロナ禍や天候の影響もあり、昨年よりも購入数は少なかったが、それでもここまでの盛り上がりを見せた。
悪天候の中でも、多くの観客が会場へ訪れて盛り上がりを見せた
「今回は『やれることは全部やろう』と、企画会社も一新した」と木原専務理事。常に新しい視点を持って、いかに選手・観客に楽しんでもらえるかを試行錯誤してきた。来年以降も「バドミントンや卓球、水泳など、他競技ともコラボをしたい」とさらに大会を盛り上げるべく、さまざまな取り組みを考えているという。
2019年の“奇跡の夜”のような日本新連発とはならなかったが、悪天候の中でもたくさんの笑顔が生まれた。記録だけにこだわらず、その場の空気を存分に楽しむ。選手、観客、関係者まで大会に関わるすべての人が、陸上を通して感動と幸せを共有できる。それもまた、一つの小さな“奇跡”だった。福井の熱い夏はこれからも進化して続いていくことだろう。
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