◇オレゴン世界陸上(7月15日~24日/米国・オレゴン州ユージン)10日目
オレゴン世界陸上の最終10日目は8種目の決勝と男子十種競技後半が行われた。怒涛の決勝ラッシュの中で、各種目で繰り広げられるハイレベルの激戦にヘイワード・フィールドは大盛り上がり。その最高潮は大会のフィナーレにやってきた。
スタンドの観客が熱狂したのは最終種目の男女4×400mリレー。男子、女子の順で行われ、400m金メダリストのマイケル・ノーマンを2走に起用した男子は、そのノーマンで独走態勢を築いてそのまま逃げ切り。パフォーマンス世界歴代9位の2分56秒17で2連覇を飾った。
続く女子も、200m5位のアビー・スタイナーで抜け出し、最後は400mハードルで驚愕の世界新50秒68を樹立したシドニー・マクラフリンがラップ47秒91の激走で締め、こちらもパフォーマンス世界歴代9位の3分17秒79で3連覇。前日の4×100mリレーではできなかった男女Vを2大会連続で成し遂げ、今大会の金メダル数を「13」とした。
銀メダル9個、銅メダル11個で、総獲得メダルは33個。プレイシングテーブル(1位8点、8位1点として国別対抗)は328点で、2位のジャマイカ(110点)にトリプルスコア。陸上大国のプライドを懸けた大会で、改めてその強さを見せつける大会となった。
そして、大会を最後を圧巻のパフォーマンスで締めくくったのが、男子棒高跳のアルマンド・デュプランティス(スウェーデン)。6m00をただ1人クリアして世界陸上初優勝を決めた22歳の天才ボウルターは、大会新の6m06も一発でクリアすると、自らが3月の世界室内選手権で出した世界記録を1cm上回る6m21にバーを上げた。
4×400mリレー決勝が行われる中で、1回目を失敗。2回目は全競技が終わり、今大会最後のアスリートとして迎えた。その中で、鮮やかにオレゴンの空に舞ったデュプランティス。見事な世界新ジャンプで、世界中を熱狂させた。
「今日はレコードについてはあまり考えていなかった。それ(記録)は常に僕の心の奥底にあるが、今日、僕は勝負に勝つことだけに集中していた。本当に金メダルが欲しかったんだ」
大会を締めくくるアスリートになったことについて「かなりのプレッシャーだった」と言うが、「スタンドの人たちが僕のためだけに席にとどまってくれた。これは名誉なことだよ」と語った。
女子100mハードルでも世界新が誕生。イブニングセッション開始直後の準決勝1組で、トビ・アムサン(ナイジェリア)が同走だったケンドラ・ハリソン(米国)が保持する12秒20の世界記録を0.08秒塗り替える12秒12(+0.9)をマークした。
「自分の能力を信じているけど、この大会で世界記録を出せるとは思っていなかった。夢が実現できた。準決勝でタイマーを見た時には信じられなかったけど、自分の中に可能性があることはわかっていたし、(新記録は)時間の問題だと思っていた」
それだけでは終わらない。決勝も中盤から抜け出し、12秒06の大記録を樹立。追い風2.5mで参考記録にはなったが、女子100mハードル初の12秒1台、12秒0台という歴史的快走で、初の金メダルに輝いた。
五輪チャンピオンたちも、それぞれが力を示した。午前6時15分にスタートした男子35km競歩は、マッシモ・スタノ(イタリア)が2時間23分14秒で金メダル。1秒差で川野将虎(旭化成)を抑え、東京五輪20kmに続いてまたも日本勢の壁として立ちはだかった。
男子5000mはヤコブ・インゲブリグトセン(ノルウェー)がラスト勝負を制し、13分09秒24で初優勝。5日目の1500mは終盤競り負けて東京五輪に続く世界大会連勝を逃したが、この種目で北欧勢初の金メダルに輝いた。
女子800mは東京五輪と金メダルのアシング・ムー(米国)と、銀メダルのケリー・ホジキンソン(英国)が再び激闘。ムーが今季世界最高の1分56秒30で五輪に続いて優勝を飾り、ホジキンソンは0.08秒差でまたも2位だった。
女子走幅跳はマライカ・ミハンボが2回連続ファウルのピンチを、3回目の6m98(+1.2)で脱し、4回目の7m09(+0.4)で逆転首位に。そのまま逃げ切りVが決まった後の最終跳躍で今季ベストの7m12(+1.0)をマークして、前回のドーハ大会、東京五輪と合わせた世界大会3連勝に華を添えた。
2日間に渡って激闘を繰り広げた男子十種競技は、世界記録(9126点)保持者のケヴィン・マイヤー(フランス)が今季ベストの8816点で2大会ぶりの「キング・オブ・アスリート」復権を果たした。
前回は6種目めの110mハードルで左脚を痛め、8種目めの棒高跳で途中棄権するな、近年はケガが多く第一人者としての実力を発揮できていなかった。しかし、東京五輪覇者のダミアン・ワーナー(カナダ)が5種目めの400mで途中棄権する波乱含みの中で堅実に得点を重ね、再び世界の頂点に立った。
日本勢は、最終日も躍動。男子35km競歩は東京五輪50km6位の川野が、スタノとの激闘に1秒差で敗れたものの日本最高の2時間23分15秒で銀メダル。野田明宏(自衛隊体育学校)が入賞にあと8秒の9位、26位だった松永大介(富士通)もスタート直後から大逃げするなど見せ場を作った。
女子100mハードル準決勝には、史上初めて複数人で進出。1組の福部真子(日本建設工業)が8着ながら12秒82の日本新記録をマークした。2組の青木益未(七十七銀行)も13秒04(-0.1)で6着と健闘した。
日本勢の最終種目となった男子4×400mリレーは、2着通過した前日の予選と同じ1走・佐藤風雅(那須環境技術センター)、2走・川端魁人(中京大クラブ)、3走ウォルシュ・ジュリアン(富士通)、アンカー・中島佑気ジョセフ(東洋大)で臨み、悲願の2分台突入となる2分59秒51のアジア新で4位入賞を果たした。
3位のベルギーと0.79秒差で惜しくも初のメダル獲得はならなかったが、2003年パリ大会の7位を上回る世界陸上最高成績。五輪を含めても2004年アテネ五輪の4位に並ぶ世界大会最高成績を残した。
タイムも1996年アトランタ五輪と昨年の東京五輪で出した3分00秒76の日本記録を、東京五輪でインドが作った3分00秒25のアジア記録を更新。2分台は日本初、アジアにとっても初だった。
大会を通じて好天に恵まれ、「ヘイワード・マジック」と称される高速トラックが幾多の好記録、名勝負を生み出した。世界新記録は男子棒高跳、女子100mハードル、400mハードルの3種目、その他の大会新記録は男女各4種目でそれぞれ樹立された。
日本勢は金1、銀2、銅1の史上最多4個のメダルを獲得したほか、入賞は5、日本新は男子4×400mリレー、女子100mハードル、4×100mリレーの3種目で樹立されるなど、世界を相手に確かな足跡を残した。
■10日目優勝一覧
【男子】
5000m ヤコブ・インゲブリグトセン(ノルウェー) 13分09秒24
35㎞競歩 マッシモ・スタノ(イタリア)2時間23分14
4×400mR 米国 2分56秒17
棒高跳 アルマンド・デュプランティス(ポルトガル) 6m21=世界新
十種競技 ケヴィン・マイヤー(フランス) 8816点
【女子】
800m アシング・ムー(米国) 1分56秒30
100mH トビ・アムサン(ナイジェリア) 12秒06(+2.5)
4×400mR 米国 3分17秒79
走幅跳 マライカ・ミハンボ(ドイツ) 7m12(+1.0)
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