HOME 特集

2021.08.07

クローズアップ/過去の自分を超える―新谷仁美、信頼する仲間とともに2大会ぶり五輪へ
クローズアップ/過去の自分を超える―新谷仁美、信頼する仲間とともに2大会ぶり五輪へ


東京五輪の陸上競技、最終種目は8月8日の男子マラソン(札幌)だが、国立競技場での開催は今日のイブニングセッションが最後となる。

日本から出場するのは女子10000m決勝だけ。日本記録保持者の新谷仁美(積水化学)と、5000mで日本新記録を樹立して9位に入った廣中璃梨佳(日本郵政グループ)、安藤友香(ワコール)が、この種目では1996年アトランタ五輪(千葉真子5位、川上優子7位)以来の入賞を目指す。

広告の下にコンテンツが続きます

現役復帰してから衝撃的な進化

新谷の覚悟は相当に強い。5000mでも代表に内定したものの、10000m1本に専念するために辞退。新谷にとっては2012年ロンドン五輪以来となるオリンピックだ。

ロンドン五輪では福士加代子、吉川美香と3人で飛び出してレースを作り、新谷は当時自己記録の30分59秒19で9位。5000mでも自己新(15分10秒20)だったが10位と入賞に届かなかった。

翌年のモスクワ世界選手権10000mでは5位入賞と健闘したが、メダルを逃して涙を浮かべている。そして同年度を最後に、足裏のケガなどもあって一度はトラックを去った。

OL生活を経たのち、「走ることは嫌いでも得意。生活のために走る」と現役復帰したのが18年。翌シーズンにはドーハ世界選手権に出場するという驚異的な復帰劇を見せた。2020年には1月にハーフマラソン日本新、9月に5000mで日本歴代2位となる14分55秒83。さらに12月の日本選手権10000mでは18年ぶりの日本新となる30分20秒44で、いち早く東京五輪代表内定を勝ち取った。

新谷には過去を塗り替えたい理由がある。

一つは厳しい体重制限をかけて追い込んだことで結果を“つかんでしまった”こと。モスクワ世界選手権では、「絶対に真似してほしくない」と言うほど自分を追い込んだ。現在はそういった調整法ではなく「練習をして結果を出す」ことを大切にしている。

横田コーチと信頼関係を築き上げてきた

もう一つは頼れる仲間の存在。以前は他人に頼ることを極端に避けてきた。それが「自分の強さでもあった」と言う。だが、現役復帰してからは、時間をかけて、ぶつかり合いながら横田真人コーチ(TWOLAPS TC)と関係を築き上げてきた。誰にも頼らない強さではなく、仲間に支えられているからこその強さを示すためにも、過去の自分を超えたいのだ。

支えてくれた人たちのために

コロナ禍にあって、人一倍繊細な新谷はアスリートやスポーツの意義について深く考えた。インタビューやSNSで複雑な思いを吐露し、今年の日本選手権5000mも欠場を考えたほど。だが、新谷は逃げなかった。

10000mでは世界新記録が立て続けに更新されており、アフリカ勢を中心とする海外選手と相対するのは簡単なことではない。一矢報いる可能性があるとすれば、様子を見合う選手たちを尻目に日本勢が引っ張り続け、何人あきらめさせられるかという展開かもしれない。

スタート前はいつも不安そうな様子を見せる新谷
極度の〝アガリ症〟で、どんなレースでもギリギリまで「代わりに走って」とこぼす新谷。かつては泣きながら母に電話したこともある。だが、いつも、号砲が鳴った瞬間、その目つきはアスリートのそれへと変わる。

「世界と戦う。メダルを取る。それが仕事」

復帰以降、支えてくれた人たちの、そしてオリンピック開催と選手を応援してくれる人たちの思いを背負い、96年アトランタ以来の入賞、そして10000m五輪初メダルへと『結果』を求めて突っ走る。

文/向永拓史

東京五輪の陸上競技、最終種目は8月8日の男子マラソン(札幌)だが、国立競技場での開催は今日のイブニングセッションが最後となる。 日本から出場するのは女子10000m決勝だけ。日本記録保持者の新谷仁美(積水化学)と、5000mで日本新記録を樹立して9位に入った廣中璃梨佳(日本郵政グループ)、安藤友香(ワコール)が、この種目では1996年アトランタ五輪(千葉真子5位、川上優子7位)以来の入賞を目指す。

現役復帰してから衝撃的な進化

新谷の覚悟は相当に強い。5000mでも代表に内定したものの、10000m1本に専念するために辞退。新谷にとっては2012年ロンドン五輪以来となるオリンピックだ。 ロンドン五輪では福士加代子、吉川美香と3人で飛び出してレースを作り、新谷は当時自己記録の30分59秒19で9位。5000mでも自己新(15分10秒20)だったが10位と入賞に届かなかった。 翌年のモスクワ世界選手権10000mでは5位入賞と健闘したが、メダルを逃して涙を浮かべている。そして同年度を最後に、足裏のケガなどもあって一度はトラックを去った。 OL生活を経たのち、「走ることは嫌いでも得意。生活のために走る」と現役復帰したのが18年。翌シーズンにはドーハ世界選手権に出場するという驚異的な復帰劇を見せた。2020年には1月にハーフマラソン日本新、9月に5000mで日本歴代2位となる14分55秒83。さらに12月の日本選手権10000mでは18年ぶりの日本新となる30分20秒44で、いち早く東京五輪代表内定を勝ち取った。 新谷には過去を塗り替えたい理由がある。 一つは厳しい体重制限をかけて追い込んだことで結果を“つかんでしまった”こと。モスクワ世界選手権では、「絶対に真似してほしくない」と言うほど自分を追い込んだ。現在はそういった調整法ではなく「練習をして結果を出す」ことを大切にしている。 横田コーチと信頼関係を築き上げてきた もう一つは頼れる仲間の存在。以前は他人に頼ることを極端に避けてきた。それが「自分の強さでもあった」と言う。だが、現役復帰してからは、時間をかけて、ぶつかり合いながら横田真人コーチ(TWOLAPS TC)と関係を築き上げてきた。誰にも頼らない強さではなく、仲間に支えられているからこその強さを示すためにも、過去の自分を超えたいのだ。

支えてくれた人たちのために

コロナ禍にあって、人一倍繊細な新谷はアスリートやスポーツの意義について深く考えた。インタビューやSNSで複雑な思いを吐露し、今年の日本選手権5000mも欠場を考えたほど。だが、新谷は逃げなかった。 10000mでは世界新記録が立て続けに更新されており、アフリカ勢を中心とする海外選手と相対するのは簡単なことではない。一矢報いる可能性があるとすれば、様子を見合う選手たちを尻目に日本勢が引っ張り続け、何人あきらめさせられるかという展開かもしれない。 スタート前はいつも不安そうな様子を見せる新谷 極度の〝アガリ症〟で、どんなレースでもギリギリまで「代わりに走って」とこぼす新谷。かつては泣きながら母に電話したこともある。だが、いつも、号砲が鳴った瞬間、その目つきはアスリートのそれへと変わる。 「世界と戦う。メダルを取る。それが仕事」 復帰以降、支えてくれた人たちの、そしてオリンピック開催と選手を応援してくれる人たちの思いを背負い、96年アトランタ以来の入賞、そして10000m五輪初メダルへと『結果』を求めて突っ走る。 文/向永拓史

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

         

Latest articles 最新の記事

2026.05.07

関西実業団選手権に前回100mVの小池祐貴、多田修平らが登録 女子5000mには新谷仁美が出場予定

関西実業団連盟は5月7日までに、第70回関西実業団選手権(5月23日~25日/たけびしスタジアム京都)のエントリーリストを発表した。 男子100mでは前回大会初優勝を飾った小池祐貴(住友電工)が今年もエントリー。ケガから […]

NEWS 東日本実業団選手権のエントリー発表 110mHに高山峻野、横地大雅 女子短距離に井戸アビゲイル風果が登録

2026.05.07

東日本実業団選手権のエントリー発表 110mHに高山峻野、横地大雅 女子短距離に井戸アビゲイル風果が登録

東日本実業団連盟は5月7日、第68回東日本実業団選手権(5月15日~17日)のエントリーリストを発表した。 男子110mハードルには元日本記録保持者でパリ五輪代表の高山峻野(ゼンリン)がエントリー。ブダペスト世界選手権代 […]

NEWS 仙台国際ハーフ 招待選手の小林香菜、川内優輝が欠場 中山顕、鈴木千晴らも出場見送り

2026.05.07

仙台国際ハーフ 招待選手の小林香菜、川内優輝が欠場 中山顕、鈴木千晴らも出場見送り

仙台国際ハーフマラソンの実行委員会は5月7日、今週日曜に開催されるレースの欠場者を発表し、招待選手では女子の小林香菜(大塚製薬)と男子の川内優輝が故障のため出場を見送ることになった。 小林は昨年9月の東京世界選手権女子マ […]

NEWS 男子短距離・桐生祥秀がHLBスポーツとマネジメント契約 水谷隼さんらも在籍

2026.05.07

男子短距離・桐生祥秀がHLBスポーツとマネジメント契約 水谷隼さんらも在籍

男子短距離の桐生祥秀(日本生命)が、株式会社HLBスポーツとマネジメント契約を締結したことを発表した。 桐生は1995年生まれ、滋賀県出身の30歳。100mで京都・洛南高時代に当時高校記録となる10秒01をマークすると、 […]

NEWS 赤坂の空へ大ジャンプ!セイコーGGPプレイベント「ストリートボウタカin赤坂サカス」開催

2026.05.06

赤坂の空へ大ジャンプ!セイコーGGPプレイベント「ストリートボウタカin赤坂サカス」開催

5月17日に開催されるセイコーゴールデングランプリへの機運醸成を目指したプレイベント「ストリートボウタカin赤坂サカス」が5月6日、TBS社屋前の赤坂Sakas広場で開催された。 広場には棒高跳のピットが設置され、それを […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2026年5月号 (4月14日発売)

2026年5月号 (4月14日発売)

2026シーズン展望
中距離特集ほか

page top