HOME 特集

2020.12.05

クローズアップ/ニッポン長距離「魂」の継承者10000m日本新・相澤晃の実績を振り返る
クローズアップ/ニッポン長距離「魂」の継承者10000m日本新・相澤晃の実績を振り返る

 12月4日の日本選手権・長距離。男子10000mで衝撃の快走を見せたのが相澤晃(旭化成)だった。

 序盤から先頭集団でレースを進めた相澤。その集団には、連覇を狙う田村和希(住友電工)、旭化成の大先輩・鎧坂哲哉に、生きるレジェンドとも言える佐藤悠基(SGホールディングスグループ)、さらにはマラソン日本記録保持者の大迫傑(Nike)もいた。そして、同世代のライバル・伊藤達彦(Honda)の姿も。

広告の下にコンテンツが続きます

 だが、相澤は冷静なレース運びを見せると、6000m以降の田村、伊藤によるペースアップにも対応。8000mからは外国人との一騎打ちに。ラストまでリズムのいい走りは乱れることなく、27分18秒75の日本新記録を打ち立てて初優勝。2015年に村山紘太(旭化成)が作った日本記録27分29秒69を5年ぶりに10秒以上も更新し、条件を満たして東京五輪代表に内定した。

 相澤は東洋大をこの春に卒業した実業団ルーキー。大学時代は「学生長距離のエース」として輝きを放った。以下が三大駅伝の個人成績。

■三大駅伝成績
1年時(16年度)
出雲―/全日本3区4位/箱根―
2年時(17年度)
出雲2区6位/全日本1区区間賞/箱根2区3位
3年時(18年度)
出雲1区2位/全日本8区区間賞箱根4区区間賞
4年時(19年度)
出雲3区区間賞(新)全日本3区区間賞(新)箱根2区区間賞(新)

 4年時には学生駅伝すべてで区間新記録での区間賞。特に箱根駅伝では、“花の2区”と言われる23.1kmで史上初の1時間5分台となる1時間5分57秒をマークし、不滅と思われたメクボ・ジョブ・モグス(山梨学大)の区間記録1時間6分04秒を11年ぶりに更新した。MVPに当たる金栗四三杯を受賞。ちなみにこの賞には「箱根から世界へ」という創設者・金栗氏の思いが込められている。記録もさることながら、東京国際大の伊藤達彦との15kmにも及ぶ並走は大きな話題を呼んだ。

 福島県須賀川市出身。地元の英雄には、1964年京五輪マラソン・10000m代表の円谷幸吉がいる。その円谷の名を冠した「円谷ランナーズ」で陸上を始めた。地元・学法石川高では松田和宏先生の指導で成長。だが、同期に阿部弘輝(明大→住友電工)、田母神一喜(中大→阿見AC)らがおり、1学年下に遠藤日向(住友電工)と、豪華なメンバーがそろっていたため、全国高校駅伝には3年連続で出場し、5000m13分台を持っていながらも、どちらかと言えば陰に隠れた存在だった。

 東洋大では酒井俊幸監督の指導で力をつけた相澤は、トラック・ロードとも強さを発揮。19年度は駅伝以外にも、ユニバーシアード・ハーフマラソン優勝と実績を残している。

 そんな相澤だが、今年は1月の都道府県男子駅伝でふくらはぎに痛みを抱え(それでも7区区間賞!)、2月には胃腸炎、5月に右脚を痛めるなど、厳しい状況が続いた。「10000mで東京五輪に」を目標としていたが、この時点で参加標準記録さえ突破できていなかった。

 ところが、実業団デビュー戦となった10月の記録会で10000mに出場し、27分55秒76の自己新。この記録で日本選手権の出場権を得ると、11月の九州実業団駅伝で3区区間新の区間賞で優勝に貢献し、満を持して日本選手権を迎えた。

 日本選手権では、箱根2区を彷彿とさせる伊藤と競り合うシーンも。2位に敗れた伊藤も東京五輪の参加標準記録を突破し、来年の結果次第でそろって東京五輪代表に決まるかもしれない。今後、どこまで“一緒”に日本長距離界を牽引していくのだろうか。

 高校、大学、そして旭化成と数々の名ランナーを送り出してきたチームで成長し1964年東京五輪で国民の期待を一身に背負って駆け抜けた円谷幸吉の魂を継ぎ、1911年ストックホルム五輪に日本人第一号として出場し箱根駅伝創設に寄与した金栗四三の想い「箱根から世界へ」を体現する相澤晃。まるで、日本長距離の“DNA”をすべて継承しているようだ。学生長距離のエースから、日本のエースへ。その物語はまだ始まったばかりだ。

あいざわ・あきら/1997年7月18日生まれ。福島県出身。178cm、62kg。学法石川高(福島)→東洋大→旭化成。

■相澤晃の年次ベスト
・5000m
13年(高1) 14.26.39
14年(高2) 14.10.63
15年(高3) 13.54.75
16年(大1) 14.10.17
17年(大2) 13.48.73
18年(大3) 13.40.98
19年(大4) 13.34.94
・10000m
14年(高2) 30.48.17
15年(高3) ――
16年(大1) ――
17年(大2) 28.44.19
18年(大3) 28.17.81
19年(大4) 28.32.42
20年    27.18.75=日本記録

 12月4日の日本選手権・長距離。男子10000mで衝撃の快走を見せたのが相澤晃(旭化成)だった。  序盤から先頭集団でレースを進めた相澤。その集団には、連覇を狙う田村和希(住友電工)、旭化成の大先輩・鎧坂哲哉に、生きるレジェンドとも言える佐藤悠基(SGホールディングスグループ)、さらにはマラソン日本記録保持者の大迫傑(Nike)もいた。そして、同世代のライバル・伊藤達彦(Honda)の姿も。  だが、相澤は冷静なレース運びを見せると、6000m以降の田村、伊藤によるペースアップにも対応。8000mからは外国人との一騎打ちに。ラストまでリズムのいい走りは乱れることなく、27分18秒75の日本新記録を打ち立てて初優勝。2015年に村山紘太(旭化成)が作った日本記録27分29秒69を5年ぶりに10秒以上も更新し、条件を満たして東京五輪代表に内定した。  相澤は東洋大をこの春に卒業した実業団ルーキー。大学時代は「学生長距離のエース」として輝きを放った。以下が三大駅伝の個人成績。 ■三大駅伝成績 1年時(16年度) 出雲―/全日本3区4位/箱根― 2年時(17年度) 出雲2区6位/全日本1区区間賞/箱根2区3位 3年時(18年度) 出雲1区2位/全日本8区区間賞箱根4区区間賞 4年時(19年度) 出雲3区区間賞(新)全日本3区区間賞(新)箱根2区区間賞(新)  4年時には学生駅伝すべてで区間新記録での区間賞。特に箱根駅伝では、“花の2区”と言われる23.1kmで史上初の1時間5分台となる1時間5分57秒をマークし、不滅と思われたメクボ・ジョブ・モグス(山梨学大)の区間記録1時間6分04秒を11年ぶりに更新した。MVPに当たる金栗四三杯を受賞。ちなみにこの賞には「箱根から世界へ」という創設者・金栗氏の思いが込められている。記録もさることながら、東京国際大の伊藤達彦との15kmにも及ぶ並走は大きな話題を呼んだ。  福島県須賀川市出身。地元の英雄には、1964年京五輪マラソン・10000m代表の円谷幸吉がいる。その円谷の名を冠した「円谷ランナーズ」で陸上を始めた。地元・学法石川高では松田和宏先生の指導で成長。だが、同期に阿部弘輝(明大→住友電工)、田母神一喜(中大→阿見AC)らがおり、1学年下に遠藤日向(住友電工)と、豪華なメンバーがそろっていたため、全国高校駅伝には3年連続で出場し、5000m13分台を持っていながらも、どちらかと言えば陰に隠れた存在だった。  東洋大では酒井俊幸監督の指導で力をつけた相澤は、トラック・ロードとも強さを発揮。19年度は駅伝以外にも、ユニバーシアード・ハーフマラソン優勝と実績を残している。  そんな相澤だが、今年は1月の都道府県男子駅伝でふくらはぎに痛みを抱え(それでも7区区間賞!)、2月には胃腸炎、5月に右脚を痛めるなど、厳しい状況が続いた。「10000mで東京五輪に」を目標としていたが、この時点で参加標準記録さえ突破できていなかった。  ところが、実業団デビュー戦となった10月の記録会で10000mに出場し、27分55秒76の自己新。この記録で日本選手権の出場権を得ると、11月の九州実業団駅伝で3区区間新の区間賞で優勝に貢献し、満を持して日本選手権を迎えた。  日本選手権では、箱根2区を彷彿とさせる伊藤と競り合うシーンも。2位に敗れた伊藤も東京五輪の参加標準記録を突破し、来年の結果次第でそろって東京五輪代表に決まるかもしれない。今後、どこまで“一緒”に日本長距離界を牽引していくのだろうか。  高校、大学、そして旭化成と数々の名ランナーを送り出してきたチームで成長し1964年東京五輪で国民の期待を一身に背負って駆け抜けた円谷幸吉の魂を継ぎ、1911年ストックホルム五輪に日本人第一号として出場し箱根駅伝創設に寄与した金栗四三の想い「箱根から世界へ」を体現する相澤晃。まるで、日本長距離の“DNA”をすべて継承しているようだ。学生長距離のエースから、日本のエースへ。その物語はまだ始まったばかりだ。 あいざわ・あきら/1997年7月18日生まれ。福島県出身。178cm、62kg。学法石川高(福島)→東洋大→旭化成。 ■相澤晃の年次ベスト ・5000m 13年(高1) 14.26.39 14年(高2) 14.10.63 15年(高3) 13.54.75 16年(大1) 14.10.17 17年(大2) 13.48.73 18年(大3) 13.40.98 19年(大4) 13.34.94 ・10000m 14年(高2) 30.48.17 15年(高3) ―― 16年(大1) ―― 17年(大2) 28.44.19 18年(大3) 28.17.81 19年(大4) 28.32.42 20年    27.18.75=日本記録 [gallery columns="4" link="file" ids="18757,18759,18705,8142,18758,7999,7998,8000"]

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.11.16

東大阪大敬愛 久保凛で反撃し初Vで都大路 男子は西脇工が新妻兄弟で大逆転2連覇 須磨学園が地区代表/近畿高校駅伝

全国高校駅伝の地区代表出場権を懸けた近畿高校駅伝は11月16日、奈良県宇陀市近畿高校駅伝特設コースで行われ、男子(7区間42.195km)は西脇工(兵庫)が2時間6分41秒で2連覇、女子(5区間21.0975km)は東大 […]

NEWS 橋岡優輝が家族での初教室「楽しみながら陸上に触れて」

2025.11.16

橋岡優輝が家族での初教室「楽しみながら陸上に触れて」

男子走幅跳日本代表の橋岡優輝(富士通)の陸上教室「HASHIOKA RUNNING ACADEMY FOR KIDS」が11月16日に都内で開かれた。 小学生を対象に、「一番身近で強力な助っ人」(橋岡)として、男子棒高跳 […]

NEWS 鳥取城北2時間3分41秒の大会新 女子は倉敷4年ぶりV 地区代表は広島国際学院11年ぶり&世羅20年連続/中国高校駅伝

2025.11.16

鳥取城北2時間3分41秒の大会新 女子は倉敷4年ぶりV 地区代表は広島国際学院11年ぶり&世羅20年連続/中国高校駅伝

全国高校駅伝の地区代表出場権を懸けた中国高校駅伝は11月16日、広島県三次市のみよし運動公園陸上競技場を発着点するコースで行われ、男子(7区間42.195km)は鳥取城北(鳥取)が2時間3分41秒の大会新で制した。女子( […]

NEWS 熊橋弘将が2時間11分45秒で日本勢最高 女子は初マラソンの酒井心希が3位 MGC出場権獲得ならず/神戸マラソン

2025.11.16

熊橋弘将が2時間11分45秒で日本勢最高 女子は初マラソンの酒井心希が3位 MGC出場権獲得ならず/神戸マラソン

神戸マラソン2025が11月16日、兵庫・神戸市役所前をスタートし、明石市大蔵海岸付近を折り返して、神戸ハーバーランド(神戸ガス燈通り)をフィニッシュとする42.195kmで行われ、男子はエリシャ・ロティッチ(ケニア)が […]

NEWS 國學院大のルーキー・野田顕臣がU20日本最高1時間1分29秒!「自分ができるところまでアピールを」/上尾ハーフ

2025.11.16

國學院大のルーキー・野田顕臣がU20日本最高1時間1分29秒!「自分ができるところまでアピールを」/上尾ハーフ

第38回上尾シティハーフマラソンは11月16日、埼玉県上尾市内で行われ、大学生男子の部は青木瑠郁(國學院大)が1時間0分45秒の日本人学生歴代10位タイの好記録で優勝した。國學院大のルーキー・野田顕臣がU20日本最高記録 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年12月号 (11月14日発売)

2025年12月号 (11月14日発売)

EKIDEN REVIEW
全日本大学駅伝
箱根駅伝予選会
高校駅伝&実業団駅伝予選

Follow-up Tokyo 2025

page top