HOME 特集

2024.05.28

サニブラウンが抱く日本陸上界への想い「小中高生にいろんな機会、チャンスを作りたい」主催大会DAWN GAMESを発足
サニブラウンが抱く日本陸上界への想い「小中高生にいろんな機会、チャンスを作りたい」主催大会DAWN GAMESを発足

サニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)

2022年オレゴン、2023年ブダペストと、世界選手権100mで2大会連続ファイナルに進んでいるサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)。15歳で世界デビューしてから、海外留学やプロ宣言など、数々の挑戦を続けてきた男が、パリ五輪イヤーに新たなチャレンジをスタートさせた。

小学生、中学生、高校生を対象とした競技会を“主宰”。『DAWN GAMES(ドーンゲームス=夜明け)』と名付けた大会は、6月に大阪、東京を舞台に東西の予選会を実施する。秋に開催する決勝大会ではサニブラウンも登壇するという。この大会を通し、どんなことを伝えたいのか。その思いを語った。

――5月19日のセイコーゴールデングランプリ、お疲れさまでした。予選は10秒07、決勝は脚のケイレンで8位でした。

「予選はめちゃくちゃ悔しかったです。スタートのやり直しがあり、集中力が切れてしまいました。練習通りの走りができず、全然ダメでした。決勝は、まだ2本目を走るトレーニングができていないことが影響しました。そのあたりはこれから増えていくと思います」

――昨年、構想を掲げた主宰大会『DAWN GAMES』がいよいよ始まります。あらためて思いをお聞かせください。

「日本の短距離の層を厚くしたい、そして陸上の人気を増やしたいと思った時に、まずは陸上人口を増やさないといけない。そのためにはやっぱり子どもたちの力が必要だと感じたんです。小中高にもっといろいろな機会、チャンスを作りたいという思いで大会をやろうと考えました」

広告の下にコンテンツが続きます

――自身もいろいろな“チャンス”をつかんできました。

「僕は高校を卒業してからアメリカを拠点としてきました。そのため、今の高校生や中学生、大学生まで含めて、『どんな感じだろう』と思ったところもあります。日本の短距離は、今でもレベルは高いと思います。ただ、アメリカくらい熾烈であってほしいなって思っていて。僕が15歳で世界選手権に出てから、トップの層の顔ぶれがあまり変わっていないのも事実。栁田大輝選手(東洋大)など徐々に若い選手も育っていますが、まだまだ足りないなって思っています」

――昨年は試験的に東京で競技会を開かれました。また、各地で陸上教室も開かれています。何か感じたことはありますか。

「みんなすごく真面目なんです。僕の高校生の時は違いますね(笑)。すごく真面目な質問が飛んできたり、正解がないような質問が来たりする。どう返そうか、と考えることもあり、子どもたちから学ぶことも多かったです。最終的には、やっぱり自分の目で見て、肌で感じてもらうのが一番だろうなって感じます」

――現役選手、しかも世界トップスプリンターが、今やることの意義とは。

「現役でいるからこそ、影響力があると思っています。最前線で戦っている今だから伝えられるものがある。そうすることで子どもたちにとってもモチベーションになれればと思います」

――DAWN GAMESの今年の流れを教えてください。

「今回は小4~高校生の男女100mが対象です。6月9日に大阪で西日本予選、29日に東京で東日本予選を行い、秋に決勝大会を東京で開きます。6月の予選はうかがえないのですが、僕が普段お世話になっている栄養士さんやトレーナーさんにも参加してもらって、レースだけではなく講習会も開く予定です。秋の決勝には僕も行きます」

――大会を考えるにあたって一番大切にしたことは。

「所属チームやレベルに関係なく、というところです。僕のキャリアも東京の本当に小さな大会から始まりました。みんなに平等にチャンスが与えられればいいなって思っていて。タイムが速い、遅いはもちろんありますが、結果にこだわらずに挑戦してほしい。そのマインドや大会・練習に臨むメンタル、そういう機会が得られれば。参加した経験だけでなく、それこそ一緒に走った選手同士でつながりもできますし、何か一つでも“お土産”を持って帰ってほしいです」

――将来的な展望はありますか。

「例えば、サッカー部など他競技の選手が参加できるのもいいなと思っています。やっぱり小学生、中学生くらいまではいろいろなスポーツをしてほしいですし、その中で才能がある選手もいる。アメリカでも高校までアメリカンフットボールをしていたという選手もいっぱいいます。将来的には、決勝の上位選手を対象に『TEAM Hakim』として、自分が拠点としているチームや、海外遠征、ダイヤモンドリーグ観戦など、そういう体験ができるような機会を作れればと思っています」

――こうした機会で陸上界がさらに盛り上がるといいですね。

「来年は東京で世界選手権もあります。サッカーのワールドカップや野球のWBCに比べるとまだまだ国民全体で応援する雰囲気はないと思うので、国立競技場を埋めて、パブリックビューイングするくらいまでになるといいですね。そのためには、こうした小さな大会もそうですし、今行われている日本グランプリシリーズなど、各地の大会でもっと観客が入るようにしていかないと」

――いよいよ『DAWN GAMES』が始まります。参加する子どもたちへのメッセージをお願いします。

「そんなに堅苦しい大会ではないので、気軽に応募してください!競技力に関係なく、本当にいろいろな人に参加してほしいと思っています」

『DAWN Games』開催概要
対象:小4〜高校生(参加費無料)

6/9西日本エリア予選(大阪・ヤンマースタジアム長居)
申し込み
6/29東日本エリア予選(東京・大井ふ頭中央海浜公園スポーツの森)
申し込み

◎サニブラウン・アブデル・ハキーム/1999年3月6日生まれ、25歳。東京・城西中、城西高時代から全国トップで活躍。高2の世界ユース選手権では100mと200mを大会新で2冠した。昨年の東京五輪には200mで出場。世界選手権には15、17、19、22、23年と5大会で代表入りし、100mでは22年オレゴン(7位)、23年オレゴン(6位)と2大会連続でファイナリストとなった。21年東京五輪200m代表。100mで10秒00を突破すればパリ五輪代表に内定する。自己ベストは100m9秒97、200m20秒08(いずれも日本歴代2位)

構成/向永拓史 撮影/船越陽一郎

2022年オレゴン、2023年ブダペストと、世界選手権100mで2大会連続ファイナルに進んでいるサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)。15歳で世界デビューしてから、海外留学やプロ宣言など、数々の挑戦を続けてきた男が、パリ五輪イヤーに新たなチャレンジをスタートさせた。 小学生、中学生、高校生を対象とした競技会を“主宰”。『DAWN GAMES(ドーンゲームス=夜明け)』と名付けた大会は、6月に大阪、東京を舞台に東西の予選会を実施する。秋に開催する決勝大会ではサニブラウンも登壇するという。この大会を通し、どんなことを伝えたいのか。その思いを語った。 ――5月19日のセイコーゴールデングランプリ、お疲れさまでした。予選は10秒07、決勝は脚のケイレンで8位でした。 「予選はめちゃくちゃ悔しかったです。スタートのやり直しがあり、集中力が切れてしまいました。練習通りの走りができず、全然ダメでした。決勝は、まだ2本目を走るトレーニングができていないことが影響しました。そのあたりはこれから増えていくと思います」 ――昨年、構想を掲げた主宰大会『DAWN GAMES』がいよいよ始まります。あらためて思いをお聞かせください。 「日本の短距離の層を厚くしたい、そして陸上の人気を増やしたいと思った時に、まずは陸上人口を増やさないといけない。そのためにはやっぱり子どもたちの力が必要だと感じたんです。小中高にもっといろいろな機会、チャンスを作りたいという思いで大会をやろうと考えました」 ――自身もいろいろな“チャンス”をつかんできました。 「僕は高校を卒業してからアメリカを拠点としてきました。そのため、今の高校生や中学生、大学生まで含めて、『どんな感じだろう』と思ったところもあります。日本の短距離は、今でもレベルは高いと思います。ただ、アメリカくらい熾烈であってほしいなって思っていて。僕が15歳で世界選手権に出てから、トップの層の顔ぶれがあまり変わっていないのも事実。栁田大輝選手(東洋大)など徐々に若い選手も育っていますが、まだまだ足りないなって思っています」 ――昨年は試験的に東京で競技会を開かれました。また、各地で陸上教室も開かれています。何か感じたことはありますか。 「みんなすごく真面目なんです。僕の高校生の時は違いますね(笑)。すごく真面目な質問が飛んできたり、正解がないような質問が来たりする。どう返そうか、と考えることもあり、子どもたちから学ぶことも多かったです。最終的には、やっぱり自分の目で見て、肌で感じてもらうのが一番だろうなって感じます」 ――現役選手、しかも世界トップスプリンターが、今やることの意義とは。 「現役でいるからこそ、影響力があると思っています。最前線で戦っている今だから伝えられるものがある。そうすることで子どもたちにとってもモチベーションになれればと思います」 ――DAWN GAMESの今年の流れを教えてください。 「今回は小4~高校生の男女100mが対象です。6月9日に大阪で西日本予選、29日に東京で東日本予選を行い、秋に決勝大会を東京で開きます。6月の予選はうかがえないのですが、僕が普段お世話になっている栄養士さんやトレーナーさんにも参加してもらって、レースだけではなく講習会も開く予定です。秋の決勝には僕も行きます」 ――大会を考えるにあたって一番大切にしたことは。 「所属チームやレベルに関係なく、というところです。僕のキャリアも東京の本当に小さな大会から始まりました。みんなに平等にチャンスが与えられればいいなって思っていて。タイムが速い、遅いはもちろんありますが、結果にこだわらずに挑戦してほしい。そのマインドや大会・練習に臨むメンタル、そういう機会が得られれば。参加した経験だけでなく、それこそ一緒に走った選手同士でつながりもできますし、何か一つでも“お土産”を持って帰ってほしいです」 ――将来的な展望はありますか。 「例えば、サッカー部など他競技の選手が参加できるのもいいなと思っています。やっぱり小学生、中学生くらいまではいろいろなスポーツをしてほしいですし、その中で才能がある選手もいる。アメリカでも高校までアメリカンフットボールをしていたという選手もいっぱいいます。将来的には、決勝の上位選手を対象に『TEAM Hakim』として、自分が拠点としているチームや、海外遠征、ダイヤモンドリーグ観戦など、そういう体験ができるような機会を作れればと思っています」 ――こうした機会で陸上界がさらに盛り上がるといいですね。 「来年は東京で世界選手権もあります。サッカーのワールドカップや野球のWBCに比べるとまだまだ国民全体で応援する雰囲気はないと思うので、国立競技場を埋めて、パブリックビューイングするくらいまでになるといいですね。そのためには、こうした小さな大会もそうですし、今行われている日本グランプリシリーズなど、各地の大会でもっと観客が入るようにしていかないと」 ――いよいよ『DAWN GAMES』が始まります。参加する子どもたちへのメッセージをお願いします。 「そんなに堅苦しい大会ではないので、気軽に応募してください!競技力に関係なく、本当にいろいろな人に参加してほしいと思っています」 『DAWN Games』開催概要 対象:小4〜高校生(参加費無料) 6/9西日本エリア予選(大阪・ヤンマースタジアム長居) 申し込み 6/29東日本エリア予選(東京・大井ふ頭中央海浜公園スポーツの森) 申し込み ◎サニブラウン・アブデル・ハキーム/1999年3月6日生まれ、25歳。東京・城西中、城西高時代から全国トップで活躍。高2の世界ユース選手権では100mと200mを大会新で2冠した。昨年の東京五輪には200mで出場。世界選手権には15、17、19、22、23年と5大会で代表入りし、100mでは22年オレゴン(7位)、23年オレゴン(6位)と2大会連続でファイナリストとなった。21年東京五輪200m代表。100mで10秒00を突破すればパリ五輪代表に内定する。自己ベストは100m9秒97、200m20秒08(いずれも日本歴代2位) 構成/向永拓史 撮影/船越陽一郎

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.04.30

26年ブダペスト開催の「世界陸上アルティメット選手権」やり投・北口榛花が出場権獲得

世界陸連(WA)は4月29日、2026年に新設する「世界陸上アルティメット選手権」の大会500日前を受け、昨年のパリ五輪の金メダリストに出場資格を与えることを発表した。女子やり投で金メダルを獲得した北口榛花(JAL)も含 […]

NEWS 100mH寺田明日香 恩師の訃報に「熱意と愛情を少しでも次の世代へ引き継げるように」

2025.04.30

100mH寺田明日香 恩師の訃報に「熱意と愛情を少しでも次の世代へ引き継げるように」

福島千里や寺田明日香ら女子短距離を中心に数々の名選手を育成した中村宏之氏が4月29日に79歳で他界したことを受け、寺田が自身のSNSを更新して思いを綴った。 寺田は北海道・恵庭北高時代に中村氏の指導を受け、100mハード […]

NEWS 9月の東京世界陸上に都内の子どもを無料招待 引率含め40,000人 6月から応募スタート

2025.04.30

9月の東京世界陸上に都内の子どもを無料招待 引率含め40,000人 6月から応募スタート

東京都は今年9月に国立競技場をメイン会場として開かれる世界選手権に都内の子どもたちを無料招待すると発表した。 「臨場感あふれる会場での観戦を通じて、都内の子供たちにスポーツの素晴らしさや夢と希望を届ける」というのが目的。 […]

NEWS 新しい形の競技会「THE GAME」が9月14日 大阪・万博記念競技場で開催決定!

2025.04.30

新しい形の競技会「THE GAME」が9月14日 大阪・万博記念競技場で開催決定!

「陸上競技の魅力を最大限に引き出し、観客と選手の双方にとって忘れられない体験を」をコンセプトに、三重県で開催されてきた『THE GAME』。今年は会場を大阪府。万博記念競技場を移して、9月14日に行われることが決まった。 […]

NEWS 中村宏之氏が79歳で死去 福島千里、寺田明日香、伊藤佳奈恵ら女子短距離日本記録保持者を育成

2025.04.30

中村宏之氏が79歳で死去 福島千里、寺田明日香、伊藤佳奈恵ら女子短距離日本記録保持者を育成

女子短距離で数々のトップ選手を育成した北海道ハイテクアスリートクラブ前監督の中村宏之氏が4月29日に逝去した。享年79。 中村氏は1945年6月9日生まれ。北海道・札幌東高,日体大で三段跳、走幅跳選手として活躍し、卒業後 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年4月号 (3月14日発売)

2025年4月号 (3月14日発売)

東京世界選手権シーズン開幕特集
Re:Tokyo25―東京世界陸上への道―
北口榛花(JAL) 
三浦龍司(SUBARU)
赤松諒一×真野友博
豊田 兼(トヨタ自動車)×高野大樹コーチ
Revenge
泉谷駿介(住友電工)

page top