2024.04.15
パリ五輪に向けた戦いがいよいよスタートした。春のトラック&フィールドシーズンから注目の選手を紹介する。
異色のハードラーが2種目で五輪に挑戦
日本の110mハードルには、泉谷駿介(住友電工)や村竹ラシッド(JAL)、400mハードルには黒川和樹(法大)ら、すでに世界で活躍するハードラーがいる。その2種目ともで世界を目指す異色の男がいる。
慶大4年の豊田兼だ。昨年は110mハードルで、学生世界一を決めるワールドユニバーシティゲームズに優勝。これは全カテゴリーを通じて初の優勝だった。さらに、400mハードルでは、日本インカレを優勝(東洋大・小川大輝と同時優勝)したあと、新潟で400mハードルに出場し、48秒47をマーク。パリ五輪参加標準記録(48秒70)を突破してみせた。
パリ五輪では「2種目で狙っていく」と強い思いをにじませる。
「大学に入学した時点で、4年生の時にパリ五輪があると思っていたので、そこから4年間での一番の目標にしてきました」
小学生の時にクラブチームで陸上を始め、東京・桐朋中でも陸上部に入った。当初は四種競技に取り組みつつ、ハードルや400mが得意だったこともあり、高校からで400mハードルに挑戦することを見据えていたという。中学時代に全国大会出場はなかった。
中・高一環のため、環境を変えずにトレーニングを積むと、1年目は110mハードルが15秒45、400mハードルは54秒40。その年の秋の新人戦で慶大の髙野大樹コーチが見た際には「とんでもない選手がいる」と感じたそうだ。
高2のインターハイ都大会でも衝撃が走った。110mハードル14秒85で2位、400mハードルは52秒85で優勝。身長190cmを超え、スケールの大きな走りに魅了された。コロナ禍に泣いた高校最終学年は全国高校大会で110mハードル4位、400mハードル5位だった。
慶大に進学すると、22年は飛躍の年に。主要タイトルには届かなかったが、13秒44と49秒76といういずれも学生トップクラスに成長している。そして、昨年、110mハードルでワールドユニバーシティゲームズを勝ち、13秒29(日本歴代6位)まで記録を短縮。これはパリ五輪参加標準記録(13秒27)まであと0.02秒に迫るもの。
「10月末の日本選手権リレーで少しケガをしたので、1ヵ月くらいは療養してから練習を再開しました」。冬場は慶大の競技場が改修のため「坂でハードルを跳んだり、ロング系の練習をしたりしてきました」という。
スマートな風貌とは想像つかないが、高校時代から「吐くほど追い込んで練習していた」と高校の恩師・外堀宏幸先生が明かしている。
身体作りは大学入学時から計画的に進めてきた。ウエイトトレーニングを週1、2回継続し、細身だった身体にも変化が現れている。
400mハードルはパリ五輪の参加標準記録を突破しているため、「2、3月は110mハードルに力を入れてきました」。記録を狙った3月末のシドニークラシック(豪州)は「攻めてタイムを狙いにいったのですが、木製のハードルに慣れていなかった」ことも影響し、6台目で接触して転倒し失格に。「調子が良かった」というだけに悔しい結果となった。
想定通りにはいかなかったが、すぐに切り換えて400mハードルにシフトチェンジ。4月の東京六大学対校では49秒38でシーズンインした。
「後半の歩数など、少し不安でしたが、ちょっと詰まりながらも確認できたので良かったです。走力も上がっていると思います。去年のこのレースは50秒00だったので、成長を感じています」
予定通り、5月までは世界を見据えて400mハードルの感覚を磨いていく。
4日間行われる6月の日本選手権は、初日に400mハードルの予選、2日目に決勝。そして3日目に110mハードル予選・準決勝、最終日に決勝という日程になった。「2日目にヨンパーで3位以内をしっかり達成して、トッパーは攻めたいです」と思い描いている。
フランスは父の祖国でもある。「モチベーションになります。僕がオリンピックに行ったら喜んでくれると思います」。オリンピックに出場すれば慶大の現役学生としては2012年ロンドンの山縣亮太(現・セイコー)以来、慶大ハードラーとしては1928年アムステルダムの110mハードルに出場した三木義雄以来、実に96年ぶりとなる。そして、ハードル2種目で出場となれば、日本初の快挙だ。
「難しいのはわかっていますが、僕は絞りたくない」
2024年。常識にとらわれないハードラーが、世界への第一歩を刻む1年になりそうだ。
文/向永拓史
異色のハードラーが2種目で五輪に挑戦
日本の110mハードルには、泉谷駿介(住友電工)や村竹ラシッド(JAL)、400mハードルには黒川和樹(法大)ら、すでに世界で活躍するハードラーがいる。その2種目ともで世界を目指す異色の男がいる。 慶大4年の豊田兼だ。昨年は110mハードルで、学生世界一を決めるワールドユニバーシティゲームズに優勝。これは全カテゴリーを通じて初の優勝だった。さらに、400mハードルでは、日本インカレを優勝(東洋大・小川大輝と同時優勝)したあと、新潟で400mハードルに出場し、48秒47をマーク。パリ五輪参加標準記録(48秒70)を突破してみせた。 パリ五輪では「2種目で狙っていく」と強い思いをにじませる。 「大学に入学した時点で、4年生の時にパリ五輪があると思っていたので、そこから4年間での一番の目標にしてきました」 小学生の時にクラブチームで陸上を始め、東京・桐朋中でも陸上部に入った。当初は四種競技に取り組みつつ、ハードルや400mが得意だったこともあり、高校からで400mハードルに挑戦することを見据えていたという。中学時代に全国大会出場はなかった。 中・高一環のため、環境を変えずにトレーニングを積むと、1年目は110mハードルが15秒45、400mハードルは54秒40。その年の秋の新人戦で慶大の髙野大樹コーチが見た際には「とんでもない選手がいる」と感じたそうだ。 高2のインターハイ都大会でも衝撃が走った。110mハードル14秒85で2位、400mハードルは52秒85で優勝。身長190cmを超え、スケールの大きな走りに魅了された。コロナ禍に泣いた高校最終学年は全国高校大会で110mハードル4位、400mハードル5位だった。 慶大に進学すると、22年は飛躍の年に。主要タイトルには届かなかったが、13秒44と49秒76といういずれも学生トップクラスに成長している。そして、昨年、110mハードルでワールドユニバーシティゲームズを勝ち、13秒29(日本歴代6位)まで記録を短縮。これはパリ五輪参加標準記録(13秒27)まであと0.02秒に迫るもの。 「10月末の日本選手権リレーで少しケガをしたので、1ヵ月くらいは療養してから練習を再開しました」。冬場は慶大の競技場が改修のため「坂でハードルを跳んだり、ロング系の練習をしたりしてきました」という。 スマートな風貌とは想像つかないが、高校時代から「吐くほど追い込んで練習していた」と高校の恩師・外堀宏幸先生が明かしている。 身体作りは大学入学時から計画的に進めてきた。ウエイトトレーニングを週1、2回継続し、細身だった身体にも変化が現れている。 400mハードルはパリ五輪の参加標準記録を突破しているため、「2、3月は110mハードルに力を入れてきました」。記録を狙った3月末のシドニークラシック(豪州)は「攻めてタイムを狙いにいったのですが、木製のハードルに慣れていなかった」ことも影響し、6台目で接触して転倒し失格に。「調子が良かった」というだけに悔しい結果となった。 [caption id="attachment_133179" align="alignnone" width="800"]
東京六大学対校で400mHのシーズンイン[/caption]
想定通りにはいかなかったが、すぐに切り換えて400mハードルにシフトチェンジ。4月の東京六大学対校では49秒38でシーズンインした。
「後半の歩数など、少し不安でしたが、ちょっと詰まりながらも確認できたので良かったです。走力も上がっていると思います。去年のこのレースは50秒00だったので、成長を感じています」
予定通り、5月までは世界を見据えて400mハードルの感覚を磨いていく。
4日間行われる6月の日本選手権は、初日に400mハードルの予選、2日目に決勝。そして3日目に110mハードル予選・準決勝、最終日に決勝という日程になった。「2日目にヨンパーで3位以内をしっかり達成して、トッパーは攻めたいです」と思い描いている。
フランスは父の祖国でもある。「モチベーションになります。僕がオリンピックに行ったら喜んでくれると思います」。オリンピックに出場すれば慶大の現役学生としては2012年ロンドンの山縣亮太(現・セイコー)以来、慶大ハードラーとしては1928年アムステルダムの110mハードルに出場した三木義雄以来、実に96年ぶりとなる。そして、ハードル2種目で出場となれば、日本初の快挙だ。
「難しいのはわかっていますが、僕は絞りたくない」
2024年。常識にとらわれないハードラーが、世界への第一歩を刻む1年になりそうだ。
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