日本陸連は8月22日、育成年代の年間競技会スケジュールや暑熱問題による夏の競技会開催、さらには全国大会の在り方について、報道陣に向けて指針を示した。会見には日本陸連の田﨑博道専務理事と山崎一彦強化委員長が登壇した。
今年、暑熱対策により大会直前に競技日程など大幅変更があった広島インターハイ。そうした状況を踏まえ、日本陸連は改めて育成年代における競技会開催のガイドラインを定めていく方針を示した。25年度中に策定する。それを踏まえ、日本陸連が目指すべき競技会システムの在り方について改めて示した。
「酷暑化におけるスポーツの在り方は待ったなし」と田﨑専務理事。日本陸連は6月に、7、8月の主催大会において「WBGT(暑さ指数)が31度以上となる環境下での運動(競技)は原則中止・中断する」と定め、「できる限りの暑熱対策を行うとともに、暑熱を含む危機管理マニュアル等(中止・中断時の対応計画を含む)を作成するなど、事前からの準備・対策を徹底する」とした。
それを踏まえ、全国高体連、日本陸連、開催県などと主催したインターハイでは「酷暑を避けるため、日程変更や待機場での対策・準備をして開催した」と説明。昼間の時間帯を避けるなどした結果、「選手や関係者、運営コストなど含め、大変な負担になった」と強調する。そうしたことから、「酷暑化における屋外スポーツを根本的に見直す必要がある」と総括の意味を込めて今回の会見を開いた。
広島インターハイは競技日程の変更に伴い、試技数を少なくしたり、タイムレース決勝になったりという状況もあり、山崎強化委員長は「チャンピオンシップとしては破綻していた。陸上競技の基本からは外れていたと言える」とした。
日本陸連は今年3月の時点から、来年の滋賀インターハイに間に合わせるようにと高体連・陸上競技専門部と積極的に検討を進めてきたと説明。8月に高体連陸上競技専門部の担当者とも対面してインターハイの実施案などを話し合った。その中で、夏の開催を避ける日程案についても議題に上がった。
しかし、全国高体連の返答として陸上競技専門部経由で回答によると、「26年滋賀、27年神奈川、28年愛知については開催通知を出しており、開催時期の変更は極めて困難」とあったという。
こうした状況を踏まえ、日本陸連は高校生を主体とした年間競技会スケジュールの案を作成。あくまで高校生を例にしたが、「育成年代」として中学生も含まれる。
これによると、暑熱対策のため7、8月の競技会を控え、全国インターハイは6月開催の案を提示。4~6月と9~11月(※トラック&フィールドの例)の「2シーズン制」に定めた。インターハイには支部大会、都道府県大会・ブロック大会と続くが、一部を「ターゲットナンバー制、いわゆるシードに近いかたち」という案を加えた。
秋の大会は「オープンエントリー制」とし、これまで進めてきた300mや300mハードル、低いU20規格の110mハードルなど、育成戦略種目、さらには専門外の種目へ積極的に参加していけるようなスケジュールにしていくというもの。
このスケジュール案については「たたかれ台」であると山崎強化委員長。「提示するかどうか迷いましたが、これがベストだとは思っていなくて、今後の検討材料として、“たたかれ台”として議論をしていくためにオープンにしました」と説明する。
これは暑熱対策だけに限った対策ではない。日本陸連としては、2018年に「JAAF競技者育成指針」を策定・公表。これは育成年代の取り巻く状況を鑑み、「これからの競技者育成の方向性を示す」もので、過度で専門に特化したトレーニングや過熱による「心身の過剰な負担」を避け、「安心、安全に、長く競技をやってもらい、やって良かったと思ってもらいたい」という思いが込められている。
それに沿うかたちで、インターハイの在り方については何年も議論が交わされ、例えば「400mを1日に3本やるのはあり得ない」と問題提起してきた。山崎強化委員長は「競技者育成指針を守って競技会を行えば暑熱問題もクリアできた」と考えている。
今後、より明確に「国際基準」と「育成基準」に分けて考え、競技会スケジュールの仕組みを根本から変えていく構えを示す。全国インターハイの6月開催案もその一つだ。山崎強化委員長は「社会状況に合わせて、考えていくべきものであり、今までの競技会システムがトレンドから外れる可能性もあります。勝ち抜きシステムの弊害や固定化された競技会システムを変えなければいけない」と強調する。
その上で、「8月開催のインターハイがタレントプールの拡充につながっているかとうとそうではない。また、インターハイ優勝者が、そのまま五輪のメダリストの育成につながっているわけでもない」と山崎強化委員長。特に400mにおいては「現役で44秒台を持つ3人(佐藤拳太郎、佐藤風雅、中島佑気ジョセフ)はインターハイで勝っていません。一定のエビデンスもある」と説明する。本来、競技人口の広がりに重要なはずの駅伝についても「全体のタイムは速くなっているが普及になっておらず、一極集中しているのが現状である」と語る。
具体的な対策として、「競技日程の短縮」「1レースのパフォーマンスが最大化されるタイムテーブル」「多種目への挑戦」など、いくつかの方向性を示し、今後ガイドラインに落とし込んでいく。
ただ、現状では向こう3年間は夏開催の方針を変えられないとする高体連に対し平行線をたどるが、田﨑専務理事は「今後もはたらきかけていく」と力を込める。「主催というのは重く、選手だけではなく、観客、運営役員、ボランティア、関係者すべてを守らなければいけない」とし、「インターハイ、全中も含め、来年の7、8月の大会で暑熱対策の環境が整わないのであれば主催はできません」と姿勢を示し、対策が十分でなければ公認競技会として認めない方向だ。
田﨑専務理事も山崎強化委員長も、いずれも元アスリートであり、「インターハイ世代ですし、通ってきた。熱くなる大会」とし、陸上競技界にとって、インターハイの重要度を理解しているからこそ、「継続していくため」に変化を求めている。今回の取り組みは、「強化だけではなくタレントプールの拡充につながる」とし、「我々が常に重視しているのは強化よりも育成。予算も育成により多くかけている」と山崎強化委員長は言う。
以前から問題視されてきた育成年代における問題点。暑熱問題をきっかけにして、絶対に変化していかなければいけない、という日本陸連の強い覚悟がにじんでいる。
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