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2024.02.14

【東洋大学】正月決戦で〝鉄紺復活〟 「その1秒をけずりだせ」第2章がスタート
【東洋大学】正月決戦で〝鉄紺復活〟 「その1秒をけずりだせ」第2章がスタート

トレーニングに役立っている日本気圧バルク工業の低圧低酸素ルーム(O2Room®)の前で 写真に納まる東洋大の選手たち。左から小林亮太、松山和希、西村真周、吉田周、岸本遼太郎

「トレーニング」と「リカバリー」に酸素ルームを駆使して再浮上

正月決戦で東洋大が力強いレースを見せた。19年連続シードが危惧されたなかで、2区梅崎蓮(3年)、4区松山和希(4年)らの活躍で往路を4位で折り返す。復路は9区吉田周(3年)が区間2位、10区岸本遼太郎(2年)が区間賞の快走を披露。トップスリーに21秒差と迫る総合4位に食い込んだのだ。全日本大学駅伝14位からの〝大逆転劇〟はいかにして生まれたのか。東洋大は2021年の年末に日本気圧バルク工業の低圧低酸素ルームと高気圧酸素ルームを導入。鉄紺復活の背景には酸素ルームを駆使した「トレーニング」と「リカバリー」があった。

全日本での大苦戦を糧にトップスリーと21秒差の4位

11月の全日本大学駅伝でチーム過去ワーストの14位に沈み、東洋大は〝岐路〟に立たされていた。正月の晴れ舞台で18年も継続してきたシード権獲得が危ぶまれていたのだ。酒井俊幸監督も、「今シーズンの結果を考えると、厳しい戦いも覚悟していました」と振り返る。しかし、東洋大はわずか2ヵ月で鉄紺のプライドを取り戻す。今年の箱根路では下馬評を覆す力強い走りを披露した。

1区九嶋恵舜(4年)が2位と43秒差の15位でスタートすると、2区梅崎蓮(3年)が7位まで順位を押し上げる。さらに3区小林亮太(3年)で5位、4区松山和希(4年)で4位に浮上した。5区緒方澪那斗(2年)は区間10位でまとめて、往路を4位で折り返した。

復路は3位城西大と3分49秒差。見えない背中を追いかけたが、思うように近づけない。8区終了時で3分30秒も離されていた。しかし、終盤2区間で猛追する。9区吉田周(3年)が区間2位、10区岸本遼太郎(2年)が区間賞。最後はトップスリーに21秒差まで詰め寄り、大手町のゴールに飛び込んだ。前回10位、全日本14位からの〝再浮上〟だった。

「今回は個々の体調管理がしっかりできていましたし、練習にも意欲的に取り組んでくれたんです。意識レベルの変化が前回とは大きく違いましたね」(酒井監督)
華麗なる復活劇の裏には何があったのか。その背景を紐解いていきたい。

選手強化に有効と考えるさまざまなことを取り入れて鉄紺軍団を率いている酒井俊幸監督

全日本欠場の4年生コンビは低圧低酸素ルームで早期復帰

全日本で大苦戦した東洋大。低迷の理由は主力選手の欠場が大きかった。4年生では九嶋と松山がメンバーから外れている。故障で出遅れていた2人の〝復活〟を大きくアシストしたのが、トレッドミルとワットバイクを1台ずつ設置した低圧低酸素ルームだった。

「九嶋は低圧低酸素ルームでジョグをよくやっていたんです。左右のバランスが崩れたのが故障の原因になっていたので、トレッドミルで走りの精度を高めて、心肺強化も図ってきました。そのお陰もあり、戻りが非常に早かったと思います」(酒井監督)

九嶋は11月に入って距離走を開始すると、同19日の上尾シティハーフマラソンで1時間3分25秒をマーク。一気に調子を上げてきて、正月のスタートラインに立ったのだ。一方の松山は出雲で2年ぶりの駅伝復帰を果たしたものの、その後に故障。それでも最後の学生駅伝では底力を発揮した。

「秋から冬にかけては、低圧低酸素ルームでのトレーニングを週に2~3回やりました。ランニングエコノミーを意識して、キロ4分くらいのペースです。箱根前は(走路に)4~6%ほどの傾斜をつけて、脚筋力も強化しました。外でジョグをするよりも追い込むことができたので、それが箱根の走りにもつながったのかなと思います」(松山)

松山だけでなく、5区緒方も低圧低酸素ルームのトレッドミルで上りを意識したトレーニングを行ったという。東洋大には寮内だけでなく、体育館にも機器が揃っていることもあり、今季はトレッドミルのトレーニングを増やしている。路面が硬いアスファルトの上を走るより足腰への衝撃や関節への負荷が緩和されるのが、トレッドミルを活用する利点になっている。

「トレッドミルは故障者を出さない狙いだけでなく、走りの技術を修正する目的もあります。ときにはインターバルをやることもありますよ。トレッドミルの走りに慣れてきたら、それを低圧低酸素ルームで行います。ジョグでも標高1500~1600mの環境に設定して、傾斜をつけて、速度を上げれば、それなりに追い込むことができる。低圧低酸素は高地と同じ環境なので、副作用もありません。毛細血管の発達を促し、疲労回復と持久力向上が期待できるんです」

6区を区間8位と好走した西村真周(2年)も低圧低酸素ルームのトレッドミルを積極的に活用してきた。
「夏や冬でも冷暖房機能がついているので、走りやすくて、強度も高められる。ジョグだけでなく、インターバルなど負荷をかけたトレーニングも行いました」(西村)

低圧低酸素ルームは「リハビリ」だけでなく、「トレーニング」としても大いに役立っているようだ。

東洋大の低圧低酸素ルームは高さ2.5m、幅2.5m、奥行き4.0mの大型サイズ。中にはトレッドミルとワットバイクが設置してあり、正月決戦で2区を務めた梅崎蓮(左)、4区を担った松山和希もよく活用している

高気圧酸素ルームは〝新たな使い方〟が浸透

東洋大の選手たちは低圧低酸素ルームで追い込むだけでなく、高気圧酸素ルームでのケアも欠かさない。身体に無理な負担がかからない1.3気圧に設定しての60分が基本セットだが、なかには90~120分使用する選手もいるという。ポイント練習をした日の夜や翌日は大半の選手が高気圧酸素ルームを使用。なかでも花の2区で活躍した梅崎は正月決戦までの1ヵ月ほどは毎日のように入っていたという。

高気圧酸素ルームは高さ1.9m、幅1.5m、奥行き2.55mのサイズで、同時に複数人で入ることができる

「なかでストレッチなどをして、疲れているときは仮眠をとることもあります。入るとスッキリする感じがしますね」(梅崎)
気圧を高めることで血液中に溶解する酸素量を増やすことができるため、肉体の疲労回復やケガの治療促進が期待できる。酒井監督は「リカバリー」を目的に高気圧酸素ルームを導入したが、最近は〝新たな使い方〟が浸透している。10区で区間賞を獲得した岸本はレース前にも高気圧酸素ルームを活用しているのだ。

「午前中に入って、午後のレースで自己ベストが出たこともあります。箱根前も前日と前々日に入りました。スッキリする感覚がありますし、体内に酸素を取り込めた気持ちになる。最近は試合前に利用する選手が増えています」(岸本)

本人が自覚することは少ないが、選手たちをケアするトレーナーは、高気圧酸素ルームに入った後の筋肉が柔らかくなっているのを感じているという。そして、メンタル的にも選手たちにポジティブな影響を与えているのかもしれない。

酸素ルーム業界のパイオニアである日本気圧バルク工業は、大学や病院と共同研究を重ね、日本で唯一、複数のエビデンスを基に自社開発・自社製造で製品をつくっているだけでなく、これまで一度も事故がないことでユーザーから高い信頼を寄せられている。このような安全性や安心面のほか、操作も簡単であることから、東洋大では酸素ルームの使用が選手たちに任されているという。

疲労回復や故障の治癒促進が期待できる高気圧酸素ルーム(写真)は、低圧低酸素ルーム以上にフル稼働。監督やチームスタッフは利用状況を時々チェックしているが、基本的には選手任せ。日本気圧バルク工業の製品に信頼を寄せている

高気圧酸素ルーム内でストレッチをする小林。この中で練習前のアップをしたり、練習後にセルフケアをする選手もいる

「トップスリーは譲れない」、正月決戦に向けて〝攻め〟の調整

伊勢路で沈黙しながらも、東洋大の選手たちは酸素ルームを積極的に活用したこともあり、徐々に調子を上げていった。
「全日本大学駅伝の後は練習の一環でレースに出場しながら、長い距離をコツコツと踏んできました。そのなかでも自己ベストを出す選手が出てきて、雰囲気が少しずつ良くなってきたんです」(酒井監督)

11月26日の小江戸川越ハーフマラソンを吉田が自己新の1時間2分43秒で制すと、12月23日の法大競技会10000mでは梅崎が28分39秒97の自己ベスト。同レースでは松山も28分44秒74をマークしている。
「松山は2区を希望していましたが、法大競技会は梅崎の方がゆとりがあったんです。それにスタミナを考えると、年間を通して練習を積んできた梅崎の方がある。反対に松山は単独でも走れる選手なので2人の特性を考えて、区間配置を決めました。4区松山を一番のストロングポイントにしたいなと思っていたんです」

酒井監督の配置が的中。4区松山が区間2位と活躍しただけでなく、2区に抜てきした梅崎も1時間6分45秒の区間6位で走破した。さらに9区吉田、10区岸本も設定タイムを上回る快走でトップスリーに急接近した。前を追いかける走りは〝鉄紺のプライド〟だったと言ってもいいだろう。

今大会はハイレベルな戦いが予想されていただけに、12月中旬、酒井監督は、「今回は繰り上げスタートもあり得る。目標をシード権獲得に下げたらどうだ」と選手たちに提案したという。しかし、駅伝主将・松山は「3位は譲れません」と言い切った。

その言葉を聞いた酒井監督は、「シード権を狙う調整と、3位を狙う調整は違います。リスクは高くなりますが、前回とは違うやり方で本番を目指しました」と〝攻めの調整〟を決意。正月の舞台で鉄紺の快走を引き出すことに成功した。

アンカーの10区を務め、3位に迫る勢いで大手町にフィニッシュした岸本は区間賞を獲得。レースの前日と前々日に高気圧酸素ルームを利用して入念にコンディションを整えたという

「その1秒をけずりだせ」第2章がスタート

東洋大は正月の晴れ舞台で、2009年から2015年にかけて4度の総合優勝。11年連続でトップスリーを確保してきた。しかし、直近5年間は10位が2度あるなど優勝争いに加わることができなかった。
「近年は東洋大のテーマである『その1秒をけずりだせ』が風化しています」と酒井監督はチーム内の雰囲気が以前と変わってきていることを感じている。それでも今回の継走が〝チェンジ〟のきっかけになるかもしれない。

「今大会は前評判が低いなかでの4位でしたが、ミスのあった区間もありました。復路2位、総合3位は狙えたんじゃないかと思います。ただし、5~6位に近い4位と、3位に迫る4位は違う。内容にすごく意味がありました。年末、選手たちには、『今季の再建から来季は覚醒につなげていこう』という話をしましたが、『その1秒をけずりだせ』の第2章をスタートさせたいと思っています」

前回2区を務めた石田洸介(3年)も今冬はチームと練習を積んでおり、1月28日の奥むさし駅伝に出場した。
「石田もやる気になっています。同学年がこれだけ奮起したので、彼も最後はやってくれると信じています。来季は今季届かなかったトップスリーは最低限で、その上を狙っていきたい」

2025年の正月、20年連続でのシード権獲得が〝新たな時代〟の幕開けになるかもしれない。

手堅くシード権を狙うのではなく、リスクを覚悟した上で〝攻めの調整〟をした東洋大。その試みが正月決戦で鉄紺の快走を引き出した

※この記事は『月刊陸上競技』2024年3月号に掲載しています

文/酒井政人、撮影/船越陽一郎

「トレーニング」と「リカバリー」に酸素ルームを駆使して再浮上

正月決戦で東洋大が力強いレースを見せた。19年連続シードが危惧されたなかで、2区梅崎蓮(3年)、4区松山和希(4年)らの活躍で往路を4位で折り返す。復路は9区吉田周(3年)が区間2位、10区岸本遼太郎(2年)が区間賞の快走を披露。トップスリーに21秒差と迫る総合4位に食い込んだのだ。全日本大学駅伝14位からの〝大逆転劇〟はいかにして生まれたのか。東洋大は2021年の年末に日本気圧バルク工業の低圧低酸素ルームと高気圧酸素ルームを導入。鉄紺復活の背景には酸素ルームを駆使した「トレーニング」と「リカバリー」があった。

全日本での大苦戦を糧にトップスリーと21秒差の4位

11月の全日本大学駅伝でチーム過去ワーストの14位に沈み、東洋大は〝岐路〟に立たされていた。正月の晴れ舞台で18年も継続してきたシード権獲得が危ぶまれていたのだ。酒井俊幸監督も、「今シーズンの結果を考えると、厳しい戦いも覚悟していました」と振り返る。しかし、東洋大はわずか2ヵ月で鉄紺のプライドを取り戻す。今年の箱根路では下馬評を覆す力強い走りを披露した。 1区九嶋恵舜(4年)が2位と43秒差の15位でスタートすると、2区梅崎蓮(3年)が7位まで順位を押し上げる。さらに3区小林亮太(3年)で5位、4区松山和希(4年)で4位に浮上した。5区緒方澪那斗(2年)は区間10位でまとめて、往路を4位で折り返した。 復路は3位城西大と3分49秒差。見えない背中を追いかけたが、思うように近づけない。8区終了時で3分30秒も離されていた。しかし、終盤2区間で猛追する。9区吉田周(3年)が区間2位、10区岸本遼太郎(2年)が区間賞。最後はトップスリーに21秒差まで詰め寄り、大手町のゴールに飛び込んだ。前回10位、全日本14位からの〝再浮上〟だった。 「今回は個々の体調管理がしっかりできていましたし、練習にも意欲的に取り組んでくれたんです。意識レベルの変化が前回とは大きく違いましたね」(酒井監督) 華麗なる復活劇の裏には何があったのか。その背景を紐解いていきたい。 [caption id="attachment_127809" align="alignnone" width="800"] 選手強化に有効と考えるさまざまなことを取り入れて鉄紺軍団を率いている酒井俊幸監督[/caption]

全日本欠場の4年生コンビは低圧低酸素ルームで早期復帰

全日本で大苦戦した東洋大。低迷の理由は主力選手の欠場が大きかった。4年生では九嶋と松山がメンバーから外れている。故障で出遅れていた2人の〝復活〟を大きくアシストしたのが、トレッドミルとワットバイクを1台ずつ設置した低圧低酸素ルームだった。 「九嶋は低圧低酸素ルームでジョグをよくやっていたんです。左右のバランスが崩れたのが故障の原因になっていたので、トレッドミルで走りの精度を高めて、心肺強化も図ってきました。そのお陰もあり、戻りが非常に早かったと思います」(酒井監督) 九嶋は11月に入って距離走を開始すると、同19日の上尾シティハーフマラソンで1時間3分25秒をマーク。一気に調子を上げてきて、正月のスタートラインに立ったのだ。一方の松山は出雲で2年ぶりの駅伝復帰を果たしたものの、その後に故障。それでも最後の学生駅伝では底力を発揮した。 「秋から冬にかけては、低圧低酸素ルームでのトレーニングを週に2~3回やりました。ランニングエコノミーを意識して、キロ4分くらいのペースです。箱根前は(走路に)4~6%ほどの傾斜をつけて、脚筋力も強化しました。外でジョグをするよりも追い込むことができたので、それが箱根の走りにもつながったのかなと思います」(松山) 松山だけでなく、5区緒方も低圧低酸素ルームのトレッドミルで上りを意識したトレーニングを行ったという。東洋大には寮内だけでなく、体育館にも機器が揃っていることもあり、今季はトレッドミルのトレーニングを増やしている。路面が硬いアスファルトの上を走るより足腰への衝撃や関節への負荷が緩和されるのが、トレッドミルを活用する利点になっている。 「トレッドミルは故障者を出さない狙いだけでなく、走りの技術を修正する目的もあります。ときにはインターバルをやることもありますよ。トレッドミルの走りに慣れてきたら、それを低圧低酸素ルームで行います。ジョグでも標高1500~1600mの環境に設定して、傾斜をつけて、速度を上げれば、それなりに追い込むことができる。低圧低酸素は高地と同じ環境なので、副作用もありません。毛細血管の発達を促し、疲労回復と持久力向上が期待できるんです」 6区を区間8位と好走した西村真周(2年)も低圧低酸素ルームのトレッドミルを積極的に活用してきた。 「夏や冬でも冷暖房機能がついているので、走りやすくて、強度も高められる。ジョグだけでなく、インターバルなど負荷をかけたトレーニングも行いました」(西村) 低圧低酸素ルームは「リハビリ」だけでなく、「トレーニング」としても大いに役立っているようだ。 [caption id="attachment_127808" align="alignnone" width="800"] 東洋大の低圧低酸素ルームは高さ2.5m、幅2.5m、奥行き4.0mの大型サイズ。中にはトレッドミルとワットバイクが設置してあり、正月決戦で2区を務めた梅崎蓮(左)、4区を担った松山和希もよく活用している[/caption]

高気圧酸素ルームは〝新たな使い方〟が浸透

東洋大の選手たちは低圧低酸素ルームで追い込むだけでなく、高気圧酸素ルームでのケアも欠かさない。身体に無理な負担がかからない1.3気圧に設定しての60分が基本セットだが、なかには90~120分使用する選手もいるという。ポイント練習をした日の夜や翌日は大半の選手が高気圧酸素ルームを使用。なかでも花の2区で活躍した梅崎は正月決戦までの1ヵ月ほどは毎日のように入っていたという。 [caption id="attachment_127811" align="alignnone" width="800"] 高気圧酸素ルームは高さ1.9m、幅1.5m、奥行き2.55mのサイズで、同時に複数人で入ることができる[/caption] 「なかでストレッチなどをして、疲れているときは仮眠をとることもあります。入るとスッキリする感じがしますね」(梅崎) 気圧を高めることで血液中に溶解する酸素量を増やすことができるため、肉体の疲労回復やケガの治療促進が期待できる。酒井監督は「リカバリー」を目的に高気圧酸素ルームを導入したが、最近は〝新たな使い方〟が浸透している。10区で区間賞を獲得した岸本はレース前にも高気圧酸素ルームを活用しているのだ。 「午前中に入って、午後のレースで自己ベストが出たこともあります。箱根前も前日と前々日に入りました。スッキリする感覚がありますし、体内に酸素を取り込めた気持ちになる。最近は試合前に利用する選手が増えています」(岸本) 本人が自覚することは少ないが、選手たちをケアするトレーナーは、高気圧酸素ルームに入った後の筋肉が柔らかくなっているのを感じているという。そして、メンタル的にも選手たちにポジティブな影響を与えているのかもしれない。 酸素ルーム業界のパイオニアである日本気圧バルク工業は、大学や病院と共同研究を重ね、日本で唯一、複数のエビデンスを基に自社開発・自社製造で製品をつくっているだけでなく、これまで一度も事故がないことでユーザーから高い信頼を寄せられている。このような安全性や安心面のほか、操作も簡単であることから、東洋大では酸素ルームの使用が選手たちに任されているという。 [caption id="attachment_127810" align="alignnone" width="800"] 疲労回復や故障の治癒促進が期待できる高気圧酸素ルーム(写真)は、低圧低酸素ルーム以上にフル稼働。監督やチームスタッフは利用状況を時々チェックしているが、基本的には選手任せ。日本気圧バルク工業の製品に信頼を寄せている[/caption] [caption id="attachment_127813" align="alignnone" width="800"] 高気圧酸素ルーム内でストレッチをする小林。この中で練習前のアップをしたり、練習後にセルフケアをする選手もいる[/caption]

「トップスリーは譲れない」、正月決戦に向けて〝攻め〟の調整

伊勢路で沈黙しながらも、東洋大の選手たちは酸素ルームを積極的に活用したこともあり、徐々に調子を上げていった。 「全日本大学駅伝の後は練習の一環でレースに出場しながら、長い距離をコツコツと踏んできました。そのなかでも自己ベストを出す選手が出てきて、雰囲気が少しずつ良くなってきたんです」(酒井監督) 11月26日の小江戸川越ハーフマラソンを吉田が自己新の1時間2分43秒で制すと、12月23日の法大競技会10000mでは梅崎が28分39秒97の自己ベスト。同レースでは松山も28分44秒74をマークしている。 「松山は2区を希望していましたが、法大競技会は梅崎の方がゆとりがあったんです。それにスタミナを考えると、年間を通して練習を積んできた梅崎の方がある。反対に松山は単独でも走れる選手なので2人の特性を考えて、区間配置を決めました。4区松山を一番のストロングポイントにしたいなと思っていたんです」 酒井監督の配置が的中。4区松山が区間2位と活躍しただけでなく、2区に抜てきした梅崎も1時間6分45秒の区間6位で走破した。さらに9区吉田、10区岸本も設定タイムを上回る快走でトップスリーに急接近した。前を追いかける走りは〝鉄紺のプライド〟だったと言ってもいいだろう。 今大会はハイレベルな戦いが予想されていただけに、12月中旬、酒井監督は、「今回は繰り上げスタートもあり得る。目標をシード権獲得に下げたらどうだ」と選手たちに提案したという。しかし、駅伝主将・松山は「3位は譲れません」と言い切った。 その言葉を聞いた酒井監督は、「シード権を狙う調整と、3位を狙う調整は違います。リスクは高くなりますが、前回とは違うやり方で本番を目指しました」と〝攻めの調整〟を決意。正月の舞台で鉄紺の快走を引き出すことに成功した。 [caption id="attachment_127814" align="alignnone" width="800"] アンカーの10区を務め、3位に迫る勢いで大手町にフィニッシュした岸本は区間賞を獲得。レースの前日と前々日に高気圧酸素ルームを利用して入念にコンディションを整えたという[/caption]

「その1秒をけずりだせ」第2章がスタート

東洋大は正月の晴れ舞台で、2009年から2015年にかけて4度の総合優勝。11年連続でトップスリーを確保してきた。しかし、直近5年間は10位が2度あるなど優勝争いに加わることができなかった。 「近年は東洋大のテーマである『その1秒をけずりだせ』が風化しています」と酒井監督はチーム内の雰囲気が以前と変わってきていることを感じている。それでも今回の継走が〝チェンジ〟のきっかけになるかもしれない。 「今大会は前評判が低いなかでの4位でしたが、ミスのあった区間もありました。復路2位、総合3位は狙えたんじゃないかと思います。ただし、5~6位に近い4位と、3位に迫る4位は違う。内容にすごく意味がありました。年末、選手たちには、『今季の再建から来季は覚醒につなげていこう』という話をしましたが、『その1秒をけずりだせ』の第2章をスタートさせたいと思っています」 前回2区を務めた石田洸介(3年)も今冬はチームと練習を積んでおり、1月28日の奥むさし駅伝に出場した。 「石田もやる気になっています。同学年がこれだけ奮起したので、彼も最後はやってくれると信じています。来季は今季届かなかったトップスリーは最低限で、その上を狙っていきたい」 2025年の正月、20年連続でのシード権獲得が〝新たな時代〟の幕開けになるかもしれない。 [caption id="attachment_127815" align="alignnone" width="800"] 手堅くシード権を狙うのではなく、リスクを覚悟した上で〝攻めの調整〟をした東洋大。その試みが正月決戦で鉄紺の快走を引き出した[/caption] ※この記事は『月刊陸上競技』2024年3月号に掲載しています 文/酒井政人、撮影/船越陽一郎

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