HOME 特集

2023.04.29

【高平慎士の視点】悪条件下で示した栁田大輝の成長 重要大会での「強さ」を再認識すべき/織田記念
【高平慎士の視点】悪条件下で示した栁田大輝の成長 重要大会での「強さ」を再認識すべき/織田記念

降りしきる雨のなか男子100mを制したのは19歳の栁田大輝(左)だった

冷たい雨が降りしきる中で行われた織田記念男子100mは、大外8レーンから抜け出した19歳・栁田大輝(東洋大)が10秒25(+0.5)で制した。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ってもらった。

◇ ◇ ◇

ダウンジャケットを着ないと震えるような寒さの中でしたが、それでも春の重要大会に位置づけられる織田記念らしいパフォーマンスが、各種目で出ていたのではないでしょうか。

広告の下にコンテンツが続きます

その中で、男子100mについては天候を考えればまずまずと言えますが、近年のこの種目の盛り上がりを考えれば、やはりもう一息。期待値の高い種目で、タイムのことを当たり前のように求められるという点で競技する側は大変かもしれませんが、予選でいい走りをして、決勝で真ん中のレーンに入った選手が振るわなかったことを考えると、「強さ」という点では課題の残るものだった言えます。

ただ、そういったレースを8レーンから制した栁田大輝選手(東洋大)の成長には、目を引くものがありました。予選の出来がそこまで良くなくとも、決勝でしっかりとアジャストできることが、彼の強さの一端。決勝は10秒1台、自己記録(10秒15)も視野に入る走りだったと思います。今後はさらに一歩進んで、予選から差を見せつける「王者」のレースができる強さを身につけていってほしいと思います。

一方で、代表実績のある選手たちは、「復帰」という点で注目を集めた桐生祥秀選手(日本生命)と山縣亮太選手(セイコー)、多田修平選手(住友電工)は、まだまだこれからという段階でしょう。

桐生選手は、予選で持ち味の中盤の加速力を見せていたましたが、メンタルがパフォーマンスに大きく影響する選手なので、長年のライバル・山縣選手と隣になって気合が入ったのかもしれませんね。逆に、決勝はそこまで気持ちが盛り上がり切らなかったのか、中盤の迫力は見られませんでした。それでも、予選と同じ10秒29にまとめたので、これからトップスピードが上がってくれば楽しみです。

山縣選手は、良くて10秒3台と思っていたので、条件を考えれば10秒48は妥当なところ。まずは復帰レースを元気に走れたことが、何よりの収穫なのではないでしょうか。多田選手もベースができてくれば、本来の走りを取り戻してくるでしょう。

彼らは6月上旬の日本選手権に向けて、自分の感覚、技術をしっかりと合わせる術を知っています。昨年から今年にかけて10秒1~2を出している選手たちが何人も出ていて、実績のある選手たちを脅かすような層の厚さが出てきてはいますが、まだまだ力の差を感じます。

彼らと勝負するには、やはり織田記念のような重要な大会で結果を残すことが大切。現状は、昨年のオレゴン世界選手権100mで7位に入賞したサニブラウン・アブデル・ハキーム選手(タンブルウィードTC)の「一強」と言えます。日本選手権で戦う強さ、さらには世界で戦う強さを身につけるためには、これからの大会でレベルの高い勝負を何度も繰り広げ、高め合う必要があるでしょう。

5月3日の静岡国際200m、5月6日~7日の木南記念100m、200mでそういった選手がどれだけ出てくるかに注目です。

◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

冷たい雨が降りしきる中で行われた織田記念男子100mは、大外8レーンから抜け出した19歳・栁田大輝(東洋大)が10秒25(+0.5)で制した。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ってもらった。 ◇ ◇ ◇ ダウンジャケットを着ないと震えるような寒さの中でしたが、それでも春の重要大会に位置づけられる織田記念らしいパフォーマンスが、各種目で出ていたのではないでしょうか。 その中で、男子100mについては天候を考えればまずまずと言えますが、近年のこの種目の盛り上がりを考えれば、やはりもう一息。期待値の高い種目で、タイムのことを当たり前のように求められるという点で競技する側は大変かもしれませんが、予選でいい走りをして、決勝で真ん中のレーンに入った選手が振るわなかったことを考えると、「強さ」という点では課題の残るものだった言えます。 ただ、そういったレースを8レーンから制した栁田大輝選手(東洋大)の成長には、目を引くものがありました。予選の出来がそこまで良くなくとも、決勝でしっかりとアジャストできることが、彼の強さの一端。決勝は10秒1台、自己記録(10秒15)も視野に入る走りだったと思います。今後はさらに一歩進んで、予選から差を見せつける「王者」のレースができる強さを身につけていってほしいと思います。 一方で、代表実績のある選手たちは、「復帰」という点で注目を集めた桐生祥秀選手(日本生命)と山縣亮太選手(セイコー)、多田修平選手(住友電工)は、まだまだこれからという段階でしょう。 桐生選手は、予選で持ち味の中盤の加速力を見せていたましたが、メンタルがパフォーマンスに大きく影響する選手なので、長年のライバル・山縣選手と隣になって気合が入ったのかもしれませんね。逆に、決勝はそこまで気持ちが盛り上がり切らなかったのか、中盤の迫力は見られませんでした。それでも、予選と同じ10秒29にまとめたので、これからトップスピードが上がってくれば楽しみです。 山縣選手は、良くて10秒3台と思っていたので、条件を考えれば10秒48は妥当なところ。まずは復帰レースを元気に走れたことが、何よりの収穫なのではないでしょうか。多田選手もベースができてくれば、本来の走りを取り戻してくるでしょう。 彼らは6月上旬の日本選手権に向けて、自分の感覚、技術をしっかりと合わせる術を知っています。昨年から今年にかけて10秒1~2を出している選手たちが何人も出ていて、実績のある選手たちを脅かすような層の厚さが出てきてはいますが、まだまだ力の差を感じます。 彼らと勝負するには、やはり織田記念のような重要な大会で結果を残すことが大切。現状は、昨年のオレゴン世界選手権100mで7位に入賞したサニブラウン・アブデル・ハキーム選手(タンブルウィードTC)の「一強」と言えます。日本選手権で戦う強さ、さらには世界で戦う強さを身につけるためには、これからの大会でレベルの高い勝負を何度も繰り広げ、高め合う必要があるでしょう。 5月3日の静岡国際200m、5月6日~7日の木南記念100m、200mでそういった選手がどれだけ出てくるかに注目です。 ◎高平慎士(たかひら・しんじ) 富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.11.22

青学大・折田壮太が27分43秒92! 出雲駅伝の失敗から奮起「やるしかないと腹をくくった」/MARCH対抗戦

◇MARCH対抗戦2025(11月22日/東京・町田GIONスタジアム) 明大、青学大、立教大、中大、法大の5大学が10000mレースで争うMARCH対抗戦2025が行われ、黒田朝日(青学大)が27分37秒62で全体トッ […]

NEWS 新所属初レースの赤﨑暁「調整もレースもうまくいかず」ニューイヤー駅伝へ「エースとして」/八王子LD

2025.11.22

新所属初レースの赤﨑暁「調整もレースもうまくいかず」ニューイヤー駅伝へ「エースとして」/八王子LD

◇2025八王子ロングディスタンス(11月22日/東京・上柚木公園陸上競技場) 男子10000mに特化した八王子ロングディスタンスが行われ、パリ五輪マラソン6位の赤﨑暁(クラフティア)が出場。6組で28分57秒99を要し […]

NEWS 中大・藤田大智が食らいついて2位 大幅自己新の27分40秒50も残り200mで競り負け「最後はやっぱり勝ちたかった」/MARCH対抗戦

2025.11.22

中大・藤田大智が食らいついて2位 大幅自己新の27分40秒50も残り200mで競り負け「最後はやっぱり勝ちたかった」/MARCH対抗戦

◇MARCH対抗戦2025(11月22日/東京・町田GIONスタジアム) 明大、青学大、立教大、中大、法大の5大学が10000mレースで争うMARCH対抗戦2025が行われ、最終の4組で黒田朝日(青学大)が27分37秒6 […]

NEWS 青学大・黒田朝日が27分37秒62! 27分台5人がマーク「1ヵ月後に最高の状態で臨みたい」/MARCH対抗戦

2025.11.22

青学大・黒田朝日が27分37秒62! 27分台5人がマーク「1ヵ月後に最高の状態で臨みたい」/MARCH対抗戦

◇MARCH対抗戦2025(11月22日/東京・町田GIONスタジアム) 明大、青学大、立教大、中大、法大の5大学が10000mレースで争うMARCH対抗戦2025が行われ、最終の4組は黒田朝日(青学大)が27分37秒6 […]

NEWS 田澤廉が約2年ぶり10000m 27分31秒90「戻れるかずっと不安だった」今後はマラソン挑戦の可能性も示唆/八王子LD

2025.11.22

田澤廉が約2年ぶり10000m 27分31秒90「戻れるかずっと不安だった」今後はマラソン挑戦の可能性も示唆/八王子LD

◇2025八王子ロングディスタンス(11月22日/東京・上柚木公園陸上競技場) 男子10000mに特化した八王子ロングディスタンスが行われ、7組日本人トップ(6着)の鈴木芽吹(トヨタ自動車)が27分05秒92をマーク。塩 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年12月号 (11月14日発売)

2025年12月号 (11月14日発売)

EKIDEN REVIEW
全日本大学駅伝
箱根駅伝予選会
高校駅伝&実業団駅伝予選

Follow-up Tokyo 2025

page top