HOME バックナンバー
【短期連載】福士加代子の足跡 第1回「青森から遠く、関西で就職」
【短期連載】福士加代子の足跡 第1回「青森から遠く、関西で就職」

構成/小森貞子 インタビュー撮影/弓庭保夫

引退レースを終えて

日本の女子長距離界を長く牽引してきた福士加代子(ワコール)が1月30日、大阪国際女子マラソンと併催で行われた大阪ハーフマラソンを最後に、高校1年生で始めた陸上競技の選手生活から退いた。毎日の練習から解放されておよそ1ヵ月。今はどんな日々を送っているのだろうか。

広告の下にコンテンツが続きます

のんびりと言えばのんびりですかね。練習は全然していません。今年に入ってから朝練習はほぼしていなかったんです。今は、何もやらなくなりました(笑)。ただ、今までと同じように京都・西大路にあるワコール本社に勤務しているので、日常は変わりません。

引退してすぐだからか、取材の依頼をいただいたり、大会のゲストに来てくれないかというお誘いを受けたり。今はその対応に当たっているところです。選手生活を終えてもっとホッとするのかと思っていたら、意外と次のスケジュールがぽんぽんと入ってきて、お陰様であっちへこっちへと出向いています。昨日は同い年の長尾育子が陸上部の顧問を務める福岡の筑紫女学園高で、高校生と走ってきました。同じく同学年の藤永佳子は長崎県の五島列島で高校の教員をやっているので、今度行ってこようと思っています。

私、最初はそっとフェードアウトしようと思っていたんです。そうしたら友達や会社の人たちに「もうちょっと余韻がほしい」と言われて、「引退は2ヵ月ぐらい前に言ってくれないか」と。

広告の下にコンテンツが続きます

リオ五輪の翌年、2017年に結婚した夫には「ちゃんと最後まで走って終わらなくていいのか」と聞かれました。東京五輪代表選考会だった2020年の大阪国際女子、名古屋
ウィメンズとマラソンは2大会続けて途中棄権したままでした。私は「いいんだよ」と言い張っていましたが、彼はきちんとフィニッシュして終わってほしいような口ぶりでした。

そもそもマラソンでリオ五輪に出た後から、「どこで区切りにしようか」とずっと考えていました。ただ、東京でオリンピックが開かれるし、マラソンでもトラックでも選考レースに出られる権利を得た。「だったら、その権利を全部使い切ろう」と思って、マラソンの予選会と、10000mの日本選手権(2021年5月)に出場しました。

日本選手権の後は何もレースに出ず、駅伝も補欠に名を連ねただけで、今回の引退レースです。最初は「フルマラソンを」と言われましたけど、「フルは無理です」と断って、ハーフにしました。ハーフだったら友達もみんな走れるかなという思いもありました。

自分で頭に描いていた「引退」とは違いますけど、引退レースはやって良かったと思っています。理想は「もっと格好良く」ですよ。「惜しまれて辞める」みたいな(笑)。あんなボロボロの走りを見せられたら、みんな「納得」ですよね。ポイント練習はやったんですけど、間のジョグをほとんどやらなかったので、「ああ、こうなるんだ」というのが身に染みてわかりました。

最終的に「あそこまでボロボロになったら、転んでほしかった」などと言う友達もいたようです。初マラソンだった2008年の大阪で、何度も転んだイメージが強烈だったから、「最後も転んで」ということでしょうが、自分とすれば絶対に転べません。だから、これ以上走るのは無理という段階で歩きました。

転ぶシーンを再現したら、もうお母さんが立ち直れなくなります。初マラソンの時も青森から大阪へ応援に来てくれていて、あの悲惨なシーンを見ているので、その後はずっと「大阪には二度と行きたくない」と言っていました。

いつからだったか、親は「まだ辞めないの?」「もう辞めたら?」と何度も口にしていました。今思えば、自分はワコールに入った当初からずっと「いつ辞めようか」と考えていたような気がします。それなのに40歳近くまでやってきたのですから、不思議なものです。

オリンピックがあったからかなぁ……。それに世界選手権が2年に1回あって、オリンピック中間年にはアジア大会がある。毎年それらを追いかけているうちに、この歳まで来ちゃったということでしょうか。トラックをやっている時代は、毎年開催される国際大会を追いかけるのがおもしろかったのです。

インターハイに行く目的は「友達に会うこと」

津軽平野にある青森県板柳町の出身。桜の名所・弘前市の北に位置し、西には岩木山を仰ぐ。理髪店を営む両親と2人の兄にかわいがられ、末っ子の加代子は引っ込み思案ながらもすくすくと育ち、板柳中ではソフトボール部に入った。スポーツ好きだったが、まだオリンピック選手になる片鱗を見せていないし、自分もまったく興味がなかった。

ハーフマラソンを走った後、大阪の長居競技場で開いてもらった引退セレモニーで、スタンドにいた母親が「福士選手のお母さん」と紹介されて、すくっと立ち上がったの
にはビックリしたんです。今まで人前に出ることを極端にいやがる人でしたから。私もお母さんと同じで、目立ちたくない、穴があったら入りたい、という子供でした。おとなしい子だったと思います。

この続きは2022年3月14日発売の『月刊陸上競技4月号』をご覧ください。

 

※インターネットショップ「BASE」のサイトに移動します
郵便振替で購入する
定期購読はこちらから

構成/小森貞子 インタビュー撮影/弓庭保夫

引退レースを終えて

日本の女子長距離界を長く牽引してきた福士加代子(ワコール)が1月30日、大阪国際女子マラソンと併催で行われた大阪ハーフマラソンを最後に、高校1年生で始めた陸上競技の選手生活から退いた。毎日の練習から解放されておよそ1ヵ月。今はどんな日々を送っているのだろうか。 のんびりと言えばのんびりですかね。練習は全然していません。今年に入ってから朝練習はほぼしていなかったんです。今は、何もやらなくなりました(笑)。ただ、今までと同じように京都・西大路にあるワコール本社に勤務しているので、日常は変わりません。 引退してすぐだからか、取材の依頼をいただいたり、大会のゲストに来てくれないかというお誘いを受けたり。今はその対応に当たっているところです。選手生活を終えてもっとホッとするのかと思っていたら、意外と次のスケジュールがぽんぽんと入ってきて、お陰様であっちへこっちへと出向いています。昨日は同い年の長尾育子が陸上部の顧問を務める福岡の筑紫女学園高で、高校生と走ってきました。同じく同学年の藤永佳子は長崎県の五島列島で高校の教員をやっているので、今度行ってこようと思っています。 私、最初はそっとフェードアウトしようと思っていたんです。そうしたら友達や会社の人たちに「もうちょっと余韻がほしい」と言われて、「引退は2ヵ月ぐらい前に言ってくれないか」と。 リオ五輪の翌年、2017年に結婚した夫には「ちゃんと最後まで走って終わらなくていいのか」と聞かれました。東京五輪代表選考会だった2020年の大阪国際女子、名古屋 ウィメンズとマラソンは2大会続けて途中棄権したままでした。私は「いいんだよ」と言い張っていましたが、彼はきちんとフィニッシュして終わってほしいような口ぶりでした。 そもそもマラソンでリオ五輪に出た後から、「どこで区切りにしようか」とずっと考えていました。ただ、東京でオリンピックが開かれるし、マラソンでもトラックでも選考レースに出られる権利を得た。「だったら、その権利を全部使い切ろう」と思って、マラソンの予選会と、10000mの日本選手権(2021年5月)に出場しました。 日本選手権の後は何もレースに出ず、駅伝も補欠に名を連ねただけで、今回の引退レースです。最初は「フルマラソンを」と言われましたけど、「フルは無理です」と断って、ハーフにしました。ハーフだったら友達もみんな走れるかなという思いもありました。 自分で頭に描いていた「引退」とは違いますけど、引退レースはやって良かったと思っています。理想は「もっと格好良く」ですよ。「惜しまれて辞める」みたいな(笑)。あんなボロボロの走りを見せられたら、みんな「納得」ですよね。ポイント練習はやったんですけど、間のジョグをほとんどやらなかったので、「ああ、こうなるんだ」というのが身に染みてわかりました。 最終的に「あそこまでボロボロになったら、転んでほしかった」などと言う友達もいたようです。初マラソンだった2008年の大阪で、何度も転んだイメージが強烈だったから、「最後も転んで」ということでしょうが、自分とすれば絶対に転べません。だから、これ以上走るのは無理という段階で歩きました。 転ぶシーンを再現したら、もうお母さんが立ち直れなくなります。初マラソンの時も青森から大阪へ応援に来てくれていて、あの悲惨なシーンを見ているので、その後はずっと「大阪には二度と行きたくない」と言っていました。 いつからだったか、親は「まだ辞めないの?」「もう辞めたら?」と何度も口にしていました。今思えば、自分はワコールに入った当初からずっと「いつ辞めようか」と考えていたような気がします。それなのに40歳近くまでやってきたのですから、不思議なものです。 オリンピックがあったからかなぁ……。それに世界選手権が2年に1回あって、オリンピック中間年にはアジア大会がある。毎年それらを追いかけているうちに、この歳まで来ちゃったということでしょうか。トラックをやっている時代は、毎年開催される国際大会を追いかけるのがおもしろかったのです。

インターハイに行く目的は「友達に会うこと」

津軽平野にある青森県板柳町の出身。桜の名所・弘前市の北に位置し、西には岩木山を仰ぐ。理髪店を営む両親と2人の兄にかわいがられ、末っ子の加代子は引っ込み思案ながらもすくすくと育ち、板柳中ではソフトボール部に入った。スポーツ好きだったが、まだオリンピック選手になる片鱗を見せていないし、自分もまったく興味がなかった。 ハーフマラソンを走った後、大阪の長居競技場で開いてもらった引退セレモニーで、スタンドにいた母親が「福士選手のお母さん」と紹介されて、すくっと立ち上がったの にはビックリしたんです。今まで人前に出ることを極端にいやがる人でしたから。私もお母さんと同じで、目立ちたくない、穴があったら入りたい、という子供でした。おとなしい子だったと思います。 この続きは2022年3月14日発売の『月刊陸上競技4月号』をご覧ください。  
※インターネットショップ「BASE」のサイトに移動します
郵便振替で購入する 定期購読はこちらから

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.10.27

各地で都道府県高校駅伝続々開催 週末の3連休は30都府県 11月4日に都道府県代表決定

年末の全国高校駅伝の出場権を懸けた高校駅伝都道府県大会が各地で行われている。 今週は、明日10月28日の長崎をはじめ、平日にも順次実施され、週末の3連休(11月1日~3日)には一気に30都府県で開催。11月4日の埼玉をも […]

NEWS 男子は鳥栖工が16連覇 節目の50回目の都大路へ! 女子は佐賀清和が2年ぶりV/佐賀県高校駅伝

2025.10.27

男子は鳥栖工が16連覇 節目の50回目の都大路へ! 女子は佐賀清和が2年ぶりV/佐賀県高校駅伝

全国高校駅伝の出場権を懸けた佐賀県高校駅伝が10月26日、佐賀市立スポーツパーク川副多目的広場北道路を発着点とするコースで行われ、男子(7区間42.195km)は鳥栖工が2時間6分6秒で16年連続50回目の優勝を果たした […]

NEWS 関東学生連合チーム 個人枠選手が発表! 東大・秋吉拓真が2年連続選出 東大院・本多健亮もメンバー入り/箱根駅伝

2025.10.27

関東学生連合チーム 個人枠選手が発表! 東大・秋吉拓真が2年連続選出 東大院・本多健亮もメンバー入り/箱根駅伝

10月27日、関東学生陸上競技連盟は、第102回箱根駅伝にオープン参加で出場する関東学生連合チームの出場選手の一部を発表した。 関東学生連合チームは前回まで予選会の落選校の所属選手のうち、各校1名で、予選会個人順位の上位 […]

NEWS 世界陸上マラソン金のシンブ、ジェプチルチルらがノミネート 世界陸連年間最優秀選手スタジアム外部門の候補発表!

2025.10.27

世界陸上マラソン金のシンブ、ジェプチルチルらがノミネート 世界陸連年間最優秀選手スタジアム外部門の候補発表!

10月27日、世界陸連(WA)はワールド・アスレティクス・アワード2025「ワールド・アスリート・オブ・ザ・イヤー」のスタジアム外種目候補選手を発表した。 男子では9月の東京世界選手権マラソン金メダルのA.シンブ(タンザ […]

NEWS 11月22日、23日に奥能登で陸上教室を開催 朝原宣治さん、塚原直貴さん、君嶋愛梨沙らが被災地の子どもたちを指導

2025.10.27

11月22日、23日に奥能登で陸上教室を開催 朝原宣治さん、塚原直貴さん、君嶋愛梨沙らが被災地の子どもたちを指導

日本財団は10月27日、2024年の能登半島地震および水害で大きな被害を受けた石川県能登半島地域で、復興支援の一環として「奥能登陸上教室」を開催することを発表した。 日本財団では、アスリートとともに社会課題の解決に取り組 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年11月号 (10月14日発売)

2025年11月号 (10月14日発売)

東京世界選手権 総特集
箱根駅伝予選会&全日本大学駅伝展望

page top