2022.03.14
構成/小森貞子 インタビュー撮影/弓庭保夫
引退レースを終えて
日本の女子長距離界を長く牽引してきた福士加代子(ワコール)が1月30日、大阪国際女子マラソンと併催で行われた大阪ハーフマラソンを最後に、高校1年生で始めた陸上競技の選手生活から退いた。毎日の練習から解放されておよそ1ヵ月。今はどんな日々を送っているのだろうか。
のんびりと言えばのんびりですかね。練習は全然していません。今年に入ってから朝練習はほぼしていなかったんです。今は、何もやらなくなりました(笑)。ただ、今までと同じように京都・西大路にあるワコール本社に勤務しているので、日常は変わりません。
引退してすぐだからか、取材の依頼をいただいたり、大会のゲストに来てくれないかというお誘いを受けたり。今はその対応に当たっているところです。選手生活を終えてもっとホッとするのかと思っていたら、意外と次のスケジュールがぽんぽんと入ってきて、お陰様であっちへこっちへと出向いています。昨日は同い年の長尾育子が陸上部の顧問を務める福岡の筑紫女学園高で、高校生と走ってきました。同じく同学年の藤永佳子は長崎県の五島列島で高校の教員をやっているので、今度行ってこようと思っています。
私、最初はそっとフェードアウトしようと思っていたんです。そうしたら友達や会社の人たちに「もうちょっと余韻がほしい」と言われて、「引退は2ヵ月ぐらい前に言ってくれないか」と。
リオ五輪の翌年、2017年に結婚した夫には「ちゃんと最後まで走って終わらなくていいのか」と聞かれました。東京五輪代表選考会だった2020年の大阪国際女子、名古屋
ウィメンズとマラソンは2大会続けて途中棄権したままでした。私は「いいんだよ」と言い張っていましたが、彼はきちんとフィニッシュして終わってほしいような口ぶりでした。
そもそもマラソンでリオ五輪に出た後から、「どこで区切りにしようか」とずっと考えていました。ただ、東京でオリンピックが開かれるし、マラソンでもトラックでも選考レースに出られる権利を得た。「だったら、その権利を全部使い切ろう」と思って、マラソンの予選会と、10000mの日本選手権(2021年5月)に出場しました。
日本選手権の後は何もレースに出ず、駅伝も補欠に名を連ねただけで、今回の引退レースです。最初は「フルマラソンを」と言われましたけど、「フルは無理です」と断って、ハーフにしました。ハーフだったら友達もみんな走れるかなという思いもありました。
自分で頭に描いていた「引退」とは違いますけど、引退レースはやって良かったと思っています。理想は「もっと格好良く」ですよ。「惜しまれて辞める」みたいな(笑)。あんなボロボロの走りを見せられたら、みんな「納得」ですよね。ポイント練習はやったんですけど、間のジョグをほとんどやらなかったので、「ああ、こうなるんだ」というのが身に染みてわかりました。
最終的に「あそこまでボロボロになったら、転んでほしかった」などと言う友達もいたようです。初マラソンだった2008年の大阪で、何度も転んだイメージが強烈だったから、「最後も転んで」ということでしょうが、自分とすれば絶対に転べません。だから、これ以上走るのは無理という段階で歩きました。
転ぶシーンを再現したら、もうお母さんが立ち直れなくなります。初マラソンの時も青森から大阪へ応援に来てくれていて、あの悲惨なシーンを見ているので、その後はずっと「大阪には二度と行きたくない」と言っていました。
いつからだったか、親は「まだ辞めないの?」「もう辞めたら?」と何度も口にしていました。今思えば、自分はワコールに入った当初からずっと「いつ辞めようか」と考えていたような気がします。それなのに40歳近くまでやってきたのですから、不思議なものです。
オリンピックがあったからかなぁ……。それに世界選手権が2年に1回あって、オリンピック中間年にはアジア大会がある。毎年それらを追いかけているうちに、この歳まで来ちゃったということでしょうか。トラックをやっている時代は、毎年開催される国際大会を追いかけるのがおもしろかったのです。
インターハイに行く目的は「友達に会うこと」
津軽平野にある青森県板柳町の出身。桜の名所・弘前市の北に位置し、西には岩木山を仰ぐ。理髪店を営む両親と2人の兄にかわいがられ、末っ子の加代子は引っ込み思案ながらもすくすくと育ち、板柳中ではソフトボール部に入った。スポーツ好きだったが、まだオリンピック選手になる片鱗を見せていないし、自分もまったく興味がなかった。
ハーフマラソンを走った後、大阪の長居競技場で開いてもらった引退セレモニーで、スタンドにいた母親が「福士選手のお母さん」と紹介されて、すくっと立ち上がったの
にはビックリしたんです。今まで人前に出ることを極端にいやがる人でしたから。私もお母さんと同じで、目立ちたくない、穴があったら入りたい、という子供でした。おとなしい子だったと思います。
この続きは2022年3月14日発売の『月刊陸上競技4月号』をご覧ください。
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構成/小森貞子 インタビュー撮影/弓庭保夫
引退レースを終えて
日本の女子長距離界を長く牽引してきた福士加代子(ワコール)が1月30日、大阪国際女子マラソンと併催で行われた大阪ハーフマラソンを最後に、高校1年生で始めた陸上競技の選手生活から退いた。毎日の練習から解放されておよそ1ヵ月。今はどんな日々を送っているのだろうか。 のんびりと言えばのんびりですかね。練習は全然していません。今年に入ってから朝練習はほぼしていなかったんです。今は、何もやらなくなりました(笑)。ただ、今までと同じように京都・西大路にあるワコール本社に勤務しているので、日常は変わりません。 引退してすぐだからか、取材の依頼をいただいたり、大会のゲストに来てくれないかというお誘いを受けたり。今はその対応に当たっているところです。選手生活を終えてもっとホッとするのかと思っていたら、意外と次のスケジュールがぽんぽんと入ってきて、お陰様であっちへこっちへと出向いています。昨日は同い年の長尾育子が陸上部の顧問を務める福岡の筑紫女学園高で、高校生と走ってきました。同じく同学年の藤永佳子は長崎県の五島列島で高校の教員をやっているので、今度行ってこようと思っています。 私、最初はそっとフェードアウトしようと思っていたんです。そうしたら友達や会社の人たちに「もうちょっと余韻がほしい」と言われて、「引退は2ヵ月ぐらい前に言ってくれないか」と。 リオ五輪の翌年、2017年に結婚した夫には「ちゃんと最後まで走って終わらなくていいのか」と聞かれました。東京五輪代表選考会だった2020年の大阪国際女子、名古屋 ウィメンズとマラソンは2大会続けて途中棄権したままでした。私は「いいんだよ」と言い張っていましたが、彼はきちんとフィニッシュして終わってほしいような口ぶりでした。 そもそもマラソンでリオ五輪に出た後から、「どこで区切りにしようか」とずっと考えていました。ただ、東京でオリンピックが開かれるし、マラソンでもトラックでも選考レースに出られる権利を得た。「だったら、その権利を全部使い切ろう」と思って、マラソンの予選会と、10000mの日本選手権(2021年5月)に出場しました。 日本選手権の後は何もレースに出ず、駅伝も補欠に名を連ねただけで、今回の引退レースです。最初は「フルマラソンを」と言われましたけど、「フルは無理です」と断って、ハーフにしました。ハーフだったら友達もみんな走れるかなという思いもありました。 自分で頭に描いていた「引退」とは違いますけど、引退レースはやって良かったと思っています。理想は「もっと格好良く」ですよ。「惜しまれて辞める」みたいな(笑)。あんなボロボロの走りを見せられたら、みんな「納得」ですよね。ポイント練習はやったんですけど、間のジョグをほとんどやらなかったので、「ああ、こうなるんだ」というのが身に染みてわかりました。 最終的に「あそこまでボロボロになったら、転んでほしかった」などと言う友達もいたようです。初マラソンだった2008年の大阪で、何度も転んだイメージが強烈だったから、「最後も転んで」ということでしょうが、自分とすれば絶対に転べません。だから、これ以上走るのは無理という段階で歩きました。 転ぶシーンを再現したら、もうお母さんが立ち直れなくなります。初マラソンの時も青森から大阪へ応援に来てくれていて、あの悲惨なシーンを見ているので、その後はずっと「大阪には二度と行きたくない」と言っていました。 いつからだったか、親は「まだ辞めないの?」「もう辞めたら?」と何度も口にしていました。今思えば、自分はワコールに入った当初からずっと「いつ辞めようか」と考えていたような気がします。それなのに40歳近くまでやってきたのですから、不思議なものです。 オリンピックがあったからかなぁ……。それに世界選手権が2年に1回あって、オリンピック中間年にはアジア大会がある。毎年それらを追いかけているうちに、この歳まで来ちゃったということでしょうか。トラックをやっている時代は、毎年開催される国際大会を追いかけるのがおもしろかったのです。
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津軽平野にある青森県板柳町の出身。桜の名所・弘前市の北に位置し、西には岩木山を仰ぐ。理髪店を営む両親と2人の兄にかわいがられ、末っ子の加代子は引っ込み思案ながらもすくすくと育ち、板柳中ではソフトボール部に入った。スポーツ好きだったが、まだオリンピック選手になる片鱗を見せていないし、自分もまったく興味がなかった。 ハーフマラソンを走った後、大阪の長居競技場で開いてもらった引退セレモニーで、スタンドにいた母親が「福士選手のお母さん」と紹介されて、すくっと立ち上がったの にはビックリしたんです。今まで人前に出ることを極端にいやがる人でしたから。私もお母さんと同じで、目立ちたくない、穴があったら入りたい、という子供でした。おとなしい子だったと思います。 この続きは2022年3月14日発売の『月刊陸上競技4月号』をご覧ください。RECOMMENDED おすすめの記事
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