HOME バックナンバー
Road to OREGON 22 泉谷駿介 「世界」を当たり前に。
Road to OREGON 22 泉谷駿介 「世界」を当たり前に。

衝撃の13秒06を持って挑んだ初めてのオリンピック。110mハードルの泉谷駿介(順大)は確かにファイナルに近づいた。たった0.03秒。世界にその存在を知らしめたとはいえ、その差が決して小さくないこともまた感じ取った。世界一を決める舞台に立つのが「当たり前」となるように。今はただ、世界だけを見つめている。
文・構成/向永拓史 撮影/小川和行

広告の下にコンテンツが続きます

もうすぐ3月になるのに酒々井には時折、肌を刺す風が吹きつける。「先週は落とし気味で、今日からまた追い込む期間です」。ケガをしないように、入念に身体を温めてから練習をスタートさせた。

泉谷駿介(順大)は今、世界のスプリントハードル界の中心にいる。昨年マークした13秒06の日本記録は世界リスト5位。東京五輪の選手村では、〝世界一のハードラー〟グラント・ホロウェイ( 米国)から「Mybrother!」と声をかけられた。「海外選手はこういう感じのノリなんだなって。結構、うれしかったです」。自分がフォローする側だったSNSで、他のトップ選手からフォローされるようになった。

気づけば順大に入って4年が経つ。「あっという間でしたね」。大学のユニフォームは日本選手権室内が最後。インターハイ地区大会でタイトルを取れず涙に暮れていた姿はどこにもない。威風堂々。世界だけを見つめている。

想定外だった13秒06

2021年、最初に歴史を動かしたのは金井大旺(ミズノ)だった。4月の織田記念で13秒16。日本人で初めて13秒2を切った。だが、6月の日本選手権で泉谷は圧巻のパフ
ォーマンスを見せる。金井、そして高山峻野(ゼンリン)をもってして「想定外だった」と語る13秒06(+1. 2)の日本新。陸上界に衝撃が走った。

「順調にいったシーズンでしたが、日本選手権の記録は予想していませんでした。最初は実感もなくて、気持ちの整理に時間がかかりました。少しずつ記録を出したことを
受け止められて、『世界のトップと戦うんだ』と切り替えられたと思います。

陸上競技をやっていて、一生かけて13秒1台を出して競技生活を終わりたいと思っていたのが正直なところでした。そんなに早く達成してしまい、しかも13秒0台まで行くとは……。

ただ、5月の関東インカレ(決勝)で、追い風参考(+5.2)で13秒05を出して、そのスピードを体感できたのが大きかったです。インターバルはすごい勢いで刻めて、ハードリングもスッと前に抜けるような理想的な動きでした。当時は、軽い感じで『次は公認で』と言っていましたね」

泉谷は出場選手中ランキング3位で、〝メダル候補〟として東京五輪に臨んだ。順大1年目の18年にU20世界選手権、19年にユニバーシアードと、いずれも銅メダルを獲得。しかし、19年ドーハ世界選手権はケガで欠場しているため、シニアの一線級と相まみえるのは初めてだった。

予選は13秒28(-0.2)で2着通過。日本人初の決勝が見える快走だった。ところが、準決勝では2度もハードルに乗り上げて失速し、13秒35(-0. 1)で3着。タイムで拾われる「+2」まであと0.03秒だった。

「無観客だったので、本来のオリンピックの雰囲気とは違ったと思いますが、トップ選手の迫力はやっぱりすごかったです。準決勝で一緒だったホロウェイと(ハンズル・)パーチメント(ジャマイカ)の2人は、体格も全然違いましたね。

特にホロウェイはスタートが速いというのはわかっていましたが、想像以上でした。あんなに前に出られたのは初めて。離れていた(泉谷7レーン、ホロウェイ4レーン)のに、3歩目くらいで横目に見えるくらい前に出られていました。

2回目にバランスを崩した時は本当に転倒しそうでした。オリンピックのハードルはモンド社製で、とても固くて弾まないようになっています。ぶつけると身体に引っついてくる感じ。僕はハードルに乗っかることも多いのですが、たわまないのでバランスを崩してしまう。それもあってビビってしまいました。

良かったのは転ばなかったこととタイム。あの走りでも13秒35を出せて、20年までの自己ベストを超えられました。力がついているというのは実感できたと思います。

今でもオリンピックの動画を見返すことはあります。どうしても着順で決勝に行きたかったので焦ってしまいました。早く足を着こうとしなければよかったなとか、いつも通りのハードリングができればとか。〝たら・れば〟ですが後悔はあります」

この続きは2022年3月14日発売の『月刊陸上競技4月号』をご覧ください。

 

※インターネットショップ「BASE」のサイトに移動します
郵便振替で購入する
定期購読はこちらから

衝撃の13秒06を持って挑んだ初めてのオリンピック。110mハードルの泉谷駿介(順大)は確かにファイナルに近づいた。たった0.03秒。世界にその存在を知らしめたとはいえ、その差が決して小さくないこともまた感じ取った。世界一を決める舞台に立つのが「当たり前」となるように。今はただ、世界だけを見つめている。 文・構成/向永拓史 撮影/小川和行もうすぐ3月になるのに酒々井には時折、肌を刺す風が吹きつける。「先週は落とし気味で、今日からまた追い込む期間です」。ケガをしないように、入念に身体を温めてから練習をスタートさせた。泉谷駿介(順大)は今、世界のスプリントハードル界の中心にいる。昨年マークした13秒06の日本記録は世界リスト5位。東京五輪の選手村では、〝世界一のハードラー〟グラント・ホロウェイ( 米国)から「Mybrother!」と声をかけられた。「海外選手はこういう感じのノリなんだなって。結構、うれしかったです」。自分がフォローする側だったSNSで、他のトップ選手からフォローされるようになった。気づけば順大に入って4年が経つ。「あっという間でしたね」。大学のユニフォームは日本選手権室内が最後。インターハイ地区大会でタイトルを取れず涙に暮れていた姿はどこにもない。威風堂々。世界だけを見つめている。

想定外だった13秒06

2021年、最初に歴史を動かしたのは金井大旺(ミズノ)だった。4月の織田記念で13秒16。日本人で初めて13秒2を切った。だが、6月の日本選手権で泉谷は圧巻のパフ ォーマンスを見せる。金井、そして高山峻野(ゼンリン)をもってして「想定外だった」と語る13秒06(+1. 2)の日本新。陸上界に衝撃が走った。「順調にいったシーズンでしたが、日本選手権の記録は予想していませんでした。最初は実感もなくて、気持ちの整理に時間がかかりました。少しずつ記録を出したことを 受け止められて、『世界のトップと戦うんだ』と切り替えられたと思います。陸上競技をやっていて、一生かけて13秒1台を出して競技生活を終わりたいと思っていたのが正直なところでした。そんなに早く達成してしまい、しかも13秒0台まで行くとは……。ただ、5月の関東インカレ(決勝)で、追い風参考(+5.2)で13秒05を出して、そのスピードを体感できたのが大きかったです。インターバルはすごい勢いで刻めて、ハードリングもスッと前に抜けるような理想的な動きでした。当時は、軽い感じで『次は公認で』と言っていましたね」泉谷は出場選手中ランキング3位で、〝メダル候補〟として東京五輪に臨んだ。順大1年目の18年にU20世界選手権、19年にユニバーシアードと、いずれも銅メダルを獲得。しかし、19年ドーハ世界選手権はケガで欠場しているため、シニアの一線級と相まみえるのは初めてだった。予選は13秒28(-0.2)で2着通過。日本人初の決勝が見える快走だった。ところが、準決勝では2度もハードルに乗り上げて失速し、13秒35(-0. 1)で3着。タイムで拾われる「+2」まであと0.03秒だった。「無観客だったので、本来のオリンピックの雰囲気とは違ったと思いますが、トップ選手の迫力はやっぱりすごかったです。準決勝で一緒だったホロウェイと(ハンズル・)パーチメント(ジャマイカ)の2人は、体格も全然違いましたね。特にホロウェイはスタートが速いというのはわかっていましたが、想像以上でした。あんなに前に出られたのは初めて。離れていた(泉谷7レーン、ホロウェイ4レーン)のに、3歩目くらいで横目に見えるくらい前に出られていました。2回目にバランスを崩した時は本当に転倒しそうでした。オリンピックのハードルはモンド社製で、とても固くて弾まないようになっています。ぶつけると身体に引っついてくる感じ。僕はハードルに乗っかることも多いのですが、たわまないのでバランスを崩してしまう。それもあってビビってしまいました。良かったのは転ばなかったこととタイム。あの走りでも13秒35を出せて、20年までの自己ベストを超えられました。力がついているというのは実感できたと思います。今でもオリンピックの動画を見返すことはあります。どうしても着順で決勝に行きたかったので焦ってしまいました。早く足を着こうとしなければよかったなとか、いつも通りのハードリングができればとか。〝たら・れば〟ですが後悔はあります」この続きは2022年3月14日発売の『月刊陸上競技4月号』をご覧ください。 
※インターネットショップ「BASE」のサイトに移動します
郵便振替で購入する 定期購読はこちらから

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2026.10.23

東京五輪&世界選手権マラソン金のジェプチルチルに暫定資格停止処分 EPOの陽性反応

アスレティックス・インテグリティ・ユニット(AIU、世界陸連の独立不正監査機関)は10月23日、2021年東京五輪と2025年東京世界選手権の女子マラソンで金メダルを獲得したペレス・ジェプチルチル(ケニア)に暫定資格停止 […]

NEWS 大雨予報で2日目・走高跳、棒高跳、円盤投の競技時間繰り下げ 明日8時に追加変更の可能性/U18・16大会

2026.10.23

大雨予報で2日目・走高跳、棒高跳、円盤投の競技時間繰り下げ 明日8時に追加変更の可能性/U18・16大会

◇第20回U18・第57回U16陸上競技大会(2026年10月23日~25日/三重交通Gスポーツの杜伊勢陸上競技場) 日本陸連は10月23日、第20回U18・第57回U16陸上競技大会の2日目のU16とU18の女子走高跳 […]

NEWS 編集部コラム「陸上と他競技の横のつながり」

2026.10.23

編集部コラム「陸上と他競技の横のつながり」

攻め(?)のアンダーハンド リレーコラム?? 毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ! 陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいことetc…。 編集スタッフが週替りで […]

NEWS 中電工・梶山林太郎が引退 25年ニューイヤー駅伝出場 世羅高、中大でも駅伝で力走

2026.10.23

中電工・梶山林太郎が引退 25年ニューイヤー駅伝出場 世羅高、中大でも駅伝で力走

中電工陸上競技部は10月23日、チームのSNSで梶山林太郎の現役引退を発表した。 梶山は広島県出身。坂中時代は3年時の15年全中駅伝1区で区間賞に輝いた。世羅高では、全国高校駅伝に3年連続で出場し、1区を2度務めている。 […]

NEWS 競歩・池田向希が競技復帰へ「権利と競技人生を守るため、正面から向き合った」ドーピング違反無実と裁定

2026.10.23

競歩・池田向希が競技復帰へ「権利と競技人生を守るため、正面から向き合った」ドーピング違反無実と裁定

スポーツ仲裁裁判所(CAS)は10月23日、男子競歩の池田向希(旭化成)のドーピング規則違反に対する世界陸連(WA)の独立不正調査機関「アスレティックス・インテグリティ・ユニット(AIU)」への控訴に対して「支持する」と […]

    SNS

    Latest Issue 最新号最新号

    2026年11月号 (10月14日発売)

    2026年11月号 (10月14日発売)

    アジア大会総特集
    駅伝プレビュー

    page top