2022.03.14
衝撃の13秒06を持って挑んだ初めてのオリンピック。110mハードルの泉谷駿介(順大)は確かにファイナルに近づいた。たった0.03秒。世界にその存在を知らしめたとはいえ、その差が決して小さくないこともまた感じ取った。世界一を決める舞台に立つのが「当たり前」となるように。今はただ、世界だけを見つめている。
文・構成/向永拓史 撮影/小川和行
もうすぐ3月になるのに酒々井には時折、肌を刺す風が吹きつける。「先週は落とし気味で、今日からまた追い込む期間です」。ケガをしないように、入念に身体を温めてから練習をスタートさせた。
泉谷駿介(順大)は今、世界のスプリントハードル界の中心にいる。昨年マークした13秒06の日本記録は世界リスト5位。東京五輪の選手村では、〝世界一のハードラー〟グラント・ホロウェイ( 米国)から「Mybrother!」と声をかけられた。「海外選手はこういう感じのノリなんだなって。結構、うれしかったです」。自分がフォローする側だったSNSで、他のトップ選手からフォローされるようになった。
気づけば順大に入って4年が経つ。「あっという間でしたね」。大学のユニフォームは日本選手権室内が最後。インターハイ地区大会でタイトルを取れず涙に暮れていた姿はどこにもない。威風堂々。世界だけを見つめている。
想定外だった13秒06
2021年、最初に歴史を動かしたのは金井大旺(ミズノ)だった。4月の織田記念で13秒16。日本人で初めて13秒2を切った。だが、6月の日本選手権で泉谷は圧巻のパフ
ォーマンスを見せる。金井、そして高山峻野(ゼンリン)をもってして「想定外だった」と語る13秒06(+1. 2)の日本新。陸上界に衝撃が走った。
「順調にいったシーズンでしたが、日本選手権の記録は予想していませんでした。最初は実感もなくて、気持ちの整理に時間がかかりました。少しずつ記録を出したことを
受け止められて、『世界のトップと戦うんだ』と切り替えられたと思います。
陸上競技をやっていて、一生かけて13秒1台を出して競技生活を終わりたいと思っていたのが正直なところでした。そんなに早く達成してしまい、しかも13秒0台まで行くとは……。
ただ、5月の関東インカレ(決勝)で、追い風参考(+5.2)で13秒05を出して、そのスピードを体感できたのが大きかったです。インターバルはすごい勢いで刻めて、ハードリングもスッと前に抜けるような理想的な動きでした。当時は、軽い感じで『次は公認で』と言っていましたね」
泉谷は出場選手中ランキング3位で、〝メダル候補〟として東京五輪に臨んだ。順大1年目の18年にU20世界選手権、19年にユニバーシアードと、いずれも銅メダルを獲得。しかし、19年ドーハ世界選手権はケガで欠場しているため、シニアの一線級と相まみえるのは初めてだった。
予選は13秒28(-0.2)で2着通過。日本人初の決勝が見える快走だった。ところが、準決勝では2度もハードルに乗り上げて失速し、13秒35(-0. 1)で3着。タイムで拾われる「+2」まであと0.03秒だった。
「無観客だったので、本来のオリンピックの雰囲気とは違ったと思いますが、トップ選手の迫力はやっぱりすごかったです。準決勝で一緒だったホロウェイと(ハンズル・)パーチメント(ジャマイカ)の2人は、体格も全然違いましたね。
特にホロウェイはスタートが速いというのはわかっていましたが、想像以上でした。あんなに前に出られたのは初めて。離れていた(泉谷7レーン、ホロウェイ4レーン)のに、3歩目くらいで横目に見えるくらい前に出られていました。
2回目にバランスを崩した時は本当に転倒しそうでした。オリンピックのハードルはモンド社製で、とても固くて弾まないようになっています。ぶつけると身体に引っついてくる感じ。僕はハードルに乗っかることも多いのですが、たわまないのでバランスを崩してしまう。それもあってビビってしまいました。
良かったのは転ばなかったこととタイム。あの走りでも13秒35を出せて、20年までの自己ベストを超えられました。力がついているというのは実感できたと思います。
今でもオリンピックの動画を見返すことはあります。どうしても着順で決勝に行きたかったので焦ってしまいました。早く足を着こうとしなければよかったなとか、いつも通りのハードリングができればとか。〝たら・れば〟ですが後悔はあります」
この続きは2022年3月14日発売の『月刊陸上競技4月号』をご覧ください。
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衝撃の13秒06を持って挑んだ初めてのオリンピック。110mハードルの泉谷駿介(順大)は確かにファイナルに近づいた。たった0.03秒。世界にその存在を知らしめたとはいえ、その差が決して小さくないこともまた感じ取った。世界一を決める舞台に立つのが「当たり前」となるように。今はただ、世界だけを見つめている。
文・構成/向永拓史 撮影/小川和行
もうすぐ3月になるのに酒々井には時折、肌を刺す風が吹きつける。「先週は落とし気味で、今日からまた追い込む期間です」。ケガをしないように、入念に身体を温めてから練習をスタートさせた。
泉谷駿介(順大)は今、世界のスプリントハードル界の中心にいる。昨年マークした13秒06の日本記録は世界リスト5位。東京五輪の選手村では、〝世界一のハードラー〟グラント・ホロウェイ( 米国)から「Mybrother!」と声をかけられた。「海外選手はこういう感じのノリなんだなって。結構、うれしかったです」。自分がフォローする側だったSNSで、他のトップ選手からフォローされるようになった。
気づけば順大に入って4年が経つ。「あっという間でしたね」。大学のユニフォームは日本選手権室内が最後。インターハイ地区大会でタイトルを取れず涙に暮れていた姿はどこにもない。威風堂々。世界だけを見つめている。
想定外だった13秒06
2021年、最初に歴史を動かしたのは金井大旺(ミズノ)だった。4月の織田記念で13秒16。日本人で初めて13秒2を切った。だが、6月の日本選手権で泉谷は圧巻のパフ ォーマンスを見せる。金井、そして高山峻野(ゼンリン)をもってして「想定外だった」と語る13秒06(+1. 2)の日本新。陸上界に衝撃が走った。 「順調にいったシーズンでしたが、日本選手権の記録は予想していませんでした。最初は実感もなくて、気持ちの整理に時間がかかりました。少しずつ記録を出したことを 受け止められて、『世界のトップと戦うんだ』と切り替えられたと思います。 陸上競技をやっていて、一生かけて13秒1台を出して競技生活を終わりたいと思っていたのが正直なところでした。そんなに早く達成してしまい、しかも13秒0台まで行くとは……。
ただ、5月の関東インカレ(決勝)で、追い風参考(+5.2)で13秒05を出して、そのスピードを体感できたのが大きかったです。インターバルはすごい勢いで刻めて、ハードリングもスッと前に抜けるような理想的な動きでした。当時は、軽い感じで『次は公認で』と言っていましたね」
泉谷は出場選手中ランキング3位で、〝メダル候補〟として東京五輪に臨んだ。順大1年目の18年にU20世界選手権、19年にユニバーシアードと、いずれも銅メダルを獲得。しかし、19年ドーハ世界選手権はケガで欠場しているため、シニアの一線級と相まみえるのは初めてだった。
予選は13秒28(-0.2)で2着通過。日本人初の決勝が見える快走だった。ところが、準決勝では2度もハードルに乗り上げて失速し、13秒35(-0. 1)で3着。タイムで拾われる「+2」まであと0.03秒だった。
「無観客だったので、本来のオリンピックの雰囲気とは違ったと思いますが、トップ選手の迫力はやっぱりすごかったです。準決勝で一緒だったホロウェイと(ハンズル・)パーチメント(ジャマイカ)の2人は、体格も全然違いましたね。
特にホロウェイはスタートが速いというのはわかっていましたが、想像以上でした。あんなに前に出られたのは初めて。離れていた(泉谷7レーン、ホロウェイ4レーン)のに、3歩目くらいで横目に見えるくらい前に出られていました。
2回目にバランスを崩した時は本当に転倒しそうでした。オリンピックのハードルはモンド社製で、とても固くて弾まないようになっています。ぶつけると身体に引っついてくる感じ。僕はハードルに乗っかることも多いのですが、たわまないのでバランスを崩してしまう。それもあってビビってしまいました。
良かったのは転ばなかったこととタイム。あの走りでも13秒35を出せて、20年までの自己ベストを超えられました。力がついているというのは実感できたと思います。
今でもオリンピックの動画を見返すことはあります。どうしても着順で決勝に行きたかったので焦ってしまいました。早く足を着こうとしなければよかったなとか、いつも通りのハードリングができればとか。〝たら・れば〟ですが後悔はあります」
この続きは2022年3月14日発売の『月刊陸上競技4月号』をご覧ください。
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