2021.12.28

箱根駅伝Stories
駒澤大学
Komazawa University
12月29日の区間エントリーを直前に控え、箱根駅伝ムードが徐々に高まっている。「箱根駅伝Stories」と題し、12月下旬から本番まで計19本の特集記事を掲載していく。
最後の第19回目は、前回王者で全日本大学駅伝との2冠を狙う駒大を特集する。
11月の全日本は「3本柱」の両輪を担う鈴木芽吹、唐澤拓海(ともに2年)のほか、10000m28分14秒86の白鳥哲汰(2年)、副将の山野力(3年)、日本インカレ5000m2位の篠原倖太郎(1年)ら主力を大量に欠き、それでも勝ち切った。
彼らが無事にエントリー入りを果たした箱根駅伝では、もちろん連覇を狙いに行く。名将・大八木弘明監督は本番を目前に控えて何を思うのか、話を聞いてみた。
僅差を勝ち切る新スタイル
土壇場の大逆転劇から1年が経とうとしている。
「(前回大会は)2秒差で復路2位だったんですよね。一時は無理だとあきらめた総合優勝ができるとなって、『やったー』って大喜びしていたら、復路優勝のことを忘れちゃっていたんですよ。ペースを上げるように指示していたら、復路も取れていたかなぁ」。
駒大・大八木弘明監督がそう言って、朗らかに笑う。
63歳。いつからか柔和な笑顔を「さらけ出す」ことが増えた。専任コーチに就任した1995年当時は、カメラを向けてもニコリともしなかった人だ。近年は大八木監督が隠さなくなった「喜怒哀楽」に楽しみを見出すファンも多い。
決して万全な状態ではなかった11月の全日本大学駅伝。何門もの“大砲”を欠きながら、終盤の逆転勝ちを収めた。相性のいい伊勢路は2年連続14度目の栄冠だ。
その1年前は最終8区で逆転。前回の箱根駅伝は10区で逆転。今回の全日本は残り2kmまで青学大と並走していた。僅差の勝負を勝ち切るのが、駒大・新黄金期のスタイルになってきた。大八木監督の老練な采配がますます冴えわたる。
今季の高速化をけん引
2021年、駒大は学生界の高速化をけん引した。
前回の箱根駅伝でメンバー外だった唐澤拓海(2年)が春に28分02秒52をマークし、返す刀で関東インカレ2部5000m、10000mで日本人トップ。
5月3日の日本選手権10000mでは箱根駅伝後のケガから復帰初戦の田澤廉(3年)が2位、3月の日本学生ハーフ2位となっていた鈴木芽吹(2年)が3位と上位2つのイスを占拠し、東京五輪日本代表に肉薄した。7月には白鳥哲汰(2年)が28分14秒86をマークしている。
極めつけは12月4日、田澤が10000m日本人学生最高となる27分23秒44で走破し、来年7月に開催されるオレゴン世界選手権の参加標準記録突破の第一号になった。
日本を代表する長距離選手へと成長した田澤廉(右)と指導する大八木弘明監督
その他のメンバーも好記録を連発しているが、その背景として練習の質が向上したことが大きい。それが顕著だったのが夏の強化期間だ。
「今年のBグループが、例年のAグループのレベルの練習です。その上にAグループ、一番上にSグループ(田澤、鈴木、唐澤)ができたような感じです」(大八木監督)
上3人の力は抜けているが、「その下はゴソッといます」と指揮官が話すように、チーム内競争は激化の一途を辿っている。
全日本で欠いていたのは、田澤と並ぶ「3本柱」として期待される鈴木、唐澤。さらには白鳥、副将の山野力(3年)も外れていた。彼らは16人の登録メンバーに入り、全日本優勝チームの戦力を数段引き上げるだろう。
今も息づく「ロードの駒澤」
駅伝復帰を目指す彼らが、駒大のキーマンのように語られ、たしかにその側面はある。
しかし、20km超の10区間からなる箱根駅伝で重要なのは、花尾恭輔、安原太陽(2年)といったスタミナ・ロード型タイプ。全日本では安原が6区、花尾が8区と、7区だった田澤の両脇を固め、「6区から反撃作戦」を見事に遂行した。
1990年代から2000年代前半の駒大と言えば「ロードの駒澤」。藤田敦史、高橋正仁といった鍛え上げられた雑草選手が、高校時代からのエリート選手を相手に戦ったものだ。
それからスピード化する時代、選手の特性に合わせて柔軟に舵を切り、駒大もスピード色が強いチームになってきた。そんな中でも失われていないのが、ロード・駅伝路線の育成メソッドだ。
5000m、10000mのタイムで、花尾はチーム内13位と6位、安原は5位と13位。その選手たちが、駅伝で活躍を見せるのが、駒大のもう一つの特徴と言える。
全日本ではエースが集う3区を担った佃康平(4年)も同タイプ。「佃には、出雲では他の選手を試したいからと、外れてもらいました。各大学のエースが集まる全日本の3区は、誰が入っても厳しいのはわかっていました。そこで『佃なら何とかなる』と思わせてくれるのが彼なんです」と大八木監督。
区間12位は見栄えしない成績だが、佃が最大の穴を埋めたから、終盤の反撃が成立したのだと言う。
今季の駒大を牽引する主力選手たち。前列右から時計回りに佃康平、唐澤拓海、佐藤条二、安原太陽、鈴木芽吹、田澤、山野力、花尾恭輔(チーム提供)
振り返れば昨年度、全日本まではトラック路線の選手を主軸に戦い、箱根駅伝でロード路線の選手が主に復路で重要な役割を担った。スピードとスタミナ、その両輪がかみ合った時の駒大は強い。
出雲と全日本で主力を欠いた駒大は、まだ“完全な姿”から程遠い。100%にはならなくても、そこに近付けば近付くほど、優勝のフィニッシュテープが見えてくる。
「警戒する大学ですか? 往路は東京国際が間違いなく来るでしょう。青学大、明大、國學院大、順大、早大……挙げていけばキリがないですよ」。
そう話して苦笑する大八木監督。そんな群雄割拠が、どこか楽しそうでもある。
泰然自若。どのチームが勃興して立ちはだかっても、できる準備をするだけだと、大八木監督のほほ笑みが物語っている。
文/奥村 崇
箱根駅伝Stories
駒澤大学
Komazawa University
12月29日の区間エントリーを直前に控え、箱根駅伝ムードが徐々に高まっている。「箱根駅伝Stories」と題し、12月下旬から本番まで計19本の特集記事を掲載していく。
最後の第19回目は、前回王者で全日本大学駅伝との2冠を狙う駒大を特集する。
11月の全日本は「3本柱」の両輪を担う鈴木芽吹、唐澤拓海(ともに2年)のほか、10000m28分14秒86の白鳥哲汰(2年)、副将の山野力(3年)、日本インカレ5000m2位の篠原倖太郎(1年)ら主力を大量に欠き、それでも勝ち切った。
彼らが無事にエントリー入りを果たした箱根駅伝では、もちろん連覇を狙いに行く。名将・大八木弘明監督は本番を目前に控えて何を思うのか、話を聞いてみた。
僅差を勝ち切る新スタイル
土壇場の大逆転劇から1年が経とうとしている。 「(前回大会は)2秒差で復路2位だったんですよね。一時は無理だとあきらめた総合優勝ができるとなって、『やったー』って大喜びしていたら、復路優勝のことを忘れちゃっていたんですよ。ペースを上げるように指示していたら、復路も取れていたかなぁ」。 駒大・大八木弘明監督がそう言って、朗らかに笑う。 63歳。いつからか柔和な笑顔を「さらけ出す」ことが増えた。専任コーチに就任した1995年当時は、カメラを向けてもニコリともしなかった人だ。近年は大八木監督が隠さなくなった「喜怒哀楽」に楽しみを見出すファンも多い。 決して万全な状態ではなかった11月の全日本大学駅伝。何門もの“大砲”を欠きながら、終盤の逆転勝ちを収めた。相性のいい伊勢路は2年連続14度目の栄冠だ。 その1年前は最終8区で逆転。前回の箱根駅伝は10区で逆転。今回の全日本は残り2kmまで青学大と並走していた。僅差の勝負を勝ち切るのが、駒大・新黄金期のスタイルになってきた。大八木監督の老練な采配がますます冴えわたる。今季の高速化をけん引
2021年、駒大は学生界の高速化をけん引した。 前回の箱根駅伝でメンバー外だった唐澤拓海(2年)が春に28分02秒52をマークし、返す刀で関東インカレ2部5000m、10000mで日本人トップ。 5月3日の日本選手権10000mでは箱根駅伝後のケガから復帰初戦の田澤廉(3年)が2位、3月の日本学生ハーフ2位となっていた鈴木芽吹(2年)が3位と上位2つのイスを占拠し、東京五輪日本代表に肉薄した。7月には白鳥哲汰(2年)が28分14秒86をマークしている。 極めつけは12月4日、田澤が10000m日本人学生最高となる27分23秒44で走破し、来年7月に開催されるオレゴン世界選手権の参加標準記録突破の第一号になった。
日本を代表する長距離選手へと成長した田澤廉(右)と指導する大八木弘明監督
その他のメンバーも好記録を連発しているが、その背景として練習の質が向上したことが大きい。それが顕著だったのが夏の強化期間だ。
「今年のBグループが、例年のAグループのレベルの練習です。その上にAグループ、一番上にSグループ(田澤、鈴木、唐澤)ができたような感じです」(大八木監督)
上3人の力は抜けているが、「その下はゴソッといます」と指揮官が話すように、チーム内競争は激化の一途を辿っている。
全日本で欠いていたのは、田澤と並ぶ「3本柱」として期待される鈴木、唐澤。さらには白鳥、副将の山野力(3年)も外れていた。彼らは16人の登録メンバーに入り、全日本優勝チームの戦力を数段引き上げるだろう。
今も息づく「ロードの駒澤」
駅伝復帰を目指す彼らが、駒大のキーマンのように語られ、たしかにその側面はある。 しかし、20km超の10区間からなる箱根駅伝で重要なのは、花尾恭輔、安原太陽(2年)といったスタミナ・ロード型タイプ。全日本では安原が6区、花尾が8区と、7区だった田澤の両脇を固め、「6区から反撃作戦」を見事に遂行した。 1990年代から2000年代前半の駒大と言えば「ロードの駒澤」。藤田敦史、高橋正仁といった鍛え上げられた雑草選手が、高校時代からのエリート選手を相手に戦ったものだ。 それからスピード化する時代、選手の特性に合わせて柔軟に舵を切り、駒大もスピード色が強いチームになってきた。そんな中でも失われていないのが、ロード・駅伝路線の育成メソッドだ。 5000m、10000mのタイムで、花尾はチーム内13位と6位、安原は5位と13位。その選手たちが、駅伝で活躍を見せるのが、駒大のもう一つの特徴と言える。 全日本ではエースが集う3区を担った佃康平(4年)も同タイプ。「佃には、出雲では他の選手を試したいからと、外れてもらいました。各大学のエースが集まる全日本の3区は、誰が入っても厳しいのはわかっていました。そこで『佃なら何とかなる』と思わせてくれるのが彼なんです」と大八木監督。 区間12位は見栄えしない成績だが、佃が最大の穴を埋めたから、終盤の反撃が成立したのだと言う。
今季の駒大を牽引する主力選手たち。前列右から時計回りに佃康平、唐澤拓海、佐藤条二、安原太陽、鈴木芽吹、田澤、山野力、花尾恭輔(チーム提供)
振り返れば昨年度、全日本まではトラック路線の選手を主軸に戦い、箱根駅伝でロード路線の選手が主に復路で重要な役割を担った。スピードとスタミナ、その両輪がかみ合った時の駒大は強い。
出雲と全日本で主力を欠いた駒大は、まだ“完全な姿”から程遠い。100%にはならなくても、そこに近付けば近付くほど、優勝のフィニッシュテープが見えてくる。
「警戒する大学ですか? 往路は東京国際が間違いなく来るでしょう。青学大、明大、國學院大、順大、早大……挙げていけばキリがないですよ」。
そう話して苦笑する大八木監督。そんな群雄割拠が、どこか楽しそうでもある。
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