2021.10.18
現役引退を決めた女子やり投の宮下梨沙(Y-TORE)。写真は2017年のロンドン世界選手権
女子やり投で世界選手権に2度(11年テグ、17年ロンドン)出場した宮下梨沙(Y-TORE)が、10月17日の田島記念で現役を引退。5投目に57m10をマークして4位と存在感を示した37歳は、「ずっとあった陸上がなくなってポカンと穴が開いているようで寂しいのですが、ケガなく、楽しくやり切れたので良かったです」と振り返った。
この日は、ロンドン世界選手権でともに日本代表として出場した2人と同じ時間を過ごした。斉藤真理菜(スズキAC)は同じピットに立ち、海老原有希さんも斉藤のコーチとして帯同。同種目としては世界大会で初のフルエントリーを果たした大会を振り返りつつ、斉藤に世界への思いを託す部分もあったという。
宮下が現役生活で一番の思い出の試合として挙げたのは、その海老原さんを逆転する、自身初の大台アーチ(60m08)を架けて初の世界選手権出場を決めた11年の日本選手権。「あの1投で私の競技人生は変わりました。本気で世界を目指すと思えるようになった大会ですし、そこからエビちゃん(海老原さんの愛称)たちとみんなで高め合ってこられた」と話す。
薫英女学院でやり投と出合う
大阪府島本町出身。小学校6年生の時に入った陸上クラブで陸上競技の楽しさに触れ、島本一中では三種競技Aに取り組んだ。
やり投と出合ったのは薫英女学院高に入ってから。子供の時から、野球をやる父や兄とよくキャッチボールをしていた経験から、適性を見出されたのがきっかけ。インターハイには2年連続出場し、3年時には9位と入賞にあと一歩まで迫った。
その時にアドバイスを受けたのが、大体大でも、社会人になってからも、ずっと指導を仰ぐことになる辻弘雅コーチだった。
大学卒業後は京都や母校・薫英女学院高で非常勤講師を務めながら、辻コーチが勤務する清風南海高などでトレーニングをする日々を送り、力をつけていった。初めての「日本一」は、社会人4年目だった2010年の全日本実業団対抗選手権。大事な場面で力を出し切れない面はずっと課題だったが、この優勝が翌年の大アーチへの大きな布石となった。自己ベストは16年9月の全日本実業団で3連覇を達成した時に出した60m86(現日本歴代9位)。17年60m03、18年60m71と、60mオーバーを4度果たしている。
心残りは五輪
心残りがあるとすれば、五輪の舞台に立てなかったこと。12年ロンドンは参加標準記録Bは突破していてものの、同Aを突破できず。16年リオは日本選手権で5年ぶり2度目の優勝を飾りながらも、同じく参加標準記録を突破できずに代表入りを逃した。
「次のオリンピックで、次のオリンピックでと目指して、最終的に東京五輪へ」。19年からは所属を新たにサポートを受ける長崎の企業へと変更し、より競技に集中できる環境も得た。だが、64m00という参加標準記録の壁は高く、ワールドランキングのポイントを積み上げることもできなかった。今年6月の日本選手権では10位にとどまり、夢はかなわなかった。
「どんな結果でもケジメをつけようと思っていました。若い子たちが強くなってきたので、しっかりとバトンタッチできるように」と引退を決意。まだ、今後については「ちょっとゆっくりして、自分ができることが何なのかを考えていきたい」と言う。
今季は薫英女学院高の非常勤講師を務めながら、長崎諫早市の「Y-TORE」所属選手兼コーチとして活動してきた。「そこで高校、社会人と関係なく取り組む経験ができたので、そういった取り組みもできればいいですね」。やりたいこと、できることを整理しながら、次への準備を少しずつ進めていくつもりだ。
最後に、二人三脚でやってきた辻コーチへの感謝を語った。
「練習や遠征など、ずっと車でいろんなところに連れて行ってくれましたし、本当につきっきりで指導をしてくださいました。それが世界につながったと思いますし、本当に感謝しかないです」
これからの取り組みも辻コーチが「お手本」になりそうだという宮下。地道に技術を磨き、世界へとつながったその取り組みを、これからの陸上界へと伝えていってほしい。
二人三脚で歩んできた辻弘雅コーチと
文/小川雅生
薫英女学院でやり投と出合う
大阪府島本町出身。小学校6年生の時に入った陸上クラブで陸上競技の楽しさに触れ、島本一中では三種競技Aに取り組んだ。 やり投と出合ったのは薫英女学院高に入ってから。子供の時から、野球をやる父や兄とよくキャッチボールをしていた経験から、適性を見出されたのがきっかけ。インターハイには2年連続出場し、3年時には9位と入賞にあと一歩まで迫った。 その時にアドバイスを受けたのが、大体大でも、社会人になってからも、ずっと指導を仰ぐことになる辻弘雅コーチだった。 大学卒業後は京都や母校・薫英女学院高で非常勤講師を務めながら、辻コーチが勤務する清風南海高などでトレーニングをする日々を送り、力をつけていった。初めての「日本一」は、社会人4年目だった2010年の全日本実業団対抗選手権。大事な場面で力を出し切れない面はずっと課題だったが、この優勝が翌年の大アーチへの大きな布石となった。自己ベストは16年9月の全日本実業団で3連覇を達成した時に出した60m86(現日本歴代9位)。17年60m03、18年60m71と、60mオーバーを4度果たしている。心残りは五輪
心残りがあるとすれば、五輪の舞台に立てなかったこと。12年ロンドンは参加標準記録Bは突破していてものの、同Aを突破できず。16年リオは日本選手権で5年ぶり2度目の優勝を飾りながらも、同じく参加標準記録を突破できずに代表入りを逃した。 「次のオリンピックで、次のオリンピックでと目指して、最終的に東京五輪へ」。19年からは所属を新たにサポートを受ける長崎の企業へと変更し、より競技に集中できる環境も得た。だが、64m00という参加標準記録の壁は高く、ワールドランキングのポイントを積み上げることもできなかった。今年6月の日本選手権では10位にとどまり、夢はかなわなかった。 「どんな結果でもケジメをつけようと思っていました。若い子たちが強くなってきたので、しっかりとバトンタッチできるように」と引退を決意。まだ、今後については「ちょっとゆっくりして、自分ができることが何なのかを考えていきたい」と言う。 今季は薫英女学院高の非常勤講師を務めながら、長崎諫早市の「Y-TORE」所属選手兼コーチとして活動してきた。「そこで高校、社会人と関係なく取り組む経験ができたので、そういった取り組みもできればいいですね」。やりたいこと、できることを整理しながら、次への準備を少しずつ進めていくつもりだ。 最後に、二人三脚でやってきた辻コーチへの感謝を語った。 「練習や遠征など、ずっと車でいろんなところに連れて行ってくれましたし、本当につきっきりで指導をしてくださいました。それが世界につながったと思いますし、本当に感謝しかないです」 これからの取り組みも辻コーチが「お手本」になりそうだという宮下。地道に技術を磨き、世界へとつながったその取り組みを、これからの陸上界へと伝えていってほしい。 二人三脚で歩んできた辻弘雅コーチと 文/小川雅生
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