2019.09.19
【Web特別記事】
日本インカレSide Story①
天城帆乃香(中京大)
〝天才少女〟の葛藤と成長
9月12日から15日にかけて岐阜・メモリアルセンター長良川競技場で行われた日本インカレ。大会報道は月刊陸上11月号に掲載予定だが、Webでは誌面で紹介しきれないサイドストーリーをいくつかお届けする。
〝天才少女〟の苦悩
日本インカレで、天城帆乃香(中京大4年)は女子100mと走幅跳、そして4×100mリレーに出場した。ずっと取り組んできた種目。大学4年目、最後のインカレはいずれも予選落ちに終わった。走幅跳はあとわずか2cmで決勝進出を逃した。
「どれも楽しくやれましたが、記録が出せなかったのが悔しい」
溜め込んでいた感情は、試合を終えると一気に涙になって溢れ出た。
「走幅跳でもう少し記録を出したかったです。悔いなく出し切りたかったし、感謝の気持ちを結果で残したかった。自己ベストは2012年のままなので」
天城帆乃香の名は小学生時代から全国に轟いていた。走幅跳では小6で5m21を跳び、全国小学生交流大会の大会記録(当時)も作った。中1から100mと走幅跳で全中に出場すると、中1の3月末には12秒01(中1歴代2位)で駆け抜けている。
中2の全中こそ腰のケガの影響で100m準決勝敗退、走幅跳は決勝棄権と悔しい思いをしたが、秋のジュニア五輪は走幅跳優勝、4×100mリレーと2冠を果たす。
迎えた中3の全中は、走幅跳で過去2年の悔しさをバネに大ジャンプ。大会記録に1cmと迫る6m11を跳んで優勝し、11秒95のベストを持って臨んだ100mで4位、4継でも4位とフル回転し、女子MVPに輝いた。
〝天才少女〟〝スーパー中学生〟。そんな肩書きが必ずついて回り、高校生になった天城を苦しめることになる。
「正直、しんどかったです。期待してもらっているのに全然活躍できない。それなのに気にかけてくれる人もいて、申し訳ない気持ちでいっぱいでした」
心ない言葉が天城の耳に届こくこともあった。タイトルに届かず、「陸上は高校まででやめよう」と一時は決意。それでも、幼い頃から指導してくれる水野信人コーチや、母をはじめとする家族、仲間がいつも支えてくれた。
特に水野コーチや母には、時に厳しく叱咤され、負けず嫌いな性格ゆえ衝突することもあった。「これまで感謝の言葉を伝えたことはないんですけどね」と苦笑いするが、自分を思ってくれていることは常に感じていた。
中学時代をリセットして自立
天城は高校最後の大会となった日本ジュニア室内で〝高校初タイトル〟を手にし、中京大へと進学。走ることも、跳ぶこともあきらめなかった。
大学1年の秋には6m01を跳んで日本ジュニア選手権でも優勝。だが、以降、天城は〝6m〟を跳べないまま時が過ぎた。
「中学の時は言われるまま練習して、言われた通り跳べば記録が出ました。でも、ケガもあって、体重も増えて、なかなか記録が出ませんでした」
過食したわけでも、練習をサボったわけでもない。それでも、体型は確実に変化した。
「苦しかったですね。まず、走幅跳の技術、感覚を捨てる必要がありました。でも、結果を残してきた技術を捨てたくなかった。リセットするまですごく時間がかかりました。中学時代に先生たちに頼り過ぎていたんです」
そして最終学年。「今年は試合ごとに改善できている感じがあったんです」と、手応えをつかんでいた。アベレージは確実に上がり、5m後半を安定して跳べるようになった。
「やっと自分で考えて取り組めている感じがあって、記録が出なくてもやりがいがありました。高校時代にもう少し早く自立しようとしていれば……」
ただ、こうも思える。
「苦しかったけど、それを乗り越えられたから今の自分があります。最後は本当に楽しめました。仲間に感謝です。女子選手は身体も変わるし、環境の変化に対応するのも難しい。でも、最後まであきらめなければ得られるものがある。同じような立場の後輩に言えることがあるとすれば、〝あきらめないで〟ということ」
天城は卒業後、特別支援学校の教諭になることを目指している。
「これで競技をやめようかなって思っていたんですが、終わってみると中途半端で終わりたくない、中学の時のベストを超えたいという気持ちが出てきました。仕事をしながら、もう少し跳んでみようかな」
苦しんだ末に自分で決断した新たな一歩。それは中学時代に跳んだ6m11とは違った価値を持つ、大きな大きなジャンプになる。
文/向永拓史
〝天才少女〟の苦悩
日本インカレで、天城帆乃香(中京大4年)は女子100mと走幅跳、そして4×100mリレーに出場した。ずっと取り組んできた種目。大学4年目、最後のインカレはいずれも予選落ちに終わった。走幅跳はあとわずか2cmで決勝進出を逃した。 「どれも楽しくやれましたが、記録が出せなかったのが悔しい」 溜め込んでいた感情は、試合を終えると一気に涙になって溢れ出た。 「走幅跳でもう少し記録を出したかったです。悔いなく出し切りたかったし、感謝の気持ちを結果で残したかった。自己ベストは2012年のままなので」 天城帆乃香の名は小学生時代から全国に轟いていた。走幅跳では小6で5m21を跳び、全国小学生交流大会の大会記録(当時)も作った。中1から100mと走幅跳で全中に出場すると、中1の3月末には12秒01(中1歴代2位)で駆け抜けている。 中2の全中こそ腰のケガの影響で100m準決勝敗退、走幅跳は決勝棄権と悔しい思いをしたが、秋のジュニア五輪は走幅跳優勝、4×100mリレーと2冠を果たす。 迎えた中3の全中は、走幅跳で過去2年の悔しさをバネに大ジャンプ。大会記録に1cmと迫る6m11を跳んで優勝し、11秒95のベストを持って臨んだ100mで4位、4継でも4位とフル回転し、女子MVPに輝いた。 〝天才少女〟〝スーパー中学生〟。そんな肩書きが必ずついて回り、高校生になった天城を苦しめることになる。 「正直、しんどかったです。期待してもらっているのに全然活躍できない。それなのに気にかけてくれる人もいて、申し訳ない気持ちでいっぱいでした」 心ない言葉が天城の耳に届こくこともあった。タイトルに届かず、「陸上は高校まででやめよう」と一時は決意。それでも、幼い頃から指導してくれる水野信人コーチや、母をはじめとする家族、仲間がいつも支えてくれた。 特に水野コーチや母には、時に厳しく叱咤され、負けず嫌いな性格ゆえ衝突することもあった。「これまで感謝の言葉を伝えたことはないんですけどね」と苦笑いするが、自分を思ってくれていることは常に感じていた。 [caption id="attachment_4527" align="aligncenter" width="300"] 「中京大じゃなかったら乗り越えられなかった」と天城は感謝の言葉を並べた(写真提供/中京大)[/caption]中学時代をリセットして自立
天城は高校最後の大会となった日本ジュニア室内で〝高校初タイトル〟を手にし、中京大へと進学。走ることも、跳ぶこともあきらめなかった。 大学1年の秋には6m01を跳んで日本ジュニア選手権でも優勝。だが、以降、天城は〝6m〟を跳べないまま時が過ぎた。 「中学の時は言われるまま練習して、言われた通り跳べば記録が出ました。でも、ケガもあって、体重も増えて、なかなか記録が出ませんでした」 過食したわけでも、練習をサボったわけでもない。それでも、体型は確実に変化した。 「苦しかったですね。まず、走幅跳の技術、感覚を捨てる必要がありました。でも、結果を残してきた技術を捨てたくなかった。リセットするまですごく時間がかかりました。中学時代に先生たちに頼り過ぎていたんです」 そして最終学年。「今年は試合ごとに改善できている感じがあったんです」と、手応えをつかんでいた。アベレージは確実に上がり、5m後半を安定して跳べるようになった。 「やっと自分で考えて取り組めている感じがあって、記録が出なくてもやりがいがありました。高校時代にもう少し早く自立しようとしていれば……」 ただ、こうも思える。 「苦しかったけど、それを乗り越えられたから今の自分があります。最後は本当に楽しめました。仲間に感謝です。女子選手は身体も変わるし、環境の変化に対応するのも難しい。でも、最後まであきらめなければ得られるものがある。同じような立場の後輩に言えることがあるとすれば、〝あきらめないで〟ということ」 [caption id="attachment_4525" align="aligncenter" width="300"] 中京大の仲間たちと一緒に応援。カメラを撮影しているのが天城[/caption] 天城は卒業後、特別支援学校の教諭になることを目指している。 「これで競技をやめようかなって思っていたんですが、終わってみると中途半端で終わりたくない、中学の時のベストを超えたいという気持ちが出てきました。仕事をしながら、もう少し跳んでみようかな」 苦しんだ末に自分で決断した新たな一歩。それは中学時代に跳んだ6m11とは違った価値を持つ、大きな大きなジャンプになる。 文/向永拓史
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking 人気記事ランキング
2024.04.20
男子110mH・泉谷駿介が13秒17!! 標準突破でパリ五輪代表内定!/DL廈門
2024.04.20
デュプランティス6m24で男子棒高跳世界新! 今季屋外初戦でいきなり更新/DL廈門
-
2024.04.20
-
2024.04.20
-
2024.04.20
2024.04.17
パリ五輪の公式スポーツウエアが公開!赤を基調にパリの日の出イメージ 環境への配慮も
-
2024.04.18
-
2024.04.15
2024.04.12
40年以上の人気シューズ”ペガサス”シリーズの最新作!「ナイキ ペガサス 41」が登場!
-
2024.03.28
-
2024.04.07
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2024.04.20
男子走高跳・真野友博が4位タイで五輪に前進 100mは和田遼が健闘5位、桐生祥秀7位/DL廈門
ダイヤモンドリーグ(DL)の24年開幕戦となる廈門大会(中国)が4月20日に行われ、男子走高跳では真野友博(九電工)が2m24で4位タイとなった。 昨年のブダペスト世界選手権代表の真野は、冬季に豪州やニュージーランドと南 […]
2024.04.20
男子110mH・泉谷駿介が13秒17!! 標準突破でパリ五輪代表内定!/DL廈門
ダイヤモンドリーグ(DL)の24年開幕戦となる廈門大会(中国)が4月20日に行われ、男子110mハードルで泉谷駿介(住友電工)が13秒17で3位に入賞。昨年のブダペスト世界選手権で5位に入賞している泉谷は、今夏のパリ五輪 […]
2024.04.20
デュプランティス6m24で男子棒高跳世界新! 今季屋外初戦でいきなり更新/DL廈門
世界陸連のダイヤモンドリーグ(DL)2024年の第1戦となる廈門大会が4月20日、中国の同地で行われ、男子棒高跳でアルマンド・デュプランティス(スウェーデン)が6m24の世界新記録を打ち立てた。 今季屋外初戦だったデュプ […]
2024.04.20
走幅跳・秦澄美鈴がアシックスとアドバイザリースタッフ契約締結 昨年日本新、ブダペスト世界陸上出場
アシックスは4月20日、女子走幅跳の秦澄美鈴(住友電工)とアドバイザリースタッフ契約を締結したと発表した。 秦は大阪府出身の27歳。高校時代は走高跳でインターハイに出場し、武庫川女大時代に三段跳や走幅跳に挑戦。卒業と同時 […]
Latest Issue 最新号
2024年5月号 (4月12日発売)
パリ五輪イヤー開幕!