HOME 特集

2021.08.05

コラム/「緊張しない」泉谷駿介が重圧に負けて泣いた日 悔しさを成長に変えて
コラム/「緊張しない」泉谷駿介が重圧に負けて泣いた日 悔しさを成長に変えて


写真/時事
「どんな大会でもあまり緊張しないタイプなんです」

そう言っていた男子110mハードルの泉谷駿介(順大)。確かに、これまで2018年U20世界選手権で銅メダルを取った時も、ユニバーシアードで堂々の3位に入った時も、海外選手と競り合ってもリズムを崩さなかった。

「海外の選手ってスタート前もハードルを跳んでいる時も1人でめちゃくか何か言っているんですよ」と冷静に見ていられるほど、強心臓の持ち主。そんな泉谷を持ってしても、世界王者・G.ホロウェイ(米国)と戦った準決勝で「意識して集中できなかった」。結果、何度もハードルをぶつけてスピードに乗り切れず、組3着。目標だったファイナルにあと0.03秒足りなかった。

広告の下にコンテンツが続きます

悔しさをにじませ、「現実を受け入れられない」と呆然とした。力を考えても、今季の勢いを見ても、「普通に走れば」通れる状態。だが、それができないのもまた、オリンピック。決勝で無敵を誇ったホロウェイが負けたのもそれを物語る。

「緊張しない」泉谷が、重圧に押しつぶされ、泣き崩れたことがある。

2017年山形インターハイの最終関門となる南関東総体。当時、武相高(神奈川)3年だった泉谷は、八種競技と三段跳の全国優勝候補だった。

だが、八種競技は同級生の原口凜太郎(現・国士大)に負けて2位、三段跳は15m06の3位。三段跳の表彰式の後、椅子に座り込んで目を真っ赤にして涙を流していたことを思い出す。「プレッシャーに負けました。ただただ悔しい」。そして「絶対に勝ちます」と語った。

インターハイでは八種競技で優勝。三段跳ではタイトルに届かなかったが、宣言通り強くなって見せた。

自身が「成長のきっかけになった」と語るのはその前年の岡山インターハイ。八種競技で14位。「ボロ負けして、めちゃくちゃ悔しかったんです。それから一気に変わりました」。顧問の田中徳孝は家族に「この子はとんでもない才能を持っています。食生活など協力してもらえないか」と保護者と相談。好きだった間食も控えた。翌年、高校生の「KING」になった。

2019年の日本選手権だってそう。雨の中で13秒36の日本タイ記録をマークしながら、高山峻野(ゼンリン)と同タイム着差ありで2位となり、うずくまってトラックを叩きつけた。

泉谷駿介という男は、悔しければ悔しいほど、もっと強くなる。「走るのも跳ぶのも好き」。だが、長距離だけは「嫌いです」と笑う。もしかすると、この先の国際大会には違う種目で出ることだってあるかもしれない。

陸上競技が大好きな、無限の可能性を持つ21歳。リベンジするチャンスはまだまだたくさんある。

文/向永拓史

写真/時事 「どんな大会でもあまり緊張しないタイプなんです」 そう言っていた男子110mハードルの泉谷駿介(順大)。確かに、これまで2018年U20世界選手権で銅メダルを取った時も、ユニバーシアードで堂々の3位に入った時も、海外選手と競り合ってもリズムを崩さなかった。 「海外の選手ってスタート前もハードルを跳んでいる時も1人でめちゃくか何か言っているんですよ」と冷静に見ていられるほど、強心臓の持ち主。そんな泉谷を持ってしても、世界王者・G.ホロウェイ(米国)と戦った準決勝で「意識して集中できなかった」。結果、何度もハードルをぶつけてスピードに乗り切れず、組3着。目標だったファイナルにあと0.03秒足りなかった。 悔しさをにじませ、「現実を受け入れられない」と呆然とした。力を考えても、今季の勢いを見ても、「普通に走れば」通れる状態。だが、それができないのもまた、オリンピック。決勝で無敵を誇ったホロウェイが負けたのもそれを物語る。 「緊張しない」泉谷が、重圧に押しつぶされ、泣き崩れたことがある。 2017年山形インターハイの最終関門となる南関東総体。当時、武相高(神奈川)3年だった泉谷は、八種競技と三段跳の全国優勝候補だった。 だが、八種競技は同級生の原口凜太郎(現・国士大)に負けて2位、三段跳は15m06の3位。三段跳の表彰式の後、椅子に座り込んで目を真っ赤にして涙を流していたことを思い出す。「プレッシャーに負けました。ただただ悔しい」。そして「絶対に勝ちます」と語った。 インターハイでは八種競技で優勝。三段跳ではタイトルに届かなかったが、宣言通り強くなって見せた。 自身が「成長のきっかけになった」と語るのはその前年の岡山インターハイ。八種競技で14位。「ボロ負けして、めちゃくちゃ悔しかったんです。それから一気に変わりました」。顧問の田中徳孝は家族に「この子はとんでもない才能を持っています。食生活など協力してもらえないか」と保護者と相談。好きだった間食も控えた。翌年、高校生の「KING」になった。 2019年の日本選手権だってそう。雨の中で13秒36の日本タイ記録をマークしながら、高山峻野(ゼンリン)と同タイム着差ありで2位となり、うずくまってトラックを叩きつけた。 泉谷駿介という男は、悔しければ悔しいほど、もっと強くなる。「走るのも跳ぶのも好き」。だが、長距離だけは「嫌いです」と笑う。もしかすると、この先の国際大会には違う種目で出ることだってあるかもしれない。 陸上競技が大好きな、無限の可能性を持つ21歳。リベンジするチャンスはまだまだたくさんある。 文/向永拓史

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.11.07

編集部コラム「追いかけっこ」

毎週金曜日更新!? ★月陸編集部★ 攻め(?)のアンダーハンド リレーコラム🔥 毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ! 陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいこと […]

NEWS メモリードが実業団陸上部の活動終了を発表 今後は個人アスリート支援へ

2025.11.07

メモリードが実業団陸上部の活動終了を発表 今後は個人アスリート支援へ

11月7日、実業団のメモリードは、27年3月をもって実業団陸上部としての活動を終了すると発表した。今後は「チーム単位での支援」から「個人アスリート支援」へと方針を転換し、陸上競技に限らず幅広いスポーツ分野の選手を対象に支 […]

NEWS 110mH学生世界一の阿部竜希がエターナルホスピタリティG内定!「勇往邁進の精神で」棒高跳・柄澤、短距離・木梨もアスナビ就職

2025.11.07

110mH学生世界一の阿部竜希がエターナルホスピタリティG内定!「勇往邁進の精神で」棒高跳・柄澤、短距離・木梨もアスナビ就職

公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)が実施するアスリート支援ナビゲーション「アスナビ」を活用し、陸上3選手の就職・内定が決まった。 男子110mハードルで13秒12(学生歴代3位、日本歴代4位)を持つ阿部竜希(順 […]

NEWS 日本陸連・有森裕子会長に岡山市市民栄誉賞「本市の名を高めることに特に顕著な功績」五輪2大会メダル

2025.11.07

日本陸連・有森裕子会長に岡山市市民栄誉賞「本市の名を高めることに特に顕著な功績」五輪2大会メダル

岡山市は11月7日、女子マラソンで五輪2大会連続メダリストの日本陸連・有森裕子会長に、岡山市市民栄誉賞を授与し同日授与式が執り行われた。 有森会長は岡山県岡山市出身の58歳。女子マラソンにおいて、1992年バルセロナ五輪 […]

NEWS 神奈川県高校駅伝で誤誘導により4校記録無効 嘆願書提出の三浦学苑が関東大会に異例のオープン参加 高体連が認める

2025.11.07

神奈川県高校駅伝で誤誘導により4校記録無効 嘆願書提出の三浦学苑が関東大会に異例のオープン参加 高体連が認める

11月3日の神奈川県高校駅伝(横浜市のフィールド小机・日産スタジアム付設ハーフマラソンコース)で誤誘導による4校が記録無効となり、記録無効となった4校のうち三浦学苑について、高体連が関東高校駅伝(11月22日/埼玉・熊谷 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年11月号 (10月14日発売)

2025年11月号 (10月14日発売)

東京世界選手権 総特集
箱根駅伝予選会&全日本大学駅伝展望

page top