写真/時事
◇東京五輪(7月30日~8月8日/国立競技場)陸上競技5日目
久しぶりに「らしい」投げを披露した。陸上競技5日目のモーニングセッション、女子やり投で北口榛花(JAL)が62m06をマークして全体6番目で予選を通過。1964年の佐藤弘子、片山美佐子以来、57年ぶりの決勝進出を決めた。
「1投目から62、63mを投げられれば決勝に行ける」。大会前にそう話していた北口。その目論み通り、今シーズンのベスト記録をマーク。12番目までに与えられる決勝進出をほぼ手中に収めたことで、2回目以降は決勝に向けて「助走を速く走ってみたり」するなど、試す場に使う余裕を見せた。
それでも、「緊張で手が震えた」と言うように、数々の国際舞台を経験してきた北口にとっても、東京五輪は特別な舞台だった。そんな中でつかんだ決勝。1回目の記録が表示されると、いつもの北口らしく子供のように笑顔で飛び跳ね回った。「ちょっとはしゃぎすぎて反省しています」と照れ笑い。だが、この仕草を見せる時は、北口が強い時だ。
2019年に世界基準と言える66m00の日本記録を樹立。意気揚々と五輪シーズンを迎えるはずだったが1年延期となった。その間、それまでの助走のリズムを変えるという選択を取る。東京五輪で戦うためというもあるが、それよりも「今以上に遠くに飛ばすため」というのが一番の理由だった。
肩の柔らかさとしなやかさ、強さなど上半身が持ち味である一方、下半身、特に助走は大きな課題だった。投げる直前のステップで減速してしまっていることから、そのリズムを変更することで減速を抑えようとした。しかし、それも昨年は安定せず。今年に入り、さらにリズムの変更をし、「何を信じていいかわからない」という不安と向き合いながらもシーズンを過ごしてきた。
水泳やバドミントンをしていた幼い頃からあこがれたオリンピックの舞台。その大事な1回目で、ようやく本来の投げに近づいたのも、北口はあらゆる困難から逃げずに立ち向かってきたから。
よく笑うこともあれば、悔しければこちらも子供のように地団駄を踏んで大粒の涙を流す。その負けず嫌いさもまた北口の魅力。「決勝も笑って試合ができるように頑張ります」。
女子のフィールド種目で入賞すれば1992年バルセロナ五輪の走高跳・佐藤恵以来29年ぶり。女子投てきでは1936年ベルリン五輪以来85年ぶり。そして、女子フィールド種目でメダル獲得は史上初めてとなる。
五輪前に語っていた「62~63mを予選と決勝で1回ずつ。それができればチャレンジのスタートラインに立てる」というプラン。8月6日20時50分から始まる決勝で、北口が笑顔で国立競技場を飛び跳ねていたら、それは日本陸上界の歴史が大きく動く瞬間だ。
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