2021.04.15
昨年、男子100mで一気に可能性を広げた栁田大輝(東農大二3群馬)。夏にマークした10秒27はその実力を示すとともに、縁のある記録でもあった。
日本陸連のダイヤモンドアスリートに認定された逸材は、走幅跳でも全中優勝や高1でインターハイ入賞など高い潜在能力を持つ。高校ラストイヤーを迎えるが、高校のステージにとどまることなく、かつて大舞台を踏んだ先輩と同じように果てしない可能性を追い求める。
●文/奥村 崇 撮影/船越陽一郎
偉大な先輩に並ぶ「10秒27」
2020年8月23日、セイコーゴールデングランプリ東京の男子100m。ドリームレーン枠で出場権を得た栁田大輝(東農大二3群馬)は、その予選で日本スプリント界にその名を轟かせた。ケンブリッジ飛鳥(Nike)や桐生祥秀(日本生命)と同じ組を走り、10秒27(+0.7)をマーク。このタイムは、高校歴代6位タイ、高2歴代2位に位置する。
「10.27」という数字は、オールドファン、とりわけ群馬には馴染み深い。なぜなら、栁田にとって東農大二の先輩にあたる宮田英明が1990年、現役高校生ながら当時の日本記録として出したタイムだ。それが群馬県高校記録として残り、ちょうど30年の時を経て、寸分違わず並んだのだ。
「10秒27はびっくりしました。その前の自己ベスト10秒42から一気に縮めたので、『本当に出た!』という感じです。ただ、昨年はそのゴールデングランプリと日本選手権には調整して臨んでいたので、シーズンで一番調子が良かったんです。しっかり合わせられたので記録が出せたのかな、と思いました。不破(弘樹)さんや宮田さんが高校時代に日本記録を出したことは知っていました。『10秒27』も認識はしていたのですが、出した瞬間は気づいていなかったですね。しばらくして、『あ、そういえば』という感じでした」
宮田だけでなく、84年に10秒34の日本タイ記録を出し、ロサンゼルス五輪に出場したもう1人の先輩・不破の名前も出しながら、昨夏を振り返った。
「栁田の100m」が解き放たれるまで
3月下旬のシレジア世界リレー代表選考会では10秒44(+0.2)で2位(中央)。後日、高校生ながら4×100mの日本代表に選出された
2020年シーズン開幕前、栁田の100mの自己ベストは、中3の全中決勝(2位)で出した10秒80にすぎなかった。昨年だけで一気に0秒53も引き上げた〝覚醒〟に驚きがある。高1のシーズンベストは10秒96で、6月の北関東大会準決勝で敗退した後は100mに出場していない。だが、沖縄インターハイ4×100mリレー決勝でアンカーとして2位に貢献した走りが光った。
「高校入学当初は、走幅跳で1年目は国体優勝を、2年からインターハイ優勝を目指していこう、という意識でした。高1では走幅跳の成績が目立ちましたが、100mも出ていたらどうなっていたかな、と思います。4継のインターハイ決勝は、何人かに抜かれて順位を落とすことになるのかなと思っていましたが、実際はそんなことがありませんでした。100mもまだ勝負できるのかな、と思い直した瞬間でした」
19年インターハイの個人種目では走幅跳で10年ぶりの1年生入賞(4位)を果たした栁田。秋の茨城国体では少年Bの走幅跳に集中しつつ、少年B100mもサブ選手として準備を整えていたという。そのまま冬を迎え、昨年はコロナ禍でシーズン開幕がスライド。「栁田の100m」が陽の目を見るのは7月になった。
「国体が終わった時は、100mも見据えつつ、来年も(勝負は)走幅跳と思っていました。自粛期間中は兄弟がいてすごく助かりました。独りでもやれたとは思うのですが、兄弟3人それぞれに目標を持って、いい刺激を与えあって練習できていました。
上の弟(聖人/東農大二2年)は今400mハードルに取り組んでいますが、一昨年の全中四種競技で2位に入り、『負けていられないな』と思いました。冬の〝鬼練習〟を毎日見ていましたけど、すごかったです。下の弟(聖大/群馬・館林一中3年)は走幅跳です。最近送られてきた動画を見たらすごく速くなっていました。
休校中の自主練習中は走幅跳での日本選手権出場を意識して、(約5cmの)小型のボードを置いて踏み切ると日本選手権の標準(7m80)を超えることもありました。その練習で跳んだ記録が、だいたい試合で出せる記録と一致するので、開幕して7m51だった時は、自己新だったんですが、むしろ『あれ?』という感じでした」
この続きは2021年4月14日発売の『月刊陸上競技5月号』をご覧ください。
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昨年、男子100mで一気に可能性を広げた栁田大輝(東農大二3群馬)。夏にマークした10秒27はその実力を示すとともに、縁のある記録でもあった。
日本陸連のダイヤモンドアスリートに認定された逸材は、走幅跳でも全中優勝や高1でインターハイ入賞など高い潜在能力を持つ。高校ラストイヤーを迎えるが、高校のステージにとどまることなく、かつて大舞台を踏んだ先輩と同じように果てしない可能性を追い求める。
●文/奥村 崇 撮影/船越陽一郎
偉大な先輩に並ぶ「10秒27」
2020年8月23日、セイコーゴールデングランプリ東京の男子100m。ドリームレーン枠で出場権を得た栁田大輝(東農大二3群馬)は、その予選で日本スプリント界にその名を轟かせた。ケンブリッジ飛鳥(Nike)や桐生祥秀(日本生命)と同じ組を走り、10秒27(+0.7)をマーク。このタイムは、高校歴代6位タイ、高2歴代2位に位置する。 「10.27」という数字は、オールドファン、とりわけ群馬には馴染み深い。なぜなら、栁田にとって東農大二の先輩にあたる宮田英明が1990年、現役高校生ながら当時の日本記録として出したタイムだ。それが群馬県高校記録として残り、ちょうど30年の時を経て、寸分違わず並んだのだ。 「10秒27はびっくりしました。その前の自己ベスト10秒42から一気に縮めたので、『本当に出た!』という感じです。ただ、昨年はそのゴールデングランプリと日本選手権には調整して臨んでいたので、シーズンで一番調子が良かったんです。しっかり合わせられたので記録が出せたのかな、と思いました。不破(弘樹)さんや宮田さんが高校時代に日本記録を出したことは知っていました。『10秒27』も認識はしていたのですが、出した瞬間は気づいていなかったですね。しばらくして、『あ、そういえば』という感じでした」 宮田だけでなく、84年に10秒34の日本タイ記録を出し、ロサンゼルス五輪に出場したもう1人の先輩・不破の名前も出しながら、昨夏を振り返った。「栁田の100m」が解き放たれるまで
3月下旬のシレジア世界リレー代表選考会では10秒44(+0.2)で2位(中央)。後日、高校生ながら4×100mの日本代表に選出された
2020年シーズン開幕前、栁田の100mの自己ベストは、中3の全中決勝(2位)で出した10秒80にすぎなかった。昨年だけで一気に0秒53も引き上げた〝覚醒〟に驚きがある。高1のシーズンベストは10秒96で、6月の北関東大会準決勝で敗退した後は100mに出場していない。だが、沖縄インターハイ4×100mリレー決勝でアンカーとして2位に貢献した走りが光った。
「高校入学当初は、走幅跳で1年目は国体優勝を、2年からインターハイ優勝を目指していこう、という意識でした。高1では走幅跳の成績が目立ちましたが、100mも出ていたらどうなっていたかな、と思います。4継のインターハイ決勝は、何人かに抜かれて順位を落とすことになるのかなと思っていましたが、実際はそんなことがありませんでした。100mもまだ勝負できるのかな、と思い直した瞬間でした」
19年インターハイの個人種目では走幅跳で10年ぶりの1年生入賞(4位)を果たした栁田。秋の茨城国体では少年Bの走幅跳に集中しつつ、少年B100mもサブ選手として準備を整えていたという。そのまま冬を迎え、昨年はコロナ禍でシーズン開幕がスライド。「栁田の100m」が陽の目を見るのは7月になった。
「国体が終わった時は、100mも見据えつつ、来年も(勝負は)走幅跳と思っていました。自粛期間中は兄弟がいてすごく助かりました。独りでもやれたとは思うのですが、兄弟3人それぞれに目標を持って、いい刺激を与えあって練習できていました。
上の弟(聖人/東農大二2年)は今400mハードルに取り組んでいますが、一昨年の全中四種競技で2位に入り、『負けていられないな』と思いました。冬の〝鬼練習〟を毎日見ていましたけど、すごかったです。下の弟(聖大/群馬・館林一中3年)は走幅跳です。最近送られてきた動画を見たらすごく速くなっていました。
休校中の自主練習中は走幅跳での日本選手権出場を意識して、(約5cmの)小型のボードを置いて踏み切ると日本選手権の標準(7m80)を超えることもありました。その練習で跳んだ記録が、だいたい試合で出せる記録と一致するので、開幕して7m51だった時は、自己新だったんですが、むしろ『あれ?』という感じでした」
この続きは2021年4月14日発売の『月刊陸上競技5月号』をご覧ください。
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