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【紙面転載】Go for Jakarta 2018 ~ 金井大旺(福井県スポーツ協会)
【紙面転載】Go for Jakarta 2018 ~ 金井大旺(福井県スポーツ協会)

歯科医を目指すハードラー、日本王者&日本新への軌跡

日本選手権の男子110mハードルで13秒36の日本新記録を樹立した金井大旺(福井県スポーツ協会)に熱視線が注がれている。北海道の進学校、函館ラ・サール高校出身。法大を卒業して、社会人1年目に13秒4台を経験せず、13秒3台に突入した。家業の歯科医を継ぐために、競技は2020年東京五輪までと決めている。そんな異色のハードラーは、いかにして「日本記録」に到達したのか。これまでの〝成長軌跡〟を本人が語ってくれた。

本数ではなくイメージを大切にした

6月24日、日本選手権最終日。男子110mハードル決勝の前から行われていた男子円盤投で、湯上剛輝(トヨタ自動車)が日本新記録を打ち立て、にわかにスタンドが活気付いていた。
その盛り上がりに、さらに拍車をかけたのが4レーンの金井大旺(福井県スポーツ協会)だった。前半でトップを奪うと、7レーンの前回王者・高山峻野(ゼンリン)との一騎打ちを、最終ハードルを越えてからのダッシュ勝負で制し、真っ先にフィニッシュに飛び込んだ。13秒36(+0.7)。金井にとっての大幅自己ベストは、2004年のアテネ五輪(1次予選)で谷川聡(ミズノ)が樹立した日本記録(13秒39)を0秒03も塗り替えるものだった。

「ガッツポーズはタイムがわかってやったのではなく、優勝できたことで自然と出たものです。それに日本記録がついてきて、最初は受け入れられない感じだったんですけど、時間が経つにつれて、『本当に出したんだ』という気持ちが湧いてきました」

日本選手権で刻んだ13秒36という記録は、金井も予想していなかったほどの好タイム。当初のターゲットは、「13秒4台での優勝」だった。その目標を達成するために、金井は日本選手権で〝大胆な戦略〟をとった。決勝の前日と前々日には刺激を入れずに、イメージトレーニングで仕上げるというものだ。

「前日刺激などで、ハードル練習は2本と決めていても、いい動きができるまでやってしまうことがあった。経験上、これは負の連鎖だと思ったんです。それで、直前のハードル練習は極力減らして、いいイメージだけを持って、本番に臨むようにしたんです」

前日は流しをした程度だったが、金井は大会2日目に行われた予選、準決勝をそれぞれ13秒68(+1.4)、13秒59(+0.3)で悠々と1着通過した。

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「身体はゆるゆるな状態でしたけど、これまでの経験があるので、13秒5台くらいかなという感覚はありました。だから、だいたい予想通りの結果でしたね。予選のウォーミングアップも8割くらいで2台までを1本跳んだだけです。その感覚も微妙だったんですけど、そこで完成させると、本番ではさらに望んで力んでしまうので、これくらいで十分だと思っていました」

翌日の決勝は、「準決勝と同じくらいの状態だったらどうしようか」という不安もあったが、朝起きた時に好タイムが出ることを直感したという。そして、それは見事に的中した。

チャンプになれなかった中高時代

北海道で代々歯科医を営む家庭に生まれた金井は、小学3年生の時に地元・函館市のクラブチーム・千代台陸上スクール(CRS)で陸上競技を開始。最初は100mをやっていたが、遊び半分で取り組んだハードルで才能を発揮する。

「地元の大会で100mは決勝に行くけど、全然勝てなかった。それがハードルでは、小学4年生の時に優勝したんです。小学6年生の時には全国大会の80mハードルで2位になりました。それからずっとハードルをやっています」

本通中では陸上部に入らず、CRSで競技を続けた。成長が遅かったこともあって、ハードル選手としては小柄だったが、3年時には110mハードルで14秒37の北海道中学記録をマークしている。しかし、全中では上位に入ることができず、全国大会はジュニア五輪Aの8位が最高だった。
歯学部を目指していた金井は、高校は地元の進学校である函館ラ・サール高校に入学。7割が寮生活を送る男子校に自宅から通いながら、陸上部で汗を流した。部員も少なく、活動も盛んではなかったが、インターハイは2年時に110mハードルで7位に入っている。

「3年時はインターハイの優勝を目指していたんですけど、1学年下の古谷君(拓夢、相洋高・神奈川/現・早大)と川村君(直也、東海大仰星高・大阪/現・筑波大)が非常に強かった。地区大会終了時でだいたいわかるじゃないですか。これは無理だな、と。タイム差も0秒4くらいあったので、勝てるイメージが湧かないままインターハイに臨み、5位に終わりました。その差を縮めたい、と大学でも競技を続けることを決意したんです」

高校時代の自己ベストは14秒19。1学年下の古谷はすでに13秒92(当時高校記録)をマークしており、その差は歴然だった。研究熱心な金井は自ら法大・苅部俊二監督にコンタクトを取り、3年になる前の春に法大の練習に参加。他校からの勧誘もあった中で、9月頃に「自分で調べて、よく考えた結果、法大に決めました」。すでにスポーツ推薦の枠は埋まっていたため、スポーツ健康学部のAO入試を受験。見事に合格した。
(文/酒井政人)
※この先は『月刊陸上競技』8月号でご覧ください

歯科医を目指すハードラー、日本王者&日本新への軌跡

日本選手権の男子110mハードルで13秒36の日本新記録を樹立した金井大旺(福井県スポーツ協会)に熱視線が注がれている。北海道の進学校、函館ラ・サール高校出身。法大を卒業して、社会人1年目に13秒4台を経験せず、13秒3台に突入した。家業の歯科医を継ぐために、競技は2020年東京五輪までと決めている。そんな異色のハードラーは、いかにして「日本記録」に到達したのか。これまでの〝成長軌跡〟を本人が語ってくれた。

本数ではなくイメージを大切にした

6月24日、日本選手権最終日。男子110mハードル決勝の前から行われていた男子円盤投で、湯上剛輝(トヨタ自動車)が日本新記録を打ち立て、にわかにスタンドが活気付いていた。 その盛り上がりに、さらに拍車をかけたのが4レーンの金井大旺(福井県スポーツ協会)だった。前半でトップを奪うと、7レーンの前回王者・高山峻野(ゼンリン)との一騎打ちを、最終ハードルを越えてからのダッシュ勝負で制し、真っ先にフィニッシュに飛び込んだ。13秒36(+0.7)。金井にとっての大幅自己ベストは、2004年のアテネ五輪(1次予選)で谷川聡(ミズノ)が樹立した日本記録(13秒39)を0秒03も塗り替えるものだった。 「ガッツポーズはタイムがわかってやったのではなく、優勝できたことで自然と出たものです。それに日本記録がついてきて、最初は受け入れられない感じだったんですけど、時間が経つにつれて、『本当に出したんだ』という気持ちが湧いてきました」 日本選手権で刻んだ13秒36という記録は、金井も予想していなかったほどの好タイム。当初のターゲットは、「13秒4台での優勝」だった。その目標を達成するために、金井は日本選手権で〝大胆な戦略〟をとった。決勝の前日と前々日には刺激を入れずに、イメージトレーニングで仕上げるというものだ。 「前日刺激などで、ハードル練習は2本と決めていても、いい動きができるまでやってしまうことがあった。経験上、これは負の連鎖だと思ったんです。それで、直前のハードル練習は極力減らして、いいイメージだけを持って、本番に臨むようにしたんです」 前日は流しをした程度だったが、金井は大会2日目に行われた予選、準決勝をそれぞれ13秒68(+1.4)、13秒59(+0.3)で悠々と1着通過した。 「身体はゆるゆるな状態でしたけど、これまでの経験があるので、13秒5台くらいかなという感覚はありました。だから、だいたい予想通りの結果でしたね。予選のウォーミングアップも8割くらいで2台までを1本跳んだだけです。その感覚も微妙だったんですけど、そこで完成させると、本番ではさらに望んで力んでしまうので、これくらいで十分だと思っていました」 翌日の決勝は、「準決勝と同じくらいの状態だったらどうしようか」という不安もあったが、朝起きた時に好タイムが出ることを直感したという。そして、それは見事に的中した。

チャンプになれなかった中高時代

北海道で代々歯科医を営む家庭に生まれた金井は、小学3年生の時に地元・函館市のクラブチーム・千代台陸上スクール(CRS)で陸上競技を開始。最初は100mをやっていたが、遊び半分で取り組んだハードルで才能を発揮する。 「地元の大会で100mは決勝に行くけど、全然勝てなかった。それがハードルでは、小学4年生の時に優勝したんです。小学6年生の時には全国大会の80mハードルで2位になりました。それからずっとハードルをやっています」 本通中では陸上部に入らず、CRSで競技を続けた。成長が遅かったこともあって、ハードル選手としては小柄だったが、3年時には110mハードルで14秒37の北海道中学記録をマークしている。しかし、全中では上位に入ることができず、全国大会はジュニア五輪Aの8位が最高だった。 歯学部を目指していた金井は、高校は地元の進学校である函館ラ・サール高校に入学。7割が寮生活を送る男子校に自宅から通いながら、陸上部で汗を流した。部員も少なく、活動も盛んではなかったが、インターハイは2年時に110mハードルで7位に入っている。 「3年時はインターハイの優勝を目指していたんですけど、1学年下の古谷君(拓夢、相洋高・神奈川/現・早大)と川村君(直也、東海大仰星高・大阪/現・筑波大)が非常に強かった。地区大会終了時でだいたいわかるじゃないですか。これは無理だな、と。タイム差も0秒4くらいあったので、勝てるイメージが湧かないままインターハイに臨み、5位に終わりました。その差を縮めたい、と大学でも競技を続けることを決意したんです」 高校時代の自己ベストは14秒19。1学年下の古谷はすでに13秒92(当時高校記録)をマークしており、その差は歴然だった。研究熱心な金井は自ら法大・苅部俊二監督にコンタクトを取り、3年になる前の春に法大の練習に参加。他校からの勧誘もあった中で、9月頃に「自分で調べて、よく考えた結果、法大に決めました」。すでにスポーツ推薦の枠は埋まっていたため、スポーツ健康学部のAO入試を受験。見事に合格した。 (文/酒井政人) ※この先は『月刊陸上競技』8月号でご覧ください

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