2020.12.25
箱根駅伝直前Special
学生長距離Close-up
太田直希
Ota Naoki(早稲田大学3年)
「月陸Online」限定で大学長距離選手のインタビューを毎月お届けする「学生長距離Close-upインタビュー」。12月は箱根駅伝直前Specialと題し、8チームの選手・監督のインタビュー記事を掲載していく。
第7回目は、11月の全日本大学駅伝で4区区間2位(区間新)と好走するなど今季大きく飛躍した早大の太田直希(3年)を特集する。かつて「W」のエースを務めた兄や、同期のエース・中谷雄飛の存在、来たる箱根駅伝に向けての意気込みを語った。
飛躍を遂げた大学3年目
今季の早大は中谷雄飛と太田直希の3年生コンビがチームを牽引している。11月の全日本大学駅伝では、3区の中谷が区間賞の走りで先頭に立ち、4区の太田が2位との差を52秒差まで広げる区間新(区間2位)の走りで“名門復活”を予感させた。
「中谷が先頭でタスキを持ってくることは予想していたので、チームにより勢いをつけようと考えていました。これまでの人生で一番走れたレースでしたね」
区間賞こそ東海大のルーキー・石原翔太郎に譲ったが、太田の区間タイム33分23秒(11.8km)は、2016年リオ五輪3000m障害代表の塩尻和也(順大/現・富士通)が持っていた区間記録を25秒更新。そして、2年前の自身の記録(35分36秒/区間10位)を2分13秒も縮めたのだ。
さらに、太田の快走は駅伝だけにとどまらない。10月11日の「トラックゲームズin TOKOROZAWA」10000mでは、終盤に中谷や、12月の福岡国際マラソンで優勝することになる吉田祐也(GMOインターネットグループ)と競り合い、28分19秒76で日本選手権参加標準(28分20秒00)をギリギリで突破。
12月4日の日本選手権では中谷と競り合って27分55秒59の自己新を叩き出した。中谷には1秒差で敗れたものの、早大の歴代記録では大迫傑(現・Nike)、竹澤健介、渡辺康幸、瀬古利彦のレジェンドたちに次ぐ歴代6位にランクインし、27分台ランナーとして名門校の歴史にその名を刻んだ。
日本選手権10000mでは同期の中谷雄飛(左端)とともに27分台ランナーの仲間入りを果たした
同期に追いつけ、追い越せ
太田の父、善之さんは中大で箱根駅伝6区に出走。兄の太田智樹(トヨタ自動車)は浜名中時代に3000mで全中とジュニア五輪を制したエリートで、地元の浜松市で太田家は陸上一家として有名だ。一方の直希は、今では学生長距離界を代表する選手のひとりとなったが、中学時代はその才能がまだ開花していなかった。
「中学の時はそこまで陸上に熱がなかったので、(全中に)出場できただけでうれしかったんです」
太田は兄と同じ道を進み、静岡県内の強豪・浜松日体高に進学。3年時には5000mでインターハイ(予選落ち)、国体(17位)の舞台を経験し、全国高校駅伝では1区区間7位(29分58秒)と全国区の選手となった。
「高校時代の思い出のレースは都大路(全国高校駅伝)ですね。1区で先頭の選手とは力の差を感じましたが、チームが6年ぶりに入賞(6位)できたのはうれしかったです」
この時の1区区間賞が、5000mでインターハイと国体で日本人最高位に君臨していた中谷。太田は当時、中谷との力の差を感じていたという。「勉強とスポーツの両立」という理由で、兄と同じく早大に進学。しかし、同期には中谷の他にもインターハイ1500m優勝の半澤黎斗や、国体5000mで8位入賞した千明龍之佑といった力のある選手たちがおり、太田は圧倒された。
「最初は追いつくことで必死でした。その頃は、中谷がやっているラスト400mが60秒を切るような練習なんて、やろうとさえ思わなかったですね」
それでも、入学後からロードでの強さで相楽豊駅伝監督ら首脳陣の信頼を勝ち取り、1年目から学生三大駅伝すべてに出場。2年時の箱根駅伝では8区を走り、単独走ながらも区間4位でまとめた。さらに、今年2月の唐津10マイルロードレースでは実業団選手を相手に2位(46分44秒)と健闘。このレースを自信につなげ、秋の躍進へとつなげていった。
自粛期間中に肉体改造に注力
3度目の箱根路では自身初の区間賞獲得を目指す [写真提供=早稲田大学競走部]
「大学入学時はここまで来れるとは思っていなかったです。今でも練習では中谷のほうが強いんですけどね」
太田はこう話すが、中谷は「レースで太田に『やられる』と感じたこともあります。力をつけてくれてうれしいですが、良い意味で危機感を抱くようにもなりました」と、その成長を肌で感じている。
かつて格上の存在だった相手からライバルとして認識されるほどに成長を遂げたが、自身は好調の理由について、「自粛期間中に補強トレーニングで基礎作りを長期的に行えたから」と振り返る。今年2月からアスレティックトレーナーの五味宏生氏(早大競走部OB)にフィジカル面を見てもらい、これまであまり取り組んでこなかった筋力トレーニングに時間を費やしてきた。
マラソン日本記録保持者の大迫など、数々の陸上選手を担当している五味氏は太田の取り組みについて、「本当に筋力がなくて大変でした。股関節の内旋の修正が必要で、脚を真っ直ぐ引き上げるために腸腰筋を、捻りを抑えるために腹筋や背筋の辺りをメニューを多く出しました」と振り返る。
太田は箱根駅伝で8区を2回経験しているが、今回2区に起用されれば、3年連続で同区を担った兄の後を継ぎ、兄弟で4年連続“花の2区”を走ることになる。
「全日本で区間賞を取れなかったので、箱根では任された区間で区間賞を取りたいです」
今季の早大は3年生以下に強力な選手がそろっており、「来季はチームの主軸として学生駅伝3冠を狙っていきたい」と、大きな目標も掲げている。まずは、目の前の箱根路でチームが掲げる「総合3位以内」に向けて区間賞で貢献するつもりだ。
◎おおた・なおき/1999年10月13日生まれ。静岡県出身。170cm、53kg。浜名中(静岡)→浜松日体高→早大。5000m13分56秒48、10000m27分55秒59
文/河原井司

飛躍を遂げた大学3年目
今季の早大は中谷雄飛と太田直希の3年生コンビがチームを牽引している。11月の全日本大学駅伝では、3区の中谷が区間賞の走りで先頭に立ち、4区の太田が2位との差を52秒差まで広げる区間新(区間2位)の走りで“名門復活”を予感させた。 「中谷が先頭でタスキを持ってくることは予想していたので、チームにより勢いをつけようと考えていました。これまでの人生で一番走れたレースでしたね」 区間賞こそ東海大のルーキー・石原翔太郎に譲ったが、太田の区間タイム33分23秒(11.8km)は、2016年リオ五輪3000m障害代表の塩尻和也(順大/現・富士通)が持っていた区間記録を25秒更新。そして、2年前の自身の記録(35分36秒/区間10位)を2分13秒も縮めたのだ。 さらに、太田の快走は駅伝だけにとどまらない。10月11日の「トラックゲームズin TOKOROZAWA」10000mでは、終盤に中谷や、12月の福岡国際マラソンで優勝することになる吉田祐也(GMOインターネットグループ)と競り合い、28分19秒76で日本選手権参加標準(28分20秒00)をギリギリで突破。 12月4日の日本選手権では中谷と競り合って27分55秒59の自己新を叩き出した。中谷には1秒差で敗れたものの、早大の歴代記録では大迫傑(現・Nike)、竹澤健介、渡辺康幸、瀬古利彦のレジェンドたちに次ぐ歴代6位にランクインし、27分台ランナーとして名門校の歴史にその名を刻んだ。
同期に追いつけ、追い越せ
太田の父、善之さんは中大で箱根駅伝6区に出走。兄の太田智樹(トヨタ自動車)は浜名中時代に3000mで全中とジュニア五輪を制したエリートで、地元の浜松市で太田家は陸上一家として有名だ。一方の直希は、今では学生長距離界を代表する選手のひとりとなったが、中学時代はその才能がまだ開花していなかった。 「中学の時はそこまで陸上に熱がなかったので、(全中に)出場できただけでうれしかったんです」 太田は兄と同じ道を進み、静岡県内の強豪・浜松日体高に進学。3年時には5000mでインターハイ(予選落ち)、国体(17位)の舞台を経験し、全国高校駅伝では1区区間7位(29分58秒)と全国区の選手となった。 「高校時代の思い出のレースは都大路(全国高校駅伝)ですね。1区で先頭の選手とは力の差を感じましたが、チームが6年ぶりに入賞(6位)できたのはうれしかったです」 この時の1区区間賞が、5000mでインターハイと国体で日本人最高位に君臨していた中谷。太田は当時、中谷との力の差を感じていたという。「勉強とスポーツの両立」という理由で、兄と同じく早大に進学。しかし、同期には中谷の他にもインターハイ1500m優勝の半澤黎斗や、国体5000mで8位入賞した千明龍之佑といった力のある選手たちがおり、太田は圧倒された。 「最初は追いつくことで必死でした。その頃は、中谷がやっているラスト400mが60秒を切るような練習なんて、やろうとさえ思わなかったですね」 それでも、入学後からロードでの強さで相楽豊駅伝監督ら首脳陣の信頼を勝ち取り、1年目から学生三大駅伝すべてに出場。2年時の箱根駅伝では8区を走り、単独走ながらも区間4位でまとめた。さらに、今年2月の唐津10マイルロードレースでは実業団選手を相手に2位(46分44秒)と健闘。このレースを自信につなげ、秋の躍進へとつなげていった。自粛期間中に肉体改造に注力

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