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2025.04.30

【高平慎士の視点】自信持って走り切った井上直紀の強さ光る 選手層に厚み“標準突破”へ期待持てるレース/織田記念
【高平慎士の視点】自信持って走り切った井上直紀の強さ光る 選手層に厚み“標準突破”へ期待持てるレース/織田記念

25年織田記念男子100m決勝のレースシーン

4月29日に広島・ホットスタッフフィールド広島で行われた織田記念。その男子100mは上位5人が10秒1台、それも0.03秒差以内にひしめく大熱戦となり、大学4年の井上直紀(早大)が自己新の10秒12(+0.4)で制した。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ったもらった。

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気象コンディションとしてはやや肌寒さがありましたが、織田記念としては久しぶりにしっかりと晴れて、パフォーマンスを発揮するには十分なものだったと思います。その中で、男子100m決勝は見応えのある素晴らしいものと感じました。

世界リレーやアジア選手権、ワールドユニバーシティーゲームズと国際大会の代表が決まり、それぞれが明確に目標を持って臨めた大会だったということもあるでしょう。日本学生個人選手権が直前に行われた影響で、学生にとっては厳しいスケジュールだったと思いますが、全体的にはいいメンバーがそろった印象です。

そのレースを10秒12の自己新で制した井上直紀選手は、ゼロ地点から100mまで最も「何も慌てずに走り切れた」選手だったことで、終盤にスッと抜け出してきました。競り合いの中で、固くならなかったわけではないでしょう。しかし、他の選手はそれ以上に固くなり、それが脚の回転にも影響が出る中で、競り合いから抜け出せるだけの自信があったということ。それが、2位の樋口陸人選手との0.02秒差、3~5位の桐生祥秀選手(日本生命)、鈴木涼太選手(スズキ)、小池祐貴選手(住友電工)との0.03秒差につながったのではないでしょうか。

桐生選手や小池選手といった実績がある選手たちを相手に、しっかりと力を出せたのは素晴らしいこと。今回はエントリーを見合わせた、同じ群馬県出身で同学年の栁田大輝選手(東洋大)にも発破をかける材料になると思いますし、これが継続して10秒0台を出していくこと、国内上位にしっかり入っていくことへのきっかけになるかもしれません。

スズキの同期2人も同じ自己記録(10秒17)から樋口選手は10秒14に、鈴木選手は10秒15に更新したわけですから、持ち味を発揮した証拠。序盤からレースをリードする場面も作り、上位で争う力があることを示せたと言えます。

井上選手も含めたこの3人は、これからさらに階段を上がっていくことがとても大事。今回の決勝は横風気味でしたが、条件に恵まれやすい織田記念での結果を、自分のキャリアの価値として高めていくために、ここから先も結果をつなげていくことを目指してほしいです。特にスズキの2人は、学生に負けたことに対して、社会人としてのプライドを持って進んでほしいですね。

桐生選手、小池選手については、これからどう戦っていくのかが楽しみになる結果でした。桐生選手の予選の10秒06(+2.7)は、追い風参考とはいえ大会全体のムードを一気に高めてくれました。まだまだ、日本のスプリント界を引っ張るだけのタイムと実績を持っている選手たちなので、彼らがこれからどう上がってくるのか注目したいと思います。

五輪周期で言えばパリ五輪が終わり、1回リセットして「さあ、これから」というシーズン。ただ、東京世界選手権を控える日本にとっては、「10秒1台だった」というところから目を逸らしてはいけないと思います。参加標準記録まで、あと0.1秒。今回の、この瞬間の評価ではなく、あと0.1秒をどう縮めていくかに目を向けていくべき。とはいえ、層が厚くなってきたことを感じ、ポジティブに、今後への期待が持てるレースだったことは間違いありません。

パリ五輪代表の東田旺洋(関彰商事)や、昨年の世界リレー代表だった山本匠真選手(広島大)など、去年の“代表組”が決勝の舞台には立てませんでしたが、それぞれに理由があるにせよ、トラックに立ったら“代表”と見られます。これは多くの選手に言えることですが、やはり複数年で力を発揮できることが「強さ」。それを7月の日本選手権で誰が示してくれるのか、楽しみにしたいと思います。

◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

4月29日に広島・ホットスタッフフィールド広島で行われた織田記念。その男子100mは上位5人が10秒1台、それも0.03秒差以内にひしめく大熱戦となり、大学4年の井上直紀(早大)が自己新の10秒12(+0.4)で制した。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ったもらった。 ◇ ◇ ◇ 気象コンディションとしてはやや肌寒さがありましたが、織田記念としては久しぶりにしっかりと晴れて、パフォーマンスを発揮するには十分なものだったと思います。その中で、男子100m決勝は見応えのある素晴らしいものと感じました。 世界リレーやアジア選手権、ワールドユニバーシティーゲームズと国際大会の代表が決まり、それぞれが明確に目標を持って臨めた大会だったということもあるでしょう。日本学生個人選手権が直前に行われた影響で、学生にとっては厳しいスケジュールだったと思いますが、全体的にはいいメンバーがそろった印象です。 そのレースを10秒12の自己新で制した井上直紀選手は、ゼロ地点から100mまで最も「何も慌てずに走り切れた」選手だったことで、終盤にスッと抜け出してきました。競り合いの中で、固くならなかったわけではないでしょう。しかし、他の選手はそれ以上に固くなり、それが脚の回転にも影響が出る中で、競り合いから抜け出せるだけの自信があったということ。それが、2位の樋口陸人選手との0.02秒差、3~5位の桐生祥秀選手(日本生命)、鈴木涼太選手(スズキ)、小池祐貴選手(住友電工)との0.03秒差につながったのではないでしょうか。 桐生選手や小池選手といった実績がある選手たちを相手に、しっかりと力を出せたのは素晴らしいこと。今回はエントリーを見合わせた、同じ群馬県出身で同学年の栁田大輝選手(東洋大)にも発破をかける材料になると思いますし、これが継続して10秒0台を出していくこと、国内上位にしっかり入っていくことへのきっかけになるかもしれません。 スズキの同期2人も同じ自己記録(10秒17)から樋口選手は10秒14に、鈴木選手は10秒15に更新したわけですから、持ち味を発揮した証拠。序盤からレースをリードする場面も作り、上位で争う力があることを示せたと言えます。 井上選手も含めたこの3人は、これからさらに階段を上がっていくことがとても大事。今回の決勝は横風気味でしたが、条件に恵まれやすい織田記念での結果を、自分のキャリアの価値として高めていくために、ここから先も結果をつなげていくことを目指してほしいです。特にスズキの2人は、学生に負けたことに対して、社会人としてのプライドを持って進んでほしいですね。 桐生選手、小池選手については、これからどう戦っていくのかが楽しみになる結果でした。桐生選手の予選の10秒06(+2.7)は、追い風参考とはいえ大会全体のムードを一気に高めてくれました。まだまだ、日本のスプリント界を引っ張るだけのタイムと実績を持っている選手たちなので、彼らがこれからどう上がってくるのか注目したいと思います。 五輪周期で言えばパリ五輪が終わり、1回リセットして「さあ、これから」というシーズン。ただ、東京世界選手権を控える日本にとっては、「10秒1台だった」というところから目を逸らしてはいけないと思います。参加標準記録まで、あと0.1秒。今回の、この瞬間の評価ではなく、あと0.1秒をどう縮めていくかに目を向けていくべき。とはいえ、層が厚くなってきたことを感じ、ポジティブに、今後への期待が持てるレースだったことは間違いありません。 パリ五輪代表の東田旺洋(関彰商事)や、昨年の世界リレー代表だった山本匠真選手(広島大)など、去年の“代表組”が決勝の舞台には立てませんでしたが、それぞれに理由があるにせよ、トラックに立ったら“代表”と見られます。これは多くの選手に言えることですが、やはり複数年で力を発揮できることが「強さ」。それを7月の日本選手権で誰が示してくれるのか、楽しみにしたいと思います。 ◎高平慎士(たかひら・しんじ) 富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

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