2020.10.30
平成以降の箱根駅伝を振り返る「PlayBack箱根駅伝」。今回は東洋大が初優勝を飾った第85回大会(2009年)を紹介する。大会の歴史を知ることで、正月の箱根路がより楽しみになるかも!?
東洋大のルーキー柏原が5区で驚異の「今井超え」
前年の大会で関東学連選抜が4位に入ったため、シード枠は例年より1つ少ない「9」。それに加え、5年おきの記念大会ということで、史上最多23チームが大手町のスタートラインに立った。
10月の予選会では3年連続で本戦11位だった城西大がトップ通過を果たし、上武大が初出場を決めた。そのほかにも青学大が33年ぶり、拓大が4年ぶり、明大が2年ぶりに箱根路へ返り咲いた。
全日本で3連覇を飾った前回王者の駒大、全日本2~4位の早大、山梨学大、東洋大が優勝候補に挙げられ、特に東洋大は出場67回目にして初優勝が狙える戦力が整っていた。
1区は前年同様にスローな展開となり、終盤に抜け出した早大のルーキー・矢澤曜が区間賞を獲得。2位以下も秒差でなだれ込み、先頭から20秒以内に9チームがタスキをつなぐ混戦へ。優勝候補の駒大はまさかの19位発進となった。
2区では前回大会で区間新記録を樹立した山梨学大のメクボ・ジョブ・モグス(4年)がまたもや爆走を見せた。4位スタートからあっという間に先頭を奪うと、自身の持つ区間記録を19秒更新する1時間6分04秒で2位以下に2分40秒もの大差をつけた。2位は留学生のギタウ・ダニエル(3年)が史上最多の20人抜きを達成した日大が入り、東洋大はこの時点で14位と出遅れた。この区間ではダニエルのほかに多くのごぼう抜きが見られ、中央学大の木原真佐人(4年)が11位から8人抜き、中大の徳地悠一(4年)が13位から8人抜き、東農大の外丸和輝(3年)が14位から10人抜き、駒大の宇賀地強(3年)が19位から11人を抜いた。
3区では山梨学大が首位をキープしたものの、6位でタスキを受けた早大の竹澤健介(4年)が2位まで浮上し、その差を16秒まで縮めてきた。竹澤は北京五輪5000m、10000m代表のスピードを生かし、3区では初の1時間2分切りとなる1時間1分40秒の区間新記録を樹立した。駒大はこの区間で17位まで順位を落とし、連覇へ黄色信号が灯った。
4区では早大のルーキー・三田裕介が区間新の快走で山梨学大を逆転し、首位に浮上。早大が往路の小田原中継所でトップに立つのは11年ぶりだった。3位以下は大きく順位が入れ替わり、明大が10位から3位へ、日体大が8位から4位へ、帝京大が12位から5位へジャンプアップを果たした。
5区では山梨学大の高瀬無量(2年)がハイペースで早大の三輪真之(4年)に追いつくが、徐々に失速。その後ろで9位スタートだった東洋大の1年生・柏原竜二が猛烈な勢いで迫ってきた。柏原は区間新ペースで山を駆け上がり、19km過ぎで首位へ浮上。「山の神」と呼ばれた今井正人(順大)の持つ区間記録を47秒も更新する1時間17分18秒のスーパー区間新で、東洋大初となる往路優勝のフィニッシュテープを切った。
5区で区間新記録を樹立し、8人を抜いて往路優勝の立役者となった東洋大のルーキー・柏原竜二(右)
2位は早大、3位は日体大が続き、前回王者の駒大は先頭から約8分遅れの15位と優勝争いから完全に脱落した。
復路のスタートとなる6区では22秒差で追いかける2位・早大の加藤創大(3年)が東洋大を逆転し、再び首位へ。しかし、東洋大も18秒差で続き、ここから一騎打ちのバトルが続く。
7区では早大の八木勇樹(1年)が東洋大の飛坂篤恭(4年)を一時1分近く引き離したものの、後半に盛り返した飛坂が区間賞を獲得。順位は変わらなかったが、その差を12秒まで縮めた。
そして勝負を決した8区。東洋大の千葉優(2年)が8km手前で早大の中島賢士(2年)に追いつくと、16km付近にある遊行寺で引き離しにかかり、戸塚中継所では45秒の差をつけた。東洋大はその後も9区の大津翔吾(2年)が区間2位、10区の高見諒(2年)が区間6位と安定感のあるタスキリレーで後続を寄せ付けず、往路・復路をともに制する完全優勝で悲願の総合初制覇を成し遂げた。
早大は2年連続で2位となり、日体大が4年ぶりのトップ3。大東大が予選会10位通過から大躍進の4位に入り、以下は中央学大、山梨学大、日大が5位~7位と続いた。明大は8位で43年ぶりとなるシード権を獲得。9位は関東学連選抜が入り、名門・中大が苦戦しながらも10位で連続シードを「25」に伸ばした。
優勝候補の駒大は13位でまさかのシード陥落。予選会1位通過の城西大は8区で途中棄権のアクシデントがありながら、9区の主将・伊藤一行(4年)が区間トップだった山梨学大・中川剛(3年)のタイムを28秒上回る「幻の区間賞」で見せ場を作った。
大会MVPは5区で驚異的な区間新を叩き出した柏原が受賞。東洋大は5区の柏原を中心に6人が1、2年生という布陣で、これから訪れる「黄金時代」を予感させる戦いぶりだった。
<人物Close-up>
佐藤悠基(東海大4年)
3000mの中学記録(当時)、10000mの高校最高記録を持ち、鳴り物入りで東海大に入学。1年目から5000mのジュニア日本記録(当時)を樹立するなど活躍し、箱根駅伝でも1年時から3区、1区、7区と3年連続区間新と、その実力を示した。4年目は再び3区を走り、ライバルの竹澤健介(早大)に区間賞は譲ったものの、区間2位の走りで18位から13人抜きを達成した。卒業後は日清食品グループへ進み、2012年のロンドン五輪に出場。2011年から日本選手権の10000mで4連覇を果たし、14年には5000mとの2冠も達成した。以降はマラソンへと活躍の場を広げ、19年には東京五輪のマラソン代表選考会「MGC」にも出場。今年11月1日付けでSGホールディングスグループへ移籍し、来年の東京五輪はトラックで出場を狙っている。
<総合成績>
1位 東洋大学 11.09.14(往路1位、復路1位)
2位 早稲田大学 11.09.55(往路2位、復路2位)
3位 日本体育大学 11.13.05(往路3位、復路4位)
4位 大東文化大学 11.17.48(往路9位、復路5位)
5位 中央学院大学 11.17.50(往路4位、復路13位)
6位 山梨学院大学 11.17.56(往路5位、復路11位)
7位 日本大学 11.18.14(往路8位、復路8位)
8位 明治大学 11.18.16(往路7位、復路9位)
9位 関東学連選抜 11.18.20(往路13位、復路3位)
10位 中央大学 11.18.33(往路11位、復路6位)
========シード権ライン=========
11位 国士舘大学 11.19.07(往路6位、復路12位)
12位 東京農業大学 11.19.17(往路12位、復路10位)
13位 駒澤大学 11.20.20(往路15位、復路7位)
14位 専修大学 11.24.59(往路14位、復路16位)
15位 神奈川大学 11.25.07(往路16位、復路15位)
16位 亜細亜大学 11.25.39(往路19位、復路14位)
17位 拓殖大学 11.26.31(往路17位、復路18位)
18位 東海大学 11.28.04(往路21位、復路19位)
19位 順天堂大学 11.28.09(往路18位、復路21位)
20位 帝京大学 11.28.21(往路10位、復路22位)
21位 上武大学 11.28.54(往路20位、復路20位)
22位 青山学院大学 11.29.00(往路22位、復路17位)
途中棄権 城西大学 記録なし
<区間賞>
1区(21.4km)矢澤 曜(早 大1) 1.04.48
2区(23.2km)M.J.モグス(山梨学大4)1.06.04=区間新
3区(21.5km)竹澤健介(早 大4) 1.01.40=区間新
4区(18.5km)三田裕介(早 大4) 55.04=区間新
5区(23.4km)柏原竜二(東洋大1) 1.17.18=区間新
6区(20.8km)佐藤 匠(大東大4) 59.14
7区(21.3km)飛坂篤恭(東洋大4) 1.05.01
8区(21.5km)髙林祐介(駒 大3) 1.06.27
9区(23.2km)中川 剛(山梨学大3)1.11.07
10区(23.1km)永井大隆(日体大4)1.10.41

東洋大のルーキー柏原が5区で驚異の「今井超え」
前年の大会で関東学連選抜が4位に入ったため、シード枠は例年より1つ少ない「9」。それに加え、5年おきの記念大会ということで、史上最多23チームが大手町のスタートラインに立った。 10月の予選会では3年連続で本戦11位だった城西大がトップ通過を果たし、上武大が初出場を決めた。そのほかにも青学大が33年ぶり、拓大が4年ぶり、明大が2年ぶりに箱根路へ返り咲いた。 全日本で3連覇を飾った前回王者の駒大、全日本2~4位の早大、山梨学大、東洋大が優勝候補に挙げられ、特に東洋大は出場67回目にして初優勝が狙える戦力が整っていた。 1区は前年同様にスローな展開となり、終盤に抜け出した早大のルーキー・矢澤曜が区間賞を獲得。2位以下も秒差でなだれ込み、先頭から20秒以内に9チームがタスキをつなぐ混戦へ。優勝候補の駒大はまさかの19位発進となった。 2区では前回大会で区間新記録を樹立した山梨学大のメクボ・ジョブ・モグス(4年)がまたもや爆走を見せた。4位スタートからあっという間に先頭を奪うと、自身の持つ区間記録を19秒更新する1時間6分04秒で2位以下に2分40秒もの大差をつけた。2位は留学生のギタウ・ダニエル(3年)が史上最多の20人抜きを達成した日大が入り、東洋大はこの時点で14位と出遅れた。この区間ではダニエルのほかに多くのごぼう抜きが見られ、中央学大の木原真佐人(4年)が11位から8人抜き、中大の徳地悠一(4年)が13位から8人抜き、東農大の外丸和輝(3年)が14位から10人抜き、駒大の宇賀地強(3年)が19位から11人を抜いた。 3区では山梨学大が首位をキープしたものの、6位でタスキを受けた早大の竹澤健介(4年)が2位まで浮上し、その差を16秒まで縮めてきた。竹澤は北京五輪5000m、10000m代表のスピードを生かし、3区では初の1時間2分切りとなる1時間1分40秒の区間新記録を樹立した。駒大はこの区間で17位まで順位を落とし、連覇へ黄色信号が灯った。 4区では早大のルーキー・三田裕介が区間新の快走で山梨学大を逆転し、首位に浮上。早大が往路の小田原中継所でトップに立つのは11年ぶりだった。3位以下は大きく順位が入れ替わり、明大が10位から3位へ、日体大が8位から4位へ、帝京大が12位から5位へジャンプアップを果たした。 5区では山梨学大の高瀬無量(2年)がハイペースで早大の三輪真之(4年)に追いつくが、徐々に失速。その後ろで9位スタートだった東洋大の1年生・柏原竜二が猛烈な勢いで迫ってきた。柏原は区間新ペースで山を駆け上がり、19km過ぎで首位へ浮上。「山の神」と呼ばれた今井正人(順大)の持つ区間記録を47秒も更新する1時間17分18秒のスーパー区間新で、東洋大初となる往路優勝のフィニッシュテープを切った。
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