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2025.05.29

【高平慎士の視点】勝ちに徹し、強さ示した栁田大輝 価値ある100mアジア連覇を日本選手権初Vへ/アジア選手権
【高平慎士の視点】勝ちに徹し、強さ示した栁田大輝 価値ある100mアジア連覇を日本選手権初Vへ/アジア選手権

接戦を制し男子100mで金メダルを獲得した栁田大輝

5月28日に韓国・クミで行われたアジア選手権の男子100m決勝。栁田大輝(東洋大)が10秒20(+0.6)でプリポル・ブーンソン(タイ)を1000分の2秒差で抑え、2連覇を飾った。。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ったもらった。

◇ ◇ ◇

1時間前には女子10000mがレース中盤で中止されるほどの雷雨となり、コンディションとしてはタイムを狙いにくい状況だったでしょう。栁田大輝選手はその中で、勝ちに徹して、やるべきことをやったレースだったと感じました。

レース内容については、栁田選手本人が一番納得がいっていないでしょう。目指しているタイムは東京世界選手権の参加標準記録である10秒00、さらには9秒台。それは難しい状況だったとはいえ、決勝のレース展開としてもめずらしく後半にしっかりと追い込まれていました。

また、ラウンド(予選、準決勝)と決勝でスイッチが切り替わる選手でもありますが、スイッチが入るだろうと思われた決勝で、その“らしさ”を今ひとつ感じられませんでした。

ディフェンディングチャンピオンとしても重圧、プライドはもちろんあったでしょう。もともと、背負うものをしっかりと背負うタイプ。加えて、5月上旬の関東インカレ(9秒95/+4.5、優勝)、5月18日のセイコーゴールデングランプリ(10秒06/+1.1、優勝)と連戦した影響もあったかもしれません。

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この2戦と比較して、辛口に言うなら前半からもう少し前に出られてもおかしくなかった点、後半は脚が“回っている”というよりも頑張って“回している”という点から、力みがあったと感じました。

栁田選手は本来、前半で動きを作ったら、脚がどんどん回って勝手に加速していく走りができる選手。出し切れなかった前半、がんばり続けないといけなかった後半から、ブーンソン選手の追い込みを許したと言えるでしょう。

とはいえ、昨年のU20世界選手権銀メダルの実績を持つブーンソン選手をはじめ、若手が台頭する中国、中東勢など、アジアのスプリンターたちも強い選手が数多くいます。また、アジア選手権自体が世界大会出場に必要なワールドランキングのポイントが非常に大きく、回を追うごとにプライオリティーが高くなっている。その中で2連覇というのは、やはり非常に価値が高い。こういった場面で強さを示せることは、スタートしての要素だと思います。

2年前もそうですが、アジアを制した強さを、国内でしっかりと示すことが今後の課題となります。7月の日本選手権で初優勝をする姿を見せてほしいですね。また、この連載でも何度か触れていますが、世界大会への課題は最初のラウンドで、スイッチの入った決勝の走りができること。それを2本続けることが、ファイナルへの最低条件となります。

10秒39で7位だった東田旺洋選手(関彰商事)も、順位としてはもう少し欲しかったでしょう。調子が上がり切っていない中で決勝に駒を進めたのはさすがと言えますが、本来であれば着順で通過し、決勝は1レーンではなくシードレーンに立てる選手。タイム水準がここまで下がると、スルスルっと勝てるだけの実力を持っているので、ここから日本選手権に向けての仕上げに注目したいと思います。

◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

5月28日に韓国・クミで行われたアジア選手権の男子100m決勝。栁田大輝(東洋大)が10秒20(+0.6)でプリポル・ブーンソン(タイ)を1000分の2秒差で抑え、2連覇を飾った。。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ったもらった。 ◇ ◇ ◇ 1時間前には女子10000mがレース中盤で中止されるほどの雷雨となり、コンディションとしてはタイムを狙いにくい状況だったでしょう。栁田大輝選手はその中で、勝ちに徹して、やるべきことをやったレースだったと感じました。 レース内容については、栁田選手本人が一番納得がいっていないでしょう。目指しているタイムは東京世界選手権の参加標準記録である10秒00、さらには9秒台。それは難しい状況だったとはいえ、決勝のレース展開としてもめずらしく後半にしっかりと追い込まれていました。 また、ラウンド(予選、準決勝)と決勝でスイッチが切り替わる選手でもありますが、スイッチが入るだろうと思われた決勝で、その“らしさ”を今ひとつ感じられませんでした。 ディフェンディングチャンピオンとしても重圧、プライドはもちろんあったでしょう。もともと、背負うものをしっかりと背負うタイプ。加えて、5月上旬の関東インカレ(9秒95/+4.5、優勝)、5月18日のセイコーゴールデングランプリ(10秒06/+1.1、優勝)と連戦した影響もあったかもしれません。 この2戦と比較して、辛口に言うなら前半からもう少し前に出られてもおかしくなかった点、後半は脚が“回っている”というよりも頑張って“回している”という点から、力みがあったと感じました。 栁田選手は本来、前半で動きを作ったら、脚がどんどん回って勝手に加速していく走りができる選手。出し切れなかった前半、がんばり続けないといけなかった後半から、ブーンソン選手の追い込みを許したと言えるでしょう。 とはいえ、昨年のU20世界選手権銀メダルの実績を持つブーンソン選手をはじめ、若手が台頭する中国、中東勢など、アジアのスプリンターたちも強い選手が数多くいます。また、アジア選手権自体が世界大会出場に必要なワールドランキングのポイントが非常に大きく、回を追うごとにプライオリティーが高くなっている。その中で2連覇というのは、やはり非常に価値が高い。こういった場面で強さを示せることは、スタートしての要素だと思います。 2年前もそうですが、アジアを制した強さを、国内でしっかりと示すことが今後の課題となります。7月の日本選手権で初優勝をする姿を見せてほしいですね。また、この連載でも何度か触れていますが、世界大会への課題は最初のラウンドで、スイッチの入った決勝の走りができること。それを2本続けることが、ファイナルへの最低条件となります。 10秒39で7位だった東田旺洋選手(関彰商事)も、順位としてはもう少し欲しかったでしょう。調子が上がり切っていない中で決勝に駒を進めたのはさすがと言えますが、本来であれば着順で通過し、決勝は1レーンではなくシードレーンに立てる選手。タイム水準がここまで下がると、スルスルっと勝てるだけの実力を持っているので、ここから日本選手権に向けての仕上げに注目したいと思います。 ◎高平慎士(たかひら・しんじ) 富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

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