◇オレゴン世界陸上(7月15日~24日/米国・オレゴン州ユージン)8日目
オレゴン世界陸上8日目のイブニングセッションに行われた女子やり投で、北口榛花(JAL)が快挙達成。女子フィールド種目で初のメダル獲得となる3位に入った。
決勝6回目。1回目で62m07を投げて2位につけた北口の順位は5位に落ちていた。「私が乗り越えなきゃいけない壁なんだ」。思い出していたのは高校時代のこと。高校最後の試合だった日本ジュニア選手権、高校最後の1投で高校記録58m90を放った。「自分は6回目に“できる子”だ」。助走を開始し、力強くやりを放った。
大きな投てきで会場も沸いたが、「(モニターで)メダルラインを超えていないように見えて」うずくまり、頭を抱える。記録はこの日最高となる63m27で2位に浮上した。「残りの2人に絶対に抜かれるからダメだと思っていました」。米国のカラ・ウィンガーが地元の声援を背に64m05を投げて北口は3位に。東京五輪金メダリストの劉詩穎が失敗投てきに終わった瞬間、日本陸上界の歴史が動いた。劉との差はわずか2㎝。女子フィールド種目、初のメダル獲得を果たし、スタンドのディヴィッド・シェケラック・コーチと歓喜に浸った。
「ホッとした安心感がありました。自然に涙が出てきました。すごくうれしいです」。日の丸を背負って「夢だった」というウイニングランに加わった。
1回目のあとは、「12人の(試合の)ペースが久しぶり」で試技間の過ごし方に苦心して失敗投てきが続く。シェケラック・コーチからは「集中しろ」と何度も声が飛んだというが、「ここで集中しない人はいません」と笑って振り返る。4回目61m27、5回目はグリップがうまく握れなくて失敗投てきになった。
6回目は絶対に上がってやろうという思いではなく、「自分の最大限の距離を投げをしたい」という気持ち。だからこそ、メダルの快挙にも「完璧な投てきというイメージはなかった」し、全体通して「満足はいっていません」と北口は振り返った。
「うまくいかなかった時期もありました」。ここまでのことを振り返ると、さまざまな思いが去来する。もともとはバドミントンやスイミングに取り組み、高校から陸上を始めた。すぐさまその才能は光り、北海道・旭川東高3年時には世界ユース選手権で世界一に輝いている。しかし、日大進学後は肘のケガに悩まされ、指導者が不在になった時期もあった。食事が喉を通らない日々。それでも必ず、グラウンドに顔を出した。それが、勉強や他のスポーツをあきらめてまでやり投を選んだ覚悟だった。
指導者を求めて選んだのがやり投王国・チェコ。やり投関係者が集まるカンファレンスでたまたま知り合ったのがシェケラック・コーチだった。「君のことを知っているよ」。そう言っていろいろな動画を目の前で検索。「今、コーチがいない。チェコに行ったら見てくれますか?」。答えは「イエス」だった。「海外で過ごす時間が長くて家族や友達と過ごせないこともありました」。北口はチェコに飛び込んだ。
そこからは「ケンカもたくさんしました」。お互いに主張もあり、文化も違う。技術面の口論ではいつも負けたという。指導を受けはじめた翌年の2019年。止まっていた針が動く。5月に64m36の日本新記録を投げると、ドーハ世界選手権の予選落ちを挟んで10月には66m00にまで記録を伸ばした。
昨年の東京五輪は決勝に進むも12位。予選で痛めた左脇腹は、競技生活を脅かすほどのものだった。地道なリハビリと走り込みは、北口の課題だった基礎体力向上に充てる大事な時間に。その成果から、今季は安定して62m前後の記録をマークしていた。東京五輪を経て、シェケラック・コーチとの関係も「対等にコミュニケーションをとれるようになった」という。6月にはダイヤモンドリーグ・パリ大会日本人初優勝。機は熟した。
それでもオレゴン世界陸上の目標は「入賞」と変わらなかった北口。それは「長い競技生活のステップアップにしたい」という理由からだった。メダルを獲得した今、次は「海外転戦を楽しみながらたくさん経験して、異国でも自分のホームだと思って投げられるのが大事だと思います」と見据えている。
女子やり投界を牽引する者としての思いもある。「これを続けることが大事ですし、私だからできることじゃなくて、みんなができること。そう思って日本のやり投の選手たちみんなで頑張っていけたらいいと思っています」。
来年以降、ブダペスト世界陸上、そしてパリ五輪、東京世界陸上と続く。「パリ五輪に向けてまた同じようにメダルを取り続けて、最終的には一番良い色のメダルが取れるようにやっていきたいと思います」。世界トップスロワーの位置に“戻ってきた”北口榛花。再びの世界一に向けた歩みが、ここオレゴンから始まった。
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決勝6回目。1回目で62m07を投げて2位につけた北口の順位は5位に落ちていた。「私が乗り越えなきゃいけない壁なんだ」。思い出していたのは高校時代のこと。高校最後の試合だった日本ジュニア選手権、高校最後の1投で高校記録58m90を放った。「自分は6回目に“できる子”だ」。助走を開始し、力強くやりを放った。
大きな投てきで会場も沸いたが、「(モニターで)メダルラインを超えていないように見えて」うずくまり、頭を抱える。記録はこの日最高となる63m27で2位に浮上した。「残りの2人に絶対に抜かれるからダメだと思っていました」。米国のカラ・ウィンガーが地元の声援を背に64m05を投げて北口は3位に。東京五輪金メダリストの劉詩穎が失敗投てきに終わった瞬間、日本陸上界の歴史が動いた。劉との差はわずか2㎝。女子フィールド種目、初のメダル獲得を果たし、スタンドのディヴィッド・シェケラック・コーチと歓喜に浸った。
「ホッとした安心感がありました。自然に涙が出てきました。すごくうれしいです」。日の丸を背負って「夢だった」というウイニングランに加わった。
1回目のあとは、「12人の(試合の)ペースが久しぶり」で試技間の過ごし方に苦心して失敗投てきが続く。シェケラック・コーチからは「集中しろ」と何度も声が飛んだというが、「ここで集中しない人はいません」と笑って振り返る。4回目61m27、5回目はグリップがうまく握れなくて失敗投てきになった。
6回目は絶対に上がってやろうという思いではなく、「自分の最大限の距離を投げをしたい」という気持ち。だからこそ、メダルの快挙にも「完璧な投てきというイメージはなかった」し、全体通して「満足はいっていません」と北口は振り返った。
「うまくいかなかった時期もありました」。ここまでのことを振り返ると、さまざまな思いが去来する。もともとはバドミントンやスイミングに取り組み、高校から陸上を始めた。すぐさまその才能は光り、北海道・旭川東高3年時には世界ユース選手権で世界一に輝いている。しかし、日大進学後は肘のケガに悩まされ、指導者が不在になった時期もあった。食事が喉を通らない日々。それでも必ず、グラウンドに顔を出した。それが、勉強や他のスポーツをあきらめてまでやり投を選んだ覚悟だった。
指導者を求めて選んだのがやり投王国・チェコ。やり投関係者が集まるカンファレンスでたまたま知り合ったのがシェケラック・コーチだった。「君のことを知っているよ」。そう言っていろいろな動画を目の前で検索。「今、コーチがいない。チェコに行ったら見てくれますか?」。答えは「イエス」だった。「海外で過ごす時間が長くて家族や友達と過ごせないこともありました」。北口はチェコに飛び込んだ。
そこからは「ケンカもたくさんしました」。お互いに主張もあり、文化も違う。技術面の口論ではいつも負けたという。指導を受けはじめた翌年の2019年。止まっていた針が動く。5月に64m36の日本新記録を投げると、ドーハ世界選手権の予選落ちを挟んで10月には66m00にまで記録を伸ばした。
昨年の東京五輪は決勝に進むも12位。予選で痛めた左脇腹は、競技生活を脅かすほどのものだった。地道なリハビリと走り込みは、北口の課題だった基礎体力向上に充てる大事な時間に。その成果から、今季は安定して62m前後の記録をマークしていた。東京五輪を経て、シェケラック・コーチとの関係も「対等にコミュニケーションをとれるようになった」という。6月にはダイヤモンドリーグ・パリ大会日本人初優勝。機は熟した。
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