2022.06.16
社会人になっても陸上競技を続けるにはどうすればいいのか、いつまで競技を続けられるのか―。学生アスリートならいつかは考える卒業後の競技人生。同時に、引退後のキャリアについても考える機会が訪れるだろう。それをサポートするのが「マイナビアスリートキャリア」だ。実際にマイナビアスリートキャリアを利用したアスリートがどのような人生を歩んでいるのか、その事例を紹介しよう。
自らの「売り込み」が実らず
マイナビアスリートキャリアを活用
昨年の日本選手権。男子棒高跳の石橋和也(アマギ)は、入賞こそ逃したものの、自己記録にあと1cmと迫る5m40の高さを成功した。
「自己ベストに近い記録を跳べたし、その後の5m50も本当に惜しい跳躍でした。昨年は目立った結果を出せてはいませんが、2019年に自己ベストを出してから全然跳べていなかったので、自分の中ではうまくいったシーズンだったと思います」
もちろん5m40で満足しているわけではない。それでも、社会人1年目を順調にスタートさせることができたと言えるだろう。
石橋は、清和大学(千葉県木更津市)在学時に日本選手権5位、U20日本選手権優勝など数々の実績を挙げているトップアスリートだ。しかし、それでも就職活動の際には競技を継続できるか岐路に立たされた。
「競技を続けることを大前提で自分を企業に売り込みました。その意思を後出しで言うのは絶対になしだと思っていたので、先にその旨をお伝えして、それでダメなら仕方ないと割り切っていました。でも、コロナ禍もあって活動も制限され、なかなか就職先が見つかりませんでした。競技をやめるべきではないのかと悩んだこともありました」
行き詰まった時に「デュアルキャリア」として競技を続けているアスリートのSNSをたまたま目にした。デュアルキャリアとは現役のうちから競技と仕事の両方でキャリアを形成していくというものだ。従来は競技人生を終えてから新たに社会人としてのキャリア作りをする「セカンドキャリア」という考え方が一般的。もしくは、アルバイトをしながら活動費を捻出し、競技を継続するという者もいるのが実情だった。デュアルキャリアは今、アスリートの新たな選択肢として注目されている。
「就職活動の際に一番大切にしていたのが、“競技だけをやっていればいいという考えではダメ”ということでした。引退してからのほうが人生は長いですし、引退した時に、仕事が何もできないというのは嫌だったので、競技と並行して仕事でもキャリアアップしていきたいと思っていました」
このような考えを持っていた石橋にとってデュアルキャリアはまさに思い描いていた生き方でもあった。「少しでも可能性があるなら」と、マイナビアスリートキャリアのサービスを利用し、縁があって自動車関連の事業を展開する株式会社アマギ(本社:神奈川県相模原市)への採用が決まった。
そして、競技に取り組むかたわら、会社員としても業務をこなす、デュアルキャリアのアスリートとしての道を歩み始めた。

練習は近くの競技場や日大グラウンドを利用。「学生時代と変わらない生活リズムで競技ができてやりやすい」と石橋は話す
業務と並行しながら練習も充実
「イメージ以上に満足」
とはいえ、入社前はどれほど練習時間を確保できるのか、「正直、不安はあった」と言う。だが、それは杞憂だったようだ。
「企業理念の1つに“社員に幸せを”というのがありまして、その支援をするのが経営者の仕事だと思っています。石橋君の話を聞いているうちに、私自身もワクワクしましたし、夢を見させてもらえるんじゃないかと思いました。夢を応援してあげたいなと思いました。待遇は大手の実業団のほうが手厚いだろうと思いますが、トップが即判断できるのは中小企業ならではだと思います」
アマギ代表取締役の小川一弘氏がこう話すように、企業としても最大限のバックアップをしている。練習時間に融通を利かせているのはもちろん、遠征費なども会社が負担してくれているという。

石橋(左)の競技生活を手厚くサポートするアマギ代表取締役の小川一弘氏(中央)。右は管理部の中澤道之部長
現在、石橋は月曜日と木曜日はフルタイムで勤務(8時20分?18時)。それ以外の平日は15~16時までの時短勤務となり、業務後に練習時間を設けている。土曜日は午前中に勤務し、午後から練習。日曜日は朝から昼過ぎまで練習時間に充てている。また、週に3日ほどは東京都世田谷区にある日大グラウンドに出向いて跳躍練習に取り組む。学生時代から引き続き松浦英史コーチに指導を受けつつ、同学年で世界大会常連の江島雅紀(富士通)と一緒に練習したり、合宿に行くこともあるという。
「時短勤務があってもフルタイム同様の給与をいただいていますし、練習環境の面でもすごく充実しています。会社の方々もサポートしてくださいますし、入社前にイメージしていた以上に満足しています」と、充実感を口にする。
陸上競技だけでなく、仕事のほうでも早くも会社の戦力となっている。現在は管理部で総務関係の業務に従事し、広報や管理者会議の司会など、業務内容も幅広い。「がんばっていますし、年長者の話を聞く姿勢もしっかりしているので、みんなにかわいがられています」と上司である中澤道之部長も石橋の働きぶりを評価する。
「どんどん失敗してくれてもいい。失敗するということは、行動しているということですから。失敗から学んで、どんどん成長していってもらいたい」
こう話す小川社長の期待に応えるかのように、1年目からさまざまな提案も積極的に行ってきた。会社が大卒を対象とした新卒採用に力を入れ始めたこともあって、石橋の発案で会社説明会を開催するなどさっそく活躍を見せている。
「会社員としては、2年目になって業務量も増えました。基本的なことですが、上司と相談しながらワークスケジュールを組んで、仕事が遅れないようにしたい。あとは、常々社長がおっしゃっているように、失敗をいっぱいすること。同じ失敗を繰り返すのではなく、新しいことに挑戦して、どんどん失敗していければと思います」
デュアルキャリアのアスリートとして、競技も仕事も着実にキャリアを重ねている。

入社2年目にして社内でも仕事ぶりを評価されている石橋(右)。新卒採用や業務の効率化など社内に新しい風を吹き込んでいる

朝礼や会議の司会なども担当。大会の時には社員がインターネットのライブ配信を見て応援してくれるという
入社試験の面接で、石橋は小川社長に大きな目標を語った。それは2年後に迫る国際大会に出場することだ。
「今の自分の実力を考えたらまだまだ遠いのですが、常に研究しながらギャップを埋め合わせて、近づけていきたいです」
失敗を修正し、次の試技を成功させ、少しずつバーの高さを上げていくのが棒高跳という種目。競技も仕事も、失敗を重ねながらも、着実にステップアップしてきた。歩みを止めない限り、目標に近づいていけるに違いない。

昨年は自己記録にあと1cmと迫る5m40に成功。今季は3年ぶりの自己ベストを目指す
文/福本ケイヤ
写真/樋口俊秀
※この記事は『月刊陸上競技』2022年7月号に掲載しています
<関連リンク>
マイナビアスリートキャリア
株式会社アマギ(石橋選手の所属先)
自らの「売り込み」が実らず マイナビアスリートキャリアを活用
昨年の日本選手権。男子棒高跳の石橋和也(アマギ)は、入賞こそ逃したものの、自己記録にあと1cmと迫る5m40の高さを成功した。 「自己ベストに近い記録を跳べたし、その後の5m50も本当に惜しい跳躍でした。昨年は目立った結果を出せてはいませんが、2019年に自己ベストを出してから全然跳べていなかったので、自分の中ではうまくいったシーズンだったと思います」 もちろん5m40で満足しているわけではない。それでも、社会人1年目を順調にスタートさせることができたと言えるだろう。 石橋は、清和大学(千葉県木更津市)在学時に日本選手権5位、U20日本選手権優勝など数々の実績を挙げているトップアスリートだ。しかし、それでも就職活動の際には競技を継続できるか岐路に立たされた。 「競技を続けることを大前提で自分を企業に売り込みました。その意思を後出しで言うのは絶対になしだと思っていたので、先にその旨をお伝えして、それでダメなら仕方ないと割り切っていました。でも、コロナ禍もあって活動も制限され、なかなか就職先が見つかりませんでした。競技をやめるべきではないのかと悩んだこともありました」 行き詰まった時に「デュアルキャリア」として競技を続けているアスリートのSNSをたまたま目にした。デュアルキャリアとは現役のうちから競技と仕事の両方でキャリアを形成していくというものだ。従来は競技人生を終えてから新たに社会人としてのキャリア作りをする「セカンドキャリア」という考え方が一般的。もしくは、アルバイトをしながら活動費を捻出し、競技を継続するという者もいるのが実情だった。デュアルキャリアは今、アスリートの新たな選択肢として注目されている。 「就職活動の際に一番大切にしていたのが、“競技だけをやっていればいいという考えではダメ”ということでした。引退してからのほうが人生は長いですし、引退した時に、仕事が何もできないというのは嫌だったので、競技と並行して仕事でもキャリアアップしていきたいと思っていました」 このような考えを持っていた石橋にとってデュアルキャリアはまさに思い描いていた生き方でもあった。「少しでも可能性があるなら」と、マイナビアスリートキャリアのサービスを利用し、縁があって自動車関連の事業を展開する株式会社アマギ(本社:神奈川県相模原市)への採用が決まった。 そして、競技に取り組むかたわら、会社員としても業務をこなす、デュアルキャリアのアスリートとしての道を歩み始めた。
練習は近くの競技場や日大グラウンドを利用。「学生時代と変わらない生活リズムで競技ができてやりやすい」と石橋は話す
業務と並行しながら練習も充実 「イメージ以上に満足」
とはいえ、入社前はどれほど練習時間を確保できるのか、「正直、不安はあった」と言う。だが、それは杞憂だったようだ。 「企業理念の1つに“社員に幸せを”というのがありまして、その支援をするのが経営者の仕事だと思っています。石橋君の話を聞いているうちに、私自身もワクワクしましたし、夢を見させてもらえるんじゃないかと思いました。夢を応援してあげたいなと思いました。待遇は大手の実業団のほうが手厚いだろうと思いますが、トップが即判断できるのは中小企業ならではだと思います」 アマギ代表取締役の小川一弘氏がこう話すように、企業としても最大限のバックアップをしている。練習時間に融通を利かせているのはもちろん、遠征費なども会社が負担してくれているという。
石橋(左)の競技生活を手厚くサポートするアマギ代表取締役の小川一弘氏(中央)。右は管理部の中澤道之部長
現在、石橋は月曜日と木曜日はフルタイムで勤務(8時20分?18時)。それ以外の平日は15~16時までの時短勤務となり、業務後に練習時間を設けている。土曜日は午前中に勤務し、午後から練習。日曜日は朝から昼過ぎまで練習時間に充てている。また、週に3日ほどは東京都世田谷区にある日大グラウンドに出向いて跳躍練習に取り組む。学生時代から引き続き松浦英史コーチに指導を受けつつ、同学年で世界大会常連の江島雅紀(富士通)と一緒に練習したり、合宿に行くこともあるという。
「時短勤務があってもフルタイム同様の給与をいただいていますし、練習環境の面でもすごく充実しています。会社の方々もサポートしてくださいますし、入社前にイメージしていた以上に満足しています」と、充実感を口にする。
陸上競技だけでなく、仕事のほうでも早くも会社の戦力となっている。現在は管理部で総務関係の業務に従事し、広報や管理者会議の司会など、業務内容も幅広い。「がんばっていますし、年長者の話を聞く姿勢もしっかりしているので、みんなにかわいがられています」と上司である中澤道之部長も石橋の働きぶりを評価する。
「どんどん失敗してくれてもいい。失敗するということは、行動しているということですから。失敗から学んで、どんどん成長していってもらいたい」
こう話す小川社長の期待に応えるかのように、1年目からさまざまな提案も積極的に行ってきた。会社が大卒を対象とした新卒採用に力を入れ始めたこともあって、石橋の発案で会社説明会を開催するなどさっそく活躍を見せている。
「会社員としては、2年目になって業務量も増えました。基本的なことですが、上司と相談しながらワークスケジュールを組んで、仕事が遅れないようにしたい。あとは、常々社長がおっしゃっているように、失敗をいっぱいすること。同じ失敗を繰り返すのではなく、新しいことに挑戦して、どんどん失敗していければと思います」
デュアルキャリアのアスリートとして、競技も仕事も着実にキャリアを重ねている。
入社2年目にして社内でも仕事ぶりを評価されている石橋(右)。新卒採用や業務の効率化など社内に新しい風を吹き込んでいる
朝礼や会議の司会なども担当。大会の時には社員がインターネットのライブ配信を見て応援してくれるという
入社試験の面接で、石橋は小川社長に大きな目標を語った。それは2年後に迫る国際大会に出場することだ。
「今の自分の実力を考えたらまだまだ遠いのですが、常に研究しながらギャップを埋め合わせて、近づけていきたいです」
失敗を修正し、次の試技を成功させ、少しずつバーの高さを上げていくのが棒高跳という種目。競技も仕事も、失敗を重ねながらも、着実にステップアップしてきた。歩みを止めない限り、目標に近づいていけるに違いない。
昨年は自己記録にあと1cmと迫る5m40に成功。今季は3年ぶりの自己ベストを目指す
文/福本ケイヤ
写真/樋口俊秀
※この記事は『月刊陸上競技』2022年7月号に掲載しています
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