2022.04.30

山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!
第20回「人生回顧~プルシアンブルーの空を見上げて~」
人生には節目がある。
生まれた日には誕生日があり、それを起点に年齢が重ねられてゆく。本人には何の自覚もない乳児の時から、家族や親類が祝ってくれたことだろう。
そうこうしているうちに友人や知人ができ、人とのつながりが生まれてくる。そうなれば記念日だのなんだかんだで、浮かれたり沈んだりの節目が次々と生まれる。
人生に節目を感じる時は必要である。だから、卒業・入社、入学や進級までが節目として捉えられるようになる。3月に送り出したかと思えば、4月にかけては迎え入れる支度を整えるなど、あれやこれやと年末とは違った意味で慌ただしい。
日本の暦では、事業活動や学業といった各分野の便宜に立脚して、1年の区切りとして“年度”がある。まさに年度替りは人生においても節目の時といえる。新たな環境や、今までとは違う立ち位置、更には新体制でスタートを切る時となる。誰もがこの日を迎えるにあたって、それぞれに困難苦難はあったであろうことは想像に難くない。挫折や絶望を味わい孤独や悲嘆に暮れた日々も少なからずあったはずだ。
それでも、仲間たちと励まし励まされ、喜びを分かち合いながら自己の限界に挑んだ日々を紡いできたことだろう。そのようなかけがえのない時間が、心の中に刻み込まれていることと確信している。
新緑の季節を迎え、厳しい冬を越えた甲府盆地から望む南アルプスの眺望は素晴らしい。純白の雪渓を一際輝かせるようにプルシアンブルーの空が眩しく、近隣の山の緑は生きる力に溢れている。
この景色の中に立ち、自分自身の節目と向き合ってみた。
順天堂大学を卒業後、故郷の香川県で4年間の教員生活に終止符を打ち、1985年4月に山梨学院大学に着任。同時に陸上競技部が強化指定クラブとして創部された。37年前のことである。
2019年に駅伝監督を飯島理彰コーチに引き継ぎ、今年の3月まで陸上部全体の監督として、また中距離コーチとして指導に従事させていただいた。
そしてこの4月からは顧問という立ち位置となった(中距離コーチは継続)。故にこのコラムのタイトルも「山梨学院大学上田誠仁顧問コラム雲外蒼天」と変更していただいた。
今年の箱根駅伝・春の選抜高校野球から、チームのユニフォームの色もc2cブルーという淡い水色となり、高校・大学の強化クラブすべてがこの色で統一されることとなった。
左が従来のプルシアンブルー、右が今年から刷新されたc2cブルーのユニフォーム
理事長発令のこの改革に伴い、今季からは麻場一徳(昨年の東京オリンピックまで日本陸連強化委員長)が陸上競技部部長及び監督となった。さらに、新設された駅伝プロジェクトのリーダーとして麻場監督が駅伝の強化システムの再構築を行うこととなった。
長らく日本陸連の強化委員長として手腕を発揮してきた麻場監督を中心に、飯島駅伝監督と大崎悟史コーチとの3本柱が新たな旋風を巻き起こす事を期待してやまない。
このような状況であるからこそ、人生における節目を振り返ることも重要だろう。プルシアンブルーの空を眺めつつ、さらに思いを馳せてこのような出来事を思い出した。
創部した1985年の夏。合宿で宿舎が一緒になった高校チームの、練習以外の場所でのテキパキとした動きが印象深く、どのようなご指導をされているのか秋になってその高校の合宿所を訪ねて行った。1979年から高校駅伝2連覇を達成していた岐阜・中京商業高校(現・中京高校)である。
徳重監督ご夫妻が合宿所に住み込み、寝食を共にしながらチーム作りをされていた。食堂のテーブルでお話を伺っていて、ふと目を転じるとシンクもガスコンロも掃除が行き届いている。それを当然とするかの如く、大きなヤカンが所々凹んではいるが、煤(すす)ひとつつかない状態で真鍮(しんちゅう)色に輝いていることに驚いた。
毎日大勢の食事を作り大変なご苦労をされていることは間違いないことだが、そのことを徳重監督に告げると、このような言葉をいただいた。
「上田さんよくそこに気づきましたね。ありがとう。私自身が初心を忘れないために、日々使うヤカンをはじめ食器や台所全てを使う前の状態にして片付けることを心がけているのですよ。その象徴がそのヤカンです」
さらに付け加えて、「その気持ちを生徒が理解できるように日々実践させています。そういった心のありようが駅伝チームには大切なのですから。上田さんも山梨でチームを作るのはこれから大変でしょうが、常にあなたができることを精一杯がんばってくださいね!」と励まして頂いたことを昨日のことのように思い起こすことができた。
ならば、2022年4月今この時、セオドア・ルーズベルトの名言にもあるように
「Do what you can, with what you have, where you are.」
(あなたにできることをしなさい。今あるもので、今いる場所で。)
この節目のスタートとしてこのような心境で、私自身が心に刻みつつ実践してゆかなければならないと思った。
同じく、すべての新入社員・新入生、新たなステージに立つ君たちへこの言葉を届けたい。
君たちの未来に幸あれ!
| 上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。 |
山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!
第20回「人生回顧~プルシアンブルーの空を見上げて~」
人生には節目がある。 生まれた日には誕生日があり、それを起点に年齢が重ねられてゆく。本人には何の自覚もない乳児の時から、家族や親類が祝ってくれたことだろう。 そうこうしているうちに友人や知人ができ、人とのつながりが生まれてくる。そうなれば記念日だのなんだかんだで、浮かれたり沈んだりの節目が次々と生まれる。 人生に節目を感じる時は必要である。だから、卒業・入社、入学や進級までが節目として捉えられるようになる。3月に送り出したかと思えば、4月にかけては迎え入れる支度を整えるなど、あれやこれやと年末とは違った意味で慌ただしい。 日本の暦では、事業活動や学業といった各分野の便宜に立脚して、1年の区切りとして“年度”がある。まさに年度替りは人生においても節目の時といえる。新たな環境や、今までとは違う立ち位置、更には新体制でスタートを切る時となる。誰もがこの日を迎えるにあたって、それぞれに困難苦難はあったであろうことは想像に難くない。挫折や絶望を味わい孤独や悲嘆に暮れた日々も少なからずあったはずだ。 それでも、仲間たちと励まし励まされ、喜びを分かち合いながら自己の限界に挑んだ日々を紡いできたことだろう。そのようなかけがえのない時間が、心の中に刻み込まれていることと確信している。 新緑の季節を迎え、厳しい冬を越えた甲府盆地から望む南アルプスの眺望は素晴らしい。純白の雪渓を一際輝かせるようにプルシアンブルーの空が眩しく、近隣の山の緑は生きる力に溢れている。 この景色の中に立ち、自分自身の節目と向き合ってみた。 順天堂大学を卒業後、故郷の香川県で4年間の教員生活に終止符を打ち、1985年4月に山梨学院大学に着任。同時に陸上競技部が強化指定クラブとして創部された。37年前のことである。 2019年に駅伝監督を飯島理彰コーチに引き継ぎ、今年の3月まで陸上部全体の監督として、また中距離コーチとして指導に従事させていただいた。 そしてこの4月からは顧問という立ち位置となった(中距離コーチは継続)。故にこのコラムのタイトルも「山梨学院大学上田誠仁顧問コラム雲外蒼天」と変更していただいた。 今年の箱根駅伝・春の選抜高校野球から、チームのユニフォームの色もc2cブルーという淡い水色となり、高校・大学の強化クラブすべてがこの色で統一されることとなった。
左が従来のプルシアンブルー、右が今年から刷新されたc2cブルーのユニフォーム
理事長発令のこの改革に伴い、今季からは麻場一徳(昨年の東京オリンピックまで日本陸連強化委員長)が陸上競技部部長及び監督となった。さらに、新設された駅伝プロジェクトのリーダーとして麻場監督が駅伝の強化システムの再構築を行うこととなった。
長らく日本陸連の強化委員長として手腕を発揮してきた麻場監督を中心に、飯島駅伝監督と大崎悟史コーチとの3本柱が新たな旋風を巻き起こす事を期待してやまない。
このような状況であるからこそ、人生における節目を振り返ることも重要だろう。プルシアンブルーの空を眺めつつ、さらに思いを馳せてこのような出来事を思い出した。
創部した1985年の夏。合宿で宿舎が一緒になった高校チームの、練習以外の場所でのテキパキとした動きが印象深く、どのようなご指導をされているのか秋になってその高校の合宿所を訪ねて行った。1979年から高校駅伝2連覇を達成していた岐阜・中京商業高校(現・中京高校)である。
徳重監督ご夫妻が合宿所に住み込み、寝食を共にしながらチーム作りをされていた。食堂のテーブルでお話を伺っていて、ふと目を転じるとシンクもガスコンロも掃除が行き届いている。それを当然とするかの如く、大きなヤカンが所々凹んではいるが、煤(すす)ひとつつかない状態で真鍮(しんちゅう)色に輝いていることに驚いた。
毎日大勢の食事を作り大変なご苦労をされていることは間違いないことだが、そのことを徳重監督に告げると、このような言葉をいただいた。
「上田さんよくそこに気づきましたね。ありがとう。私自身が初心を忘れないために、日々使うヤカンをはじめ食器や台所全てを使う前の状態にして片付けることを心がけているのですよ。その象徴がそのヤカンです」
さらに付け加えて、「その気持ちを生徒が理解できるように日々実践させています。そういった心のありようが駅伝チームには大切なのですから。上田さんも山梨でチームを作るのはこれから大変でしょうが、常にあなたができることを精一杯がんばってくださいね!」と励まして頂いたことを昨日のことのように思い起こすことができた。
ならば、2022年4月今この時、セオドア・ルーズベルトの名言にもあるように
「Do what you can, with what you have, where you are.」
(あなたにできることをしなさい。今あるもので、今いる場所で。)
この節目のスタートとしてこのような心境で、私自身が心に刻みつつ実践してゆかなければならないと思った。
同じく、すべての新入社員・新入生、新たなステージに立つ君たちへこの言葉を届けたい。
君たちの未来に幸あれ!
| 上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。 |
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