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東洋大駅伝チームに”新兵器”が登場 卒業後も見据えた酒井監督の育成戦略/PR


「O2Room®」が2つ導入され、練習環境がより充実した東洋大学。写真は新チームの主力選手。左から佐藤真優、松山和希、児玉悠輔、石田洸介、清野太雅、前田義弘。写真の低圧低酸素ルームは高さ2.5m、幅2.5m、奥行き4.0mの大型サイズ

抜群の安定感で常に大学駅伝の上位に食い込む東洋大学は、卒業生の多くが日本代表として日の丸を背負っている点でも高い評価を受けている。4年間で結果を出すことはもちろん、実業団へのスムーズな移行と、そこでのハイパフォーマンスをさらに促進するため、酒井俊幸監督は昨秋、日本気圧バルク工業の2つの「O2Room®」、低圧低酸素ルームと高圧高酸素ルームを導入した。トレーニングとリカバリーの質の向上が駅伝で1秒を削り出し、未来へとつながっていく。苦戦した昨年春のトラックシーズンの借りを返すべく、今季は個でもチームでも結果を求めていく。

粘りのある走りは新施設の導入の成果

2021年度の大学駅伝シーズン、東洋大学は優勝こそ手にできなかったが、最後は「らしさ」は見せた。11月の全日本大学駅伝で10位と14年ぶりにシードを落とし、苦戦の予想された正月の大一番では往路こそ9位と出遅れたが、復路の後半3区間で一気に上位との差を詰めて4位に食い込んだ。多くの選手が区間後半で粘り、チームスローガンである「その一秒をけずりだせ」を地でいく走りだった。

「3位までは2秒差でしたし、3位と4位では違うので、やはりもう一つ上の順位に入りたかったですね。それに往路が想定より3分ほど悪かったので、2位まではいけるチームだったと思います。しかし、復路の8区から区間上位でまとめたのは想定通りです。6区の九嶋恵舜(3年)がラストで粘ったことが、10区までつながりました」

酒井俊幸監督は3ヵ月の時間が経ったこの春、レースをこう振り返り、後半区間の選手たちを称えた。

この粘りは東洋大学が昨年秋に導入した日本気圧バルク工業の2つの「O2Room®」も無関係ではない。リカバリー目的の高圧高酸素ルームは10月から体験用の施設が学内に持ち込まれ、正式な納品が11月。負荷を高めたトレーニング環境としての低圧低酸素ルームは12月上旬に設置された。

「全日本大学駅伝以降は高圧高酸素ルームでリカバリーをしながら、距離を走り込む練習を中心にメニューをこなしてきました。ポイント練習以外のジョグも低圧低酸素ルーム内で血中酸素飽和度を一定の値に保ちながらロングジョグを行いましたが、正月の駅伝で苦しいところで粘れたのはその効果かなと思っています」

9区で区間5位と好走し、2つ順位を上げた主将の前田義弘(4年)はそう振り返る。


体幹強化やストレッチなどを行うもう1つのトレーニングルームには「O2Room®」の高圧高酸素ルームを設置。こちらは高さ1.9m、幅1.5m、奥行き2.55mのサイズだ

高地順化と卒業後の飛躍
リカバリーとセットで強化

新年度がスタートし、「O2Room®」の使用が本格化したが、それに先立ち3月にはチーム全体で製品の説明会を受けた。

「血中酸素飽和度が下がり過ぎた場合はどうすればいいのか?」
「1日の使用回数や時間の上限は?」

これまでに使った感触から多くの意見が飛び交い、意欲の高さをうかがわせた。

もともと東洋大学は常圧の低酸素施設は備えており、服部勇馬(現・トヨタ自動車)や服部弾馬(現・トーエネック)らも活用していた。だが、今回の「低圧低酸素ルーム」、そして「高圧高酸素ルーム」と大幅にグレードアップさせたことについて酒井監督は大きく3つの理由を挙げた。

「これまで高地、準高地での合宿はしてきましたが、実業団のように頻繁には行けません。長期も難しいため、高地順化した頃にはもう(山から)下りてこないといけない点に悩みを持っていました。低圧低酸素ルームがあれば実際の高地と同じ環境が作れます。学内で高地順化し、高地についてすぐに負荷の高いメニューを組むことが狙いです」


さまざまな運動生理学の治験が製品に生かされている「O2Room®」に大きな期待を寄せている酒井俊幸監督。東洋大の選手たちの力をさらに高めるだけでなく、卒業生が実業団のトレーニングにスムーズに移行できるようにしておくことも導入した目的という

まずは合宿への準備だ。かつて相澤晃(現・旭化成)が大学3年時の夏にスイスのサンモリッツで高地合宿を行ったが、限られた期間の中、高地順化に時間がかかってしまったそうで、そういった過去の経験がO2Room®導入の理由の一つとなっている。

「もちろん日常的な練習の負荷を高めることにも使います。特にポイント練習の翌日にどんな取り組みをするかはチームや選手によって変わる部分で、強くなるために重要な要素の一つ。ただ漠然とジョグを踏むのではなく、低圧低酸素ルーム内で負荷をかけながら走ることで毛細血管の発達を促し、疲労回復と持久力の向上を狙うことができます」

かつてはポイント練習翌日に2時間ないし3時間のジョグを入れ、セット練習的なタフなトレーニングができたが、現在は厚底シューズが普及し、トレーニングの質が上がったことでそれができる選手が減った。加えて選手のリカバリー能力には個人差がある。回復の遅い選手でも低圧低酸素ルーム内のトレッドミルで走ることで、脚に負担をかけずに心肺機能へ刺激を与え、毛細血管の発達を促して持久力を高めることが期待できる。正月決戦で復路の火付け役として監督が名前を挙げた九嶋はチームきってのヘビーユーザーであり、低圧低酸素ルームの〝常連〟として活用している。「ポイント練習以外はほぼ毎日使っていて、1日に2回走ることもあります。超回復を狙うために使っていて、実際に睡眠の質が向上している実感がありますね。今後はこれまでと同じ使い方をしていくと同時に、さらに負荷を高めるトレーニングにも挑戦したいと考えています」と九嶋。

チーム内でもっとも「O2Room®」を活用しているという3年生の九嶋恵舜

そして、3つ目の理由が卒業後も活躍できるよう選手個々に自らのからだについて知らせる狙いである。多くの実業団チームが低圧低酸素ルームでの練習や高地トレーニングを実施している昨今、スムーズに移行するためには在学中からの経験が必要と考えている。

「高地トレーニング、低酸素トレーニングは個人差があるので、効果の出方やメニューの立て方は一人ひとり異なります。選手自身が血中酸素飽和度やヘモグロビン値を確認し、体感としてどう感じるのかなど、自分で考えて取り組む自主性も求められますが、早い段階から自分の特性を知り、どうすれば自分に合った使い方ができるかを学ぶ場にしたいと考えています」と酒井監督。

本誌で過去に紹介した通り、OBの服部勇馬はトヨタ自動車で低圧低酸素ルームを活用し、日本代表にまで駆け上がった。高地合宿も含め、低酸素環境下でのトレーニングは日本のトップを目指す選手にとっていまや欠かせないメソッド。その意味ではチーム内でも石田洸介(2年)の意識が高い。「まだ具体的な計画はないですが、いつか海外での高地トレーニングを行いたいと考えています。そのために低圧低酸素ルーム内で日本の高地では実現できない標高3000m付近で走れるようにしたいです。将来のイメージを持って取り組んでいければと考えています」と石田。

2024年のパリを目指す若きホープは積極的な活用をしていくつもりだ。


低圧低酸素ルーム内にはトレッドミルとバイクを設置し、目的に応じたバリエーションをもたせている。左が柏優吾、右が石田

そして、リカバリーとして使うのが高圧高酸素ルーム。高圧をかけることで肉体の疲労回復やケガの治療促進が期待できる。 37兆個と言われる人間の細胞は、すべてが酸素を必要としているが、細胞の回復にとって重要なのは、赤血球と結びつかなくても血中に存在できる「溶存型(溶解型)酸素」であり、気圧を高めることで体内に取り込まれやすくなる。赤血球と結びつく「結合型酸素」では届かない末端の細胞まで酸素が行き渡り、回復力が高まる仕組みとなっている。


一度に複数人で使用できることが大型「O2Room®」のメリットだ

「私自身が低圧低酸素ルームでのトレーニングと高圧高酸素ルームでのリカバリーの組み合わせ方に興味がありましたので、セットでの導入は自然な流れでした」

練習で負荷をかけ、リカバリーを促進する。回復まで含めて考えることが重要だと酒井監督は力説する。

関東インカレと全日本選考会
春から全開で勝負に挑む


トレーニングルーム内にずらりとならんだトレッドミル。その中には卒業した偉大な先輩、マラソンで日本記録を樹立した設楽悠太(Honda)と東京五輪の20km競歩で銀メダルを獲得した池田向希(旭化成)から贈呈されたものもあった

昨年度の主将で、駅伝で柱として活躍した宮下隼人(現・コニカミノルタ)が卒業した今季、酒井監督は「全員参加型のチーム」を目指し、選手間のミーティングを繰り返してきた。

「走力では松山和希(3年)、石田が抜き出ていますが、彼らが仕切るのではなく、主将の前田ら最上級生が全員の意見をまとめ、部員全員が一体となって、チーム作りを進めています。特にここ2年はコロナ禍で多くのこと変えざるを得ない状況となり、東洋大の風土や伝統を知っているのは今の4年生しかいません。それをチームにしっかり落とし込むこと。そのうえで練習ではAチーム、Bチームと分けて、厳しく競争をさせています」

昨年の関東インカレは1500m以上の中長距離種目で入賞者ゼロと、酒井監督就任以来初の屈辱を味わった。今季はその借りを返すべく、トラックでもミドルから5000m中心の選手、そして10000m以降、ロードまでの選手とで2月から分けて練習を重ねてきている。

「今年は4年生の多くが元気で練習を引っ張る役目を果たしていますし、5000m13分台のタイムを持って入学してきた吉村聡介(愛知・豊川高卒)、緒方澪那斗(千葉・市立船橋高卒)、西村真周(福岡・自由ケ丘高卒)も楽しみな存在で、チーム全体としての強化は順調です。その中で松山、石田をエース候補として個別性を持って強化していきます」(酒井監督)。

松山は年明けから好調を維持し、飛躍の年の予感を漂わせる。正月の駅伝は2年連続の出走となった2区で好走。特別参加した2月の全日本実業団ハーフで1時間0分43秒の日本人学生歴代2位、東洋大新記録で走ると、1ヵ月後の日本学生ハーフも3位に入り、6月下旬から中国・成都で行われるワールドユニバーシティゲームズ(陸上競技は6月30日~7月5日)の日本代表権を獲得した。

「ここまで記録面ではハーフの東洋大記録(1時間1分45秒/設楽啓太=2012年、相澤晃=2019年3月)更新が目標だったのでうれしいですが、学年が下の選手に負けているのは悔しい」と言うが、ロードでの安定感は特筆すべきレベルだ。「以前よりコンディショニングの意識が上がり、練習が継続できていることが好結果の要因だと思います。高圧高酸素ルームの活用に加えて水素の吸引などもしていて、それが生きている実感があります」と松山は話す。


2月中旬に特別参加した全日本実業団ハーフで日本人学生歴代2位、東洋大新記録となる1時間0分43秒をマークした松山。3年目の今季はチームの大黒柱としての活躍が期待されている

もう一人のエース候補、石田は1年目から出雲、全日本と大学駅伝前半2戦は区間賞と大舞台での集中力を見せた一方で、20㎞対策が間に合わず、最後の駅伝は出場機会を得られなかった悔しさを胸に秘める。故障の影響で夏に距離を踏めなかった反省から冬はスタミナ強化に励み、30kmのジョグや120分の時間走などでベースを作ってきた。昨年は競技人生で初めて自己ベストの更新ができなかったが、2月中旬から早くもスパイクを履いたトレーニングもはじめるなどシーズンインに向けて順調だ。

「まずは5000mで日本選手権標準を切り、そこに出ること。今季は周りのレベルも高いので13分30秒くらいでは走らないといけないと思っています。そして秋には10000mで27分台まで行くことが目標です。パリは10000mで狙うと考えると、それを果たすことがステップになると考えています」

酒井監督はこの逸材を「まだ一線級のフィジカルではない」と見ており、2022年のテーマに「からだ作り」を掲げた。幸いなことに昨年夏以降は大きな故障もなく、本人も「東洋大でのトレーニングが軌道に乗ってきた」と手応えを口にしている。本格的なウエイトトレーニングも開始し、2年目は本領発揮する姿を見られそうだ。

2人のエース格以外もスピード型では九嶋や及川瑠音(4年)、甲木康博(2年)、さらに10000mからハーフの長いところでは前田、柏優吾(4年)らがチームのけん引役となる。

「今年は全日本選考会があります。選手はもちろん私も学生時代には経験していない大会で、誰もが初めての挑戦です。目標はトップ通過と定めていて『今年は春から10000mを走らなければならない』という覚悟がチームにいい雰囲気をもたらし、練習にも緊張感があります」(酒井監督)

関東インカレと全日本大学駅伝選考会の間は約1ヵ月。その間に石田は日本選手権の5000mを狙い、松山はユニバをその後に控える。東洋大の選手たちにとって夏までタフな戦いが続くが、駅伝での栄冠を取り戻すために一つとして落とせない戦いだ。トレーニングの管理に加え、コンディショニングの徹底が成否のカギを握る。

「O2Room®」を本格活用する今季、環境面はこれまで以上に充実。春から1秒を削り出す鉄紺の粘りある走りが見られそうだ。

※この記事は『月刊陸上競技』2022年5月号に掲載しています

<関連リンク>
日本気圧バルク工業

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