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【特別座談会】勝つためのO2Room®活用術:前編 「低圧低酸素」で高地トレーニングの効果を持続/PR


高地トレーニングの効果や課題について語り合った高橋尚子さん(左)、神戸大学大学院教授で医学博士の藤野英己先生(中央)、日本気圧バルク工業株式会社の天野英紀代表
高橋尚子(シドニー五輪女子マラソン金メダリスト、元世界記録保持者)
藤野英己(神戸大学大学院教授、医学博士)
天野英紀(日本気圧バルク工業株式会社代表取締役)

夏と冬、4年に1度のスポーツ祭典に世界の人々が熱狂した2021・22年シーズン。コロナ禍が続き世の中に沈滞ムードが漂うなか、選手たちのパフォーマンスが人々に感動とともに勇気と希望をもたらしてくれた。その主人公たる日々トレーニングに励むアスリートの競技力を支えているのが「運動」「栄養」「休養」の3つの要素だと言われている。医科学が発達して科学的なトレーニングが一般化する現在、これら3要素をテクノロジーによってさらに高度化する動きが進んでいる。そうした中で日本気圧バルク工業株式会社が注目したのが、運動(トレーニング)と休養(リカバリー)に大きく関わるとされる〝酸素〟の存在だ。同社は科学的知見に基づいた酸素ルームを自社で開発・製造。国内はもとより、世界の人々のスポーツシーンや生活を大きく変えようとしている。

ここでは酸素の力で人々の健康およびアスリートのパフォーマンスを支える「O2Room®」を展開する日本気圧バルク工業の天野英紀社長、同社のスペシャルトレーニングアドバイザーに就任した女子マラソン元世界記録保持者で日本の高地トレーニングのパイオニア的な存在でもある高橋尚子さん、同社とともに酸素の活用について共同研究を行っている神戸大学大学院保健学研究学科教授で医学博士の藤野英己先生に2WAYルーム(低圧低酸素・高圧高酸素)の効果や活用法、その未来などについて、それぞれの立場から語ってもらった。

移動や環境の変化にとらわれず効率的に高地トレーニングができるメリット


日本気圧バルク工業の低圧低酸素ルームで標高3000mの高地と同じ低圧低酸素環境を体験した高橋さん。高地に行かずとも高地トレーニングができる施設を絶賛した
――高橋さんには今回、低圧低酸素ルームを体験していただきましたが、どのような感想をお持ちですか?

高橋 私は現役時代に積極的に高地トレーニングを取り入れていたので、その効果は十分理解しているつもりです。今回初めて低圧低酸素ルームを使わせてもらいましたが、ほんの10分足らずで血中酸素濃度も下がって負荷がかかりますし、平地にいながら標高3000m級の高地と同じような環境で手軽にトレーニングできるのは選手にとってはとてもありがたいですね。技術の進歩には本当に驚かされます。

私が高地トレーニングの拠点にしていたコロラド州のボルダー(米国)へは行くだけでも10時間以上かかりますし、私は大丈夫でしたが、慣れない環境に戸惑う選手もよく見かけました。しかし、低圧低酸素ルームなら日常的に使用でき、トレーニングだけでなく、中で過ごすだけでもいろいろな効果が期待できるので最高ですね。実際に低圧低酸素ルームを体験してみて、多くの実業団チームが導入している意味を知ることができました。私が現役の頃とは異なって医科学が進歩し、こうした効率の良い科学的トレーニングを取り入れていくことが、これからはポイントになってくると思います。

低圧低酸素ルームがトレーニング施設内や寮などにあることによって、狙った試合へのスケジュールや調整の仕方などもこれまでとは変わってくると思います。

天野 最近では多くの実業団チームや大学に導入していただいています。実際、高地に行くのと異なり移動がないので、大会の直前まで使えるのは大きなメリットになっています。

高橋 そうなんですよね。高地トレーニングの効果が持続するのは一般的に2週間程度だと言われています。そのため特に女子チームの場合は試合に合わせて2週間前に合宿を切り上げて帰ってきます。ですが、男子チームの場合は高地でのトレーニングではどうしてもスピード値が落ちてしまうので、スピードを戻すために1ヵ月前あたりに戻ってきて、そこからスピード練習を入れて仕上げていくというパターンのチームもあります。となると、高地トレーニングの効果が薄れてしまうというデメリットがありました。しかし、低圧低酸素ルームを活用することで、高地トレーニングの効果も持続しつつ、スピードも戻すことができることになります。

天野 高橋さんが言われるように、低圧低酸素でスタミナ強化を図りつつ、ポイントごとにスピード練習を入れ、さらに高圧高酸素でリカバリーしながら試合に備える。実際に現場に出向くこれまでの高地トレーニングのデメリットを払拭したのが、まさに2WAYルームだと言えます。

高橋 コロナ禍で海外はもちろん、国内の移動が制限されるなか、これまでのように頻繁に高地トレーニングに行ける状況にない昨今、2WAYルームの需要は高まっているのではないですか?

天野 ありがたいことに多くの方々に興味を持っていただき、がんばって作っておりますが、今では順番待ちの状態です。

季節を問わず使えるメリット

――〝高地トレーニングのメッカ〟と呼ばれる場所は、高橋さんが拠点としていたボルダーのほかに同じアメリカのニューメキシコ州アルバカーキや中国の昆明などがあります。しかし、いずれも高地のため、春から秋までに練習期間が限られ、どうしても冬場は本格的な練習ができないことが課題になっていました。

高橋 ボルダーも冬場はマイナス20度になることもあり、寒い冬のトレーニングには適していません。日本のマラソンは12月から3月までの冬季に集中しており、そこを目指すとなると季節的に高地トレーニングを行えないという問題がありました。そういう意味では、1年中使える低圧低酸素ルームのメリットは大きいと思います。

天野 例えば真夏のマラソンに備えるのであれば低圧低酸素ルーム内にあるエアコンで高温多湿の条件にすることもできますし、温度や湿度をレースが行われる時期に合わせて調整することもできます。

高橋 オリンピックや世界選手権は夏場にも行われますが、マラソンは冬の大会が多いので、その時期にピンポイントで高地トレーニングが行えないというのが現役時代はストレスになっていました。

天野 高地は標高が高く、寒さがケガの要因ともなりかねません。そうしたリスクを抑えることができるのも低圧低酸素ルームを活用するメリットの一つだと言えます。


日本気圧バルク工業の天野代表は、性能の良さに加え、これまで一度も事故がない信頼性が「O2Room®」の誇りと話す
――高橋さんが世界記録を塗り替えて以降、女子のマラソン界でもアフリカ勢の台頭が目立ち、特に男子は上位を独占する状況となっています。その強いアフリカ勢とどう戦っていくのかが今の日本の長距離・マラソン界の一番の課題でもあります。

高橋 アフリカの有力選手は生まれた時から標高2000m級の高地で暮らしていて、いわばずっと高地トレーニングを行っている状況にあります。これに立ち向かっていくためには、科学的なトレーニングを含め、2WAYルームなど最先端の機器を活用していくことはカギになるかもしれませんね。

天野 弊社ではマラソンや長距離はもちろん、水泳やサッカーなどいろんな競技で日本人選手が活躍してほしい、トレーニングに取り組んでいるアスリートにハイパフォーマンスを発揮してほしい、酸素の力でアスリートを支えていきたい。そういう強い思いを持って開発・提供しています。

――日本気圧バルク工業の「O2Room®」は高地トレーニングなどでも活用される低圧低酸素に加え、高圧高酸素の2WAYルームで使用できます。それぞれのメリット、効果を藤野先生はどうとらえていらっしゃいますでしょうか。

藤野 先ほど高橋さんがお話されていた、高地から平地に戻ると効果が2週間ほどしか続かないというのは人間の持つ適応能力となります。人の身体は60兆個の細胞からできており、その一つひとつが酸素を感じています。

標高1500mを超える高地では、運動時の酸素摂取能力(最大酸素摂取量=VO2MAX)が1000m上昇するごとに指数関数的に約10%ずつ減少していきます。そのため酸素不足などにより腎臓から分泌されるホルモンであるエリスロポエチン(EPO)が骨髄に働きかけて赤血球を増やします。このEPOを分泌させる元となっているのが細胞から発現するHIF-1α(低酸素誘導因子)と呼ばれる物質です。 HIF-1αの作用により赤血球の増加と毛細血管網が発達して筋肉により多くの酸素を運ぶことでき、それに伴い持久力が向上します(図1)。

人の血管には動脈、静脈、細小動脈、毛細血管の4種類があり、そのうち99%が毛細血管で、その毛細血管だけは年齢や生活などにより増減します。例えば30代と60− 70代の人を比べると毛細血管の量は約40%減少し、またケガや病気で動かないでいると筋肉内の毛細血管がどんどん減っていき、4週間動かない状態では筋肉の毛細血管は約半分になります。その反対に運動をすれば、その量も増えていきます。図2はマウスによる実験データですが、標高400mと4000mとでは明らかに4000mの方が毛細血管の量が多いことがわかっていただけると思います。

図1 高地での最大運動時の酸素摂取能力(最大酸素摂取量VO2Max)

図2 標高と毛細血管の関係


高橋 毛細血管が増えると身体の隅々まで酸素が行き渡り、より運動能力が発揮できるということなんですね。高地に滞在してトレーニングをすることで自然と身体の中で変化、反応が起こる。現役時代も高地トレーニングから日本に帰ってくると呼吸もとても楽になっていましたし、私はもともとヘモグロビンの数値も低い方だったんですが、貧血対策にも効果的でした。感覚的には認識していたものの、こうして藤野先生に科学的にデータを示して説明していただくとより説得力があります。
コロナ禍で海外に高地トレーニングに出かけるのは難しい状況となっていますが、低圧低酸素ルームを活用すれば、平地にいながらにして、高地に出かけるのと同様の効果を得られるというわけですね。

藤野 アスリートのみならず、一般の方々も自宅でリモートワークをするなど以前と比べて運動量(活動量)が減ってきているのが現状です。その結果、毛細血管が減少し、細胞の代謝ができなくなりどんどん体力が落ちていきます。

高橋 そうなると低圧低酸素ルームは一般の方の健康維持にも有効だと言えますね。

天野 そうなんです。現在では老人ホームや介護の現場でも低圧低酸素ルームの活用が増えてきています。低圧低酸素ルーム内に設置してあるトレッドミルでウォーキングをしたり、読書やテレビを見て過ごしていただくことで毛細血管の減少を抑え、体力・筋力の維持に役立てていただいています。

高橋さんは低圧低酸素がケガや故障の早期回復にも効果があることに感心していた

低圧低酸素環境でケガの修復、再生が促進

藤野 低圧低酸素には、もうひとつ特徴的な効果があります。図3にはケガをして5日目の筋肉の状態が示されています。右が低圧低酸素環境で過ごしたケースとなり、修復が進み細胞がキレイになっているのがおわかりいただけると思います。ケガをした場合、その壊れた個所を炎症性マクロファージ(M1型)が素早く整地し、続いて抗炎症性マクロファージ(M2型)がそこに新たに建物を建てるようにして傷ついた箇所を修復していきます。

図3 受傷後5日目の筋肉の修復(再生)状態


ケガをした直後に低圧低酸素環境に身を置くことで炎症性マクロファージ(M1型)が上昇し、続いて抗炎症性マクロファージ(M2型)のマーカーの上昇に移行。加えて血管新生因子、筋衛星細胞転写因子がそれぞれ増加することで、ケガの修復が進み(再生能力がアップし)ケガの早期回復に役立つとされています(図4)。さらに低圧低酸素環境下では、筋肉の細胞もより増殖することがわかっています。その数値を検証することで、ケガの度合いや年齢など症状や条件に合わせ、より効果が出る値を今後は見極めていく必要があります。

図4 細胞増殖の差異


高橋 こうしてみると低圧低酸素は、アスリートのパフォーマンスアップはもちろん、ケガや故障の回復などいろんなことに役立つということがよくわかりました。

さまざまな研究を通じてアスリートの競技力向上や人々の健康増進に寄与している藤野教授

高地トレーニングの方法

藤野 低圧低酸素の環境下で体内に起こる変化(生体反応)を踏まえ、具体的な活用法や効果などについて説明してきました。高橋さんは現役時代、アメリカのボルダーなどでよく高地トレーニングを行っておられたとお聞きしましたが、どのような環境、方法で実施されていましたか?

高橋 期間も内容も目指すレースによって違っていました。期間も2週間だったり3ヵ月の長期間だったり。それでも戻って来るのは先にもお話したように2週間前あたりと決まっていました。現地では標高1600mの所に拠点がありましたが、そこから2000mや3500m、時には4300mの高地に上がって練習したり、2000mや3000mあたりの場所に滞在し、そこから上がったり下がったりと、内容や強度などに合わせいろいろミックスしたかたちで行っていました。

祖母の実家が岐阜県の飛騨高山で標高1000mぐらいの場所です。私は高山で生まれて2歳まで過ごし、その後もよく遊びに行くこともあり、高地に行って体調を崩すことはありませんでした。体質的に合っていたんだと思います。平地よりむしろ高地の方が追い込める感覚があり、3500や4300mに上がっても割と平気だったことを覚えています。現役を引退したあともよくボルダーに足を運んでいますが、日本にいる時よりも標高の高いボルダーにいる時の方がしっくりくるぐらいです。

藤野 主な高地トレーニングの方法には、高地に滞在して高地でトレーニングするLiving High-Training High、高地滞在と平地滞在を一定期間に複数回繰り返すインターバル型高地滞在+高地トレーニング、高地に一定期間滞在してトレーニングは平地で行うLiving High-Training Lowの3つのパターンがありますが、高橋さんはより強度の高い高地に滞在してさらに高い場所でトレーニングを積む厳しい練習を積んでこられたようですね。

高地トレーニングの主なメリットには、ヘモグロビンの上昇や毛細血管網の発達、ミトコンドリアの増加などを伴う筋力・筋パワーの強化、スタミナ向上などが挙げられます。

しかし、いいことばかりではなくデメリットもあります。高橋さんがお話されていたように、高地ではどうしてもトレーニングの質・量が平地での時と比べて低下します。特にスピードを上げて強度を高めるとすぐに息が上がってしまい練習にならないこともあります。また、体調管理も難しく、コンディションを維持できないケースもよく見受けられます。このバランスをどう保つか。個人差もありますし、レースの結果などを見ても高橋さん及びチームは、しっかりそれを把握した上でトレーニングに取り組まれていたと感じます。

現場レベルで高地トレーニングの研究は進められていますが、不明点や課題、解明されていない部分が多いのが実情です。そうした意味でも今回、高橋さんからとても貴重なお話を聞くことができました。

天野 高地トレーニングはコンディショニングが難しいというお話ですが、そうした場合にも低圧低酸素ルームは有効です。あらかじめ低圧低酸素環境を体験することで、事前に合うか合わないかを見極めることもできますし、高地合宿へ赴く前に低圧低酸素ルームで高地順化を行うことでタイムラグをなくしてトレーニングに打ち込むこともできます。

高橋さんのお話をお聞きし、シドニー五輪での金メダルの裏には高地での血のにじむような厳しい練習があったことが推察できます。また、ボルダーで拠点とされていた住まいには疲れた身体を休めることなどを目的とした高気圧カプセルも置かれていたとお聞きしています。

今回は、高地トレーニングなど低気圧低酸素の活用法やその効果についてお話しいただきましたが、次回はリカバリーや疲労回復をはじめとした2WAYルームのもう一つの機能である高圧高酸素の効果や活用法などについてお話できればと思います。引き続きよろしくお願いします。


高地トレーニングを積極的に行っていた高橋さんの経験と医科学が融合すればアスリートを支える力はより大きくなりそうだ

※この記事は『月刊陸上競技』2022年4月号に掲載しています

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