2022.02.14
いまや陸上界の“ヒロイン”の一人として、不破聖衣来(拓大)の注目は日に日に増している。無敵を誇った中学時代、ケガとコロナ禍に泣いた高校時代、そして進化を遂げた大学1年目と、そのすべてが世界の高みへ向かうために必要な過程だった。
物語のはじまりは、祖父と姉とともに走り始めた、毎日の朝練習。どれだけ取り巻く環境が変わっても、「変わらない」という強さがある。少しでも速くなるために、大きな目標のために、目の前のやるべきことに全力を尽くす。その道が世界の頂点につながっていると信じて。
文/向永拓史
無敵の中学時代、苦難だった高校時代
先輩たちと話すあどけない表情。スタートラインに立つとひときわ小さな身体。走り出すと想像もつかない大きな走りで人々を虜にする。18歳の不破聖衣来(拓大)には不思議な魅力がある。
その名は、この半年で陸上の枠を超えて日本中に知れ渡った。インカレ不敗。駅伝を走れば区間記録を塗り替えてごぼう抜き。極めつきが12月11日の記録会。10000mに出場した不破は、日本歴代2位となる30分45秒21をマークして、オレゴン世界選手権の参加標準記録(31分25秒00)を軽々と突破した。自身初の10000m、しかもペースメーカー不在の独走。衝撃だった。
本人はそんな喧噪はどこ吹く風。「ちょっとプレッシャーを感じますが、どうしてこんなに注目されているのか違和感があるというのが本音です」。自分が秘める可能性も、その魅力も、まだまだ測りかねているようだ。
一般的に言われているような“新星”ではない。むしろ中学時代から特別な存在だった。不破が走り出したのは小学校2年生の時。「小学校で持久走があるので、その練習です」。3つ上の姉・亜莉珠(現・センコー)が、クロスカントリースキーの国体選手だった祖父と走っていたのにくっついて、毎朝走るようになった。今でも姉が「あこがれで、一番尊敬する選手」だという。
小3で大会に出たことはあるが、小学生の間は5年生で始めたミニバスケットボールに夢中。「クラブチーム(アラマキッズ)に登録して駅伝だけ参加するような感じでした」。
本格的に陸上を始めたのは地元・群馬県高崎市の大類中に進んでから。当時、群馬の中学・高校には全国トップクラスのランナーがそろっていた。15年の全国高校駅伝では常磐高が岡本春美(現・ヤマダホールディングス)や樺沢和佳奈(現・資生堂)らを擁して2位。健大高崎高に進んだ姉の亜莉珠も1年生で3000m9分15秒60をマークし、同期には林英麻もいた。全国中学校駅伝では伊井笑歩(現・武蔵野大)がいた富士見中が女子3位、男子優勝を飾っている。
そんな“長距離どころ”の中で、不破もまた大きく成長していく。中2で全中1500mに出場すると、10月のジュニア五輪B1500mでは4分27秒81をマークして全国初タイトル。ここから無類の強さを見せる。翌年1月の全国都道府県対抗女子駅伝では3区区間賞を獲得。3年時は全中1500m優勝、ジュニア五輪A3000mも制して2冠を果たした。都道府県対抗女子駅伝でも3区で連続区間賞。ほぼ敵なしだった。
中3の全中1500mは終始トップを譲らない圧巻の優勝を飾った
姉の背中を追って健大高崎高に進学すると、「1年目は思ったより記録を出せました」と振り返るように、1500mと3000mでインターハイに出場(予選落ち)すると、1500m4分24秒50、3000m9分13秒45をマーク。だが、春先に左シンスプリントを発症し、「8月くらいまで痛みがありました」。痛みを押して出場したインターハイ路線は北関東大会の3000mで敗退。その後は秋の県駅伝まで1本しかレースを走れなかった。奮起を誓った最終学年はコロナ禍に見舞われて、その足音を響かせる機会は失われている。
「2年目はほぼ1年間、走れない状態でした。3年目も試合がほとんどなくて、活躍できる場面がなくて、状態もなかなか上がりませんでした。このまま高校生活が終わっちゃうのかなって」
だが、苦しい時期も「絶対に復活して、家族や支えてくれた人たちに恩返しがしたい」と強い気持ちを持ち続けた。試合がなかった3年目は「体重も筋力も落ちていたので、イチから身体を作り直せる期間」と捉えた。少しずつ感覚を取り戻すと、全国高校大会3000mで6位、そして5000mでは15分37秒44をマーク。高校最後の大舞台となった昨年2月のU20日本選手権クロスカントリー(6㎞)で、19分49秒で中3以来の日本一となった。「そこで優勝できたことが大きかったです」。自信を得た不破は、不死鳥のごとく蘇った。
この続きは2022年2月14日発売の『月刊陸上競技3月号』をご覧ください。
定期購読はこちらから
いまや陸上界の“ヒロイン”の一人として、不破聖衣来(拓大)の注目は日に日に増している。無敵を誇った中学時代、ケガとコロナ禍に泣いた高校時代、そして進化を遂げた大学1年目と、そのすべてが世界の高みへ向かうために必要な過程だった。
物語のはじまりは、祖父と姉とともに走り始めた、毎日の朝練習。どれだけ取り巻く環境が変わっても、「変わらない」という強さがある。少しでも速くなるために、大きな目標のために、目の前のやるべきことに全力を尽くす。その道が世界の頂点につながっていると信じて。
文/向永拓史
無敵の中学時代、苦難だった高校時代
先輩たちと話すあどけない表情。スタートラインに立つとひときわ小さな身体。走り出すと想像もつかない大きな走りで人々を虜にする。18歳の不破聖衣来(拓大)には不思議な魅力がある。 その名は、この半年で陸上の枠を超えて日本中に知れ渡った。インカレ不敗。駅伝を走れば区間記録を塗り替えてごぼう抜き。極めつきが12月11日の記録会。10000mに出場した不破は、日本歴代2位となる30分45秒21をマークして、オレゴン世界選手権の参加標準記録(31分25秒00)を軽々と突破した。自身初の10000m、しかもペースメーカー不在の独走。衝撃だった。 本人はそんな喧噪はどこ吹く風。「ちょっとプレッシャーを感じますが、どうしてこんなに注目されているのか違和感があるというのが本音です」。自分が秘める可能性も、その魅力も、まだまだ測りかねているようだ。 一般的に言われているような“新星”ではない。むしろ中学時代から特別な存在だった。不破が走り出したのは小学校2年生の時。「小学校で持久走があるので、その練習です」。3つ上の姉・亜莉珠(現・センコー)が、クロスカントリースキーの国体選手だった祖父と走っていたのにくっついて、毎朝走るようになった。今でも姉が「あこがれで、一番尊敬する選手」だという。 小3で大会に出たことはあるが、小学生の間は5年生で始めたミニバスケットボールに夢中。「クラブチーム(アラマキッズ)に登録して駅伝だけ参加するような感じでした」。 本格的に陸上を始めたのは地元・群馬県高崎市の大類中に進んでから。当時、群馬の中学・高校には全国トップクラスのランナーがそろっていた。15年の全国高校駅伝では常磐高が岡本春美(現・ヤマダホールディングス)や樺沢和佳奈(現・資生堂)らを擁して2位。健大高崎高に進んだ姉の亜莉珠も1年生で3000m9分15秒60をマークし、同期には林英麻もいた。全国中学校駅伝では伊井笑歩(現・武蔵野大)がいた富士見中が女子3位、男子優勝を飾っている。 そんな“長距離どころ”の中で、不破もまた大きく成長していく。中2で全中1500mに出場すると、10月のジュニア五輪B1500mでは4分27秒81をマークして全国初タイトル。ここから無類の強さを見せる。翌年1月の全国都道府県対抗女子駅伝では3区区間賞を獲得。3年時は全中1500m優勝、ジュニア五輪A3000mも制して2冠を果たした。都道府県対抗女子駅伝でも3区で連続区間賞。ほぼ敵なしだった。
中3の全中1500mは終始トップを譲らない圧巻の優勝を飾った
姉の背中を追って健大高崎高に進学すると、「1年目は思ったより記録を出せました」と振り返るように、1500mと3000mでインターハイに出場(予選落ち)すると、1500m4分24秒50、3000m9分13秒45をマーク。だが、春先に左シンスプリントを発症し、「8月くらいまで痛みがありました」。痛みを押して出場したインターハイ路線は北関東大会の3000mで敗退。その後は秋の県駅伝まで1本しかレースを走れなかった。奮起を誓った最終学年はコロナ禍に見舞われて、その足音を響かせる機会は失われている。
「2年目はほぼ1年間、走れない状態でした。3年目も試合がほとんどなくて、活躍できる場面がなくて、状態もなかなか上がりませんでした。このまま高校生活が終わっちゃうのかなって」
だが、苦しい時期も「絶対に復活して、家族や支えてくれた人たちに恩返しがしたい」と強い気持ちを持ち続けた。試合がなかった3年目は「体重も筋力も落ちていたので、イチから身体を作り直せる期間」と捉えた。少しずつ感覚を取り戻すと、全国高校大会3000mで6位、そして5000mでは15分37秒44をマーク。高校最後の大舞台となった昨年2月のU20日本選手権クロスカントリー(6㎞)で、19分49秒で中3以来の日本一となった。「そこで優勝できたことが大きかったです」。自信を得た不破は、不死鳥のごとく蘇った。
この続きは2022年2月14日発売の『月刊陸上競技3月号』をご覧ください。
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.12.21
飯塚翔太が「世界新」東京世界陸上を沸かせた代表選手たちがTBS『スポ男』で身体能力を披露
-
2025.12.21
-
2025.12.21
-
2025.12.21
2025.12.21
【大会結果】第37回全国高校駅伝・女子(2025年12月21日)
-
2025.12.21
-
2025.12.21
2025.12.14
【大会結果】第33回全国中学校駅伝女子(2025年12月14日)
2025.12.14
【大会結果】第33回全国中学校駅伝男子(2025年12月14日)
-
2025.12.21
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.12.21
飯塚翔太が「世界新」東京世界陸上を沸かせた代表選手たちがTBS『スポ男』で身体能力を披露
TBSの『最強スポーツ男子頂上決戦2025冬』が12月21日に放送され、東京世界選手権代表選手が多数出場して番組を盛り上げた。 ビーチフラッグスやモンスターボックス(跳び箱)など、身体能力を生かすさまざまな種目で、運動神 […]
2025.12.21
今井悠貴がV 順大勢が上位で力示す 2位に明大の井上が入る/関東10マイル
第139回関東10マイルロードレースが12月21日に行われ、一般・学生男子10マイルは、今井悠貴(順大2)が47分38秒で優勝した。 今井は前橋育英高出身。11月に10000mで29分03秒33の自己新を出しているが、箱 […]
2025.12.21
大東大に13分51秒30で若林司ら都大路区間賞2人、豊川・嶋岡希ら10人合格!古豪復活へ有望そろう
大東大の男子長距離ブロックが26年度の推薦入学試験合格者を発表した。 この日行われた全国高校駅伝で2位に入った仙台育英(宮城)から、アンカー7区を務め区間賞を獲得した若林司が加入。5000mでは13分51秒30のベストを […]
2025.12.21
部員全員で戦った鳥取城北は初入賞の4位 「タスキリレーができてうれしかった」/全国高校駅伝・男子
◇全国高校駅伝・男子(12月21日/京都・京都市たけびしスタジアム京都発着:7区間42.195km) 全国高校駅伝の男子が行われ、学法石川(福島)が2時間0分36秒の高校最高記録で初優勝を飾った。鳥取城北(鳥取)は県最高 […]
Latest Issue
最新号
2026年1月号 (12月12日発売)
箱根駅伝観戦ガイド&全国高校駅伝総展望
大迫傑がマラソン日本新
箱根駅伝「5強」主将インタビュー
クイーンズ駅伝/福岡国際マラソン
〔新旧男子100m高校記録保持者〕桐生祥秀×清水空跳